「楽しいぞ、アモン!お前の力はこれほどまでに進化していたのか!捨てたものではないな、弟子を持つということは!」
「ごふっ……」
アモンは立ち上がろうとするたび、コカビエルに蹴り飛ばされる。
一方的なまでに行われている嬲り、しかし、互いの瞳には美しい闘志の炎がゆらゆらと燃え上がっている。
圧倒的なまでの戦力、それでもアモンは立ち上がることをやめない。
負けられないこと、譲れないものがあるならば立ち上がって戦う意志を見せる。
それが自分の定めた矜持、己の信念だから。
鋭い蹴りと拳による重い一撃がアマゾンとなった今でも襲い、回復する間もなく与え続けられる攻撃はアモンを消耗させた。
アモンアマゾンとしての姿が揺らぐ、徐々に身体が人間の、人としての姿を取り戻し始める。
己の中の細胞がコカビエルとの戦闘、フリードとの戦闘において蓄積した疲労に悲鳴を上げている。
もう戦えない、もう動くほどの気力は持っていない。
休ませろ、早く休ませろ。
アマゾンを構成する己の細胞、獣の本能がアモンに訴える。
だがアモンはそれを押さえつけ、変身を解除しない。
ここでコカビエルと分かりあえることができれば、自分自身の力を証明することでアザゼルの教えは決して間違っていなかったのだと証明できれば。
―———だから、此処で倒れるわけにはいかないんだ。
「どうした!動きが鈍っているぞ!お前はアザゼルの教えを証明してやりたいようだが、俺の教えは忘れてしまったのか?」
「忘れるわけ、ないだろう……!」
徐々に変身が解除されていく中、しっかりと足で立ち上がりながらも、腕を押さえているアモンに対し、無慈悲にもコカビエルは光の槍を構える。
悪魔の因子を持つからこそ、光に対する耐性がないと知ったうえでのこと。
虚勢を張りながらも、口端を吊り上げて凶悪に笑う様子はアザゼルというよりも闘争を愛し、闘争に生きるコカビエル自身に通ずる嗤い。
コカビエルの口端が吊り上がる。
アモンはアザゼルの子であり、アザゼルの子でないところがある。
それがこの凶悪な一面、アモンは理性では戦いを求めていなくとも、その獣の本能はいつでも闘争を求めているのだ。
決して認めることはないだろう、アザゼルの教えをアモンが是とするのであれば。
決して肯定することはないだろう、かつての旧友のように頑固であれば。
「アザゼル先生と同じく、コカビエルさんは俺の先生なんだからな……!」
変身が解除され、腰に巻き付けたアマゾンドライバーが地面に落ち、金属音を響かせながらも、アモンは不敵に笑う。
「お前のような不出来な弟子は持った覚えはない。……だが、染みついてはいるようだ。俺の攻撃による回避は」
光の槍をコカビエルは投擲する。
出血は多量、アマゾンへの変身による再生能力が働かないと知った上での攻撃。
翼で舞い上がっているとはいえ、ほとんど至近距離、それでもアモンを捉えるには十分な距離だろう。
光の槍から手が離れる、そして心臓部分を抉り取らんとする。
光の槍が放たれる、アモンの心臓部分を狙わんとする。
アマゾンドライバーが地面に落ちた、上着は血で塗れ、手はべっとりと汚れている。
拾い上げるには滑っておぼつかない、でも、それでも————。
―———■■■■■■■—-ッ!
己の中で咆哮を上げる声がある、それは幼い頃よりアモンが怯えてきたもの。
アモンがかつてより御そうとした、闘争を糧として生きていく異形を自分の目指す夢の為には飼いならさなければならない。
己の中の細胞は限界だとアモンに伝えている、では、己の中に暮らしている怪物はどうか?
母親同然に接してくれた女性に突き放されてしまった、原因の怪物はどうか?
叫んでいる。
呼んでいる。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
戦え、戦え、戦え、戦え。
奪え、奪え、奪え、奪え。
身を委ねるわけではない。
自分自身が怪物になるわけではない。
目指しているものがある、なりたいモノがある、叶えたい夢がある。
叶えたい夢があるというならば、そのために研鑽を重ねなくてはならないとは敬愛する養父の言葉だ。
————叶えたい夢がある、ならば、その為に何ができるのか。
「俺に力を貸せ、俺自身の夢の為に!俺が目指し、俺が歩んでいく
だから、俺の意思に大人しく乗っ取られていろ!
アモンは咆哮を上げ、地面に落ちたアマゾンドライバーを拾い上げる。
光の槍で身を焼き、己の中の因子が限界を伝えてもなお、アマゾンドライバーを纏い、因子を活性化させることに一切の躊躇いはない。
いまするべきことをする、勝利すべき相手に必ず勝利する。
否、勝利したい相手だからこそ、己の力を証明する。
「大人しく変身をさせると思うか?アモン!お前は戦闘を甘く見ている!先の戦いを乗り越え、生き延びた世代である俺から言わせてもらえば、わざわざ隙を作るなど、愚の骨頂だ!」
光の槍がアモンの胸を貫く、そのときにコカビエルは迷うことなく、急降下する。
今度こそ、確実な死をアモンにくれてやるために。
明確な殺害の意思でなく、正当な“行為”として殺意を抱いたのはいつぶりだろうか。
己の身の危機を晒そうとも、それでも、アモンは自らに宿している獣を御さんとしている。
それは、ある種の敬意であった。
胸に光の槍が突き刺さろうとも、その身を光で焦がされようとも、立ち上がって敵に挑もうとする戦士の闘志への。
人間であることに拘るのは旧知の知人の教えのせいもあるだろうが、アモンの姿勢への。
「愚かで構わない。突き進むくらいが男にはちょうどいいのだと俺は聞いた。突き進む」
アマゾンドライバーを腰に当てると、すぐにベルトがバックル部分から飛び出し、覆う。
「これが正真正銘、俺がコカビエルさんに見せられる最大の技、」
ハンドルを回し、細胞への覚醒を促す。
披露しきったアマゾンを構成する細胞に対し、鞭打つ行為。
「……技、だと?」
アザゼルが好きそうな言葉だ、それを
以前に出会った銀髪のアザゼルの養子よりはよっぽど、好感が持てる気がした。
「技だ。俺が世界を見て、挑んで、苦戦した上で得たもの。その中で突破口とした」
細胞が活性化する。
徐々にアモンアマゾン、アモンが最も力を振るえる姿へと変貌する。
「ア……マ……ゾーンッ!」
大きく、高らかに己の名を呼ぶ。
変身する言葉、己の戦意を昂らせる言葉。
細胞は傷つき、悲鳴を上げているものの、宿した獣は変貌した今だからこそわかる。
目の前の強敵、コカビエルへの戦意に燃え上がっている。
傷口は血を止める程度の再生能力しか発揮されていないものの、それでもアモンには十分すぎた。
その技————急降下し、その勢いと“重み”、異形の姿・アマゾンのパワーを魔力を足に集めたうえで放つアモンにとっての奥義。
悪魔の君主の中で最も強靭な者。
それがアモンの名前の由来である、と養父は良く語ってくれた。
「“アモン”か」
コカビエルの凶相が歪む。
全力で来るならば、やって見せろと。
「いいだろう、全身全霊を持って叩き潰す!宣言通り、縊り殺すと言ったのは俺なのだから!」
「だったら、俺は超えてやるんだ!」
魔力を足に集中させる。
そして、大きく跳躍する。
光の槍が突き刺さり、常に身体を焦がし、その都度、アマゾンの治癒力が血を塞ごうと最低限でしかないが、働く。
右足に魔力を溜めたアマゾンの蹴り。
地面を跳躍し、翼がない為に滑空することはできず、ただ落ちてゆくだけ。
それでも、落ち行く方向を操作することだけはできる。
「アァァァァァァモォォォォォォン!」
「コォォォォカビエェェェェェル!」
「「くたばれ!師匠!(糞餓鬼)!」」
蹴りとコカビエルの拳がぶつかるとき、砂埃が舞い上がる。
砂埃が晴れた時、立ち上がっていたのは、
「……コカビエルさん、俺の、勝ちだ」
変身が解け、頭から血を流していたアモンが右腕を突き上げていた。