この章は最終章、ということでのエピローグとしました。
「……それで、あいつの遺体は見つかったのか?」
「羽根が数本くらいだ。アモンの奴、寝ながら泣きじゃくっていた。よほど、慕っていたんだろうな」
あの後、アモンはフリード・アマゾンなる量産型との戦闘後、疲弊により体力を使い果ててしまい、意識を失った。その後にあった襲撃の前にキバなる剣士の少年が運んでくれたこともあり、アモンは一命を取り留めることができた。その後の後処理として、バラキエルとアザゼルがまず取り掛かったのは、かつての戦友の遺体を探すこと。彼ら二人も長年の付き合いである以上、袂を分かちかねない思想にあったとしても、コカビエルの死を悲しんだ。
分別のできる“大人”である二人はまだしも、アモンはまだまだ幼い。報告によれば、弱ったコカビエルにとどめを刺し、その身を食らったのはフリードアマゾンであったと言う。そのときの剣幕はどこかの誰かにそっくりであったらしく、かつて人間の為に戦った伝説の戦士・仮面ライダーその人が象徴としていたライダーキックを使い、アモンはフリードを無事に倒すことができた。
しかし、その後のアモンのメンタルが気がかりであった。怒りによる一時的な強化はあれど、緊張が解けてしまった今、自棄になるのではと懸念した。
「お前ンところの馬鹿息子、調子はどうだ?」
「誰が馬鹿息子だ、訂正しろ。ずっと眠っているぞ、泣いた跡があってな。夢の中でも泣いてんだろう」
「親馬鹿、此処に極めりだな。……あんなにも突き放すような態度をとっていたような奴だってのに、不思議なものだよな、子供ってのは」
バラキエルは
娘の幼馴染を、アモンを立派に育てたいと拾ってきたときのアザゼルは確かにそう言っていた。
アモンは順調に成長している。
それも、アザゼルの言う“真っ当な人間らしく”真っ直ぐに。優しくあろうと心がけ、誰かが助けを求めているときにその場にいれば助けようと手を差し伸べる。一見、その姿勢は美しく映ることだろう。
十代少年の健気な姿勢は美談にも聞こえる。しかし、アモン自身の精神構造は昔から全く変化していないのだ。
大切なものがあり、その大切なもののために努力する。
その姿勢は確かに美しく、信念と言ってもいいだろう。だがそれ以外の場面でのアモンは悪意のある者が甘い顔をして懐に入り込んできたとき、それを疑うこともなく受け入れてしまいそうな危うさを孕んでしまっている。
優しさが妻の実家から送られてきた刺客を跳ね除け、どのような形であっても最愛の妻子を守ってくれたことには感謝している。それだからこそ、だ。
「まぁ、次に起きたときにアザゼルがしっかり言葉をかけてやれよ。あいつの親父はお前しかいないんだ」
「分かってる。まあ、けど、なんだかんだで立ち直りが早いような気もするがな」
「親父は女にフラれると引きずるのにか?」
「てめえ、おい、バラキエル。外に出るか?」
アザゼルの言葉は、アモンに無意識に重荷として圧し掛かっているのではないか。
バラキエルはそんな風に感じた。
※※※
「……今日は、これで終いだ。あの動きを忘れるな」
「はいっ!」
修行が終われば、いつも中央に大きなクレーターが出来上がっている。その後にアザゼルが「ガキ相手にお前はやりすぎだ!」と怒鳴り散らすのが目に見え、コカビエルは小さく、そして凶悪に顔を歪めた。最初はその笑顔を見て恐ろしいと感じたアモンだったが、慣れてくればへっちゃらだ。
「コカビエルさん、コカビエルさん」
「なんだ?アザゼルの餓鬼。まだ続けられる体力があるのか?だが、これ以上はお前の親父が面倒だからな。それ以上はやらん」
汚れた小さな手でアモンはコカビエルの服の裾を掴む。我にかえったコカビエルは疲労から突き放す労力を使うことすらも鬱陶しく、適当にあしらうこととした。そうすれば、たいていの子供と言うのはコカビエルに近寄らなくなるからだ。その後に泣かれるのは面倒なことだが、突き放すと言う本来の目的が果たされるのでそこには目を瞑ることとしている。
「コカビエルさんがすごいとおもえたひとっているの?」
「俺がだと?なんでまた」
アモンはしつこくコカビエルを見上げたまま、尋ねてくる。
このしつこさは養父譲りのものだろう、コカビエルは溜め息をつきながらアモンと視線を合わせた。子供と目を合わせたり、話すことを進んでしようとしないコカビエルからすれば珍しいことで彼の知己が見れば、驚くかからかうかのどちらかだろう。
「ぼくがきになったんだ。コカビエルさん、すごいつよいから……」
「当たり前だ。ちっぽけな人間よりは俺は場数をこなしているし、経験も違う。そうそう俺に勝てる奴はいないといってもいいだろう」
しゃがみこみ、いつでも姿勢を起こせるように。
身体が疲れているのは間違いがなくて、悪魔の因子なんてものを身体に宿しているアモンは身体が変質したことで疲労回復が早いが、そんなものをコカビエルが持ち合わせているはずもなく。
ただ、そんな戦闘では便利な身体も身体に細胞に対して無理やり働きかけることによる回復は余計な負担をかけることもあり、アモンは普通の人間よりはかなり強い部類にあっても、長く生きられないだろうとコカビエルは直感した。
誰かの都合で作られたと言う理由では、創造主――神の手によって生み出された自分達に似ているところがあるが、寿命と言う面から見れば、その命は“アモンがアモンのまま駆け抜けていくなら”小さな火種にしかならないことだろう。
「どうして、そんなにもつよいの?」
「なぜか、だと?」
子供特有のまっすぐな視線と質問。コカビエルは凶悪に笑った。
「
それは、長い時間を生きてきたコカビエルなりの結論だった。
力がなくては、したいことを為せない。
力がなくては、我が侭を貫けない。
非力なままでは、話にならない。
そんな弱者を置いてきぼりにするような思想がアザゼルとぶつからないはずがなく、ここ数百年以上、なんどもぶつかっている。
「それに俺が凄いと思えた者、か。それはだな、――――――『仮面ライダー』だ」
「『仮面ライダー』?」
そうだ、とコカビエルは力強く頷いた。
どことなく嬉しそうな表情にも見え、その名前に対する思い入れが強いのだと分かる。養父が好きなものや自分の作り出したものについて楽しげに話すように、戦闘の師もまた同じ顔をしている。生まれが同じで兄弟と言ってもいい関係である以上、どこかしら似ているところがあるんだろうが。
「誰よりも強く、そして人間の為に戦った誇り高き戦士。蛮勇ともいえるほどに戦いに臨み、あらゆる戦いから生還して見せた“貫く強さ”を持つ戦士だ」
「それがコカビエルさんのあこがれた人なんだね」
「あこがれた?馬鹿言え、いつか必ず倒してやるといきまいていたさ。だがな、あの人間はいつも笑うだけでまともに相手をしようともしなかった」
情けない奴よ、と鼻で笑うものの、悪い感情は伝わってこなかった。
そして、その願いは叶うことがなかったのだと分かった。
「アモン、」
コカビエルは珍しく、アモンのことをアザゼルの餓鬼と呼ばず、名前で呼んだ。
アモンがもう少し大人であれば、その変化に気づけていたのだろうが、アモンの精神は幼かった。
「“貫く”強さを持つことだ。お前がアザゼルとの約束を貫こうとするならば。強くなくてははじまらん、お前の親父がなんと言おうとも」
その瞳はあまりにも真っ直ぐで、逸らすことができなかった。
はっと我に返ったコカビエルは立ち上がり、「……さっさと眠れ。明日もある」とだけいって立ち去ってしまった。
滅多にない師の表情にアモンは、
「ぼくはつよくなるよ。つよくなって、つよくなって、つよくなって、まもってみせる」
何度も何度も呟く、幼子の様子。
見守るように部屋の外にいた男は、凶悪に笑った。