精霊達の日常〜Another Story〜   作:Atlas_hikari

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今年のバレンタインは平日です(暗示)
プロットを1年置いておくとこういった事態を招くので気をつけましょうね!


一応前に投稿した話の続きでありますので、よろしければお先にそちらをどうぞ。


後日談とバレンタインと、笑顔のチョコレートを。

 

 

「───♪」

 

セティエ・レー。時の管理者とも言われる彼女は、来たる時に向け、浮き足立ちながら準備していた。

 

「これは…こうして、と」

 

バレンタイン。例年通りならお世話になった人にお礼としてお菓子を贈るだけの行事だったけれど──

──今年は訳が違う。

 

いつも通りのお菓子を作る横で、もう1つ、特別なチョコを作る。

自分の想いを全て注いで。

 

「──楽しみです」

 

準備を全部済ませて、彼女は一人その日を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エターナルクロノス。

異界の狭間を旅し、時間を司る重要な施設であるが──

 

「ユッカ様!次の反応はあっちですぞ!」

「OKルドルフ、私に続けー!」

 

──今日はいつも以上の騒がしさであった。

 

「…今年のVdayはいつもより大きめですね」

 

バグが大量発生し、整備班がその対応に追われる日。AからZの頭文字が付けられる中の、今日はVdayであった。

なんでも、今日のバグはしつこいとか何とか。いつか聞かされた記憶のある話を思い出す。

 

「ユッカ様!あっちです!そっちではありませんぞ!」

「えぇ!?こっちじゃないの?」

 

皆何らかの機械──おそらくはバグ探知機であろう──を付け、時計塔内を走り回っている。

話したくても、こんな中で静かに話せるものではない。セティエの足は自然とある場所に向いていた。

 

 

 

 

 

「あ、セティエさん、こんにちは!」

 

エターナルクロノスのキッチン。

そこでは、アリスが一人お茶会の準備をしていた。

 

「はい。サンザール以来ですね。あの時はお世話になりました」

「こちらこそ、あの時は助けてくださってありがとうございました!」

 

慌ただしく準備をしながらも、笑顔で返事をしてくる。

外もキッチンも、とても慌ただしい時計塔内だけど、それはいつも通りの日常に戻れた、という証でもあって。

 

「……手伝いましょうか?」

「あー、ちょっとお願いしていいですか?」

「ふふ、わかりました」

 

…………………

 

「……まあまあハードな仕事ですね」

「私は戦えませんから、これぐらいは」

 

少し準備を手伝って。

二人で向かい合ってテーブルに座って話す。

 

「あの後は、特に何も?」

「はい。いつも通りユッカちゃんは楽しそうで、他のみんなも元気にしていますよ」

「そうですか。それは良かったです」

「はい」

 

今の幸せを噛みしめるように、アリスはしみじみと呟く。

 

「こちらとしても、時間を守れたのは皆さんのおかげですから。協力してくれてありがとうございました」

 

鞄の中から包装されたお菓子──人数が人数なのでチョコクッキーぐらいしか準備できなかったのだけど──を渡す。

 

「…これは?」

「あの時は、お礼なんてできませんでしたから」

「そんな、こちらがお礼したいぐらいなのに……そうだ!」

 

アリスがまたキッチンの奥に入り、綺麗な包装紙の小包を2つ持ってくる。

 

「これ、ちょうど余っていたんです。1つ2つ余っても仕方ありませんし…受け取って貰えませんか?」

「2つ…ですか?」

「はい!」

 

だって、とアリスは続ける。

 

「あの人にも、とてもお世話になりましたから」

 

 

 

 

 

「そういえば、もうすぐバレンタインですね」

「…そっか、もうそんな時期か」

 

魔法使いさんがぼそりと呟いた。

 

「平日ですけど、その日は魔法使いさんの家に行っていいですか?」

「……セティエもその日は普通にやる事があるんじゃないの?」

「いえ、なんとかできる……とは思うので」

「うーむ……」

 

バレンタインは勝負の日。なんとしてもチョコを渡したかったのだけど、どうも彼は気乗りしないようで。

 

「やっぱり依頼…ですか?」

「バレンタインだから、請け負う人が少なくなりそうで……多分立て込むと思うんだよね」

「むぅ……」

 

当たり前のように他の人を助けることを考えてる魔法使いさんに、少し妬いてしまう。

 

「それにセティエだって平日来るのは忙しいんだから、無理はしない。いい?」

「……」

 

わかっている。いくつか自由を貰っているだけで、私にだって使命があるし、彼だって奉仕者としてやるべき事がある。

 

──それでも、この日の思い出を諦めたくなかった。

 

「……それでも行きたい、って言ったらどうしますか?」

 

ぼそっと口から漏れたわがままを聞いた彼は、ちょっと困ったように笑って、

 

「……早めに帰るよう頑張ってみるから」

 

私の頭を撫でながらそう言った。

 

 

 

 

「……あんた、その理由でここに来たんか?」

「はい」

「なんというか……面白くなったねぇ、君」

「…?」

 

 

死界の隅に拵えられた、豪華なある宮殿の中で、セティエと宮殿の主──ヴェレフキナは静かに対面していた。

 

「ありがたいんやけど、うちお菓子とかそうそう作れんし、お返しはできんよ?」

「いえ、お礼ですので、遠慮なく受け取ってもらえれば」

「義理チョコ一つで舞い上がりすぎだぞ、非モテ男」

 

彼の従者──ともいいがたい言動をしているが──シミラルが奥からお茶を運んでくる。

 

「ありがとさん。シミラルはチョコ作れたらうちにくれたりすんの?」

「お前にやるなら自分で食った方がマシだ」

「……うちにくれそうなやつはおらんなぁ」

 

それはええとして、とヴェレフキナはセティエに向き直る。

 

「うちが魂の加工した人…ユッカとか言ったか?彼女の様子はどうやった?」

「元気そうでしたよ。特にその後遺症等はなさそうでした」

「そうかそうか、それはええことや」

 

お茶を飲んで──熱っ、と声が漏れた気がする──もう一度こちらを見る。

 

「ほなもう一つ。──あんたの方はどうなんや?」

「……はい?」

「ほら、好きな男が1人ぐらい出来たみたいな顔してるやん?」

「──っ!?」

「ほら、やっぱ当たりや。顔真っ赤にしとる」

「人の事弄るのはやめとけ、ゴミ男」

 

ペシペシと従者に頭をはたかれながら、彼は笑う。

 

「ええんやええんや、あんたも人間らしくなってちょっと嬉しくなっとるだけや」

「人間らしさ、ですか」

「せや、前は機械に話しかけとるみたいな感じやったからねぇ」

 

色んな人間を見てきたからなのか、子の成長を喜ぶ母のように、朗らかに。

 

「そんだけあの魔法使いとの出会いがあんたに変化をもたらしたって事やろうし、うちも推薦して良かったってもん──」

 

そこで突然ヴェレフキナの顔が机に激突した。余程に力を込めて叩きつけられたのか、少し机が凹んでいる。

 

「──こんなやつの戯言に付き合う必要はないぞ」

 

犯人であるシミラルが無愛想ながらも笑みを浮かべる。

 

「さっさと終わらせて行ってやれ、あいつの所に」

 

 

 

「よっ、と」

 

今日数回目の異界移動を終えて、地を踏む。

 

「流石にこう何度も移動すると疲れますね……」

 

今日回るところはそう少なくない。サンザールの件で多くの協力者を頼った結果なので、仕方がない話ではあるのだけれど。

 

「……でもあと少しです」

 

バレンタイン当日に彼を訪れる口実だとしても、やっぱり皆にしっかり挨拶はしておきたくて。

 

「変わった……んでしょうか、私」

 

人らしくなった、とヴェレフキナは確かにそう言っていた。その変化はきっと魔法使いさんに出会って、恋に落ちた結果であって。

 

きっと、良い変化とは言えないものだろう。私は彼に会って、時界の人間としては弱くなってしまったから。

人の幸せを思い知らされてしまったから。

 

「早く、会いたいなぁ」

 

いつもより早く会えるのに、いつもより待ち遠しくて。

少し早歩きで、サンザールの街を歩いた。

 

「ふっふふーん」

 

彼女はただ一人、テーブルに座って待っていた。

従者も誰も側におかず、空き椅子を一つだけ向かいにおいて。

 

「…お久しぶりです、カヌエ」

 

──サマーを失った彼女は、やっぱり少しだけ寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

なんか来ると思ったんだよねぇ、と彼女は言う。

 

「カヌエはあの後、どうですか?」

「おや、セティエは全部見てたりしないのかい?」

 

首を振る。いくら時の管理者だからと言って、全てを見通せる訳では無い。カヌエがどうなったかなんて、都合よく見れないものだ。

 

「安心しなさいな。代理だけどちゃんと御子は立てたし、御子代理もまあ真面目だからねぇ」

 

ちょっと神様に対する敬意が足りないんだけど、と彼女は付け加える。

 

「…そうですか。それは良かった」

「まあだいたいなんとかなるから。だーいじょうぶ」

「ふふ、カヌエはいつも通りですね」

「そう、なんだって神様ですから」

 

神様らしくない、フランクな笑顔だった。

 

「それより私は、セティエの事が聞きたいねえ」

「私、ですか?」

「そうそう。魔法使いとは上手くいってるのかい?」

「それは……まあ……そこそこ……」

「……上手くいってるみたいだねぇ」

「…………」

 

どう答えるべきなのかいまいち分からない。彼の事を好きな気持ちが衰えるなんて事はないが、かといって進展があるわけでもなかったから。

 

「今回は挨拶回りって感じかい?」

「はい。あの騒動で様々な所に協力を求めましたから、そのお礼も兼ねて」

「お礼なんていいのにねぇ…別にセティエを上手く助けられたわけじゃないんだから」

「いえ、そんなことは──」

 

言い終わる前に、カヌエが首を振る。

 

「いいや、結局頑張ったのは2人だよ。私は彼の記憶を繋ぎ止める事しかできなかったんだから」

「……やっぱりカヌエだったんですね」

「一応、神様ですから」

 

彼女は朗らかに笑う。本当にひたすら明るい神だった。

 

「いいですか、セティエさん。私があなたに求めることは一つだけです」

「はい」

「幸せになりなさいな。それが神孝行ってやつです」

「別に信仰してませんよ?」

「……それもそうだねぇ」

「……ふふっ」

 

それから、しばらくそれとない話をして、席を立つ。

 

「じゃあ、はい。ありがとうございました、カヌエ」

「また来なさいな、なんたって友人なんですから」

「……そうします」

 

それを聞くと、神様であり友人でもある少女は、また朗らかに笑った。

 

 

 

「これでほんとのめでたしめでたし、だねぇ」

 

1人になったテーブルで、誰にも聞こえない声で呟く。遠くから、騒がしく自分を探す声が聞こえてくる。

 

「ちゃんと幸せになるんだよ、じゃないと祟りとして出ちゃうから」

 

また神らしくない発言だねえと、言いながら笑った。

 

 

 

「魔法使いさん、まだ帰ってきてないんだ…」

 

クエス=アリアス。

最後に寄った魔法使いの家の前で、セティエは途方に暮れていた。

 

家の中の明かりは着いていない。バレンタインでも彼から奉仕者の心が無くなることがないのは、やっぱり嬉しくもあり寂しくもあった。

 

「…待とうかな」

 

せっかくここまで準備してきたのだから、この機会を逃す訳には行かない。セティエは扉の前で座って魔法使いを待つことにした。

 

 

「今日は……疲れた……」

 

さらっと使っているが、異界移動というのは果てしなく繊細な制御が必要な力である。それを一日に何度も使ったのだから、彼女の疲労も尋常ではなかった。

 

「魔法使い…さんに、チョコ…渡せたら、少しだけ、寝ようかな……」

 

魔法使いさんが帰ってくるまでは、意地でも起きていたい。魔法使いさんにおかえりと言ってあげたい。

 

「早く……帰って……来ない…か、な」

 

 

それでも今日は平日。普段ならセティエは時界で業務に追われている。それをわざわざ一日空けたということは他の日に業務をその分増やしたわけで。

 

「…もう………ちょ………っと…………」

 

既に限界ギリギリまで疲労を溜めていたセティエには抗いようもなく、彼女の意識はすぐに、眠りのなかに呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、無理しないでって言ったんだけどなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチ、パチと暖炉の火が弾ける音がする。

 

「ん……んぅ………」

 

穏やかな暖かさに包まれて、なんだか安心する。

どうしてこんなに暖かいのだろうと考えようとして──

 

「…っ!?」

 

──目が覚めた。同時に跳ね起きる。

 

「ええと…」

 

周りを確認する。暖炉も部屋の壁も、何度も見たことのあるもので。

要するに、

 

「……私、寝ちゃってたんですね」

「そうだよ、扉の前に座り込んで。ほんとにびっくりしたんだから」

 

魔法使いが台所から出てくる。手に持ったトレイからは、紅茶のいい香りがする。

 

「紅茶、飲む?これ飲めば目が覚めるだろうしちょうどいい葉をもらって──」

「──魔法使いさん!」

 

今の機会を逃す訳にはいかないと、声をかける。

魔法使いさんは驚いたように目を見開くけれど、すぐにいつもの穏やかな笑みに戻って。

 

「どうしたの?セティエ」

 

トレイを静かに置いて、こちらに向き直る。日付が日付だし、彼には全部わかっているのだろう。

 

「えっ…えっと」

 

凄く言いにくい。こう完全にバレてる中で渡すのは恥ずかしくてどうしようもないのだけど─

─悩んでいても仕方なかった。

 

「魔法使いさんっ!これ!」

 

鞄に閉まっていたチョコを魔法使いの目の前に勢いよく差し出す。愛情も恋情も、自分の気持ちを全て込めたチョコレート。

 

「ハッピーバレンタイン!これ、私からのチョコレートです!」

 

最後は、自分が作れる最高の笑顔で。

 

 

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