「ほえ?道れすか?」
ぼやける目を最大限活用して男の人の手に目をやる。
その手には確かに何処かの地図らしき物で、その中央には赤い丸印がつけられている。
「…おととと…」
手に取ろうにも体が全くいうことを聞かない。
これは本格的に熱中症のようだ。
この人には悪いけど別の人を当たってもらうしか…。
「っと…貴様、大丈夫か?」
「あっ…すみません…」
思わず目の前の人に寄りかかってしまう。
…まずいなぁ、これは本格的にヤバイぞ…
すると男の人は顎に手を当てなにか、ブツブツ言い始めた。
「…熱中症か…義経との待ち合わせに遅れるわけにもいかないから…やむ終えないな…」
「ぅえ?一体……ぷぁっ!」
「ありがたく思え」
いきなり顔に冷たい衝撃がきた。
鉄人の拷問補習のかいもあってか頭のばやつきも、体のふらつきも吹き飛ばされた。
目をこすり男の人をみると手には空になったペットボトルがある。
ん?空のペットボトル?それに今のひんやり冷たいものは…!
いま気づいたけど服がずぶ濡れになっている。
汗の濡れ方ではないし、そもそもこれが汗だったら自分の発汗量に吐き気を覚えるだろう。
間違いない。
この人、躊躇なく僕にペットボトルの水を頭から流しかけたのだ。
しかし、これは流石に強引すぎるとーー
「むがっ!?むごご……」
男の人は新しいペットボトルを取り出し、今度は無理やり僕の口に水を流し込んでくる。
乾ききったのどに刺すよな刺激と共に水がいに流れていくのがわかる。
「ゲホッゲホッ…」
「強引な手段を用いたことは謝罪しよう。しかし我も急いでいるのだ。許せ」
「あ、はい…」
深々と頭を下げられる。
しかし、この人のおかげで頭がすっきりした。
これでこの人の顔も…。
「………」
「どうしたのだ?我の顔になにかついているのか?」
これほど自分の目を疑ったのは今年のはじめに鉄人から振り分け試験の結果をもらった時以来だろう。
「いや…あの…随分と整った顔立ちをされているなぁ、と思いまして…」
「ハッ、世辞を言っているのだったら道を教えろ」
と、眼鏡の奥の瞳の冷たい眼光がまるで僕を射抜くように放たれる。
高校生活で嫌という程さっきを浴びてきたけど、この視線に僕は知らず知らずのうちに身をこわばらせていた。
「明久。いま店を覗いてきたがあと軽く十分はかかるぞ…っと誰だ?」
と、そのとき雄二が車の影から出てきた。
さてはこの野郎、店を覗くついでになんか飲みやがったな…顔に水気が戻ってる。
「なに、道を尋ねていたのだ。そういう貴様は……さしずめ悪友といったところか」
「…ほぅ…鋭いな」
「ただの想像だ」
一瞬、珍しく雄二が驚いた顔をする。
が、それを軽くあしらうと男の人は再び僕の方を向いて地図を僕の前に出す。
「さて、本題に戻る。道を教えてくれアキヒサ」
「へっ?な、なんで僕の名前を…?」
「なんでもなにも今先程に貴様の名前を呼んでいただろう?」
と、雄二の方をあごで示す。
なにか考え事をしているのか雄二は腕を組んで軽くうつむきながらこちらを見ている。
「不快だったか?」
「い、いえ。それでどこへの道ですか?」
「ここのペンションへ行きたいのだが…」
視界の地図に細くてきれいな指が入り込んで赤丸の位置の中心を指し示す。
そこをあらためてみてみると驚いたことに、いま僕らが目指して今夜泊まる予定のと同じペンションであった。
これが可愛い女の子だったらそれこそ運命というものだろうが…残念だ。
しかしここで道だけ教えて向こうで顔を合わせるのは気が引けるし……あ、たしか車にはあと一席空きがあったはずだ。
姉さんに頼んで乗せてあげられないだろうか。
うん、それがいい。
「どうしたのだ?おおよそ貴様に似つかない熟考している表情をして…」
「ちょっと待ってて下さい。いいことを思いつきましたから!」
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カランコロン
「あらどうしましたか?アキ君」
あれこれと水着を手にとっては首を傾げる姉さんは店の入り口近くにいて、奥で姫路さん達が同じように物色していた。
「姉さん、頼みがあるんだ」
「頼み、ですか?」
「うん実は……【明久説明中】……と、いうことなんだ」
「別に姉さんはいいですが、他の皆さんの意見を聞かずには決定できません。少し待っていてください。いま買ってきますから」
そういう姉さんの手にはいつの間にか黒色の大人びた水着が握られていた。
弟の僕としてはできるだけ露出は抑えてもらいたいんだけど背に腹は変えられない。
と、いうか僕はできるだけあの男の人を待たせたくないんだよね。