天才物理学者……、上田次郎かな?
リアスは急遽、冥界に呼ばれていた。
無事に眷属である木場が戻ってきてくれたこと、それから、親睦を深める為に封印せざるを得なかった眷属とあわせてプールに入りたかったところだが、急に魔王を勤める兄のサーゼクスに呼ばれたのであれば仕方ない。アモンとコカビエル、木場とフリードのことについては木場から聞いているだけの情報しか持たない。
それでも、話してくれたことが嬉しかったので、それだけで良かった。勝手に離れられるよりはマシだと本当は寂しがり屋なところのある彼女は木場にそれを打ち明け、今後は自分達も頼って欲しいと伝えた。それは、きっと木場にも届いたことだろう。
グレイフィアに案内されたのは、いつも通される魔王の屋敷の応接室。人間で言うところの、馴染みが深いものに例えるならば、ホワイトハウスや首相官邸がそれに近いだろうか。
紅い家具で統一され、目が痛いような部屋だが、自分の兄がどういう人なのか知っているリアスは今更どうこう言うつもりはなかった。ちらり、と視線を動かすと、仮面ライダーの関連グッズがちらほら見える。人間界、それもニホンの特撮に感銘を受けたサーゼクスは自らもヒーローの特撮ドラマを撮りたいと言い、魔王戦隊サタンレンジャーなるものを放送しているが、いまいち人気が出ない。他の魔王もそれなりにノリノリなのが辛いところ。リアスも見たことがあるが、ストーリーにカタルシスがなかった。基本、魔王による無双であったからである。
仮面ライダーと言えば、リアスも幼少期から聞いて育った。冥界の悪魔の子供たちは誰もがその名前を知っている。人間でありながらも、その身ひとつで大切なものの為に立ち向かっていったヒーロー、というのが主な筋書きで一部では倦厭されているが、それでも子供たちのヒーローとして今でも人気が高い。
「やあ、リアス。待たせたね。少し会議が立て込んでしまってね、遅れてしまった」
あれからどれくらいの時間が経っただろうか、ようやく、サーゼクスが姿を現した。紅いチェアにどっと腰掛けた。リアスにそっくりな端正な顔を疲れで滲ませ、げっそりとしている。
「お疲れ様、お兄様。いえ、今日はどちらでの用件かしら?」
どちら、というのは“兄妹”としてか、“魔王”としてなのかという意味が含められている。
一誠や木場と良好な関係を築いているアモン、その彼とこれからも良好な関係を築けていけるならば、それに越したことはない。情愛深いと言われるグレモリーの彼女は、眷属の友人は自らの友人と言ってのける懐の深さがあった。
できれば、アモンも駒王学園に通ってプライベートでも親密に付き合えれば、と言うのがリアスの理想である。
別に仮面ライダーとなった、と聞いて一ファンとして興味を持ったからでは断じてない。
「まずは、“魔王”として。先日の事件はよくしてくれた。エクスカリバーが奪われずに済んだのは、君たちのおかげだよ」
「なら、なぜアザゼルがいたのか教えてもらえますか?」
アザゼルの救援がなければ、あのときは間違いなくグレモリー眷属は命を落としていた。それほどに苦戦する戦いだったのである。眷族の素養が高いが、リアス自身、実力不足を感じているのもあって、彼女は自分に出来ることは、貴族の娘として家の力を使って得られる情報を使って事前の危機をなんとかしておこうと思った。
無力を感じるのは誰でも出来る、肝心なのはどう行動するのか。
それは、仮面ライダーが教えてくれたこと。寝物語で聞いた仮面ライダーの御伽噺は、今でもリアスの胸に強く残っていた。自分が弱いならば、眷族に見合った主になるように努力をする。それが今すべきことならば、なおさら。
「アザゼルについては、こちらは関与していないよ。彼が勝手にしたことだ。アモンくんは彼の養子だって言うのは知っているだろう?親と言うのは子供が心配なんだ」
「それは分かりますけど、」
サーゼクスは妻と息子と写っている写真の入っている写真立てに目をやる。今でこそ、役職上、ルシファーと名乗っているが、彼もグレモリーの生まれだ。情愛深いのは自分のアルバムをこっそりと作られているのだとリアスは知ってしまった日を忘れない。
ぐっとリアスは言葉を押し込む。今はあくまでも兄と妹ではない。魔王と一介の悪魔としての会話なのだから。
「聴きたいことはそれだけかい?なら、こちらから質問をさせてもらってもいいかな?」
「なんでしょうか?今回のことについては報告書にまとめておいたはずよ。幾つかの補足事項も分かる限り載せておきましたし」
偽りはないはずだ。
間違いなく、何度も確認しておいたのだから。
「むしろ、君の口から聞いておきたいんだ」
「というのは?」
それから、サーゼクスはふざけているとも真剣とも見えない表情で、
「仮面ライダーってどう思う?リアス」
「え?仮面ライダーですか?最初は御伽噺の英雄くらいしか思ってませんでしたけど、アモンが仮面ライダーに酷似したベルトを使って変身するんだと祐斗から聞いて、仮面ライダーが実在するんだって少し胸が躍ってしまいました!……あ、すみません」
うっかり話していると熱が篭ってしまい、リアスは慌てて謝ると、いいんだよ、とサーゼクスは微笑んだ。サーゼクスの意図がつかめない。
「実は、此処だけの話。仮面ライダーを作ろうとする計画が進行していてね」
「え、仮面ライダーをですか!?」
つい身を乗り出すリアス、そんなリアスを見てサーゼクスの口端が釣りあがった。
「そうだ。アモンくんは“どの”仮面ライダーかわからないけれど、悪魔側にも仮面ライダーは必要だろうと思ってね。試作品だが、作ってみたんだ。仮面ライダーの、ベルトを」
そう言って、サーゼクスが机の上に置いたのは、山羊の角を生やした髑髏をあしらった紋章のあるベルト。どことなく、報告にあったアモンのドライバー、アモンドライバー(仮)にそっくりである。
「便宜上をイーヴィルドライバー。あるいは、デビルドライバー。……失礼。アジュカにはまだ決めないようにと言われているから、便宜上をプロトタイプと呼んでいる」
サーゼクスは、イーヴィルドライバー(デビルドライバー?)について嬉しそうに語る。そういった“男のロマン”とやらには自分も好きなので理解のあるリアスだが、それでも、大の男が嬉々として語るのはあまり受け入れることは難しそうだった。
そのベルト――プロトタイプと名付けられたそれは、魔力を注ぎ込むことによって姿を変えることが出来るのだという。しかし、人間にしか宿らない
サーゼクスの説明では、悪魔の因子を持つ者であれば、これを使用できるとのこと。ある一定の魔力を求められるのはサーゼクス専用カラーとしてクリムゾンレッド仕様になっていることから伺えるのだが、超越者という種を超えた実力を誇る彼の仕様のドライバーはどれだけ魔力を食うのだろうか。同様に滅びの魔力を備えた彼の魔力を食らい、姿を変じさせる。どれほどの脅威であるかを分かっていないサーゼクスではないだろうけれど。
「まだ完成品ではないけれど、リアス、見に来ないかい?このサタニクスの研究をしている所を!」
サーゼクスの中では、自分仕様にされたベルトの名前はサタニクスになったらしい。
魔王から少しだけ転じているものの、自身専用と言うのを隠しきれていない。きっと、グレイフィアに聞かれれば、説教物だろうが、
「いいの!?じゃあ、是非見に行かせてもらっていいかしら!?」
似たもの兄妹、魔王の妹は目を輝かせ、兄は「うんうん、それでこそ、私の妹だ!」と頷いていた。
悪魔の因子があれば、使える(既視感)