悪夢の始まり
「落ちている…」
夏の夕暮れ時。私が見上げた空に、小さく円柱の物体が映っていた。
宇宙人工都市『エバーグリーン』。
地球から眺める故郷に対して、私が出せた言葉はそれだけだった。
---西暦2120年
異層次元探査艇『フォアランナ』が超束積高エネルギー生命体『バイドの切れ端』を採取し帰還した。
---その翌年の西暦2121年
対バイドミッションが発令され、宇宙空間機動計画『RX-プロジェクト』にてそれまで80年間も開発が続けられていた『Rシリーズ』が対バイド兵器に採用される。
---西暦2125年
超束積高エネルギー生命体兵器化計画が立案され、後に『フォース』と呼ばれる兵器の開発が木星の研究施設で始まった。
---西暦2141年
超速積高エネルギー生命体の制御に成功、『フォース』が完成する。
---西暦2144年
後に『ビット』と呼ばれる人工フォースの開発が開始される。
---西暦2160年
エネルギー生命体の人工的実体化に不安定ながらも成功する。
---西暦2162
『プロトタイプR-9』が完成。
---西暦2163
『R-9』ロールアウト。
---同年
第一次バイドミッションが発動。R-9大隊が出撃し、『プロトタイプR-9』も出撃した。
そして、その最中に私の生まれ育った宇宙人工都市『エバーグリーン』がバイドの攻撃により壊滅、海洋へと落下した。
私はこのとき地球に留学しており、それを免れた。祖父母の世代より以前から開発が続けられていた『Rシリーズ』、それを学ぶための留学だった。
「お母さん、あれ! すごい! 大きい!」
近所の親子も自分と同じように落下する『エバーグリーン』を見るために空を見上げ、母親の腕の中で子供がはしゃぐ。
母親がそんな子供を嗜めるが、何も知らない子供は初めて見た光景に興奮して収まらない。その親子以外にも見上げる人は多く、誰もが戸惑いながら各々の反応をしていた。
ある人物はスーツ姿で携帯に向かい怒鳴り、ある人物はカメラを構え『エバーグリーン』を撮り、ある人物は指を指し友人と騒ぎ立て、ある人物は興味無さそうにその場を離れる。
そして私は
「(ああ、帰って明日提出のレポートを仕上げないと)」
あまりの現実感の無さに理解が追いつけず、まるで夢を見ているかのように『明日』のことを考えた。家族が無事かどうか、考えないように。まるで逃げるように、私はその場から立ち去った。
しかし現実は、私を悪夢に引きずり込んでいく。
逃れられない『醒めない悪夢』へと。