僕は仮面ライダーアマゾン   作:ふくつのこころ

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アーちゃんの字面から連想するアーチャー


戦士、旅立ちⅡ

 手料理と言うのは、ここまで暖かくなれるものなのかとアモンは感じた。朱乃によって連れられた姫島家の食卓と言うのは神の子を見張る者(グリゴリ)でとる食事とはまた違った味わいがあった。何度か朱乃の母、朱璃にはクッキーを貰ったりとしていたアモンだったが、このニホンカオクとやらの建物の中でとる食事はアザゼルの台詞を借りるならば、オモムキがあるという奴だ。

 本日の夕飯は生魚のサシミというやつとそれに添えられた白く千切りされたもの、オスマシとやらとしろごはん、さらにアモンが見たことのない料理が所狭しと並んでいる。箸の使い方はニホンかぶれの堕天使であるというアザゼルからも習っているので使い方には困らなかった。

 

「どう、アーちゃん。おいしい?」

「すごくおいしいよ、しゅりおかあさん」

「アーちゃん、わたしもつくったんだよ!おてつだいだけどね」

「すごいね、あきねえちゃん。さすがだよ」

「えへへ」

 

 今夜はバラキエルもアザゼルも遅れてくると言うことと、アモンがコカビエルとの訓練で腹を減らしているだろうということで先に食べようとなった。アモンが口にしているカリカリにあげられた衣を持つ食べ物は想像以上に気に入り、これが好きなものを得た感情と言うのをまだ実は自覚できていないアモンは周囲から見て分かりやすいほど表情がほほえましかった。

 

 そんなアモンに料理の感想を聞く朱璃、その様子もお誘いにやってきた朱乃の様子と比べてみても大変そっくりであった。朱乃のほうは母にアモンをとられじと自分も料理に関わったのだと主張する。平穏な暖かい時間、何度か姫島家に遊びに来たことのあるアモンだが、ここの雰囲気はアザゼルの元と似ているようで違う気がした。

 

 幸せそうなアモンを見ていると、アザゼル自身も安心できることからバラキエル一家のことを信頼していることもあって、実のところはアザゼルのほうからアモンをたまには夕飯に呼んでやって欲しいと頼んだ裏事情があったりもする。自分が料理できれば、それに越したことはないと思うが、“父親”であるアザゼルが料理をすることと“母親”の朱璃が作るのは意味が違う。

 

「とってもおいしいよ」

 

 アモンは外見相応の子供らしく、嬉しそうに笑いながら感想を述べた。

 

――

 

 某所

 

「……今回の任務を再度確認しよう」

 

 夜、とある場所にて呪術師風の者達が密集して作戦会議を行っていた。目標は家を裏切り、人外の者、それも堕天使と結ばれた一族でも有数の力を持った女性。彼らの名は姫島、朱璃の実家の者たちである。こうして彼らが集まったのは堕天使と結ばれることを良しとしない姫島本家から出奔し、駆け落ちした女がこの町で姫島の名を掲げているそうだ。

 

 姫島の体系である術は神に祈りを捧げ、祈りが届けば、姫島で祀っている神から自らが得意とする系統の術が身体に宿ると言うもの。どのように生計を立てているかは知らないが、この町で姫島神社と言う名前について耳にしたことから神社と言う形で暮らしていると推測する。

 

 更に姫島朱璃には子供がいるようで、おそらくは堕天使との合いの子――雑種である。血統を重んじるとは言わないが、この国に巣食う人外異形のものとの子であれば、彼女が裏切り者である罰として取り上げてやらなくてはならない。目撃された子は二人、片方は黒髪で朱璃によく似た幼い女児、もう一人は黒髪で東洋人だと思われる男児で身体に合わないようなサイズのコートを着ている。

 

 女児のほうはきちんとサイズにあった服を着ているが、男児のほうは奇抜な裏が臙脂色になっているコート。地面を擦りながら走っているのも見られているんだとか。雑種を為したにもかかわらず、どちらか一方を贔屓しているとはまた落ちぶれたものであると彼らは評価を下した。が、やることは変わらない。子を取り上げ、どちらかが一族に対して危険な力を持っているのであれば、連れ去ってから殺せばいいもの。

 

「班を二つに分ける。一つは私と共に正面から行こう。おそらく、そこで姫島朱璃は出てくるはずだ。夜分遅くに向かっても、あの女の性格上、間違いなく出るだろう。おまけに女の夫のカラスは不在だ。暫く帰ってこないと聞く。我々が女の相手をしている間、もう一班は待機していろ、建物内に押し入ったときに庭から入れ」

 

 リーダー格の男の口調はすっかり彼らの仕事である、人に仇を為す者の討伐をするときの口調となんら変わらなかった。彼らにとっては一族を裏切り、己の愛に走ったものは等しく人を食らう妖怪変化の類と変わらぬものなのだろうか。

 

「質問があります」

「なんだ」

 

 班員の中で若い者が一人手を上げた。

 

「子供のほうが反抗し、堕天使の力を見せた場合にはどうすればよろしいでしょうか?忌々しい覚醒ではありますが、そういった雑種の血を含めれば、我々の一族も強力になるのでは」

「なるほど、それも検討しよう。幸い、朱璃の容姿は優れている。もしも、攫うことに成功すれば、あの女児のほうは成長次第、お前にくれてやろう」

 

 閉鎖した繋がりの負の側面。

 その言葉をリーダー格の男から受けた若者は暗い笑みを浮かべた。姫島の家の存亡、そして誇りの為ならばやむなしと若者は思っているだろうが、そこには暗い欲望が見られる。雑種であればなにをしてもいい、それも、美女に成長する見込みがあるならば手篭めとしたい。古式を重んずるところもあるが、今回の作戦に当たって朱璃の写真と子供の写真をつけた資料を配布された際、若者の中で暗いものがうごめいたのである。

 

 このとき、誰も指摘をしなかったのだが、かの男児についての記録は何処にも乗っていなかった。そもそも、存在していなかったのである。が、誰も指摘しなかったことによってコートの少年は立ちはだかることとなるのだ。

 

――

 

「……結局、今日もあの人とアザゼルさんは遅いみたいね。アーちゃんが喜んでくれたし、いいか」

 

 深夜。

 

 食後、デザートのフルーツ白玉をアモンと朱乃が食べているとき、時間が分からなくなるので先にアモンが泊まるのならば寝させて欲しいと連絡が来た。アザゼルとバラキエルは一緒なようで、これから緊急の会議を開くのだと言う。バラキエルはできるだけ家に帰るようにしてくれているので不満はないが、アモンが少しばかり朱璃はかわいそうに思った。

 

 先ほど朱乃とアモンが寝ているのを確認しに行ったが、並んで眠っている様子はまるで本物の姉弟のよう。朱乃がアモンの肩に頭を置き、アモンも眠ったままで朱乃と頭をこつんとくっつけている。起きているときはそこまで感情の起伏がないアモンだが、こうして眠っているのを見ると子供らしい。それに夕飯をあそこまで美味しいと言って食べてくれるのは作り甲斐もある。和風の建築にそぐわないリビングの椅子に座って感傷に浸っていると、何かを引き摺ってくる音がする。その音の正体は衣が床板を擦る音。アモンだろう。

 

「しゅりおかあさん……」

「どうしたの、アーちゃん」

 

 目を擦りながら、やってきたアモンに両手を広げて腕の中に飛び込んでくるようにと示すと、アモンは少し躊躇った後に朱璃の腕の中に入ってきた。

 

「こわい、ゆめをみた」

「どんな夢?私に教えてくれませんか?」

「せんせいもいなくて、あきねえちゃんもいなくて、バラキエルのおじさんも、しゅりおかあさんもいない。こわいコカビエルさんもいない、まっくらなところにずっとひとり。それから、ばしょがかわって、しろいふくをきたひとたちがぼくをかいぶつっていうんだ」

 

 それはアモンの過去だろうか?夫の友人・アザゼルが養子にしたと言う少年。真っ先に名前が出てくる辺り、彼は養父のことを慕っているのだろう。はじめて神の子を見張る者(グリゴリ)の中で誰かを指す二人称で先生と呼ばれたことが嬉しかったらしく、夫にわざわざ連絡をしてきたときは呆れたけれど。

 

 アモンの夢の内容から察するに、アモンは何よりも失うことを恐れているようだ。そして、自分のことを怪物と蔑まれて生きてきたことをトラウマとして抱えてもいる様子。そんなアモンを更に強く、しかし、優しく抱きしめて安心させるようにし、諭す。恐れているならば、それが自分の子も同然に可愛らしい子ならば。

 

「私も、バラキエルも、貴方のことが大好きな私の娘もいなくなりませんわ。もちろん、貴方の()父さんも。だって、みんなみんな貴方のことが好きなんだもの。怖い夢を見たのね、もう大丈夫よ。しばらく、こうしていなさいな」

「うん……」

 

 アモンの目から涙が零れ、朱璃の肩を濡らす。安心させるように語りかけ、それから再度、アモンの後頭部を撫でてやる。安心したような表情のアモン、重さは男の子らしくしっかりとあって、朱乃のほうがもうちょっと軽い気がした。しばらくの間、アモンに朱璃は日常生活でのことを話して聞かせた。朱乃が最近料理を頑張って覚える為に手伝ってくれること、アモンにとっては“よきおじさん”であるバラキエルが大変な変態であること……、流石に先ほどのやり取りからアモンが疑いの目を向けるのではと思ったが、実際はそうではなく、静かに話を聞いていた。そんな真っ直ぐな目を向けられていると、時々、汚らしい自分が映っている気がして目を背けたくなる。

 

 けれど、そうやって目を背けることは彼を裏切ることとなってしまう。温もりを知らない彼が人間を信じ、人間としての感情を得て欲しいというのは子を持つ親としての願いである。

 

「ねえ、アーちゃん」

 

 アモンを朱璃は呼ぶ。

 娘と変わらない、娘と同じ声色で

 

「アーちゃんは朱璃お母さんのことも、朱乃のことも、バラキエルのことも好き?」

「うん、だいすきだよ」

 

 迷わずアモンは答えた。

 アザゼルからの教えではなく、アモン自身がそうしたい、そうやりたいと思ったから。

 

「じゃあ、私を攫ってっていったら攫ってくれる?アーちゃん」

「えっ、でも、しゅりおかあさんは……」

 

 アモンは戸惑った。

 しかし、ここでアザゼルの言葉を思い出す。

 

『人妻に甘えれんのは今のうちだぜ?』

 

「―――っ」

「ふふ、冗談よ。あら、だれか来た見たいですわね。落ち着いたら、早く寝るのよ?」

 

 慌てるアモン、すると、夜遅くのはずがインターホンが鳴った。

 

「はい、こんな遅くに……」

 

 悪戯っぽく朱璃は笑うと、玄関のほうに行った。

 




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