「むにゃむにゃ……、ぶちょー……」
あれから、イッセーの家に泊まることとなったアモン。朱璃は外泊を快く許可してくれたが、朱乃を説得するのにかなり時間を要してしまった。心配なのはわかるが、過保護すぎやしないかと母親に諭され、ようやく彼女からも許可が出た。
風呂上りに寝間着がないアモンはイッセーのシャツを借り、兵藤一家の食卓に加わった。アーシア・アルジェントを入れて五人の食卓、イッセーとアーシアの主の姿が見当たらないのは、なにか冥界に用があるらしい。
アーシア・アルジェントをはじめ、兵藤親子は感じのいい人間だった。武者修行と称して世界各地を回っていたことがある、とイッセーが言えば、彼の父親が興味深そうに質問をしてきた。身近な年上の男性と言えば、戦闘狂、学者、
『アモンくん。これからも、うちのイッセーと仲良くしてやってくれないか?この通り、馬鹿な息子だが、それでも人を見る目があると信じている。そんな息子が呼んできた友達なんだ、きっと君もいい子なんだろう。親御さんの教育が行き届いているのが分かるよ』
不思議な言葉だった、滅多に、今までにかけられたことのない。
一人の“父親”の言葉。
『アモンくんは素敵な人だと思うから、女の子を泣かしちゃ駄目よ?』
夫と息子のやり取りを微笑ましそうに見つめる、“母親”の言葉。
特殊な過去を持つ朱璃とはまた違う。
自分の境遇を不幸だと思ったことはない。
アザゼルとの出会いがあったからこそ、自らが尊敬する人物の名を与えてくれた偉大なる師、母のように慕う女性、大切に思ってくれる少女、姉のような女性。
彼らとの出会いを無碍にするアモンではない、他者との出会いが更なる高みへと、成長をすることが出来るのだと教えてくれたのだから。
「……朱乃。先生の言ったとおりだった。人との出会いは、成長をさせてくれるんだ。僕は、みんなと出会えて感謝している」
『……ふふ、アーちゃんは何も変わってないのね。いつも真っ直ぐに生きているもの。素敵よ、アーちゃん』
こっそりと部屋を出て、兵藤夫妻の寝室から離れるようにし、窓に凭れてしている電話の相手は朱乃だった。
外泊しているものの、声を聞きたくなり、改めて自分が感じたことをアモンは伝えたかった。本人なりに家族の暖かさを求めていると気づくには、アモンはまだまだ無知だった。
幼馴染の一人称が昔のように戻ったことに気づいた朱乃は、寝る間も惜しんでアモンの話を静かに聞く。
物静かなアモンが自ら話すことは少なく、行動が早い割には言葉にすること自体が珍しい。
手紙だけ置いて旅立ったことは許せないけれど、伝えたいことがあるといわれた時は心が躍った。ちょっと期待をしてしまい、裏切られたことにはショックを受けるも、悪くない傾向と言えるだろう。
何かを話したい相手に自分を選んでくれたというのは、かなりの進歩ではないだろうかと。
声色も穏やかで、いつもの静かなアモンとはまた違う趣きがある。怪我をして帰って来たときは本気で心配したけれど、こういったところは変わっていなくて嬉しい。
「……かぞく、って素晴らしいんだな」
『ええ。アザゼル先生といてアーちゃんは幸せに感じるでしょう?そういうことよ』
「うん。とても暖かい気持ちになれる。僕にも、かぞくがいたら、イッセーみたいになれるかな……?」
電話の向こう、朱乃は少し間を空けて、
『なれるわ。……それに、アーちゃんは私と家族よ?昔から一緒にいるじゃない。勝手に出て行ったことは許してないけど』
「それは……」
『冗談ですよ、アーちゃん。また、お出かけしましょうね。アーちゃんと服でも買いに行きたいな』
「それは、楽しみだ。ゆっくりできる時間を作るのも悪くはない」
そうでしょうそうでしょう、とうなずいているのが声色からも伝わってくる。
朱乃は心から楽しみにしている様子、ではこの日に行きましょうね、と約束をして、
「……じゃあ、朱乃。夜に電話かけてごめん。良い夢を」
『アーちゃんも良い夢を。おやすみなさい、素敵なアーちゃん』
そうして、二人は通話を切った。
※※
「……男の子同士、なにかあったのかしらね」
アモンとの通話を終え、机で頬杖をつきながら、寝間着姿の朱乃は幼馴染に思いを馳せる。
自分はアモンを心配することは出来るが、同性の友人がするような話まではできない。
少なくとも、アモンより年上(と信じたいが)である自分はアモンの姉のようにはなれても、兄貴分には決してなることはできない。だから、アモンにとって「優しい父」の象徴であるアザゼルや朱乃の父とは違うコカビエルという存在は大きかった。
言葉で語らず、背中で語る様はどことなく行動で己の意思を示すアモンらしさに似ているところがあり、なんだかんだと仲が良いように見えた二人の根拠と言えるのではないだろうか。
「……ふふ、アーちゃんとお出かけ。楽しみだわ」
少女の夜は、こうして更けていく
※※
「……それで、部長。今日はどうして集められたんです?」
「よくぞ聞いてくれたわ、イッセー。それにアモンくんもありがとう、来てくれて」
翌日、リアスに呼び出されたイッセーたちは部室に集められていた。
そこにはアモンの姿もあった。というのも、アモンを呼ぶようにと伝えたのはリアス本人からだった。グレモリー眷属がほとんど集まり、聞いたところによると、“協力者”枠であるという朱乃の姿もあった。
眷属でないのにその場にいるのは、友人であるからとのことで、その言葉を聞いてアモンはしっかりと頷いた。友人であるならば、力を貸すのに理由は要らないとアモン自身が良く知っているから。
他にはコカビエル、フリードアマゾンことフリード・セルゼンとの戦いで背中合わせに戦った木場祐斗の姿もあった。
「今回、貴方たちに集まってもらったのはほかでもないわ。今日は仮面ライダーについて深く知るわよ」
「部長、仮面ライダー、ですか?」
白髪の小さな少女、塔城といった眷属が尋ねれば、部屋中の視線がアモンに向けられた。
「そう。アモンくんもまだ自分の力のことについては、深く知らないと思う。知ってのとおり、私の兄は魔王様。これからの戦い、きっと仮面ライダーのことを知っておいて役立つことがきっとあると思う。だから、今回は特別に仮面ライダーについて勉強するわよ!」
どことなく、リアスのそのサーゼクスと同じ紅い目が輝いているように見える。
自分の好きな物を生き生きとした目と様子で語る様は、養父とも重なり、アモンは静かにリアスの様子を見つめていた。
「それにイッセーやアーシアは初めて顔を合わせることになる、他の魔王様もいらっしゃるから、くれぐれも失礼にならないようにしなさいね?」
「うっす!」
「はいっ!」
イッセーとアーシアの二人がそれぞれ返事をする。
しばらく、リアスの様子を見つめていた朱乃は、アモンがリアスを見る目に対し、何か思い出すものがあったようで、
「リアス」
静かな口調で尋ねる、微笑を讃えたまま、
「なにかしら?」
「もしかして、貴女。自分が仮面ライダーのことをよく知れるミュージアムに行けるからって意味で誘ったんじゃないでしょうね?」
「みゅーじあむ?」
「博物館、って意味だぜ」
自分の嗜好に対してあまりにも真っ直ぐな大人が身近にいたからか、朱乃の突っ込みは鋭く、リアスをたじろがせた。アモンの疑問にはイッセーが答え、搭城は珍しい空気を感じ取り、
「……お腹空きました」
腹の虫が鳴ったのに気づき、顔を赤らめた。