仮面ライダーの“父”が死んだことは、アモンの中に衝撃を与えた。“おやっさん”と呼ばれていた、あの館長は彼の身近な男二人に良く似ているところがあったぶん、その衝撃は強かった。
リアスは館長の葬儀に参加し、仮面ライダーの弟弟子に当たる魔王も出席すると言う。館長と言う男は、仮面ライダーと呼ばれた誰かの世界を変えた男だった。
暗い地下室しか知らなかったアモンに外の世界を教えてくれたアザゼル、自分の我侭を貫くには強さを持つ必要があるとアモンに伝えたコカビエルのように。
どんな感情で亡くなっていったのかをアモンは知る由もない。発見されたときには、館長は既に命を落としていたと言うのだから。
深夜、アモンは一人で外出した。
眠れなかったのだ、色々と悶々としてしまっては、分かるものも分からなくなってくる。
もしかしたら、アモンに対して、仮面ライダーの名前を継ぐ者に対する言葉を伝えることこそが館長の最後の仕事だったのではないだろうかと考えるが、それも良く分からない。
アモンは戦うことが得意だ、考えるより身体を動かすことのほうが性に合っていると言えよう。
アモンは難しいことが苦手だ、深く考えようとすると、途端にそのことが分からなくなってしまう。
そんなアモンとタイプが似ていたのか、アモンに戦う術を授けた男はアモンが本能で戦うことを強く言い聞かせた。
記憶ならば忘れてしまうが、本能に刻み付けることができたのならば、それは決して忘れることはないと言いたかったのではないだろうか。
コカビエルと言う男は、アザゼルやバラキエル以上に不器用な男だ。同じく不器用なアモンについてなにか思うところがあったのかもしれない。
「綺麗な月だ」
昔、アザゼルが買ってくれたコートを今でもアモンは着続けている。布が破れたならば布を当てて縫い直し、大切に着ている。今の季節は春だろうか、夏だろうか。
春ならば、桜を見に行きたい。アザゼルは、日本と言う国は桜が美しいのだとよく語っていた。朱乃はそんな桜の木の下で家族でする花見が好きだと聞いたことがある。
今夜の月はいつかに見た月のように美しい。
いつだったか、ヴァーリ・ルシファーという悪魔に会い、戦いを挑まれたのを思い出す。
あの悪魔はいけ好かない性格だったことを良く覚えているが、はたから見れば、コカビエルも彼と同じように映っていたのではないかと考えていた。
いつしか、アモンの足は姫島家から離れ、街のほうへと向かっている。朱乃を助けた日も、夜だったのではないだろうか。
その日があったからこそ、アモンは力を求め、旅に出た。自分の中に潜むアマゾンを抑えられるくらいに強くなるために。
しかし、コカビエルとの戦いで最初で最後の勝利を飾った後、朱乃に受け入れられたことでアモンの中に変化が起こる。
『嫌いじゃない』
大嫌いだった自分の中に潜んでいるもの、自分自身ともいえるアマゾンを彼女は受け止めてくれた。
そして、彼女は自分もまた化け物であると吐露する。自分は人間でも堕天使でもないのだと。
しかし、それでも、朱乃には両親がいる。世界で唯一、血が繋がった相手だ。対し、アモンには親がいない。
そんなことを言えば、お節介で子供っぽい養父はアモンを殴り飛ばすだろうが、正しくはアモンを生んだ親はいない。
アザゼル曰く、アモンと出会った場所は研究所の地下であったという。つまり、そこがアモンにとっての母親の
つまり、アモンは何かの目的のために作り出されたとしても、おそらく、祝福されるような誕生ではなかったのだろう。
『だが勘違いするな』
アザゼルは、アモンの境遇を話すとき、いつも口にすることがある。
『お前にはオレがいる。お前が世界中の全てに憎まれたとしても、オレはお前の味方であり続けよう。なんせ、オレは強い。具体的に三行で済むくらいにはな』
三行の意味が理解できないアモンだったが、そんな様子にアザゼルは笑みを浮かべながら、
『イイ男になれ』
アモンの中で最も焼きついた記憶は、ある夏の日、アイスクリームを食べながら交わした親子の会話。
色男のアザゼルらしい言葉とも言えるし、全うに育てようとした親心とも言えよう。誰かを守れる強さを持てる男であれ、惚れた女を守れる強さを持てるようにあれ、アザゼルの言葉は表現はさておき、どこまでも全うなそれだった。
「いい夜だねえ?息子よ」
聞きなれない声、しかし、どこまでも悪意を含んでおり、その真意を汲み取ることはできない。アモンには聞き覚えがなかった声だが、その姿が現れると、アモンにとっては因縁のある青年の姿が重なる。
「ヴァーリ・ルシファー?」
アモンは眉を顰める。口をついて出た名前はアモンの大切なものをアモンの戦意をみなぎらせる為、人質に取ろうとした気に入らない奴の名前だ。
彼はアモンのことをきょうだいだと言ったが、アモンはそれを突っぱねた。アモンは確かに家族に対する欲求は根幹にあるが、自分の大切なものを奪おうとするのならば、それはアモンの
―――敵だ。
「おやぁ?ヴァーリに会ったことがあるのか。嬉しいねえ、家族の対面かぁ。身体の調子はどうだい?毎日は楽しいか?」
ヴァーリに良く似た銀髪の悪魔、誰だか分からないのにかけられる言葉はアザゼルがかけてくれるものと一緒だ。
だけど、決定的に違うのは、この銀髪の悪魔からは、
「お前は、誰だ」
「そっか、アモンちゃんはパパのことを知らないのか。俺はリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ヴァーリのおじいちゃんでお前のパパだよぉ?息子よ」
銀髪のヴァーリに似た悪魔、リゼヴィムはわざとらしいリアクションをとって見せた。大口を開け、赤ん坊に対してそうするように、手のひらをくるくる回して。
近づいてきたリゼヴィムの手をアモンが叩き落とせば、「これはこれは反抗期かな?仮面ライダーがそんなことをしちゃ駄目じゃないか」とわざとらしく言い、アモンの癪に障る。
「馬鹿な。俺の親父はアザゼルだ。俺はアザゼルの
知らない、知りたくない/けれど、自分が欲しかった肉親じゃないか。なぜ否定する?
アモンの中で聞こえる、二つの声が衝突する。リゼヴィムは、アモンよりも背が高い男は、アモンのことをしっかりと抱きしめた。
「アザゼルとお前に血縁関係はない。さぞや辛かっただろう、地下での暮らしは。でもさぁ、パパも驚いてるんだよな。一番の
アモンにとって心に来る言葉を浴びせながら、リゼヴィムは愛おしい息子を抱きしめるように背中を撫で、そして離れる。
その顔は、愛憎入り混じった様子だった。彼もまたコカビエルと同様に仮面ライダーと言う戦士になにか思うところがあった一人だったのかもしれない。
しかし、リゼヴィムの言葉は
研究が好きで、格好いいものを、興味を持ったものに熱中できる性格はアモンにとっては羨ましく、その影響を受けているところが多々ある。
アモンが彼の研究を横で眺めていると、全く分かっていないらしい
それでも全く分かっていないのがアモンだが、それが格好いいものであれば、目を輝かせることから、「さすがはオレの息子だな」と言ってくれた。
アモンは血の繋がった家族はいなかったが、血の繋がり以上に深い情を与えられていた。だからこそ、疑問に思う。
どうして、ものみたいにあつかうの?
自分のことをほかの実験体たちを食らう化け物、スカルマンだとアマゾンもどきはアモンに言った。それでも、アモンは気にしなかった。
そんな罵倒よりも認められたかった男に名前という形で力を認められたし、大切に思っている女性は自分のことを受け入れてくれるから。
しかし、いざ自分の産みの親、もとい造りだした男を目の前にしてみて、思った以上に感動が湧いてこなかった。
「俺の、『僕』の親なんだよな?」
「そうだ。お前の親だよ、
はじまりは、殺す為だった。
実験の中で暴走し、我を忘れて暴れだす前に殺処分にさせること。それがいつの間にか、リゼヴィムはスカルマンと呼ぶようになっていた。
殺し、その遺体を貪り食らう“バケモノ”。スカルマンは実験体として純粋すぎた。能力は高いものの、自分の本能に忠実であったのだとリゼヴィムは語る。
つまり、アモンが押さえ込もうとしているアマゾンこそ、
「仮面ライダーが処刑されたあと、大変だったなあ。人間共ときたら、自分で英雄を殺しておいたくせに殺した後は仮面ライダーの復活を恐れ、祀ろうとしたんだから。細胞組織を採取し、お前たちを作ったが、結局、生き残ったのは失敗作だけだ。適当な人間の子供の死体を持ってきたのは良かったんだけど、
ぱんぱん、とリゼヴィムはアモンを離し、まじまじと見つめた後に手を合わせる。
自分の身体は、誰かのモノだった?しかし、それよりも気になることをリゼヴィムは言っている。この男は、
「いま、なんていった?」
アモンは聞き返す。
リゼヴィムの腕を力いっぱい握り締め、その目には複雑な感情が込められているが、どういったものかは窺うことは難しい。
いまのアモンは驚きながら、怒りながら、そして、その目からは涙を流しているから。
「うーん?何度でも言ってやるぜ、偽りの
それから、リゼヴィムはアモンの頭に手を置いた。
「そうだろう?仮面ライダーの“
【速報】仮面ライダーは、お前のオリジナルだったんだよ!
ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?
『俺』:仮面ライダー自身のものか。
アマゾン:リゼヴィムの遺伝子を入れられたことで生まれてしまった、あくまでも人間でもない“新種”。
“ぼく”:アザゼルらと過ごすうちにできた人格か。口調はおとなしく、それでいて純朴。振り回されはしているが、姫島親子に懐いている。