コカビエルがその長い生涯の中でも、唯一勝てなかった男、仮面ライダー。
悲惨な最期を迎えながらも、そのたった一つの遺品を残して守るべき者に殺された男。
その名前は忘れ去られることなく、人間たちは自分たちを守る為に駆け抜けていき、自分たちの恐怖のために殺した男の名前を今でも忘れることはない。
しかし、仮面ライダーがどのようなことをしたのかというところまでは人間には表向きには知られておらず、皮肉にも敵であった人外達のほうが仮面ライダーが為した偉業のことを良く覚えている。
アモンはベルトに対し、思いを馳せる。
名前のない怪物として生まれ、アザゼルと出会い名前を授かり、大切な者を得ることができた。
ふと、アモンは考えてしまう。
みんなが俺を忘れたら?
自分自身の名前も残らなかったら?
そんな思いに囚われると……、これまで自分が受容れられなかった己の中に潜む破壊の化身、アモンが宿している者--アマゾンに対して抱いている感情を思い出す。
「どうかしたのかな?アモンくん」
アモンの様子を気にした館長の言葉でアモンはハッと我に返る。珍しいものが多くあることから、不思議そうに見ているアーシアにリアスは得意そうに説明しており、イッセーはそんなリアスの様子を意外そうに見て彼らについて回っている。
「いや、なんでもない。仮面ライダーというのは、死ぬときはなにか言っていなかったのか?」
「仮面ライダーの遺言か。そうだね、彼は自分が守りたかったはずの民衆に処刑されると言うのに笑っていたんだそうだ」
「なぜ?自分が殺されると言うのに」
アモンは仮面ライダーは、どのような言葉を残していったのか気になった。
館長はほう、と興味深そうにアモンを見る。冥界の仮面ライダーを好む者の多くは仮面ライダーの栄光にばかり目を向ける者がほとんどであり、そうした面に目を向けるものは少なかったからだ。
朱乃はアモンの服の袖を握りながら、館長の言葉に首を傾げる。それから、アモンの様子を窺った。
幼馴染という点を除いても、危なっかしいアモンの様子を気にかけている彼女、いずれはアモンが辿るかもしれない末路と考えると気になって仕方なかった。
「『俺が死んでも、人は人の力で生きていくことができる。可能性は無限大だ、進化していくことが最も強い力となる。それに、仮面ライダーと言うのは、時代が、人が必要としたときに現れるものなのさ。たまたま、俺だっただけでな』と言っていたそうだ」
「なんで、そうも平気なの?守りたかったものに裏切られたのに」
仮面ライダーの言葉は、朱乃には理解できなかった。
仮面ライダーは、神話・伝説に登場する英雄に分類されることだろう、その生き様は人間の自由と平和を守る為に戦ったのだから。
しかし、英雄が求められるのは、英雄が生まれるのはいつだって戦乱があってこそである。
戦がおさまり、平和になってみれば、英雄が英雄たる力は暴力でしかない。その力が自分たちに向けられることを恐れ、英雄はその最期は悲惨なものが多い。
仮面ライダーもまた悲しき最期を送った、しかし、殺される直前であっても誇り高く在り続けた。
そんな仮面ライダーだからこそ、コカビエルと言う男を魅了したし、魔王に憧憬を抱かせるのだろうか。
だけど、英雄の、仮面ライダーが死んだことによって彼の家族や友人はどう思っていたのだろうか。
きっと、怒りに駆られたのではないだろうか。自分たちを守ってくれた戦士の、そのあんまりな最期を。
「仮面ライダーの名前の由来と仮面を被っている理由。分かるかな?リアスお嬢さんのご友人」
館長の口調は優しい。
「分からない。分からないわ」
朱乃は首を横に振る。
分かりたくないし、考えたくなかった。
幼馴染の青年が授かった名前は、彼には悪いが、“呪われている”。名前を祝福と親は言うが、仮面ライダーの名前ばかりは――。
「自らの恐れを表面に出ることを隠すのが仮面を被っている理由、名前の由来は絶望的な状況に齎す『希望』に乗ってやってくるからさ」
「……!」
「なぜ、それを館長さんが?」
アモンは館長の言葉に目を丸くした。
仮面ライダーの名前の意味には、希望が含まれているのだと。その姿を現した理由を考えれば、それも頷ける。
戦渦に巻き込まれ、怯えていた人間たちの前に仮面ライダーはショーケースに今はおさめられ、復元されてはいるものの、ほとんど破損しているが、ベルトを巻きつけ、仮面をつけて人ならざる者に戦いを挑んだ。
悪魔。
天使。
堕天使。
そして、絶大な力を誇るとされている赤い龍と白い龍に。
無謀で、愚か者だとその場にいた誰かが言った。
その声を、言葉を聞いても、いつか来る安寧の為にとたった一人で戦い続けた仮面の英雄。
彼の経歴や過去は誰も知らないし、記録にも残されていない。正体が知られれば、愛する者たちに危害が及ぶという覚悟からだろうか。
それとも、他になにか事情があったのだろうか、と思案に耽ったところで推測の域を出ない。
「私が仮面ライダーの協力者であったからだ」
アモンと朱乃は驚いた。
館長こそ、この目の前の男こそが仮面ライダーに「困難に挑む」力を与えたのだと。
「もちろん、戦争には参加していない。少し腕が立つほうではあったんだが、あのときの私は種の存続をより滅びに持っていくような行いに耐えられなかった。そんなとき、私はあいつに出会った」
―――どうか、俺に稽古をつけてほしい。
館長が懐かしそうに振り返る仮面ライダーとの記憶。
「あのときのあいつはボロボロでね。貧しい生まれであったと聞いた。悪魔なんかに教えを乞うのは変わっているなと思ったんだが、ボロボロのあいつをそのまま帰すわけにもいかないと水とパンをやった。静かに暮らしているのだから、放っておいてくれと」
しかし、仮面ライダーは、仮面ライダーに将来的になる青年は、土下座の姿勢のまま動かなかった。
何も飲まず、何も口にせず、ただ館長が頷いてくれるまで根気強くそのままでいたという。
「数日を過ぎる頃には、私も根負けしたよ。ただ、どうも癪だったので名前を呼んでやらなかったのは悪い師匠だったと思う。あいつには、おやっさんおやっさんと慕われていたのにな」
館長は、朱乃とアモンの二人が良く知っている男に若い頃は似ていたらしい。種族が決定的に違うので、あの悪人面の彼は悪魔と堕天使を比べるなと憤るか、頭を引っぱたくかのどちらかに出るだろうが。
「そんな奴がまさか英雄になるとは思わなかった。あとから聞けば、名乗るような名前を持っていなかったらしいが、だからこそ、仮面ライダーというように呼ばれるのがうれしかったのかもしれないな。本名で奴を呼ぶことはなかったが、仮面ライダーとは呼んでやれた」
――おやっさんにそう呼ばれるのは恥ずかしいモンがあるなァ。
仮面ライダーは、館長の弟子は、人間の英雄と呼ばれるようになった後も「自分」を忘れなかったという。
彼は立ち向かうべき敵と恩義を感じている相手とでしっかりと線引きがされており、自分に戦う為の手段を与えてくれた館長のことは感謝していた。
それが人間に恐怖を与えている、本人が参加していないとはいえ、悪魔であったとしてもだ。
「アモンくん。君が私の弟子の名を受け継いでくれたことは嬉しい。学を知らず、身体を動かすことが得意で、誰かのことを大切に考えることができる男。それが私の教え子だった。君が仮面ライダーと呼ばれるように至ったのは、誰かにそう呼ばれるようになったからだろう」
あの先代仮面ライダーの師匠ともあれば、コカビエルのことを知っているだろうが、あえてそこには触れずに館長は言葉を続ける。
「君の目には強い意志がある。そして、君には君を大切に思ってくれている女の子がいる」
朱乃は顔を赤くした。
「それを忘れないでほしい」
アモンは館長の言葉に深く頷いた。
その後、サタンライナーに乗る前に各々が館長に挨拶を述べて言った後、サタンライナーが走り去っていくのを見て館長はつぶやく。
「……なあ、馬鹿弟子。お前の次は彼が名乗っているようだ。どことなく、お前に似ている」
「……お前のように人間でなかったとしても、彼はお前と似た目をしているよ」
「生意気で、自分の意地を曲げないところがな」
パイプをふかしながら、亡くなった弟子に語りかける館長の様子は穏やかな紳士というよりも、歴戦の戦士の顔を覗かせていた。
その数日後、仮面ライダーミュージアムにおいて仮面ライダーのベルトと装備一式が奪われたことをアモンたちは知ることとなる。
そして、襲撃者によって館長、仮面ライダーの師であった「おやっさん」が殺されたと言う訃報を。
今回のお話では、僕アマにおける仮面ライダーの名前の由来、あとは平成ライダーのキャッチフレーズとか幾つか入っています