肝試しの後、僕は姫路さんに呼ばれ屋上へ向かった。
そこで、色々な話をした。
常夏先輩が謝りに来たこと。
僕らの為に本気で怒ってくれたことへの感謝。
呼び方のこと。
そして、柔らかなプレゼント。
「あれって……」
一つの考えが頭の中をよぎるがその考えは瞬時に抹消された。
だって、姫路さんの初恋は続いてるんだから…そんなわけないよね。
『おい、明久。
「な、なんでもないよ!今戻るから」
で、今は僕の家。
補習のない、本当の夏休みについて予定を立てている最中だ。
メンバーはいつもの悪友の雄二、土屋康太ことムッツリーニ、美少女の姫路さん、美波、秀吉、それと雄二のお嫁さんの霧島さん、ムッツリーニの好敵手工藤さん。
僕は姉さんからの電話で一旦廊下に出ていたけど、皆はリビングで輪を書いて座っている。
ちなみにその予定とはみんなで海に行こう、というムッツリーニの提案だ。
なんとも下心が丸見えだ。
「お待たせ。姉さんからだったよ」
「場所はわかったのか?」
「う、うん」
どうしても言葉が濁る。
皆きっと日帰りだと思ってるのにそこで、「ペンションで一泊する」なんて伝えたらやはり怒るだろう。
姫路さんや工藤さんはいいとして、怒った美波に僕は殺されるんじゃないだろうか…。
「な、なによアキ。ウチの方チラチラ見て」
「だ、誰も美波の胸が薄いだなんて思って肩が抜けるように痛いぃぃいい!」
「誰の胸が薄くて固いですって⁉」
「硬いとはいってぇぇぇえっ!」
「おい島田。明久に水着姿を見せるチャンスだぞ?その辺でやめておけ」
「だ、誰もそんなことを考えてないわよっ 」
いつつつ…日に日に美波の攻撃のレベルが上がっているように思えるのは気のせいだろうか。
「で、明久君。結局どこに行くんですか?」
「えっと…そのぉ…なんと言いますか…」
「明久、はっきり言わないならこの音声を再生するぞ?」
「わかった!わかったから雄二、そのボイスレコーダーをしまってよ!」
何が入ってるかわからないけど雄二に恐ろしいものを僕は握られてしまったらしい。
「えっと…行くのは
僕が言うと場が静まり返った。
あるものは腕を組み、あるものは顎に手を当てて、自分の記憶を探る。
「……知ってる」
霧島さんが静かに告げる。
やっぱり学年主席は知識の幅が広い。
御月海岸はここからかなり離れた田舎の海岸だ。
この近くに住んでいる人だと知らない人の方が多いだろう。
皆の意識が霧島さんの次の言葉に集中する。
「……どこの県かまでは覚えてないけど日帰りは無理な場所だったはず」
「ごめんなさいっ!」
皆が反応する前に額をフローリングの床へ叩きつける。
再び静まり返るリビング。
やっぱり、怒ってるのかな……。
はぁ、と雄二がため息をする。
「やっぱり、泊まりになるのか」
え?
「アキの事だからこんな事だと思ってたわ」
「一層楽しみじゃのう」
「え?ちょっと、みんな⁉」
「わたし、こういうの始めてだからちょっと緊張します…」
「…………予想通り」
「わくわくするね〜」
「……愛子、そんなに飛び跳ねるとーー」
「…………見え…(ブシャァァアアッ)」
「ストップ!ストォップ!!みんな落ち着いて!」
取り敢えずムッツリーニに輸血を施してから座り直す。
床に血痕が残ってるけど後でいいや。
「なんでみんな日帰りじゃないって聞いて怒らないの⁉」
「明久君の顔に書いてありましたから」
「ぐっ…」
「分かり易すぎるのよ」
「ぐっ…」
「バレバレじゃな」
「…………一目瞭然」
「酷いっ!みんなして言わなくていいじゃないか!」
思わず床に拳を打ち付ける。
「で、肝心の宿はどうなんだ?まさか車の中で寝るとか言うなよ?」
雄二が頬杖をついて聞いてくる。
そのセリフから相続してか女性陣は話し合ったり頬を染めたりして、どこぞのムッツリは血の池を作っていた。
そろそろムッツリーニが痙攣を始める。
「えっと、僕が家族で旅行に行った時一度使ったペンションを姉さんが予約してくれるって」
もう一度ムッツリーニに輸血をしてからみんなに告げる。
それにしてもこの血汚れ、完全に落ちるだろうか。
「「「はぁ…………」」」
「なに、その猛烈ながっかり感!?」
お通夜のようなそんな雰囲気がリビングを支配し始める。
特に姫路さんと美波が呟いていた「抱き枕…密着…」という単語がなぜだろうか。
頭に強く響いた。
「ともあれ、決まったことだ。個々で準備もあるだろうし、そろそろ解散とするか」
と立ち上がる悪友。
やはり雄二はまとめ役としては最高だと思う。
人としては最底辺だけど。
****
「〜〜〜♪」
姉さんのいない安全な夕食の後、僕は鼻歌交じりに使った食器を洗っていた。
ピンポーン
「はいはーい。ちょっとお待ちくださーい」
手を拭いてエプロンを脱ぐ。
誰だろう、こんな時間に。
「お待たせしました」
玄関扉の向こうに立っていたのは一人の少女だった。
年は僕と同じくらいだろうか。
身長は僕より低い、姫路さんより少し大きいくらいで、スレンダーかつ残念なところもなく、見惚れてしまうものをもっている人だった。
しかしその魅力はボサボサと手入れを感じさせない赤茶色で短めの髪が半減していた。
「えっ!」
「え?」
と、互いに声をあげる。
僕のは相手に対しての疑問だけど、相手の女の子(?)は僕の顔を見て驚いたように上げた感じがした。
あ、もしかして。
顔を袖で軽く拭ってみる。
「あ、やっぱり」
頬に洗剤の泡がついていた。
そりゃ、玄関から出て来た人の頬に泡がついていれば少しは声をあげてしまうだろう。
っと、結局この人はなんなんだろう…セールスの人にしては若すぎるし…
「あ、アタシ、今度隣に引っ越してくることになったんです。えっとつまらないものだけどこれ、どーぞ」
何かの包みを手渡される。
こういう時の受け取り方とかってらよくしらないんだよなぁ…。
「あ、どうも。ご丁寧に…」
とりあえず頭を下げて受け取っておく。
「名乗ってなかったわね。中西佐門よ」
「吉井明久です」
お互いに頭を下げ合う。
なんだか大人の挨拶って難しいな……姉さん…じゃなくて姫路さんにでも聞いておくべきだったかな…。
「………よしい…あきひさ」
「え?」
「ううん、なんでもないの。アタシ人の名前覚えるの苦手だから…」
と、苦笑いを見せる中西さん。
最近、こういう普通の女の人がやけに新鮮に感じる。
美波はともかく姫路さんも最近何かとFクラスに染まって来てるしなぁ…。
「じゃあアタシはこれで。これからも宜しくね」
「え、あ、うん」
頭の中で今後の姫路さんの扱いについて32パターンの中の13パターン目を検証していたために返事が生返事になっちゃった。
しかし、中西さんはそれを気にするまでもなく玄関の扉を閉めて、廊下に足音の響きを残して夜に消えて行った。
で、僕はというと、
「さて、洗い物の続きをしなくちゃ」
****
『あ、佐門。早かったね』
「早いもなにも、アタシは挨拶しに行っただけよ?」
『それはそうだけど……。で、どんな感じの人だった?お隣さん』
「………………」
『な、なんで黙るの?もしかしてめちゃくちゃ不良で怖い人とか…』
「……不良よりよっぽど怖いわ」
『えっ!?』
「驚かないでね?」
『…………』
「アンタと瓜二つよ」
『そ、そんなバカなぁ。佐門は冗談が下手だね』
「アタシが嘘つくことなんてあったかしら?」
『…………』
「信じなさい、
『でもなぁ…廊下ですれ違うたびにギョッとするのは…』
「慣れればいいのよ。慣れれば」