僕は仮面ライダーアマゾン   作:ふくつのこころ

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今回は文字数多めですが、淡々と進みます


戦士、旅立ちⅢ

「久しぶりだな、朱璃」

「貴方、達は……!」

 

 和風の開き戸にある覗き穴越しにみて見ると、そこには意外な人物達が並んでいた。忘れるはずもない、忘れることのない服装の者たち。

 朱璃は目を疑った、何故、姫島の者がここに来ているのかと。彼らは確かにバラキエルと駆け落ちをした際に書置きを残してきたはずだ、金輪際、姫島と関わることをやめると。そして、姫島も朱璃ら家族に関わらないと約束させたはず。

 

 彼らの要求は、堕天使と人間の混血の娘を渡せと言うものだろう。人間以外の者との混血を認めてはいるものの、海外の神仙の類とされる堕天子の妻になることは認めることは出来なかったと考えている。しかし、彼らの言い分の中に違和感を覚えたのは「コートの少年も渡せ」ということだ。

 

 自分とバラキエルの子は後にも先にも娘一人だ。だとすると、彼らはコートの少年――アモンが朱乃にそっくりな雰囲気を纏っていたとでも言いたいのだろうか。これにはアモンとその養父は喜ぶだろう。他でもないアモンの養父は夫と同じ堕天使、それになんだかんだで子供好きなアザゼルのことだ、養子が自分と似ていると言われて喜ばないはずがない。

 

「息子と娘は何処だ、朱璃。子供を差し出せば、お前は見逃してやろう」

「あら、私が子供たちを渡すと思ってますの?あの子達は私の子、私が必ず護って見せます」

 

 予想通りの言葉だった、姫島の者を引きつれ、朱璃が応対している男は歯噛みする。

 

「ほう、よりによって堕天使の子を護ると言うのか?」

「ええ、もちろんですとも。もう既にそちらと縁は切っているはず。なら、どうして今更?今こうやって関わるくらいなら、最初から私を殺すなりすればいいでしょう?」

 

 朱璃は凄んだ。

 朱乃も、アーちゃんと呼ぶ少年も可愛い子供に他ならない。相手が誤解しているなら好都合だ、なんとかここで時間を稼げば夫がやってきてくれる。少し悪い考えだが、夫が彼らを倒してくれれば二度と家に来ることはないと信じて――。

 

「あれ、かあさま?だれかきてるの?」

「娘だ、捕まえろ!」

「あ、朱乃っ!来ちゃ駄目!」

「かあさまぁっ!」

 

 そのとき、目を擦りながら朱乃が起きてくると姫島の者たちは素早く反応する。朱璃は姫島の者の何人かに抑えられてしまう。朱乃に逃げるように手を振ると、慌てて寝ぼけながらも戻っていく朱乃を追いかける姫島の者達。どうか、リビングのほうにいるアモンにだけは気づかれないようにと願うが――。

 

「い、いやだっ!はなしてよぉ!」

「こら、大人しくしろっ!」

 

 子供の体力では大人に敵わないという事実はひっくり返らず、朱乃は姫島の者達の中でも特に力のある男性に手首をつかまれてしまう。彼の手の大きさは朱乃の顔ほどもあり、振り払おうにも振り払えない。強面の男なのだが、それでも恐れずに朱乃は暴れている。

 

「静かにしていろッ!」

 

それが気に入らなかったからか、男が朱乃の右頬を力いっぱい殴ったとき、朱璃は久々に魔力を練り上げているのを感じる。それも無意識に、だ。掌に集中する魔力を球体とし、力任せに飛ばすと、それは娘の顔を殴った男のほうへと命中する。

 

「おい、なにをしてくれんだアバズレがぁ!」

 

 激昂した男は朱乃から離れ、朱璃の服に手をかける。下卑た笑みを浮かべていることから、下種な行いでもするつもりなのだろう。それでも、それでも、自分は、どう呼ばれようとも――。

 

「私は朱乃とあの子の母親。知ってます?この家で一番偉いのは私ですのよ?」

「黙ってろ、いいや、すぐに何も考えさせないでおいてやるからな……!」

 

 そういうと、周囲の朱璃を抑えていたものに目配せをすると、男は朱璃の唇と自分のものを――。

 

「アーちゃんっ!」

 

 朱乃はこれから起こることが何かはわからなかったが、嫌な予感はしていた。

 そして、小さくとも頼もしい彼の名を呼んだ。

 

 そのとき、居間のほうの引き戸が開き、黒いものが飛来すると言うよりも、突っ込んできて朱璃と口付けをかわそうとする男を壁に飛ばす。呆気にとられた白装束に紅い紋の着物の彼らの視線の先には、

 

「アーちゃん、きたんだね……!」

「あきねえちゃん、こんなにさわいでいたら、さすがにぼくもきづくよ」

 

 小さな黒い物体の正体は、アモンだった。床の上に着地し、縋りつく朱乃を見るとたいせつなひとを“きずつける”者達を見据える。見たことのない模様だったが、どことなく、敬愛する養父の服と似ている。そして、視界に捉えた朱乃の腫れている右頬。

 

「駄目よ、アモン!ここに来ては……」

「どうしたかったか分からなかったが、これは得な展開のようだな?朱璃?……こんばんは、坊やとお譲ちゃん。おじさんたちと一緒に来ないかい?そうすれば、おかあさんをいじめるのはやめてあげよう」

「……いけばいいの?」

「ああ、そうすれば大丈夫だ」

 

 朱璃のほうをリーダー格の男が見ると、奥からぞろぞろと同じような格好の者達が集う。今度集まってきたのは目元だけを出している頭巾をしている者達で、リーダー格のものよりも強力な雰囲気を漂わせている。リーダー格の男は朱乃やアモンと同じ視線になるようにしゃがみこみ、猫撫で声で話しかける。これ以上、母親を甚振られるのが見ていられなかった朱乃は不安そうに返す。

 

 しかし、アモンのほうは真っ直ぐに男のほうを見つめている。男のほうはそんなアモンの視線に押されてしまいそうだった。ぶかぶかのコートはおそらく成人男性用、それと子供用の部屋着の着物とちぐはぐな服装である。だというのに、子供らしさを感じないアモンの表情はまるで獲物を見定める狩人であった。

 

「だいじょうぶなんかじゃない」

 

 アモンはリーダー格の男が朱乃の殴られた頬に触れようとすると、振り払う。

 “獣”としての力を、あの異形としての力の片鱗を見せるように叩きつける。その力は骨に響くようで、男は折られたのではないかと錯覚する。

 

「おまえはあきねえちゃんとしゅりおかあさんをいためつけた。せんせいのようにいうなら、“クソッタレ”だ」

「この朱円様に対して何を言ってるんだ、クソがきがぁ!」

 

 強面の男が拳でアモンを殴りつけようとすると、アモンはその勢いを殺すように掌で受け止める。徐々に身体を異形のものへと変化させていきながら。

 

 腕は筋肉が膨れ上がる。

 足は太く強く長くなる。

 身体は大人の男以上に大きくなる。

 頭は竜を思わせるようなものに変わる。

 

「オマエ、キズツケタ」

「やめろ、やめろ、離してくれぇ……!」

「え、アーちゃんが……」

 

 強面の男は二メートル近くはある背丈だが、“獣”の姿へと変わったアモンと比べてみるとあまり変わらない。“獣”は言葉を言うことはできたが、たどたどしく、その口調はまるで最近の学習の成長から退化している。しかし、その目に宿す怒りの炎は禍々しく、彼を見る者、そして姫島朱円をも心底恐怖させるほど。

 

 朱乃の震える様子はその紅い複眼には映らず、目をぎょろぎょろと動かしながら牙を覗かせる。それでこそ勢いよくアモンを殴りつけようとしたが、身体の急激な変化は数秒と掛からず、皮膚を覆うように“獣”へと変身する。

 

「ボクハ、コロス」

 

 掴んだ男の骨を砕き、口元に寄せてバリバリと皮膚を牙で引き裂いて頭蓋骨の表面を食らう。

 

「アケネエ、チャンヲ、シュリオカアサンヲキズツケルヤツヲ」

 

 口の中で咀嚼しながら、その血にまみれたものを吐き出す。血の味は“獣”としてはお気に入りだったが、骨の歯ごたえはあまり好みではなかったようだ。

 

「カナラズダ」

「なんだ、坊や?その姿は」

 

 その鋭い爪で一瞬で白装束越しに切り刻む、人間である彼らが反応できないほどの速さで。肉に噛み付き、くちゃ……くちゃ……と咀嚼する様子はまさに怪物といっていい。ただ、その一瞬の間に制圧して見せたのは“獣”の中にある悪魔の因子が活性化したからだ。

悪魔とは、上位にあればあるほど、その存在は生物と言うよりも魔力が形を持ったものと呼ぶのが相応しい。

 

 実際、上級の女性悪魔にいたっては魔力を用いて若々しい姿を保っているし、男性の悪魔についても余程のことや自分から老けたような容姿になりたいと思わない限り、その姿は変わることは滅多にない。魔力の塊と呼ぶならば、サーゼクス・ルシファーがまずこの例に当てはまると言える。

 

 彼の本気を表した姿は彼が母親から受け継いだ、バアル家の滅びの魔力が人型を為したものとされており、普段の彼の姿は魔力で人型の姿に変換しているといってもいいだろう。元より魔王は悪魔の中でも実力者である超越者と呼ばれる者がほとんどなので、そのレベルになると朝飯前なのだろう。

 

 姫島朱円の言葉も、命乞いも虚しく、“獣”は呪詛を唱える暇も与えずに殺して食った。口に広がる血の味、鉄の風味は心が躍る。自分の心の中の奥のほうで震えている小さな少年は叫び声を上げているが、“獣”にはそれは聞こえない。

 

「アーちゃん、アーちゃんだよね……?」

 

 返り血を浴び、その服を真っ赤に染めた朱乃は朱璃の腕の中に包まれながら“獣”を呼ぶ。獣は応えない、ただ、肉塊となったものを貪っている。朱乃は悲しかった。ひとときの激情、それも、自分が弱かったから可愛い年下の子を護れず、怪物のような姿にしてしまった。

 

 そして、そんな怪物になってしまった彼を恐れてしまっている……。

 

「……」

 

 肉の塊と、血の中で猫背で立ちすくむ怪物と朱乃。怪物は赤い瞳で朱乃を見つめ、朱乃は怪物を見つめる。

 

 怪物の瞳は無機質だった、その目に何も移していない。

 怪物の身体は刺々しかった、まるで触れれば傷つくかのように。

 怪物には可愛い彼の面影は見られなかった、まるで怒りに支配されたように。

 

「ねえ、かあさま?あれは、アーちゃんなのよね?」

「え、ええ。そうね」

 

 ドクン、ドクン……。

 

 終わりは突然訪れる。

 怪物は蒸気を上げてアモンの姿へと戻る。そして、自分が血の中に立ち尽くしていることに気づく。

 

「あきねえちゃん」

「ア、アーちゃんっ!」

「だめよ、朱乃っ!」

 

 人間の姿に戻ったアモン、そんな彼に朱乃は駆け寄ろうとするが、朱璃は無意識のうちに呼び止める。

 

「えっ、かあさま……?」

「ご、ごめんなさいっ!アーちゃん、私……」

 

 アモンは口の中に広がる鉄の味に気づく。

 この味は知っている、かつて悪夢の中で何度も食わされたものと冷たさが似ている。暖かい食事を貰い、たくさん優しくされた後だと特に冷たく感じる。そして、最も不思議に感じられるのは美味しいと思ってしまったこと。人型の形を取った肉片が散らばっていても動じない自分自身、血に塗れた身体と謝るものの距離を離す朱璃は朱乃を抱き寄せている。

 

 口の中にあるのは、肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉、―――人肉だ。

 

「朱璃、朱乃!」

「アモン!大丈夫か!」

 

 遅れてアザゼルとバラキエルがやってくる。

 家の中は“獣”の姿で滅茶苦茶だ、そんな様子すらも歴戦の猛者である彼らは気にするよりもまず大切なものの元へと向かった。アモンの手はヌメヌメと気持ち悪い、その感触は身体についている血と気づくのに時間は掛からない。バラキエルは妻と娘を抱きしめ、その腕の中で二人は泣いていた。

 

 アザゼルは迷わず、アモンを抱きしめるがアモンは彼女たちを怖がらせてしまったこと、そして自分が“獣”を恐れて“獣”と戦わなかったことがなによりも辛かった。つーっと流れる一筋の涙、「たいせつなものをまもれるおとこになる」それが自分がアザゼルとかわした約束ではなかったのか。その約束を交わした自分がだいじなものを泣かせてどうするというのか。

 

「せんせい、ぼくは……」

「話すな。今はこうさせろ、もっと早くに戻るべきだった。これは、オレの責任だ」

 

 じぶんは、むりょくだ。

 すこしでもちからがあるとおもってしまった、おもいこんでいた。

 だから、せんせいやあきねえちゃん、しゅりおかあさんやバラキエルのおじさんがないている。

ぼくは、ばけものだ。

ぼくは、いかりのままにあばれる。

ぼくは、にくをたべておいしいとおもった。

ぼくとおなじすがたをしているにくを。

ぼくは、ばけものだ。

 

ばけもののぼくはにんげんになんてなれるの?

 

――

 

 あれからしばらく時間が経った。

 朱乃は変わらず優しくしてくれるし、バラキエルや朱璃もなにも変わらない。けれど、たまにアモンを見る目が恐怖していると感じることがある。アザゼルも良い成績を残せば褒めてくれるし、前のように厳しく叱ってくれもする。コカビエルは変わらず鍛錬は命がけだ。

 

「先生、話があるんだけど」

「おう、どうした?ちょっとコイツの発明に忙しくてな」

 

 変わらぬアザゼルの部屋、そしてここはアモンの学び舎。

 たくさんのことを学んだ場所で知識の泉。

 成長したアモンはあの時から変わらないコートを羽織り、どことなく作業着のような着物を下に着込んでいる。背中を向ける養父は何かの資料を睨みながら、またよく分からないものを作っている。

 

「俺、旅に出るよ」

「!……あのときのことをまだ気にしているのか?あの話はもう終わったはずだ、お前のことは責めない。そう言ったろう?お前にとっては朱璃は母親と同じようなモンだ、あと朱乃は姉貴も同じ。そいつを傷つけられたんだ、怒るのは正常だ」

 

 振り返るアザゼルはゴーグルをしている。細かいものを見るときにこれを使うのだ、と言っているが何を見るのに使うのかはアモンにとっては謎だった。ゴーグルを外し、座ったまま、アザゼルは持っていた道具を机に置く。

あの日のことが話題に出ると、アザゼルは決まって同じことを言う。“獣”を制御できなかったアモンのことを責めたりしなかった。それも、あの後にあの少女から話を聞いたのだろう。

 

 自分優位に立とうとする傾向があるくせに、そうした優しい一面があることをアモンは知っている。だから、あのときは護ろうと思った。大切にしたいと思ってしまった。あまり、自分からは彼女の家に向かうことはなくなってしまったけれど。

 

「それでもだよ、先生。俺は見て回りたいんだ、色んな世界を。そうしたら、もっと色々分かるかもしれない。先生、約束したよね。俺と色んなところに行こうって」

「ああ、だが……、それは……」

「先生と行く前に俺の目で確かめたいんだ。どんな世界かを、俺自身で」

 

 言いよどむアザゼル、その目を昔と変わらない目で見つめる。あまり、背は伸びなかったので見上げるようにして。

 

「勝手にしろ、馬鹿息子。……持ってけ、役立つだろ」

「そうさせてもらうよ。ありがとう、“先生(とうさん)”」

 

 投げ渡されたソレはアモンが“獣”に変わった姿の意匠があるもの。二つのハンドルのある、ベルト。

 

「それはドライバーっつって、お前の中の奴を制御するのを助けてくれる。アモン、お前は――行っちまったか」

 

 ベルトの説明、その用途とアモンへの言葉を口にしたとき、アモンは姿を消していた。

従順な昔と比べれば、かなりの変化だが。

 

「お前の目で一回見て来い、今も昔もこの世界は広いぞ」

 

 どんな事情があるにしろ、自分から主張する様子は少なくともアザゼルがアモンに与えたい“人間らしさ”だった。

 




アモンの旅立ちは逃げと取れるか、それとも見聞を深めに行くのか……
次回を挟み、悪魔たちと関わって行きます。もしかしたら、タグに変化があるかもしれません
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