やはり俺が遊戯王をやるのは間違っている。   作:ざびー

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やはり比企谷八幡は腐ってる。

 学校で由比ヶ浜達と一度別れ、帰途に就いた。

 

「ただいまー」

 

 声をかけ、階段をのぼっていく。リビングの扉を開けるとソファに寝そべっていたカマクラがにゃーと出迎えてくれた。珍しく殊勝な態度だが、それよりもマッカンである。すまんなカマクラ。

 

「おお、カマクラか。っと、それよりマッカンマッカン」

 

 カバンをそこら辺に転がすと早速冷蔵庫に向かい、キンキンに冷やされたマッカン(MAXコーヒー)を取り出す。 自転車を漕いで火照った体にこのアイスマッカンは最適と言える。 ついでにエネルギー補充もできるあたりMAXコーヒーの有能さが伺える。

 タブを引くとプシュといい音が鳴り、マッカンの芳醇な甘い香りが鼻腔を擽る。 思いの外、マッカンの缶が冷え過ぎて手の感覚がなくなってきたので、ささっと飲んでしまおう。

 ぐぐっと一気に呷ると練乳のもったりとした甘さが口一杯に広がり、喉を冷たくも甘い液体が下っていく感覚が筆舌に尽くしがたい。 ちなみにこの冷MAXコーヒーは、カキ氷のシロップ代わりにも使える優れものだ。

 

 缶を傾け、残りを全てを一気に飲み干すと冷気が体をかけめぐり、ぶるりと震えた。 体にエネルギーを満ちる満ちる!

 空になった缶を勢いよく上に掲げ叫んだ。

 

「ファイトイッパーーツ!」

「……何やってんのさ、ごみいちゃん」

 

 後ろには私服姿の小町がまるで生ゴミを見るかのような目つきで俺を見ていた。沈黙が辛い。

 

 突き上げた腕を戻すと小町へと向き直り極めて平静を装った声で話しかけた。

 

「……なんだ小町いたのか」

「居たよ。 お兄ちゃんが帰ってくるよりも前に」

 

 声が震えてなかっただろうか?

 それよりも小町の態度が冷たい! おかげで体は冷えたけど、代わりに変な汗かいちゃったんだけど。

 

「あ、そうだ小町。お兄ちゃん、これから出かけるから留守番頼んだぞ」

「ん、りよーかい。 けど、お兄ちゃんが用事なんて珍しいねー」

「まぁな。 ちょっと由比ヶ浜達と札王国に行くことになったんだわ」

「ふーん……ん? おやおや、これはもしかして?」

 

 キラーんと瞳を妖しく輝かせた小町はぬふふと笑みを浮かべた。やだ、どうしよう。うちの妹がおかしいわ。温暖化のせいかしら?

 

「お兄ちゃん、頑張ってねー」と小町の謎エールを受け、俺はリビングを後にした。 自室に入るとクローゼットの奥から、透明なプラスチックの収納ケースを引っ張り出す。 これぞ、比企谷八幡の過去の聖遺物が収まったボックス。 開けると同時に俺の黒歴史を強制的に刺激するという危険物である。 題して、黒歴史ボックス〜!英名はブラックヒストリーボックスだ。略してブラックボックス。

 

 カパリと蓋を外し、中身を確認するとお目当のブツは直ぐに見つかった。 直方体の箱を取り出すと中にスリーブに覆われたカードがあることを確認する。

 

 デッキケースや他に必要そうな物をカバンの中にポイポイと入れて準備完了。由比ヶ浜達が待つ札王国へと向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 急ぎチャリを漕ぎ、十数分かけて札王国に辿り着くと既に由比ヶ浜や雪ノ下たちは着いており、 自転車をチャリ置き場に停めて、向かうとむすっと頬を膨らませた由比ヶ浜が待ち構えていた。

 

「遅いし」

「悪い。 てか、さきに中に入っててもらっても構わなかったんだが」

「いや……さすがにちょっと恥ずかしいし」

 

 頬を染め、人差し指を胸の前でちょんちょんする由比ヶ浜の珍しく恥ずかしそうな態度にいつもとは違った印象を受けた。こいつ、喋らなければ可愛げがあるのにな。

 

「さて、比企谷君もきたことだし早速中に入りましょうか」

「うん!よーし、やるぞ〜」

「なんでお前はそんなにテンションが高えんだよ」

 

 ペラペラと特に中身のない会話を交わしつつ、札王国の店内へと入っていった。

 店内は冷房がよく効いておりひんやりと涼しく、聞き覚えのあるアニソンが流れて活気があった。店内は広く、しきりの代わりにカードが納められたショーケースが並んでいる。平日とだけあって店内に客は俺らの他にほとんどいない。 これなら、変な噂が広まる心配はないだろう。

 

 さて、デュエルスペースはどこだろうか、と案内表示を探しているとキョロキョロと不安そうに店内を見回していた雪ノ下と目があった。

 

「ところで、どこでその……デュエルをするのかしら? 思ったより広くて、迷いそうね」

「あぁ、専用スペースがあってだな……お、こっちだ」

 

 雪ノ下が方向オンチなのは、健在らしく初っ端から不安になるような発言をかましてくれる。 迷子には……、さすがにならないとは思うがどっか行かれても困るので早々に二人をエスコートする。

 一つのテーブルに荷物を置き、場所を確保するとお次は念願のデッキ選択だ。

 由比ヶ浜はデッキが並べられた棚を前にして、体を屈ませながら選んでいるので、肉まんが潰れて美味しそう……じゃなくて目に毒なので早めに決めて頂きたい。 こういうときは清楚可憐で安心安全な雪ノ下さんに頼らざるを得ない。

 そうこうしているうちに由比ヶ浜も決まったらしく、名前を呼ばれそちらを向くと彼女がデッキを差し出してきた。

 

「あ、ヒッキーこれにする!」

「ん、わかった……ってこれかよ」

 

 由比ヶ浜が選んだのは、ストラクチャーデッキ『青眼龍轟臨』のサンプルデッキだった。三つ買って合わせればそれなりにマトモなデッキになる、でお馴染み三千円デッキのうちの一つだった。 しかし、なんでこいつこんなに殺意の高いデッキをチョイスしたんだ。まぁ、なんとなく想像はつくが……。

 

「一応聞くがなんでこれにしたんだ?」

「んー、 だってブルーアイズってかっこいいじゃん!」

「やっぱりか……」

 

 うん、青眼カッコイイよな。

 まぁ、青眼のストラクには特殊な効果処理はなかったと思うから初心者向きか。 戦術も乙女で呼んで、青眼で殴るシンプルなビートダウンだし。

 

「これ、お願いします」

「はいよ……どうぞ」

「……どうも」

 

 一人納得すると由比ヶ浜から受け取ったデッキをレジへと持って行き、貸し出しの手続きを行う。 その間、バイトと思われる男性に凄い白い目で見られたが、おそらく「女の子とこんな場所に来てんじゃねぇよ!ああん?自慢かゴラァ!」などと言ったところだろうか。

 だが、残念だったな。こんなところでバイトをしている自分を恨むがいい。 やはり妬みや嫉妬に駆られることのない主夫こそ至高だ。

 

 手続きを済ませ、テーブルへと戻ると既に由比ヶ浜達は着席して待っていた。

 

「ヒッキー、遅いし」

「手続きがあんだよ」

 

 由比ヶ浜にデッキを渡しつつ、自分も席に着くとくいくいと由比ヶ浜に袖を引かれ、こっそりと先ほどの店員を指差しながら耳元で囁かれた。

 

「なんか、あの人ずっと睨んできてるだけど……」

「どうせ、男女のペアに嫉妬しているだけだろ。 よくあることだ」

「そ、そうかな?」

「そうね。 それにこの男なら変な気を起こす心配もないから安心ね。その点においては信頼できるわね」

「そんな信頼はいらねぇ」

 

 微笑みを湛えて雪ノ下が言う。

 

「まぁいい。 さて、やるか」

「おー!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 途中、由比ヶ浜に対して思春期真っ只中の男子に対するスキンシップの取り方を小一時間ほど説きたくなることが何度かあったが、およそ二十分ほどかけて、ルールの説明からデッキの動かし方を説明し終えた。 俺がげんなりと憔悴しきっているのに対し、由比ヶ浜はやけに艶々としており、相変わらず元気いっぱいだった。

 

「……まさか、由比ヶ浜に教えることがここまで疲れることだったとは」

「なんか言い方がムカつく!?」

 

 普段なら小町相手に教え慣れているとはいえ、まさかここまで疲れるとは。 小町もたいがいアホだが、由比ヶ浜はあいつを超えるアホなのだろう。

 

「さて、じゃあ一応ルール覚えたし!ヒッキー、デュエルしようよ!」

「なぜだろうか……急にやる気がなくなったぞ」

 

 疲労のせいかいつもより目を腐らせていると肩に手を置かれ、雪ノ下に同情の眼差しを向けられた。 こいつも案外苦労してんだな。

 

 机の向かい側では由比ヶ浜が座りスタンバッている。さて、俺も準備をしますかね。 カバンの中からマイデッキを取り出し、軽くシャッフルし、卓上に置く。

 先ほどの苦労分を上乗せしてついでに利子もオマケして、存分に仕返しして(いじめて)やろう。

 

「よしっ、準備オーケーだ由比ヶ浜。始めるぞ!」

「ふふん、ヒッキーになんか負けないもんね!」

 

 勝気な笑みを浮かべる由比ヶ浜。 ほぉ、早速言ってくれるじゃあありませんか。これはもう手加減する必要はありませんなぁ。

 

「「最初はグー! ジャンケンっ!」」

 

 一拍おいて、同時に拳が突き出される。

 

「「ポンッ!」」

 

 由比ヶ浜の手は、固く握られた『グー』。対する俺は、柔らかく包み込むような、なんだかとても包容力のありそうな『パー』。

 

「うぐっ……ヒッキーなんかに負けた……」

「そのなんかに負けたお前は、俺以下になるな」

 

「負けない!」と息巻いていた由比ヶ浜はジャンケンに敗北しがっくりと肩を落とす。まぁ、これも仕方あるまい。 この勝敗は、今までのぼっち生活で養われた「人間観察」による恩恵のおかげである。 例えば、由比ヶ浜は手を出す前に握り方を変えるだとかそんな感じな些細な事に気付いてしまう。 つまり、ぼっちになるとジャンケンに勝てるということだ。 まぁ、その前にジャンケンする相手がいないのだが。

 

「じゃあ、俺の先行な」

「ん、わかった」

 

 順番を決定し、最後に電卓に『80008000』と打ち込めば準備完了。 ようやくデュエルの開始である。

 磯野、デュエル開始の宣言をしろぉ! デュエル、開始ぃぃ!

 

 [比企谷八幡]LP8000

 [由比ヶ浜結衣]LP8000

 

「俺の先行、ドローは……できねぇんだよな。 モンスターを伏せて、カードを3枚セット。 ターンエンドだ」

 

「よし、あたしの番だね!ドロー!え〜と、え〜と……」

 

 由比ヶ浜が6枚になった手札を睨みつけながら、悩んでいる。 まぁ、初めてなのだから長考くらい大目に見てやろう。

 ちなみに二戦目からは、指をトントンしてプレッシャーをかける。 あれはイラつくし、かなりビビる。ソースは俺。 大人の人とやった時に高速指タップされて、思わず泣きそうになりながら、デュエルしたのは忘れられない。

 思い出にふけっていると、やる事が決まったのかうしっと由比ヶ浜が小さく意気込んだ。

 

「よし! 手札から〈調和の宝札〉を使って、〈伝説の白石(レジェンド オブ ホワイト)〉を捨てて、二枚ドロー! んで、〈白石〉の効果で〈青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)〉を手札に加えるね」

「お、いい感じに回せてるな」

 

 褒められると由比ヶ浜は嬉しそうにはにかんだ。

 しかし、白石の発動条件緩すぎやしませんかねぇ?サーチ&ドローを繰り返していつの間にか封印されし者の封印が解けてるとか頭おかしい。

 二枚ドローをし、お目当のカードが来たのか由比ヶ浜が勝気な笑みを浮かべた。

 

「いくよヒッキー! 手札から〈青き眼の乙女〉を召喚だー!」

 

 デデドン! と卓上に叩きつけるように繰り出されたのはキサラ……ではなく、〈青き眼の乙女〉。 攻撃・効果対象に取られるだけで〈青眼〉を呼ぶ優れものである。 おまけに可愛い。

 

「手札の〈ワンダーワンド〉を発動!んで、〈青き眼の乙女〉の効果がーー」

「残念だがそうはいかねぇぞ、由比ヶ浜。 リバースカード〈デモンズ・チェーン〉を〈乙女〉を対象に発動だ。 これで〈乙女〉の効果は無効になる」

「げっ!?」

 

 俺の盤石な布陣から繰り出された一枚の罠カードが由比ヶ浜の行動を封じる。 効果を封じられた由比ヶ浜は、およそ乙女が出してはいけないような声を発して、驚いた。

 

 しかし、あれだ。 乙女にデモチェとかアレだな。なんかエロい。 きっとソリッドビジョンやARビジョンがあったら鎖にぐるぐる巻きにされて、「やめなさい! 今すぐ解けば許してあげます!」とか顔を赤く染めながら言う乙女の姿が見れるんだろうか? ソリッドなブックが厚くなりそうです。こう考えると遊戯王ってすげー。

 遊戯王の偉大さについて考察していると由比ヶ浜に睨まれていた。

 

「ヒッキー、卑怯!」

「悪いな、これが現実の厳しさだ」

「なんだろ、凄く間違ってる気がするのに正しい気もする……」

 

 うっ……と由比ヶ浜が急に頭を押さえ始める。何かトラウマを刺激してしまったのだろうか?

 それにしても早く進めてくれませんかね?

 

「で、由比ヶ浜。どうするんだ?」

「えっ、あー……カードを伏せてターンエン」

 

 一瞬だけ悩む素振りを見せた由比ヶ浜は、バックカードを伏せターンを終えようとする。 しかし、そこに鋭い声が割り込んできた。

 

「待ちなさい、由比ヶ浜さん!」

「え? ゆきのん?!」

 

 由比ヶ浜の隣で観戦していた雪ノ下だ。驚く由比ヶ浜をよそに彼女は淡々と指示を出していく。

 

「由比ヶ浜さん、〈ワンダー・ワンド〉の効果でドローしておきなさい」

「え、でもフィールドガラ空きになっちゃうじゃん」

 

 もっともである。 そう考えるのも間違ってはいない。

 

「たかだか攻撃力500くらいノーガードでいるのと変わらないし、効果を封じられているのだからわざわざフィールドに残す意味がないわ。 それに手札を増やす機会を逃す方がこの場合では悪手よ」

 

「そうでしょ、比企谷君?」と雪ノ下は最後に付け加えた。

 ごもっともである。 遊戯王においてまず優先すべきは手札。これがなければ何もできない。その次に墓地。 最近は、墓地に送られただけで、アドを稼ぐやつがいるからな……そして、最後にライフである。 これは最終的にライフ1ポイントでも残っていれば、勝てるのでどれだけすり減らそうがあまり関係ない。

 普通、初心者はライフを減らさず、フィールドにモンスターを残そうとする。

 しかし、由比ヶ浜同様まるっきりの遊戯王初心者である雪ノ下がこのことに気づいたのか、と感心の視線を送ると雪ノ下はふっと口元に小さく笑みを浮かべた。

 

「おおかた、相手を焦らせてミスを誘おうとしたのでしょうが……そううまくいくとは思わないことね、比企谷君」

「さて、なんのことだろうな」

 

 雪ノ下の追求の眼差しから逃れるためにふっと視線を逸らす。

 ば、バレてたか〜。 くそぅ、このユキトラルさんめ!

 

「うわっ、ヒッキー……ずるっ。やる事が一々狡い……あと、キモっ」

「戦術と言え、戦術と。カードゲームにおいて心理戦は基本だ。引っかかるやつが悪い。あとキモいのは余計だ」

 

 由比ヶ浜の余計な一言が俺の心に〈火の粉〉並のダメージを与える。 いくら言われ慣れてるとはいえ傷つくからね?

 

「まぁいいや。 カードをもう一枚伏せてエンドだよ」

「じゃあ、〈サイクロン〉。 あとに伏せカードを破壊な。 あと伏せたターンは発動できねえからな」

「うげっ……」

 

 これこそ発動までのラグにつけ込み、相手のバックカードを一方的に破壊する戦術〈エンドサイク〉。破壊されたのは〈リビングデットの呼び声〉。まぁ、〈乙女〉とか墓地に送られた〈青眼〉の復活を阻止できたから〈 サイクロン〉は十二分に役割を果たしたと言えるだろう。

 

 いまだ悔しそうな表情の由比ヶ浜をよそに俺は自分のターンを開始する。

 

「ドロー、っと。 まずは裏守備表示の〈デスラクーダ〉を反転召喚させるぞ。 こいつは反転召喚時に一枚ドローできる効果を持っている。 よってデッキから一枚引く」

「あら、比企谷君みたいなカードね。 主に目とか」

「まぁな……アンデット族だし。腐っててもおかしくはないな」

「そうね。 じゃあ、比企谷君はきっとアンデットね」

「それもう俺のこと生きる屍って言っちゃってるからな?」

「あら、そうでもないわよ。目以外は」

「その倒置法で俺の目の腐り具合を強調するのはいらねえから、もう痛いほど知ってるから」

「ストップ、ストーープッ!」

 

 雪ノ下との言葉による応酬(主に俺がボコられていたが……)は、由比ヶ浜レフリーにより止められた。

 向こう側では完全勝利と言わんばかり雪ノ下が勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 

「もう、ヒッキー達すぐに喧嘩するだから」

 

 ぷんすかとなぜかご立腹の由比ヶ浜。

 だがな、由比ヶ浜。お前のその言葉間違っているぞ。

 

「由比ヶ浜、喧嘩とはそれなりに親しい者同士が行うことだ。 よって友達ではない俺と雪ノ下は、喧嘩はしていないことになる」

「否定するところはそこなのっ?!」

「まぁ、そうね。私と比企谷君はお友達ではないもの」

「ゆきのんも?!てか、そーゆーことじゃないし!ヒッキーも早く進めて!」

 

 いちいちツッコミで慌しい由比ヶ浜は、キッと鋭くした視線を俺へと向けるとターンを進めるように促した。 だが甘いな。由比ヶ浜、日々雪ノ下に冷凍ビームの如き冷ややかな視線を向けられている俺にそのくらい痛くも痒くもない。おっと話がよくズレるな。まぁいい。進めよう。

 

「〈デスラクーダ〉は1ターンに一度、自らを裏守備表示にできる。 さらにモンスターを伏せ、カードを一枚セット。ターンエンドだ」

 

 相変わらず俺の手札は一枚だが、布陣は先とあまり変わりない。 一方の由比ヶ浜は攻撃されなかったことに安堵したようでホッと息を吐いていた。

 

「あ、攻撃してこないんだ。じゃあ、あたしのターンドロー!来たっ!〈正義の味方 カイバーマン〉を召喚!」

「出たな、社長……!」

 

 由比ヶ浜がドヤ顔で召喚したのは、正義の味方☆カイバーマン! その効果は手札から嫁を召喚し、相手を粉砕玉砕大喝采するのだ。 どんだけ、青眼が好きなんだよ社長ェ

 

「〈カイバーマン〉を墓地に送って手札から、〈青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)〉を特殊召喚!」

 

 清廉潔白、何者も寄せ付けない純白のフォルムに、視線だけで下級モンスターくらい余裕で殺せそうな威光を放つふつくしいドラゴン。 例えるなら、雪ノ下雪乃。

 

 エースを召喚しドヤ顔の由比ヶ浜に悪いがそれを通すわけにはいかない。 なので登場早々に退場して頂こうか。

 

「罠カード〈奈落の落とし穴〉だ。 消えろ、青眼。 悪く思うなよ、由比ヶ浜」

「んなっ!?」

 

 青眼を奈落にシューーート! 超☆エキサイティング!

 ちなみに墓地ではなく、除外なためそう易々と蘇生されることはない。

 そして、なぜか雪ノ下さんに凄い勢いで睨まれていた。まさか、青眼を雪ノ下に見立てて奈落に落として悦に浸っていたのがばれたか!?

 

「……さすがは比企谷君ね。 はなから戦う気がゼロね」

「それはむしろ褒め言葉だ雪ノ下。命がかかってるデュエルに正々堂々と戦う必要はないだろ」

「いつ、デスゲームになったし……」

 

 なぜか、由比ヶ浜に呆れられた。 しかし、由比ヶ浜は召喚権を行使したため、これ以上なんか出てくることはないだろう。

 

「ぬー、なんもできない!なんか、A君の気持ちがすごくわかった気がする」

「なにを。これくらい序の口だぞ。 ガチなロックデッキだと効果すら使わせてもらえないんだぞ!」

「なんか逆ギレされたし……ヒッキーキモいし」

 

「何もしなくていいんだぞ」と言わんばかりに効果を封じてくるゼアルは多分、悪である。あと一言余計だ。

 

「はぁ〜……ターンエンド」

「何も伏せずか、まぁいいだろう」

 

 ライフもあり、それほど手札に余裕があるわけではないから手札温存も妥当な選択だろう。

 

「じゃあ、俺のターンだな。ドロー。〈デスラクーダ〉を反転召喚し、一枚ドロー。永続魔法〈波動キャノン〉を発動するぞ。 こいつは俺のスタンバイフェイズごとにカウンターが置かれる。 そして、カウンターの乗ったこのカードを墓地に送ることでカウンターの数かける1000のダメージを与える」

「けど、それだと勝つためには16ターンかかるわよ。まさかそんなダラダラとやるつもり?」

「は、まさか……」

 

 そこまで俺が甘いわけなかろう。

 

「さらにもう一体の裏守備モンスター〈ステルスバード〉を反転召喚だ!そして、この時相手に1000ポイントのダメージを与える」

 

 灼熱の翼で死の抱擁をうけなぁ!!

 これがデスゲームなら、風が由比ヶ浜の制服を切り裂き、白磁のような肌が露わになり、世の男子たちの劣情を煽っていただろう。あれ? 遊戯王ってそんなアニメだっけ?

 どうでもいいことを考えつつ、タタタンッと慣れた手つきで電卓に数字を打ち込み、由比ヶ浜側の数字が減る。

 

 [由比ヶ浜結衣]LP8000→7000

 

「さらに〈ステルスバード〉は〈デスラクーダ〉同様に裏守備表示にできる。二体を裏守備にするぞ」

 

 攻撃というリスクを廃し、着実にダメージを与える。これぞ、〈引きこもりの陣〉だ! またの名を〈サイクルリバース〉という。戦わずして勝つとか、きっと俺には大軍師の素質があるに違いない。

 

「うわっ、まさかの効果ダメージオンリー?!」

「攻撃をせずに、相手にコソコソとライフを削る。比企谷君らしい狡くて卑屈で陰湿な戦術ね。とってもあなたらしいわ」

「超いい笑顔で言ってんじゃねぇ。 勝てばいいんだよ、勝てば」

 

 由比ヶ浜にドン引きされ、雪ノ下に笑顔で褒められた?

 

「カードを一枚伏せてエンドだ」

「く、負けない!あたしのターンドロー!〈竜の霊廟〉を発動!〈ブルーアイズと〈伝説の白石〉を墓地に送って、〈ブルーアイズ〉を手札に加える! そんで、伏せてた〈銀龍の轟哮〉発動!墓地から〈ブルーアイズ〉を召喚だー!」

「妨害はないな」

 

 よしっと嬉しそうに意気込む由比ヶ浜。

 俺の妨害戦術のおかげで6ターン目にしてようやく召喚された青眼はとてもカッコよく思える。

 エースモンスターを召喚して調子を取り戻した由比ヶ浜は流れをそのままにバトルフェイズに入った。

 

「よし、じゃあバトルだ!〈青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)〉で〈ステルスバード〉のほうに攻撃!」

「無駄だ、罠カード〈くず鉄のかかし〉。攻撃を無効にし、再びこのカードをセットする」

 

 青眼によって放たれた極太のレーザーをかかし先生がボロボロになりながらも防ぐ姿を幻視する。かかし先生ぇ〜!(涙)

 しかし、ぼっちの妄想力は凄い。どのくらい凄いと言うと、アニメのソリッドビジョンが頭の中で再現できるほどに凄い。 即ち、ぼっちになると遊戯王が100倍楽しくなるのだ。

 ……あれ、雪ノ下さんの背後に阿修羅が見える。幻覚かしら?

 

「うぐぐぐ! ヒッキー、マジヒッキー!」

 

 ついに動詞化されちゃったぜ。 これはヒッキーブーム到来ですかね? 俺マジ時代の寵児(ちょうじ)。 流行語大賞も夢じゃない。

 

 由比ヶ浜は、やはりできることがないようでがっくりと項垂れながらターンエンドしてしまう。 手札事故だろうか? 運命力が足りませんねぇ、その場合は光の結社に入団することをお勧めしますよ。

 

「俺のターン、ドロー。 スタンバイフェイズに〈波動キャノン〉に波動カウンターを一つ置く」

 

 残念ながら、カウンターは用意していないので余っているカードを〈波動キャノン〉の下に重ねる。

 

「メインフェイズに入る。 ってもやることは変わらんのだがな。〈デスラクーダ〉を反転召喚し、ドロー。〈ステルスバード〉を反転召喚して、1000ポイントのダメージだ」

 

 苦痛にもがけ……あがけ! その度に全身に快感が走るぜぇ、うへぁぁ! と悪役っぽい台詞を思い浮かべてみる。

 うん、ないな。俺がやるなら、こんな分かりやすい悪役ではなく、頭の残念なボスを裏で操る黒幕的なポジショニングだろう。 俺はカメックババかよ!

 

 [由比ヶ浜結衣]LP7000→6000

 

 一方的にダメージを受け続けている由比ヶ浜は、バシバシと机を叩きながら抗議してくる。

 

「マジヒッキー、卑怯だし! 攻撃してこいし!」

「いや、青眼いるから無理だろ。 それにこれも立派な戦術だ」

「まぁ、一応これも戦術の一つなのよね。 あまり褒められる部類ではないのだけれど。こればっかりは由比ヶ浜さんが考えて打開するしかないわね」

「ゆきのん?!」

 

 さすがのユキトラルさんも、現状の打破は難しいらしい。

 この手のデッキは、一度布陣を整えてしまうとかなり安定する。加えて相手の展開も阻止するので一方的な蹂躙になりやすい。 もっとも初手が悪ければ、何もできずに蹂躙されるのだが。 今回はわりとうまくいっているな。

 

「カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 さらにバックカードが一枚増えたことで俺の布陣はより強固なものとなる。

 ふはは、我が軍は圧倒的ではないかね!!

 

 しかし、ここまでネチネチとやってきて由比ヶ浜がキレださない辺りかなりメンタルが強いらしい。 それもトップカーストでやっていくために必要なのだろうか?

 

「ぐぬぬ、ヒッキーまじ許さんし……ドロー!」

 

 由比ヶ浜はかなりデュエルに入れ込んでいるらしくアニメみたく叫びながらデッキトップのカードを引くと、頭のお団子がふさっと揺れ、お胸の肉まんがゆさっと揺れた。

 そして、今引いたカードを確認した由比ヶ浜は、一瞬目を見開きついで勝利を確信した笑みを浮かべた。

 

 笑みを浮かべたガマハさんが指の間に挟まれたカードを反転し、そのイラストを俺へと見せつける。 それを見て俺は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

 

「な、お前……それは!」

「ふっふっふっ。 そう!〈ハーピィの羽箒〉!これでヒッキーの魔法・罠を一掃できる!」

 

 マジかよ、こいつ引きやがった……!!

 

 まるでアニメのような一発逆転の引きに俺もユキトラルさんも由比ヶ浜の引きに驚きを隠せずに目を見開き、逆転の一枚(ハーピィの羽箒)を凝視していた。

 

「あなた……よく引けたわね」

「ふっふ〜ん!これも日ごろの行いが良かったからだね!」

「そうだな。 これでお前は一生の運を使い果たしのか……」

「言い方が嬉しくない?! けど、これでヒッキーに勝つる!」

 

 相変わらずツッコミに忙しい奴だが、本当に楽しそうに笑みを浮かべている。 ガマハに教えるのは大変な労力を要したがまぁ、この笑顔を見れただけでもよかったとするか。

 

 一人感傷にふけっていると由比ヶ浜が件のカードをフィールドへと置き、発動させた。

 

「〈ハーピィの羽箒〉発動だー!」

「よかったな由比ヶ浜」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて由比ヶ浜がこちらを見据える。

 あぁ、本当に良かったな。最高だ。感激だ。感動的な逆転だ。

 

「由比ヶ浜、お前に遊戯王あるあるを教えてやろう」

「ふぇ?」

「遊戯王において、効果の説明は負けフラグだ!」

 

 だ、が、な、由比ヶ浜。お前は俺を見くびり過ぎていた!!

 

「けど、これであたしの勝ち」

「そ れ は ど う か な !!」

「なにっ!」

 

 由比ヶ浜の表情が曇ったのを確認し、俺は伏せカードを表にした。

 

「手札を一枚捨て、リバースカード〈アヌビスの裁き〉発動する。 このカードは相手がコントロールする『魔法・罠カードを破壊する』効果をもつ魔法カードの発動と効果を無効にし、破壊する」

「なっ!? それじゃ……ダメじゃん!」

「おっとこれだけじゃないぞ。 さらに相手フィールドの表側表示モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

「そ、そんな!」

 

 勝利を確信した表情から一転、敗北を悟り絶望の表情を浮かべる由比ヶ浜。 雪ノ下も同じような表情をしていた。

 希望を与えられ、それを奪われた時人はもっとも美しい顔をする。

 

「これが俺のファンサービスだ!お前の青眼を破壊し、3000ポイントのダメージを受けろ!」

 

 [由比ヶ浜結衣]LP6000→3000

 

 無慈悲にも青眼と羽箒が墓地へと叩き込まれ、由比ヶ浜の残りLPが半分になる。打つ手なしなのか、由比ヶ浜が項垂れながらターンを終える。

 

お前のデュエルは、素晴らしいかった!挫けないプレイングも!土壇場での引きの強さも!

 

だが !しかし! まるで全然! この俺を倒すには程遠いんだよねぇ!

 

「おれのターン、ドロー!この瞬間、〈波動キャノン〉に二つ目のカウンターが乗る。 そして、カウンターの二つ乗った〈波動キャノン〉を墓地に送り、2000ポイントのダメージを。〈ステルスバード〉の効果で1000ポイントのダメージ……攻撃3000ポイントのダメージでフィニッシュだ!」

 

 [由比ヶ浜 結衣]LP3000→0

 

 




サンプルデッキの中身は、SD青眼+αです。
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