仮面ライダールシファー。
文字通り、伝承にある悪魔のような姿、そこにはルシフェルと呼ばれた頃の明けの明星と言う名のとおりに美しさは見られない。
「あァ……!ついに“変身”できた……!俺が変身できた以上は、お前にはもう用はない。大人しく俺の養分となれ、アマゾン!」
「ここまで変わるものなの……?」
朱乃はその禍々しさに眉を顰めるも、アマゾンズをデモンズドライバーで吸収したからか、姿にもアマゾン達の特徴とも言える爬虫類のような頭部に変貌していることに気づいていない様子。
真実に気づいたならば、仮面ライダールシファーはその姿を醜いと言うのだろうか?アモンは長い間、アマゾンであることを恐れてきた。しかし、その苦悩は朱乃によって救われたが、仮面ライダールシファーは仮面ライダーの名を継いだアモンに対して憎しみを抱くほど。
自分が造りだした者を憎んでいるルシファー、そこには彼が偏執的な愛情を向けている仮面ライダーの存在があった。
魔力を扱うことから感じ取ることができる朱乃にはわかる、仮面ライダールシファーは、リゼヴィムは、変身しなくとも容易く自分を殺すことが出来ると。
それでも、変身したのは仮面ライダーに向ける愛情があってこそだと分かる。朱乃はアモンのことが好きだ。
今夜、夜にでかけたのだって妙な胸騒ぎがしたこと、探しにいかなければ後悔するだろうと思ったから。
かつて、夜にやってきた母と自分を狙った母方の親戚たち。彼らをアモンが一人で迎え撃ち、怪物と罵られたように、あの夜を今夜は
ならば、今度はアモンを自分が守る番だとアマゾンとなったアモンの前に朱乃は立った。
ただ生まれついたからと言ってそのままにした力ではない、きちんと自分の力、翼と向かい合ってきたから、今度はアモンを一人にはしたくない。
それが彼女の決意、あの夜に命、それから失ってしまいそうだった彼女にとっては大切なものを守ってくれた彼への恩返し。
「仮面ライダーと呼ばれた、お前がお嬢さんに守られるのか?それは感心しないぁ?」
「……そういうダサい装飾にしてしまう、お前には言われたくないな。先生は、もっとセンスがいい」
「贋作が、言うようになったな!」
リゼヴィムの姿が消え、朱乃の前に現れ、その右腕を振り上げると、アモンが横から貫くように手を突き出した。
右手を突き出し、その手首を掴むが、不可視にさせた上で魔力を纏っているからか、アモンのアマゾンの身体に震えが止まらない。
理性がリゼヴィムと、仮面ライダールシファーとの戦いを拒んでいる/強敵と戦えることに喜びで震えている本能。
背後より飛ぶ朱乃からの援護の魔法、確かにルシファーの身体に当たっているのは間違いないが、あまり効いているようには見られない。
魔力を弄るのが苦手なアモンは手や脚に魔力を纏わせることで拳・蹴りの威力を上げているが、仮面ライダールシファーはそれを意識せずに行なっていることに加え、炎や雷を放ってくる。
朱乃の方にいかないよう、アモンがそれを仁王立ちして受け止めるのだが、その威力は非常に高く、しかも
「アーちゃん!?大丈夫!?」
「感動的だねえ、ゾンビちゃん。そんなにまでして格好付けたいのかい?」
右肩、左肩、右脚、左足と風の刃によって切り刻まれたアモンの皮膚は切り裂かれ、緑色の血が噴きだす。
先ほどの“兄弟達”に遅れを取らないアモンだったが、相手はルシファーの血統である、実力は確かに備えており、ルシファーの血を引いているとは言え、そもそも年季が違った。
大量の血を噴出しながらも、アモンは一歩、また一歩と前に進もうとする。後ろにいる彼女を傷つかせない、殺させない。
自分がどうして力を欲したのか?――大事な人を守るためだ。
自分がどうして力を欲したのか?――そんなことは決まっている。
自分がどうして力を欲したのか?――生まれてきたからには、生きたいじゃないか。
アモンには、三人の父がいる。
一人目、生みの親である
二人目、しかし、戦う術を教えた
三人目、そして、アモンを拾い、アモンに名前を与え、アモンを愛した
「ああ。でも、それでいいじゃないか」
腕から力が抜けても、アモンは仮面ライダールシファーに喰らいつく。やがて、アマゾンの姿のまま、目を見開いて仮面ライダールシファーを睨みつける。
「生きることができるのなら、それ以上に素晴らしいことはない。僕のことを否定すると言うのならば、僕はそれを受け入れてやるよ」
「じゃあ、大人しく吸収される気になったかな?」
口端の血を拭い、変身の為のドライバーを破壊されたことによる影響で上手く姿を維持できなかったからか、人間の姿に戻ってしまう。
すぐにでも振りほどけるほどに力が弱まり、うつ伏せに倒れてしまってもなお、弱弱しく立ち上がろうとする様は生まれたてのコジカのよう。
駆け寄る朱乃が魔力で治療しようとしているが、アモンは息も絶え絶えに踏みつけられているので火球を放つが、威力が落ちてきているので容易に打ち消されてしまった。
「いや、そうじゃないさ。ただ、お前が否定すると言うなら、僕の
アモンは諦めていなかった。
むしろ、仮面ライダールシファーが――リゼヴィムがアモンを否定したことでアモンの中で繋がりが断たれたことが一つの踏ん切りとなった。
「では、お前は要らないな」
無慈悲に振り下ろされる左腕、魔力によって刃を作り出されたこともあり、無数にそれが形成される。
その刃が降り注いだ時、アモンは疲労した身体に鞭打って立ち上がって、朱乃を庇うように覆う。
「離れて、離れてよ!私は大丈夫だから!アーちゃんがボロボロになるよ!?」
「……ッ!」
自分を突き刺す痛みよりも、アモンは朱乃が、彼女が自分の身体から噴きだす緑色の血で濡れることが嫌だった。
変身できなくとも、アマゾンの姿に戻れなくとも、諦めるわけにはいかない。だって、自分は、仮面ライダーである前にアザゼルの息子なのだから――!
「アーちゃん!」
身体に走る痛みは我慢できる、だけど、朱乃には傷ついて欲しくない――!
瞳を閉じまいと抗うも、無理に無理を重ねてきたこともあり、ついにはアモンの身体を限界を迎えようとしていた。
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歩いている。
どこに向かうのか分からないまま、色褪せた世界を歩いている。着ているものはぶかぶか、いつか足に引っかかってこけてしまいそうになる。
「ねえ、次はどこに行きましょうか?」
「朱乃の好きなところで良いよ」
見覚えのあるポニーテールの女性だった、見知らぬ男性と歩いている。彼女はとても楽しそうに談笑しており、彼は自分のように緑色の血を流すことはきっとないのだろう。
立ち止まっていると、二人は手を振ってくれ、それからどこかへと歩きさって行ってしまった。
その後、“自分が守りたかった”人々が幸せそうな様子で歩いていく。その誰もが一瞥もせず、自分の幸せを享受しているようだ。
特に姫島夫妻が幸せにしているのは良いが、アザゼルが優しそうな女性と家庭を築き、子供に笑いかけている様子は微笑ましくもあるも、どこか寂しかった。
「何をしている?」
「……!」
アモンが振り返ると、そこには、ミュージアムで見た仮面ライダーの格好をした男がいる。
どこか、見覚えのあるような街中を一人で進んでいるので違和感を感じる。この場所、アモンがどこに向かうのかは分からないけど、それでも、行かなければならない場所へと向かおうとしているのは分かる。
「どこだろうといいだろ」
「それもそうだな。しかし、お前はそれで良いのか?」
「どういうこと?」
アモンが言い捨てると、仮面ライダー(仮)は肩を竦めた後、アモンと視線を合わせた上で言葉をかける。
「お前はこのまま、起きなくても良いのか」
「朱乃を守れたんだ。それがいちばんだよ」
視線を逸らすと、仮面ライダーから顔面に一撃を受けた。
「……っ」
「そんな風に教えたつもりじゃないがな。だが、お前も持っているはずだ。人間の持つ
「まさか……」
すると、仮面ライダーはマスクを外した。その下の顔を見、アモンは驚愕する。仮面ライダーの正体は――。
「さっさと行け、馬鹿弟子が」
その言葉を最後にアモンの視界はぐるりと反転した。
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「ねえ、起きて。起きてよ、アーちゃん……」
徐々に体温が冷たくなっていく、串刺しになってしまったアモンの身体。そのアモンに抱きしめられていたこともあり、血塗れになりながらも、朱乃は傷を負っていない。
アモンに過保護に接してきたという自覚はあるが、それ以上に過保護なのはアモンだった。
朱乃の父親のバラキエルも過保護な男だが、幼馴染の少年もまた同様に過保護だった。
朱乃はアモンの正体を知らない、リゼヴィムとのやり取りの後にやってきていたから。しかし、アモンとの出会いを後悔していないし、その正体が何であろうともアモンが彼女にとって大切な人であることは変わらない。
だから、死んで欲しくなかった。アモンは彼女とその母の命を守り、断ち切れられてしまいそうだった父親との絆まで守り通したのだから。
「こんなにも、小さかったのね」
アモンは男性としては背が低い方だった。朱乃のまわりの男性の身長が高身長なこともあるが、それでも朱乃より背が低かった。しかし、変身すれば、二メートル近くはありそうな体躯になることもあり、あまり意識していなかったが、改めてみると小さなものだ。
こんな小さな少年によって自分は守られていた。彼は彼女の母を本当の母のように慕っており、拒絶されてしまったことを肌で感じていた。ぎこちない関係になってしまった今でも、朱乃は彼に仲直りして欲しかった。
「さて。その小僧を貰おうかな、お嬢さん。母胎だの何だの言ってたけど、飽きちゃったわ。俺の退屈を満たすまでには
「ふざけないで!アーちゃんを、アモンを渡さないわ!」
見下ろす仮面ライダールシファーの何も映さない、虚空の瞳。その瞳に対し、涙で濡らしながら朱乃が睨み返すと、仮面ライダールシファーは溜息をついた。
「あっそ。じゃあ、あの世で仲良くしてることだ」
再度、ルシファーは無数の剣を魔力で作りだす。デモンズドライバーに魔力を増幅させる効果でもあるのか、先ほどより多い。あれを受けてしまえば原形をとどめるのか怪しいところだが、魔力がない以上は朱乃は何も出来ない。
それに二度と離さないと誓った彼を置いて自分が逃げるわけにはいかなかった。ここから逃げ延びて、助けを呼びにいくことはできるだろう。
だけど、それでは、朱乃が愛した男は、アモンは親しい者に誰にも看取られることがなく一人寂しく死んでしまう――!
「(アーちゃん……)」
朱乃が目を閉じ、
アモンの身体を串刺しにしていた刃がアモンの身体の中へと吸い込まれていき、やがて傷は塞がっていく。
そして、粉々になったはずのアザゼルが作り出したものと
「朱乃を泣かせたな?」
幻聴なのではないかと思う、大切な人の声。
「お前は……!?なぜだ、さっきので死んだんじゃねえのか!?ふは、フハハハハハハ!予想外だ!この展開は。死んだはずなのに蘇った、だと!?まるで、お前は
仮面ライダールシファーの声は喜んでいる。しかし、その声には疑いの色が混ざっている。
ここで、仮面ライダーについて紹介しよう。
そもそも、仮面ライダーとは「出来損ないで組織を裏切った改造人間」である。そして、仮面ライダーとは、敵の力を自分の力とし、守るべきものの為に戦うことを示す。
そして、仮面ライダーの名前を受け継いだアモンは倒すべき敵である
「何が起こったのかなんて分からないよ。僕はアザゼル先生やお前のように頭がいいわけじゃない」
奇しくも、
「アーちゃん……?」
「ただいま、アキ姉。……なんだか分からないが、これが僕の神器らしい」
未だに信じられない、幼馴染の復活。
まさしく、リゼヴィムの言うようにゾンビのそれだ。
神器、と聞いて朱乃も納得がいく。人間、あるいはそれに類する者が持つとされる異能の力。
例えば、能力の倍化、能力の半減、傷を癒すことが出来る等、その種類は多岐にわたる。
そして、アモンはこの土壇場で
「仮面ライダーは……、仮面ライダーは、そんなものは使わない!」
「知ったことか。朱乃を泣かせたことだけは、リゼヴィム」
ドライバーのハンドルを捻ると、音声が流れる。そして、赤い稲妻がアモンに降り注ぐと、雷を帯びた力の気配のする姿へと変貌。
頭部の形もさることながら、その背中からは
「お前だけは絶対に許さない」
優しく朱乃を離し、右足を突き刺すように踏み込み、雷の力を込めた――“ライダーパンチ”が仮面ライダールシファーを襲う―――!