「コカビエル、さん……」
「久しぶりだな、アモン。相変わらず、お前は理性に縛られているようだな?それも、養父の教えか?」
コカビエルは口端を吊り上げて笑う。
かつて、自分が戦闘指南を行っていたころから変わらない体躯の小ささ。少し前にバラキエルの娘の写真を見せられたが、バラキエルの娘よりも教え子とも言える少年は小さかった。フリード同様、変身した姿こそ、似ているものの、戦闘に対する臨み方は
己の力を律するアモン。
ただ、闘争を望むフリード。
もう一人のアザゼルの養子、白龍皇のヴァーリは己の力を信じてはいるという点ではアモンより好感が持てるとコカビエルは感じていた。闘争を求めているもの同志、互いに評価できるところがあるのかもしれない。
「旦那ァ、こいつは俺っちが始末してもいいですかい?」
「待て、久方ぶりに会ったんだ。話をさせろ。くれてやったドライバー、使いこなせているか?」
「もちろんッ!スカルマンなんかよりもずっと使いこなせてるぜ!」
フリードとコカビエルのやり取り。
フリードからコカビエルへの呼称は違えど、自分とアザゼルに通じるものを感じさせる。それでいて、その親密さに嫉妬ではないものの、違和感を感じた。
「コカビエルさん、そいつと知り合いなのか?」
「だとしたらどうする?いずれにせよ、お前とは関係のない話だ。俺が誰と付き合っていようとも、アモン。お前に話すことでもない。そういうところは本当に養父にそっくりだな。だが、」
コカビエルの姿が瞬時に消えた。
木場はアモンが変身をし、フリードと同様の姿になり、自分では太刀打ちできなかったのに対して比較的有利な立ち回りをしているのを見ているせいか、並び立つアモンが動揺を隠せないのが窺えた。何処から現れるのかを警戒しているが、その隙をものとしないフリードではなかった。
「おい、忘れちゃあ困るぜ!」
「アモンくん、左だ!」
フリードの左ストレートがアモンに入れられそうになった時、すかさず、木場はアモンに指示を飛ばした。しかし、アモンが避けるよりも速く、フリードの拳はアモンに入ってしまった。何の受身も取らずに吹き飛ばされてしまったこともあり、その異形の身体は吹き飛ばされ、コカビエルがまた姿を現し、アモンを叩き落した。
「がはっ……」
「動揺をしているのか?アモン。そんなにも俺が敵に回ることが意外だったか?元から俺は乗り気ではなかったんだ、お前に指南をするのは。あいつがしつこく、五月蝿く頼み込んでくるものだから、引き受けるまで去る素振りを見せなかったから、引き受けたまで。俺を超えるに値し、俺と同等の闘争をできる戦士に育て上げられるならば。そう思って俺はお前に稽古をつけた」
よろよろと立ち上がるアモン。
しかし、コカビエルはそんなアモンの顎を蹴り飛ばした。稽古とは違い、一切の手加減をしていない無慈悲な一撃。今でこそ、自ら前線に出て戦うのをアザゼルは控えているが、かつてのアザゼルは自らと同様に強者であった。
同族の減少。
それも、次世代が戦争で失われるのを良しとしなかったアザゼルはいつの日か、かつての“親”のように保守的になってしまった。自分達は何のために堕天することとなったのか、どうして堕天をしたのか。
そんな理由さえも忘れ、かつての老害のように戦うことを恐れている。コカビエルはそのように捉えていた。
だからこそ、コカビエルはアモンに期待していたのは嘘ではなかった。ほとんど、人間と変わらない身体を持ちながらも、宿した人の身に余る強大な力。
半分だけ人間だった、アモンの義理の兄弟に当たる少年のように満たされぬ物の為に力に餓え、力を求め、その為に闘争を行なうことを期待した。
「だけど、先生は、そんなことは、望んじゃいない……。俺は、俺は人間なんだ!」
アモンは叫ぶ。
人間が見れば醜悪で、凶悪な姿のまま、大きく異形の口を広げ、血を吐きながら。
コカビエルとアモンの戦力の差はぱっくりと開いている、アモンが自らの力を抑え続けようとする限り、その差は決して埋まることはない。一度だけ、コカビエルがアモンに負けたことはあった。理由は一つ、アモンが本能に身を任せた野性的な動作でコカビエルを圧倒したからだ。
今の時代、日和見主義の者が増えている現状でコカビエルはその事実に震えた。
「それで他者を守れなくても、お前はそのエゴを押し付けるつもりか?己を律し、ニンゲンであることを押し付ける姿勢。それでお前のなすべきことをなせなかった時、お前はいいわけとして使うのか?己の無力さの理由として」
あの“男”のような強さを持ち、自分と対等に渡り合える戦士はこの時代にもいる。
そう思うだけで乾いた心に潤いが出来たと思っていたのに、人間からは怪物と呼ばれるであろう姿で、かつての戦から生き延びている堕天使から見て赤ん坊でしかない時を過ごしていないバケモノは、人間であることにこだわっている。
へし折れたらしいアモンは崩れ落ち、動きを見せない。年端も行かない子供、掲げるものは中身を伴わないのであれば、所詮は大言壮語でしかない。
「人間、か。悪魔ちゃんの友達だって主張するスカルマンてさ、どこが人間らしいと思う?あ、感想の方を聞いていなかったな。自分の同胞を殺したかもしれないのがスカルマンだった。気分はどう?最高?」
異形の顔の上からでもフリードは下卑た表情を浮かべているのが分かる。
わざわざ攻撃することもせず、剣を握っている木場に対し、近づいて来て息を吹きかける。怪物特有の匂い、と言うヤツだろうか。それが鼻につくものの、あくまでフリードはその様子を、姿勢を崩すことはない。心の底から楽しんでいるようだった、アモンが打ちひしがれる様子を。
「僕、は……」
木場祐斗の心は揺れている。
脳裏に過ぎるのは、実験体であった自分の同胞が異形の怪物に処理されていく惨劇。
怪物は嬉々として笑い、助けを求める同胞たちを殺し、その死肉を食らって満足そうな叫びを上げる。ただ震えていることしかできなかった木場、逃げ延びて逃げ延びて、耳を塞いでいることしかできなかった、あの日。
怪物とアモンが変身したアマゾン、似通うところはある。
裂けた口。
大きな紅い目。
鋭い爪、大柄な肉体。
異形の顔に大きな腕。
共通するところはあるが、アモンを――アモンアマゾンとの共通しない点はいくつかあると短い間ながらも、知ってはいるつもりだ。
「アモンくんと比べるなッ!あいつらとアモンくんは違う!」
「おお怖い怖い、そっくりなのに?こーんな姿をしているのに?」
魔剣創造で二振りの剣を創造、光の性質を持つ剣を。
その二振りの剣で、フリードが変身したフリードアマゾンに切りかかるが、ひらりとかわされる。その手で口端に人差し指を引っ掛け、ニィ、と伸ばして見せる様子が憎たらしい。
「それは、お前だけだろう……。僕はリアス・グレモリー様の騎士だ。騎士である以上、騎士らしい振る舞いをしたいと思う」
悩んでいた自分が少し、馬鹿らしいと思った。
しかし、譲れないものはある。ここまで自分を突き動かしてきたのは主への忠誠、自分が臆病だったから救えなかった仲間への懺悔。
「だけど、」
あの眩しい同級生の少年ならば、どうしただろう?
友人が傷つけられれば、あの少年なら、ひたすらに敵に向かっていくだろう。
それが
「アモンくんを悪く言うんなら、僕は、木場祐斗として容赦はしないぞ!」
金属音がする。
光の剣を構え、フリードへと切りかかる。光の剣を作り出したのは偶然か、必然か。
フリードアマゾンの肌に触れると、焼ける音がする。
「チッ、厄介な弱点までコピー済みかよ!?」
「光が、通用する……?」
聖なるものに対しての弱点が転生悪魔になると、人間や他の種族からなった段階で付与されるという。
フリードの言葉が正しければ、もしも、あの姿がアモンのコピーだというのならば、アモンは自分達、悪魔と同じ体質であるということではないだろうか。
「アモンくん!フリードの弱点は光だ!」
「それを今のアイツに言っても効果的じゃないと思うんですけどぉ?心をバッキバキにへし折られてしまったんですからねえ!」
アモンが叫ぶ様子をヤケクソだと捉えたのか、フリードは嘲笑う。
剣で切りかかれば、フリードは腕のカッターで受け止め、攻撃を受け流す。
「それを決めるのは君じゃないよ、フリード。僕は友達を信じる。……今は、部長とかに合わせる顔がないんだけどね。でも、騎士として迷っている人に手を差し伸べたい。それだけは忘れていない。アモンくん!君は人間以上に人間だと思う!そうして震えるのだって、信じられないことに動揺する事だって、弱さじゃない!」
ありったけの気持ちを込めた。
仲間の元から離れている自分が送る言葉ではないが、それでも、彼には絶望をして欲しくない。眩しいような生き方をしているアモンに光を失ってほしくなかったから。
「僕は、君の生き方が眩しい!いろんなものが新鮮に見えて、色んなものに興味を示せて、自分の思ったものの為に、自分の信念に素直だ。君は君の信じるものを信じてくれ!」
思っている憧憬の気持ちを、言葉に出して伝えた。
あとは、彼が、アモンが見込み違いでないことを信じるだけだ。