やはり俺が遊戯王をやるのは間違っている。   作:ざびー

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原作名を俺ガイルか、遊戯王で迷いましたが、俺ガイルメインなのでこっちにしました。




こうして由比ヶ浜結衣はデュエルすることになった。

 トレーディングカードゲーム(TCG)は悪である。 なぜなら、通常TCGはデッキの他に対戦相手が必要となる。故に友達のいないぼっちは、必然的にTCGで遊ぶことが出来ない。 しかし、「別にTCGやってる友達がいなくてもカードショップでやってる人に一声かければ出来るじゃん」とかつて友達だった奴は言った。 だが待ってほしい。 そもそも見ず知らずの他人に声をかけれるだけの勇気があれば、俺は長年ぼっち生活を営んでいない。 だから、TCGにおいて本当に楽しめるのは、ある程度コミュニケーション能力のある奴だけとなる。そして、そういった輩は大抵リア充だ。

 故に、TCGはリア充御用達の遊びと言える。

 

 だがしかし、物事に例外は付き物だ。 TCGにおいて、例外とは『遊戯王』だろうと俺は思う。 なぜならば、『遊戯王』はデッキ二つとプレイヤー一人さえいれば、簡単にデュエルが楽しめてしまう。 所謂、一人デュエルというやつだ。 無論、『デュエマ』や『ヴァンガード』も試したことがあるが、『遊戯王』に比べ手間がかかる。 それに『遊戯王』はその特徴の一つとも言える展開力を活かし、延々と一人プレイするソリティアと呼ばれる事も出来る。 大型モンスターがフィールドを埋め尽くした時の喜びは筆舌に尽くしがたい。故に『遊戯王』はTCGのゴッド オブ ゴッド。 『遊戯王』こそ、神の遊戯に等しい。 そして、それを一人興じる俺は神に違いない。

 

 だがしかし、そんな神の遊び『遊戯王』にも欠点は存在する。

 時折、一人デュエルやソリティアに興じ、盛り上がっている際中、唐突に賢者モードの如く、心が凪いだ状態が訪れる。 その時の「俺、一人で何やってんだ……」と自己嫌悪に陥り、猛烈に死にたくなる。 いや、ホント。 特に盛り上がってる時に、急に部屋に入ってきた妹が俺に向ける蔑むような視線の攻撃力は、青眼の白竜(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)の滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)並の威力があった。

 

 しかし、どうして俺がガラにもなくリア充御用達の遊び(トレーディングカードゲーム)について考察しているかは、おそよ数分前に遡らなければならない。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 1日の授業を終えた俺は、自販機でマッカンを入手し、自分が所属する奉仕部の部室がある特別棟へとダラダラと向かっていた。長い時間をかけて部室の前にたどり着く。 扉に手をかけ、いざ入ろうとした時、室内から奇妙な声が漏れてきた。 何事だろうと、気味悪く思いながら扉を開ける。

 

 先に二人は来ていたようで雪ノ下雪乃は窓際の席に腰掛け、文庫本に視線を落としており、由比ヶ浜結衣は長机に突っ伏し、小冊子を睨みつけながら唸っていた。 声の正体は由比ヶ浜らしい。

 珍しい光景に立ち尽くしていると、視線を上げた雪ノ下と目があった。 しばしの沈黙の後、雪ノ下が意外そうに目を見開いた。

 

「あら、比企谷君。 ……いたのね」

「……いま来たところだよ」

 

 なにこいつ。 入室早々に存在感のなさを揶揄してきたぞ。 まぁ、間違っていないのだが。

 いまので由比ヶ浜も気がついたのか、突っ伏したままの姿勢で顔だけ上げ、「や、やっはろー」とくたびれた表情で挨拶をした。 なんでこいつこんな仕事に疲れたOLみたいな表情浮かべてんの?

 

 不思議に思いながら、俺がいつもの指定席に座ると同時に由比ヶ浜は体を勢いよく上げると「うあぁぁ〜!ぜんっぜん、わかんないっ!」と喚きながら、小冊子を投げ捨て再び机に突っ伏した。

 ばさばさとページが捲りあげながら足元に飛来してきたそれを拾い上げると派手派手しいイラストの中に、見覚えのある文字を見つけた。

 

「……遊戯王?」

 

 由比ヶ浜が読んでいたのは、構築済みデッキに同封されている簡易版ルールブックだった。

 遊戯王とは、無縁そうな由比ヶ浜がなぜこんな物を、と思っていると顔だけを向けてきた由比ヶ浜と目があった。 疲れ切った表情から一転、闇の中に一筋の希望の光を見つけたかのように表情を輝かせた。

 

「え……もしかして、ヒッキー。 遊戯王やってた?!」

「お、おぅ……まぁ、昔に少しな」

 

 そう言うや否や、由比ヶ浜はバンッと立ち上がり、ダダダッと長机の端から端までを移動すると小冊子を掴んだままの俺の手を両手で包み込み、胸に抱いた。 近い近い近い柔かいいい匂い。

 過剰なスキンシップに顔を引き攣らせていると、大きな瞳をうるうると潤ませた由比ヶ浜が泣きついてきた。

 

「お願い、ヒッキー! 遊戯王教えて!」

「はぁ?!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 理性を総動員させ、無理やりに由比ヶ浜を引き剥がして席へと座らせた。 しかし、雪ノ下の奴、由比ヶ浜に抱きつかれてよく我慢できるな。 俺じゃなければ恋に落ちてた。

 自分の事を棚上げしつつ、話を戻す。

 

「第一、なんでお前があんな友情破壊遊戯なんかやるんだよ」

「いや、どこが友情破壊なのかわかんないんだけど……」

 

 由比ヶ浜に呆れられた表情を浮かべられてしまう。

 ……わかんないか〜、わかんないよなぁ。 だってさ、親友だと思ってた奴が実は悪役で平気で裏切ってくるんですよ?

それより、由比ヶ浜が遊戯王をやる理由のが気になる。

 

「それがさ〜、戸部っち達が最近遊戯王にハマったらしくてさ〜」

「まぁ、それならよくあることだな」

 

 小中学生でやめた奴らが高校生になって周りの友達の影響を受け、復帰するのはよくある話だ。 ついでに、インフレした環境についていけずにすぐやめるか、無理に環境に合わせようとして金欠になるまでが一連の流れだ。

 しかし、同じ内輪の連中が新たな趣味に目覚めようが女子が遊戯王をやるとは思えない。

 

 先ほどより憔悴した表情の由比ヶ浜が続けた。

 

「……それでさ、姫菜が」

「あ〜、察した。 それ以上は言わなくてもいいぞ」

 

 海老名 姫菜。トップカーストに位置しながら、腐女子というかなりなレアキャラな彼女が遊戯王カードを見ながら、ぐ腐腐と腐臭を漂わせながら微笑んでいる光景が目に浮かぶ。 『切り込み隊長』並べてグ腐腐ッとか言ってそう。

 

 だがまぁ、その気持ちは分からなくもない。 むしろ共感できる。 俺も過去、『ブラックマジシャンガール』のカードを見ながらあらぬ妄想を繰り広げたからだ。 BMGこそ、至高。 異論はなかろう?

 

 ハァ〜と重々しくため息を吐く由比ヶ浜を見た雪ノ下が心配そうに声をかけた。

 

「遊戯王、だったかしら? それってそんなに複雑なのかしら」

 

 雪ノ下は読みかけの文庫本にしおりを挟むと由比ヶ浜の側に置かれていたルールブックを手に取り、パラパラと捲り、流し読んだ。 そして、一通り読み終えた彼女はそれを元の位置に戻すと不思議そうに首を傾げた。

 

「どこがそんなに難しいのか、理解できないわ」

「おい、それ。遠回しに由比ヶ浜がアホって言っちゃってんぞ」

「ヒッキーも酷いからねっ!?」

 

 突っ伏した由比ヶ浜にも、ダメージが入ったようで体を起こすと涙目で抗議してくる。 だが雪ノ下はふっと温かみのある表情を浮かべ

 

「失礼ね、由比ヶ浜さんはアホではなく、真正のバカよ」

「うわーん!」

 

 ぽかぽかと雪ノ下の胸元を叩く由比ヶ浜。 それを実に面倒臭さそうに受け止めながら、雪ノ下は短くため息を吐いた。

 

「けれど、実際ルールはそこまで難しくないでしょう? モンスターの召喚や、生贄。 魔法や罠カードの種類やそれがいつ発動できるか。 なにやら特殊な召喚もあるけど大して悩むようなことだとは思えないわ」

 

 理解に苦しむ、と首を振る雪ノ下。

 

「ふっ……」

「何かしら、比企谷君」

 

 雪ノ下の遊戯王の複雑怪奇さを舐めきった発言に思わず笑い声が溢れると、圧倒的な重圧とともにギロリとブリザードの如き冷ややかな視線を向けられた。

 こ、怖えぇ! だ、だけど八幡負けない!

 

 ここは心を鬼にして雪ノ下に遊戯王がいかに複雑であるかを説いておくべきだろう。

 

「雪ノ下、遊戯王がそこに載っているルールだけが全てだと本当に思っているのか?」

「あら、比企谷君にしては強気な発言ね。やっぱり、自分の得意分野だと自信を持つのかしら?」

 

 それ遠回しに、「調子乗ってんじゃねぇぞゴラァ!」って聞こえてくるですが……。

 まぁ、きっと俺の思い違いだろう。 ゴホン、とわざとらしく咳き込むと続ける。

 

「まず、遊戯王のルールやなんやかんやを決めている事務局でも効果が複雑過ぎて裁定が下せない事例が幾つも存在する。 中には、『調整中』や『非公開』と言って逃げることがしばしば……」

「それは……、カードゲームとしてどうなのかしら」

 

 雪ノ下が呆れた表情を浮かべる。

 ……ごもっともである。 そんな質問をする奴らもそうだが、答えられないような効果を、作るKONAMIもKONAMIである。

 

「それにルールがややこしいのはまだあるぞ。 例えばだな、こいつはエクシーズモンスターというのだがな」

 

 ルールブックを開き、エクシーズ召喚について載っているページを開く。 すると、雪ノ下に抱きついていた由比ヶ浜がきらんと瞳を輝かせる。

 

「あっ、この黒いのだよね〜! 黒ってちょっとカッコよくない!」

「ま、まぁそうだな」

 

 こいつ、話題についていけないからって無理矢理話しすり替えようとしに来ているな。

 しかし、確かにカッコいいのは認めよう。 若き頃は「シンクロ召喚! 飛翔せよ、スターダストドラゴン!」とか叫んだものだ。口上はロマンだ。

 童心の頃の思い出を振り返っていると、恐怖の氷の女王に視線だけで、続きを述べろと催促された。怖いゆきのん怖い!

 

「まぁ、話を戻そう。 このエクシーズモンスターはカードも黒く、星の位置も他のカードと比較すると逆だ」

「あっ、ほんとだ!」

 

 気づいてなかったんかい!

 

「エクシーズモンスターは、少々特殊でな。 通常、モンスターは星をレベルとして表すがエクシーズモンスターの場合、レベルはなく星をランクとして表す」

「えぇ、そうみたいね」

「そこで問題だ。 エクシーズモンスターのレベルは幾つでしょうか」

 

 問題を口にした瞬間、速攻で由比ヶ浜がビシィッと挙手をして答えた。 まぁ、結果は目に見えているが。

 

「はいはい! 」

「ん、じゃあ由比ヶ浜」

「レベル0!」

 

 さすがは由比ヶ浜。 空気を読むのに長けているだけあって、お約束を外さない。 後方では、自信満々に答えた由比ヶ浜を見て雪ノ下が呆れていらっしゃる。

 

「正解は、『レベルを持たない』だ」

「うそぉ!」

 

 このルールのおかげで『レベル制限B地区』や『グラヴィティ・バインド ー超重量の網ー』が機能しなくなったのはいい思い出だ。 おかげで俺のロックデッキが……!(涙)

 

「……由比ヶ浜さん、この男はエクシーズモンスターはレベルを持たないと言ったでしょう」

「ええっ!? まさかの引っ掛け!? ヒッキー、ズルい!」

「いや、どこも引っ掛けにはなっていない。 むしろ答えは問題文中にあっただろ」

 

 こいつ、ほんとに文系志望なのかよ。呆れてものも言えずにいると卓の向こうでは由比ヶ浜が雪ノ下にレクチャーを受けていた。

 

 しかし、こうしてみると遊戯王って本当に初心者殺しだと思える。 昔なんか、チェーン処理とかわかんなくて揉めたことがあるぞ。 それに今でも『黒庭ドレッドルート』の処理とかよくわからんし。

 

 視線を由比ヶ浜たちに戻すともう根を上げたのか、由比ヶ浜がだらーっとした姿勢のまま机に突っ伏していた。 そういった姿勢を取られると膨らみが潰されて、むしろ強調されるというかなんというか、視線のやり場に困る。

 

「うーん、どーしよゆきのーん。 みんなにあたしもやるって言っちゃたし〜」

「別にやらずに観戦してればいいじゃない。 あなたのことだからそうするとばかり思っていたのだけれど」

「私、姫菜と組む事になってるし。 優美子だって隼人君と組むとか言って乗り気だし」

 

 うわーんと由比ヶ浜が再び雪ノ下に泣きついた。 しかし、マジかよ女王様までやるのかよ。凄く強そうですねー(小並感)。

「じゃんじゃじゃ〜ん!今明かされた衝撃の真実ぅ〜!」ばりに衝撃を受けていると由比ヶ浜を鬱陶しそうに見ていた雪ノ下と目が合う。 さすがにゲームなどは雪ノ下も管轄外なのか対処に困っているようだ。 仕方がない、ここはひとつ助け舟を出してやらないこともない。

 

「まったく……しかし、またなんであんな友情破壊ゲームなんだよ」

「さぁ、わかんない。 けど、さっきから友情が破壊とかなんなのそれ?」

 

 相変わらず雪ノ下にひっついたまま由比ヶ浜が顔だけを向けてくる。

 よし、狙い通り食いついたか。 ここはひとつ由比ヶ浜に遊戯王の持つ危険性を教えてやろう。

 

「由比ヶ浜、お前遊戯王あるあるって知ってるか?」

「んー、デュエルしたら分かり合える的な?」

「それが本当なら、この世からぼっちがいなくなるぞ」

 

 遊戯王でお友達100人できるかな? まぁ、確かに共通の趣味から仲良くなることはある。だが、ルールをしっかり理解できていないにわか勢がデュエルするとその関係性に亀裂が入る。巨大な建物が蟻の一穴が原因で崩れるようなものだ。

そして、今からその事例を聞かして進ぜよう。

 

「昔、あるところにA君とH君がデュエルをしていました」

「うわっ、なんか急に始まった。あと、キモっ……」

「うるせ、黙って聞いとけ。 あと、一言多い。 彼らは同じクラスで共通の趣味……デュエ友であり、一緒にデュエルする事を約束しました」

「……なんだか、いい話っぽく語っているわね。けれど何故かしら、オチがわかってしまうのは……」

 

 雪ノ下さんは、エスパーですかね?

 二人に微妙な表情を浮かべられながらも続ける。

 

「そして、休日に近くの公園で二人はデュエルをしました。 A君は攻める中、H君は必死に守りました。 主に罠カードなどで展開の起点を潰してく感じで……。 結果、A君はろくに展開できず、最終的に目に薄っすらと涙を浮かべ敗北しました。 その後、H君はデュエルに誘われなくなりましたとさ。終わり」

 

 話終わり、さて二人の反応を伺うとがっつりと引かれていた。 距離が開いたためか心なし寒い。

 

「それって、完全にヒッキーが悪いじゃん!」

「ち、ちげえよ!H君だよ! それにその時のデッキがたまたまそういう勝ち方するのだったんだよ! お、俺は悪くねぇ!悪いのは、カードゲームだ!」

「……最低の責任転嫁ね」

 

 最低認定されてしまった。解せぬ。

 だが、雪ノ下も何か思いついたようで一瞬だけ考える素振りを見せたあと、口を開いた。

 

「この男は屑だけれど、言っている事はあながち間違いではないわね」

「おい、さらっと俺の悪口挟むんじゃあない」

「だって、本当のことでしょう?」

 

 雪ノ下はコテンと首を傾げる。 可愛くて様になっているのが余計にタチが悪い。

 由比ヶ浜は、雪ノ下の言葉の意味がわからないようでくいくいっと袖を引っ張りながら訊ねた。

 

「どういうこと、ゆきのん」

「実力差があるとそれだけで嫉妬や嫉みの原因になるということよ。 例えカードゲームであろうとね」

「ふむ、友達がいない天才少女が言うと説得力があるな」

「ひ、一人はいるもの……。それに友達がいないあなたがよくデュエルを行えたわね。 そもそも、あなたの場合、狡い戦術ばかり使っていたために縁を切られたんじゃないかしら、卑怯谷君?」

 

 先ほどの仕返しとばかりに言うと蚊のなくような声で何かを言った後、十倍返しされた。本当に負けず嫌いだな、こいつ。俺じゃなければ泣いてるところだぞ。

 雪ノ下の負けず嫌いにげんなりとしていると由比ヶ浜が切ない声を上げ、雪ノ下へと抱きついた。

 

「ゆ、ゆきのんにはあたしがいるもん!ゆきのんは友達がいるからっ」

「そ、そうね由比ヶ浜さん。 けど、暑苦しいから離れてくれないかしら」

「あ、あはは……ごめんゆきのん」

 

 頬を薄っすら染めた由比ヶ浜は雪ノ下から離れるとてへっと舌を出して謝った。なに? なんで由比ヶ浜だけじゃなくて雪ノ下さんまで頬を染めてるですかねー。今は百合の花の時期だったかしらん?

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「うーん、これだけじゃやっぱりわかんない」

 

 雪ノ下が焼いてきたのであろうクッキーを頬張りながら、由比ヶ浜がルールブックを睨みつけていた。だが、この調子ではいつまで経ってもルールを覚えることはないだろう。 そもそも、ルールを覚えても実際にやるのとではまた違う。

 そもそも、ルールを覚えてもそのあとにデッキを組む作業が待っている。

 多くの場合、デッキを組む際、一人で完成したばかりのソレを回すだろう。 数多の敵を想定し、弱点を補い、余分を省きながらシュミレートを繰り返していく。 特にやる相手がいないとシュミレートばかりになっていくのがぼっちの特徴だ。だが待って欲しい。 シミュレートを繰り返すことでプレイングは洗練され、より隙のないデッキに仕上がる。 つまり、ぼっち最強ということだ。

 まぁ、結局俺には関係のないことだ。 昔の俺ならデュエルを通してトップカーストの仲間入りだぜ!とあらぬ妄想を抱いて、それに向かって全速前進しただろうが、そんなことはないとわかっている。

 

 あらかじめ買っておいたマッカン(MAXコーヒー)を一息に飲み干す。

 くぅぅ〜、うめぇ〜!これが甘露ってやつか!などと風呂上がりのリーマン的な感想を思い浮かべつつ、空になったマッカンを机に置くとカンっと高い音が響いた。

 音につられた由比ヶ浜と目と目が合った。そして、ウルっと瞳を潤ませた。

 

「うぁん、お願い!ヒッキーでいいから、ルール教えて!」

 

うわぁー教えたくねー

 

だが、ジッと涙目で懇願されてそれを断るほど俺も鬼ではない。

 

「ん〜、まぁ、別に教えてやらんこともないが……それよりも効率のいい方法がある」

「えっ、マジ?」

 

 由比ヶ浜がガバッと体を起こす頭のお団子と胸の肉まんがゆさっと揺れた。

 

「百聞は一見にしかずっていうだろ。 それと同じだ」

「ふぇ?」

 

 由比ヶ浜はコテンと大袈裟に首を傾げた。

 ……こいつ、古事成語もわかんねぇのか。

 俺と同じ事を考えたのか後ろにいる雪ノ下も眉間を押さえていた。

 

「聞いたりするよりも見た方が理解が早いということよ。 つまりルールブックを眺めているよりも実際にやった方が早い、と比企谷君は言いたいんじゃないかしら」

「あぁ〜、なるほど!」

 

 理解したのか由比ヶ浜はポンっと手のひらを打った。さすがはユキペディアさん、俺の言いたいこと全て言ってくれた。ユキペディアに感謝している一方で由比ヶ浜が首を捻った。

 

「えー、けどあたしデッキないけど」

「……あなたよくそれで始めようと思ったわね」

「あ、あはは……男子に貸してもらう予定だったから」

 

 苦笑いを浮かべる由比ヶ浜。 だが甘いな、由比ヶ浜。最近のカードショップ事情を舐めてもらっては困る。

 

「それなら、デッキの貸し出しやってるから。それ使えばいいんじゃね? ……ほら、札王国とか」

「へー、そうなんだ。じゃ、今からやりに行こうよ!」

「えっ?」

「はっ?」

 

 由比ヶ浜の突拍子のない発言に珍しく動揺してしまった。それを好機とみたのか由比ヶ浜は一気にまくし立てていく。

 

「だって、約束しちゃった以上はやらなきゃだし。それに今日短縮授業だったから時間余ってるし!」

 

 ちなみに現時刻は4時前。 特別棟の三階位置するこの部室からは早めに部活を終わらせたのか、サボったのか判断はつかないが、ちらほらと下校する生徒の姿が見える。

 

「だからって今は部活動の時間なのだけれど」

「最近、相談する人来ないし……あっ、そうだ!じゃあ私からの依頼ってことで!」

 

 これだ!と言わんばかりに由比ヶ浜はドヤ顔で言ってのける。一方で、雪ノ下は黙ったままだった。 いつもなら徹底的に論破しにかかるのだが、雪ノ下さんは由比ヶ浜の子犬チックな瞳で懇願され、うぅっと困った表情をしていた。

 そして、由比ヶ浜は最後のダメ押しにパンッと両の手の平を合わせて頭を下げた。

 

「お願い、ゆきのん!」

「うっ……はぁ、まぁいいでしょう。 依頼なら、仕方ないわね」

「やったー! ゆきのん、ありがとー!」

「う、鬱陶しい……」

 

 ついに雪ノ下が折れた。 奉仕部の部長は雪ノ下であり、そこら辺の決定権は彼女に一任されているため、彼女がいいと言えばいいのだ。まぁ、こっちも早く帰れるまたとない機会なので利用させたもらいますかね。

 

 さて、帰って何やろかと思いながら席を立つと由比ヶ浜に呼び止められた。

 

「え、ヒッキー何処いくの?」

「え、なに、俺も行かなきゃダメなの?」

 

 こくんと首肯されてしまった。 マジかよ……、家で冷たいマッカンを飲みながら、一狩り行こうと思っていたのに!

 だがまぁ、カードショップで実戦練習をするようにと提案したのは俺だ。 だけど一つだけ、これだけは聞いておかねばなるまいて。

 

「別にいいけどよ。 いいのか、俺と、そのだな……一緒に居られるとこ見られても」

 

 最後の方はしっかり聞こえたか定かではないが、由比ヶ浜はぷいっと視線を反らし頬を赤く染めると「……別に、いいし」と呟いた。 え、なに。俺なんかした? 女心って分かんねぇー。

 

 微妙な空気になってしまったなか、ハッと我に返った由比ヶ浜が雪ノ下へと視線を向けた。

 

「そうだ! ゆきのんも来るよね!」

「え、私も……?別にカードゲームに興味はないのだけれど」

「ま、まぁいいじゃん。それにヒッキー、一人だと、なんか不安だし」

「ふむ、そうね。 まぁ、その男が何かするだけの勇気を持っているかは定かではないけれど、遊びの末はっちゃけてなんて事態も考えられなくはないわね。 そこの男が変なことをしないように見張り、ということでいいならついて行ってもいいわ」

「ついていく理由がおかしいだろ」

「あら、そうね。やっぱりあなたに何か問題を起こすような勇気はないものね、チキ谷君」

「リスクヘッジと言え、リスクヘッジと」

 

 勝ち誇ったような笑みを浮かべる雪ノ下。

 散々の言われようだが、既に慣れた。 慣れって怖え。社会に出たら、社畜ライフもそのうち慣れちゃんうんだろうな〜。

 急激に目を腐らせていると由比ヶ浜達は既に扉のところに立っており、引いた態度でこちらを見ていた。

 

「うわっ、ヒッキー、キモ……」

「ほら比企谷君。早くしないと腐るわよ。あ、ごめんなさい。目は既に腐っていたわね」

 

 ふっと笑い声を漏らす雪ノ下さん。 何?ノリツッコミ?この人、段々俺への扱いの酷さが増してきてるんですけど。

 しかしまぁ、本当に閉じ込められそうなのでカバンを掴むと急ぎ、教室を出た。

 俺が出た後、鍵を閉めると由比ヶ浜が高らかに宣言した。

 

「よっし、じゃあ札王国へレッツゴー!」

「あっ、そうだ。 俺、家に取ってくるもんあったから二人で先に行っててくれ」

「ヒッキー、ノリ悪っ!?」

 

 出鼻を挫かれた由比ヶ浜が抗議の声を上げた。悔しいでしょうねぇ!

 





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