精霊達の日常〜Another Story〜 作:Atlas_hikari
「今日から自由だーっ!」
朝からクレティアの元気な声が響く。
12月24日。聖夜の祝祭の前の聖夜の試練が前日に終わったからか、聖女は皆、憑き物が落ちたような表情をひていた。
「今回はひときわ楽でしたね!」
「去年が辛すぎただけじゃないかな………いつもこれぐらいだよね、ソラナ?」
「そうね、楽に感じたのは確かだけれど」
でもね、とヒカリはクレティアとリアラに向かって言う。
「今年聖女になれたからって、2人は気が緩みすぎだと思うよ?聖夜の試練だって聖女の果たすべき使命なんだから、しっかりやってもらわないと」
「はい…反省してます…」
「特にクレティアは。魔法使いさんが来なかったからって、その後に引きずりすぎじゃない?」
「だって来てくれると思ってたし………むう」
異界への移動は魔法使いの手で制御できるものではなく、魔法使い自身もいつどこに行くのか知らないのだが、それを彼女は少しむくれた表情をする。
「でも!今回はちゃんと終わったからいいじゃないですか!湿った空気はやめてはやくパァっと景気良くやりましょうよ!ね、クレティア!」
「………マーガレットまで熱いのはいいかなぁ」
「そんな!?じゃあノインさんはどうですか!」
「にへ〜…私は眠いから寝るね〜…おやすみ〜」
「ノインさんまで!?あんなに張り切ってたのに!」
今年もはっちゃけたサフィナと2人で騒ぎ合うだろうマーガレットはほっておいて。
「…確かに、ノインちゃんは今回頑張っていたわね」
「そうだよね、おかげで早く終わったようなものだし…でもなんでだろう、なにかやりたいことでもあったのかな」
ヒカリはしばらく思案したが、ノインが頑張るような理由は思いつかなかった。
◆
「そこちょっとズレてない?」
「にへ…」
「ほら、あと少しなんでしょ?余裕ないんだから急ぎめじゃないと」
「もう疲れたよ…にへ…」
フラクタルの自室。まだ皆が食堂で談笑してる頃。
ノインはフラクタルと一緒に編み物をしていた。
「あと…少し…」
知識として知ってはいたけれど、実際やってみると上手くいかない。
そんな状況に時間が迫っているというのもあって、彼女はかなりやきもきしていた。
「でも始めた時よりはかなり上手くなったんだし、このままいけば時間通りには終わりそうなんだから、そんなに焦ることないんじゃない?」
「にへー…でも…」
フラクタルの膝の上にちょこんと座り、編み物を続けながら、ノインは自分の上にある顔を見上げる。
「早めに完成させておかないと、包装とか綺麗にできないでしょ?」
「あー…確かにそっか」
いくら大賢者といえど、なんだか健気な子供みたいで。
一生懸命編んでいるマフラーとにらめっこしているノインの頭を撫でる。
「いつも見守ってくれてるあの子のためだもんね?」
「むー…うるさい」
ちょっと照れくさそうにむくれるところもなんだかいつもより子供っぽくて、可愛らしい、と心の中でフラクタルは密かに思った。
◇
「…あれ?」
今日やるべき事が全て終わり、様子を見ようとノインの部屋に寄ったヒカリは、彼女がいないことに気がついた。
「もう起きたのかな?ノインにしては早いような…」
そこまで考えて、もうひとつ。
「あれ?もしかして…ノイン、寝てない?」
明らかにベッドにもう一度寝直した跡がない。何度も起こしに行ったヒカリだからこそわかる事だけれど──
「…怪しい」
何か企んでいるのだろうか。もしくは渾天儀をまた使おうとでもしているのか…等と考えてしまう。
「最近はだいぶ大人しくなったし、イタズラをするようなタイプでもないはずなんだけど…」
─じゃあなんで寝てないんだろう?
疑問は深まるばかりだった。
通り道でソラナに尋ねてみたけれど、見ているはずもなく。
最近ならシャイアがノインと仲良いから、何か知っているだろうとヒカリは彼女の部屋まで来ていた。
「これと…これで……」
──のだけれど、明らかにノインがいた。何かの作業をしているのか、集中しているような声が聞こえる。
ついでにシャイアがいるような気配も感じる。
「……」
やはり怪しい。悪巧みではなくとも、何かをしているのは確かだった。
ちらりと部屋の中を覗いてみる。
ベッドの上にシャイアがいて、その膝に座ったノインが何かに奮闘している。
ノインは集中してて気がついていないようだったので、近づいて見ようとして──
シャイアに止められた。
彼女の方を見ると、口元に手を当てた状態で。
「(…なるほど)」
流石にそう言われた上で無理矢理見るというのもノインに失礼だろう。
ヒカリは気になりながらもこっそりと部屋を出た。
「…完成!」
「ほら時間通りでしょ?そんな焦らなくてよかったのに」
「にへ!」
「…ふふ…それじゃぁ…これ着る準備しないとね…」
「にへ!?」
◇
その後、ノインが何をしていたのかはわかる事なく。
ヒカリはソラナと喋りながら夕食を取っていた。
「ねえソラナ」
「…どうしたの?」
「ノインが今何やってるか、心当たりってある?」
「うーん…」
ノインは少し反対側のテーブルで、シャイアと何か会話している。シャイアがおちょくってノインが少し顔を赤らめながら言い返したり。恐らくあの事について話してるのだろうけれど。
…少し仲間外れにされて寂しい気もする。
「私には心当たりはないけど…やっぱりノインちゃんが一生懸命取り組んでるなら、あまり茶化さない方がいいかもしれないわ」
「そっか…それもそうだよね」
反対側のテーブルを見る。
ノインがマーガレットに絡まれて、シャイアに助けを求めている。シャイアは助けることなく、面白そうに笑っているだけだ。
「…ふふ、ヒカリってば子供みたい」
「むぅ…」
「そんなに焦らなくても、ノインちゃんはヒカリを仲間外れになんてしないと思うわ」
「そうかもしれないけど…」
手持ち無沙汰に反対側のテーブルを眺める。
たまらなくて逃げ出したのか、テーブルには笑っているシャイアだけだった。
帰りにノインの部屋を覗いたけれどノインはいなくて。
これ以上詮索するのも野暮なのでヒカリは自室に戻ろうとしていた。
「私に相談できないってなんだろ…」
さっきからノインの事ばっかり頭に浮かんでいる。自分よりシャイアが選ばれたのが悔しかったのだろうか。そんなことを考えながら自室に戻ろうとして──
「(…?)」
自室のドアの前に誰かがいる気配がした。
角から顔を出して様子を見ると、
「…遅い」
何かを大切そうに抱えた、赤い服の姿があった。
時期的にサンタ服だろうか。
クレティアではない。彼女はもう少し大きい。
マーガレットでもない。彼女には羽がある。
リアラ…でもない。イヴは家で過ごすと言ってもうここにはいない。
となると───
「…ノイン?」
「ひゃう!?」
サンタ服の姿が勢いよくこちらを向く。その顔を見れば確かにノインだった。
「…ヒ、ヒカリ!?私は何もしてないよ!?」
「いや特に咎めるわけじゃないんだけど…こんな所で何してるの?」
彼女は抱えていたものを後ろに隠しているが、特にやましい事がある…というわけではなさそうだった。
「…私の部屋の前なんだから、私に用があるんでしょ?恥ずかしがることないんじゃない?」
「にへ…」
少し恥ずかしそうに俯くノインというのはなかなかに珍しい…というのはおいといて。
そろそろどういうことか分かってきたので、彼女を急かし始める。
「…早くしないと、誰か来るかもしれないよ?」
「…っ!…ヒカリ、これ…」
ノインはすっと綺麗に包装されたプレゼントを差し出す。所々歪んでいるのは彼女の手作りだからだろうか。
「…メリー………クリスマス、いつも………ありがとうって」
それだけ言うと、ノインは顔を真っ赤にして止まってしまった。いつもは小生意気なのに、時々健気な姿を見せてくるのはずるいと思う。
「…プレゼント、開けてもいい?」
「…うん」
包装を丁寧にといて、中のプレゼントを確認する。
「あ、マフラー…」
そういえば、今年は寒いのにマフラーとかないっていつか愚痴ってたっけ。
「…うん。ありがとうね、ノイン」
お礼にと、サンタ帽の上からノインの頭を撫でる。ただでさえ赤い顔がさらに赤くなって。
「─────~~~!」
耐えられなくなったのか、走って自室の方に行ってしまった。
「…ふふ」
自分の顔もなかなかに面白いことになってるんだろうな、とヒカリは思った。
◇
「…うん、あったかい」
室内だろうとお構いなく。自室でマフラーを付けてみる。所々歪だけれど、ちゃんと心を込めて作られた温かさがある。
何より、ノインが作ってくれたと言うだけで顔が綻んで仕方ない。
「…ふふ」
「あら」
そんな時、ソラナが部屋の前を通った。彼女もヒカリを見て察したのか、すぐに笑顔になって。
「…そのマフラー、誰から?」
「えっとね──」
ソラナにも話すことにしよう。
小さくて健気なサンタさんのお話を。
◆
「………」
ノインは自室でベッドに突っ伏していた。服も着替えず、サンタ服のままで。
「ノインにしては、頑張ったんじゃない?」
「にへー…」
精魂尽き果てたのか、フラクタルが茶化してもまともなリアクションはない。
「ちゃんとプレゼント渡せて良かったね、ノイン」
最初にノインが一生懸命相談してきた時は驚いた。大賢者であっても、知識はあっても、ちゃんと子供らしさは持ってるものだった。
「はい」
そのまま眠ってしまったのか、返事のないノインの枕元に、こっそりプレゼントを置く。
「メリークリスマス、ノイン」
風邪を引かないように毛布をかけて、彼女だけのサンタクロースは部屋を去った。
1年に1話しか投稿できない病気にかかってしまってな……………………………すみませんもっと増やしたい