仮面ライダースナイプZEROも気になるところであります
「お前の勝ちか、アモン」
「そ、うだ。俺の、俺の勝ちだ」
「クハハハ、オレも焼きが回ったものだ。喜べ、アモン。お前は師を超えるという行いをした」
よろよろと気力だけで立っているアモンに対し、コカビエルは賞賛の言葉を送った。
自分自身、それこそ“焼きが回っている行い”だと思う。
しかし、それでも闘争を求めていたコカビエルにとっては十分すぎる闘争を得られたと考えれば、戦士として育った不肖の弟子には与えてよいものと見た。
何度も立ち上がり、その身が焦がされようとも、泣き言を一つも言わずに立ち上がって果敢に挑んでくる。
旧友たちはそんな彼の様子を哀れみ、戦うことを放棄するように言葉を向けるだろう。
それでも、アモンと言う戦士は立ち上がる。
大切な養父であろうとも、アモンは己の定めた信念に正直だ。
この現代、この時代、アモンはその若さに似合わない芯の強さと闘争に身を投じるには十分すぎる才能を持っている。
かつては荒削りだった白兵戦の才能、それはコカビエルによって研ぎ澄まされ、世界を巡ってきたというアモンなりの修行を通してさらなる変化をもたらしていた。
だが、なによりも成長を感じるのは、そのタフネス。
アモンの中に眠る――悪魔の因子、それがよりアモンの身体を頑強なものへと作り変えていた。
バラキエルの娘への溺愛ぶり、アザゼルの養子への過保護な様子を笑い飛ばしたコカビエルだったが、どうやら、彼らのことを笑えなくなっている自分に気づく。
最初はそれこそ、アモンをどさくさに紛れて殺してやろうと思った。
コカビエルは気が立っていたのだ。
何故、自分がこんなガキの世話をしなければならない?
何故、自分がこんなガキの面倒を見なければならない?
そう考えると、沸々と煮えたぎってくる苛立ち。
それでも、アモンは自分の考えている事を知っているのか、それとも感じ取っているのか。
何度も力の差を見せ付けようとも、立ち上がって見せた。
気づけば、その姿勢に応えるようになっていた。
光の槍を降り注がせる鍛錬、コカビエルの魔力の塊を波状に飛ばしたものを拳闘で殴り返す鍛錬――それらはアザゼルに止められたこともあった。
何度も、何度も、アモンの心を折ってやろうかと思った。
その都度、アモンは、
「大丈夫?コカビエルさんは」
昔と変わらぬ顔、自分も満身創痍だと言うのに手を差し伸べる。
かつての友であり、自分の養父を罵った相手だというのにアモンは心配そうな表情を浮かべている。
それがお前の弱点だと何度も教えたというのに、聞く気はさらさらないようだ。
身体に力が入らない、態勢を崩して倒れようとしたところ、コカビエルをアモンが支えた。
「……オレに情けをかけるのか?それがお前の弱点だと教えただろう。お前のやさしさは弱さだ、時としてお前の同情を買い、不意打ちの気を狙うものがいる。もしも、オレがそうするとしたら。お前の隙を窺っているとしたら、どうするつもりなんだ?」
怪我の傷口のほうは大きい。
同じ教え、それは何度も口を酸っぱくしてコカビエルは言い続けてきた。
敵に慈悲を与えるな、常に殺すつもりで戦え。
それは苛烈な戦争を生き抜いてきた、他でもないコカビエルだからこそ、伝えられるもの。
素養はあれど、アモンは戦士として戦場に建ち続けるにはあまりにも優しすぎた。
アモンの長所はどんなことでも吸収してやろうとする向上心だが、その短所は相手を信頼しようとする感情だ。
おそらく、アモンは自分の周囲が裏切ることを全く考えずに生きてきたに違いない。
他者を信用し、仲間と共に戦う。
これはいい、だが、裏切られたときはどうするつもりなのか?
アモンは何処まで行っても馬鹿でしかなかった、鍛錬の上で殺意を向けて脅す様子を見せようとも、アモンは意志を曲げることはなかった。
「コカビエルさんは、そんな事をしないと信じている」
「……っ」
あの日と違わない、幼い笑顔でアモンは笑う。
なんの危険も知らず、裏切られることを疑いながら過ごすことがない、子供独特の感性。
何度も、その心をへし折ってやろうと思ったのに、アモンは痛い目を見てもなお、その意思を改めようとしなかった。
本当に、大した大馬鹿野郎だ。
異形に変身し、戦う姿はかつての人間を護る為に立ち上がった男によく似ている。
その男は無力で助けを呼ぶ人間たちのため、人間に害をなす全てに戦いを挑み、悉く勝利していくほどの強さを秘めていた。
しかし、その強大な力から恐れる者は当然いるわけで、彼に助けを呼ぶものの、彼のことを真に理解できる者はいなかったろう。
人間たちも恐ろしかったのだ、自分達と同じ人間のはずなのに人外化生の類と渡り合える男のことが。
その男がもしかしたら、気まぐれにも自分達にその力を向けたらどうなるのか。
その疑念が僅かにでも生まれたとき、人間達がとった方法はひとつ。
アモンにその男の姿を見出すも、コカビエルは重傷の体のまま、頭を振った。
甘ちゃんの年端の行かない子供があの男のように苛烈になれるはずがない。
「お前は、昔から変わらんな」
フリードとアモンがキバと呼んだ青年が戦いを繰り広げる最中と思えないほど、穏やかな時間が過ぎる。
さきほどまで殴り合いの死闘を繰り広げていたとはとても思えない。
なにより、誰かの腕、それもあの小さな小僧の腕の中にいるとはコカビエル自身が信じられなかったのが本音だ。
「簡単には変わらない。俺にだって曲げられないモノはある」
「――そうだった。お前は、オレの友の
コカビエルは小さく笑った。
アモンも小さく笑った、怪我人の二人が笑うと、不思議と親子のようにも見えた。
「コカビエルさん、もしかして、あんたは、」
アモンが言葉をいいかけたとき、コカビエルはキバとフリードの方に少し視線をずらす。
フリードの姿が、ない。
「馬鹿野郎ッ!そこをどけ!」
背後にアモンに迫り来るフリードアマゾンの姿が見える、口端を吊り上げてニィィィ、と笑っている異形の姿。
その鋭い爪はアモンの心臓部を狙っているのだろう、既にその構えをとっている。
コカビエルは瞬間的に身体を動かした、己の命一つで
「な、なにするんだッ!?……う、嘘だろう……?」
弾き飛ばされたアモン、重傷を負ってもなお、勢いがあるのは好ましい。
やはり、こいつには―――才能がある。
「全く、トドメを刺そうと思ったところで邪魔が入るとは思わなかったなぁ?まぁ、でも?大物は取れたわけだしな。あーらよっとぉ、はーときゃーっち♪美しい師弟愛ですこと、でもでも?俺ちゃん、そういうむさくるしいの嫌いなの、いい?」
心臓を貫かれ、コカビエルは口から血を吐いた。
傷口が一気に開き、目を閉じることは決してしない。
闘争後の語らいを邪魔した、この下劣な犬を許してはならぬと光の槍を作り出そうとするも、そもそも力が入らない。
フリードアマゾンの手によって心臓が引き抜かれたとき、絶望するアモンの顔が見えた。
――――お前はアイツにそっくりだ。
コカビエルはアモンにあの日に見た勇猛果敢な男の名を伝える、その名を聞いたアモンの顔は見ることが出来なかったけれど。
生憎、子供と言うのは最後までもったことがなかった。
とく、とく、と熱く脈打つ心臓を奪われ、まるで抜け殻のようにコカビエルは地面に糸の切れた人形のように倒れ伏せた。
「なにやってんだよ……、なにやってんだよ、てめぇ……!」
「あーん?雑魚の声かぁ?と、その前にこれ。食べちゃってもいいかなぁ?いっただきまーす」
くちゃ、くちゃ、くちゃ、くちゃ……。
咀嚼音が響く、赤い赤い果実を口に含み、フリードアマゾンは心臓を食らう。
あのしんぞうはだれのものだ?
あのしんぞうはあのひとのだ。
きびしくも、それでも、じぶんとむきあってくれたひとのもの。
ゆるさない。
ゆるさないゆるさない。
ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない。
べたん、と自らの血で足を滑らせてもなお、立ち上がろうとするが、アモンの手足には力が入らない。
「うーん、まずい!食欲に支配されるまま、どうにかしてみたけど、堕天使の心臓、まずくね?ああ、でもよ、人間の女の肉は柔らかくて旨いんだよなァ?食ったことがあるか?スカルマンお・に・い・ち・ゃ・んっ!」
明らかなパワーアップをフリードアマゾンから感じる。
おそらく、コカビエルの心臓を取り込んだからだろう。
かつて、アザゼルとの授業において聞いたことがある話をアモンは思い出した。
『変わった人間の風習だが、とある部族は亡くなった遺体を遺族が食べるというものがある。場所や民族によるが、部族全体で食べるということもあるな。……なんだ、アモンに朱乃?その顔は。これは決して野蛮なことではない、神聖な行いであるそうだ。
亡くなった者は常にともに在る、その力を蓄えて明日も力強く生きてゆく。
そういった願いを含んでいる』
アザゼルはそういうが、目の前で見せ付けられると思うこともまた変わってくる。
この野蛮な獣がした行為は、そんな誇り高いものではない。
コカビエルと言う男は、確かにアザゼルのことやアザゼルの教えをけなした。
しかし、それはその教えを正しいものだとアモンが証明しきれていなかったためであり、コカビエルが悪いのだとアモンは考えていない。
なぜならば、コカビエルと拳を交え、最後は互いに理解を示すことができたのである。
だからこそ、許すことができない。
まだ見せられなかったものもある。
まだ伝えたかったこともある。
まだ手合わせをしてもらいたかったこともある。
なのに、
「アモンくん、すまない、僕がもう少し速く動ければ……!」
「お前が謝ることじゃない」
駆け寄ってきたキバが謝るが、今欲しいのはそれじゃない。
ぎゅ、と拳を作る。血が噴出す。意識もハッキリしていない。
今こうして言葉を話せていること自体が奇跡だ、気づけば変身も解けている。
人形のように途切れてしまったコカビエルの身体に触れ、アモンは涙を流す。
「おやぁ、どうしたぁ?怒りで攻撃して来いヨォ!そうしたら、お前の心臓も食らってヤルからさァ!」
結論的に言おう、フリードアマゾンはイカレている。
血で濡れ、変身することはままならないものの、ドライバーを腰に巻きつけたまま、アモンは怒りの形相で血に塗れた拳でフリードアマゾンを殴打する。
「ってぇ、どこから湧いた!?そんな力が!」
フリードアマゾンが激昂する、けれど、そんな事は重要なことじゃあない。
「お前はあの人の死を無残なものとし、侮辱した。俺はお前を容赦しないッ!」
「……っ!」
並々ならぬアモンの気迫、それに当てられたのかキバは黙って構えをとる。
「そんなボロボロな身体で何が出来る?片方は俺ちゃんのスピードについてこれない出来損ないの悪魔ちゃん、もう片方はズタボロのドブネズミ。窮鼠猫を噛むならぬ、ドブネズミわけなく死すだよォっ!」
きゃーはっはっはっ、と笑うフリードに対し、怒りの余り、アモンの精神は冷えた。
闘志の炎が尽きたのではない、冷静になったのだ。
悪魔の因子が作用し、傷口を塞いでゆく。
先ほどよりは状態は良好、朦朧とする視界ははっきりとしてきた。
しかし、変化は顕著だ。
木場はアモンの目が爬虫類のそれに変わったのを見逃さなかった。
「いや、死なない。死なせない」
アモンはアマゾンへと変身する。
「俺は、『仮面ライダー』を継いだのだからな」
それは、アモンにとってはこの夜の最後の戦いの幕開けだった。