マシュマロ型提督   作:gromwell

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元ネタの駄菓子を密林で検索したら取り扱い終わってたあー


第三話『だがしかが』

 馬肥ゆる季節は、同時に人肥ゆる季節でもある。

 

 暑苦しさから解放され、スポーツに読書にと頭と身体を使う以上、やっぱり補給のほうも自然とその量が増すというもの。

 

 ましてや、日々訓練や任務などなど、職務に励む者達ならばなおのこと。

 

 艦娘とて例外なく、この季節はお腹が空くものである。

 

 ともあれ、「流石に少し困りました」と加賀は頭を悩ませていた。

 

(小腹が空きました)

 

 朝食まで我慢すれば済む話なのだが、どうにも食欲が首をもたげてくる。

 

(かと言ってしっかり食べると言うのも……)

 

 それはそれで現在の時刻が大問題だった。

 

 蛙の合唱は既に終演、虫の音も聞こえない深夜二時。

 

 えらく中途半端な時間に加賀は目が覚めてしまっていたのだった。

 

 この時間にしっかり食べてしまうと朝食に影響がでてしまう。

 

(そういう訳では無いけれど、余計なお肉がお腹周りに備蓄されてしまいます)

 

 ちょっと摘まむ程度で落ち着くくらいの空腹を持て余した加賀は思考を巡らせる。

 

 しんと静まり返った宿舎は、消灯時間をとうに過ぎている事もあって真っ暗闇。

 

 当然、酒保など開いている訳もない。

 

 部屋に備蓄していた羊羹や煎餅などの菓子類は就寝前に、同じ部屋で寝起きを共にする赤城と食い尽くしていた。

 

 宿舎とは別の建物にある食堂まで行けば、何かしら食糧にありつけるかも知れない。もちろん、何もないかも知れないが……。

 

(最悪の場合、提督の畑から茄子でも頂きますか)

 

 軽く火を通して醤油でも垂らせば十分だろう。

 

 今年の茄子は収穫こそ遅れたが質・量共に文句の付けようが無いと、麻守提督の畑仕事を手伝っている長門が言っていたのを思い出す。

 

 一時はこの鎮守府が最前線となる程、深海棲艦に押し込まれていた。だが、鎮守府全員が──文字通り人間と艦娘が総力を結集した反撃によって、鎮守府近海の制海権及び輸送航路を確保していた。

 

 戦況の好転もあって、その後はイ級すら滅多に見掛けなくなった。

 

 畑で鍬を振るいながら、少しばかり勝ち過ぎたなと苦笑する長門の姿もすっかりお馴染みになっていた。

 

(迅速果断よ、問題無いわ)

 

 即興ながら作戦計画を纏めた加賀は布団から出て、寝間着の青パジャマの上からベージュのカーディガンを羽織る。

 

 くぅくぅと寝息をたてる赤城を起こさないように静かに部屋を抜け出すと、食堂を目指す。

 

 加賀の履くブルーのパンプスが規則正しく一定の間隔で、微かな足音を響かせていた。

 

 宿舎の外へ出た加賀は、麻守鎮守府のランドマークこと司令棟の前を横切る。

 

 ちょうど加賀達の宿舎と司令棟を挟んで向かい合う三階建ての大きな建物が目的地だ。

 

 他方からの遠征や回航の途中で立ち寄る艦娘達の宿泊施設として建てられた、この麻守旅館とも呼ばれる第二宿舎の一階が食堂として使用されていた。

 

 もちろん加賀をはじめとする鎮守府所属の艦娘達もこの食堂で余所の艦娘達と混じって食事をする。

 

(……?)

 

 そこで、ふと加賀が小首を傾げた。

 

 食堂からぼんやりと灯りが漏れていたのだ。

 

「盗み食いでしょうか」

 

 自分の事を棚に上げ、とりあえず軽く注意しておこうとスタスタと食堂へと歩く。

 

 入り口でパンプスを脱いで茶色のスリッパに履き替えると、食堂入り口へ忍び足で進む。

 

 なおも食堂内をぼんやり照らす灯り

を確認して、ゆっくりとドアを開ける。

 

 せっかくなので、出来る限り相手に気付かれずに接近してやろうという悪戯心がカットイン発動していた加賀だった。

 

 食堂の窓際の机に誰かが居るのが見て取れた。

 

 しかし、不運な事にその人物は食堂入り口の方を向いていた。

 

「む、加賀?」

 

「……少し、頭にきました」

 

 食堂に居たのは麻守だった。

 悪戯が空振ってしまった加賀の怒りを込めたジト目の直撃で少し頬が強張っている。

 

「こんな時間にいったいどうしたのかね」

 

 手にした書類を脇に置いて向かいの席に着くよう加賀に促すと、麻守は空いた湯呑みに薄い黄色の液体を注いだ。香りから察するにハーブティーの様だ。

 

「小腹が空きました」

 

 差し出された湯呑みを手に取り、ひと口啜った加賀が正直に直球な言葉を口にした。ハーブティーでは小腹は満たせないのだから仕方ない。

 

 カモミールの穏やかな香りもこの時の加賀を鎮めるには戦力不足である。

 

「君もかね」

 

「も?」

 

 てっきり呆れられるか、それとも部屋に戻るよう言い付けられるかと思えば、意外な台詞だ。

 

(ひとまずジト目は継続しましょう)

 

 だからといって油断は出来ない。

 それに麻守と遭遇した以上、小腹を満たす計画を早急に修正せねばならない。

 

(提督の目の前で盗み食いも何もあったものではありませんから)

 

 そんな事を考えつつ、机の上に視線を落とすとそこには見慣れないカラフルなパッケージの所謂駄菓子に分類されるであろうお菓子があった。

 

(何かしら?)

 

 チラリと麻守の目を見るとコクリと頷いたので、加賀は了承と判断して駄菓子を手に取った。

 

 手のひらサイズの駄菓子のパッケージはある程度の低年齢の子どもを意識しているのが見て取れる。

 

 二頭身にデフォルメされたツインテールの可愛らしい女の子のイラストが目を引く。どこかで見たような気がするのは気のせいだろう。

 

(これも酒保に並べるのかしら?)

 

 ひっくり返してパッケージ裏を観察すると、何やら絵を交えた説明がある。どうやら食べるのに手間のかかる商品らしい。

 

 本来バーコードがあるべき部分には大きくサンプルという文字が印字されていた。

 

「提督、このお菓子は何かしら」

 

 何故こんな所に、こんな駄菓子のサンプルがあるのか。まさかメーカーが売り込みに来たわけでもあるまい。

 

「ふむ、実は某お菓子メーカーとタイアップする事になってな。それは、その試供品だ。これから試食しようとしていたのだよ」

 

 「儂も小腹が空いたのでな」と、そう言って麻守が袋を開け中身を取り出した。

 

 ふたつのお椀状の窪みが並ぶ白いプラスチックのプレートと透明なプラスチックスプーン、一番・二番と大きく書かれたアルミの小袋がひとつずつ。それから──

 

「これは魚雷発射管?」

 

 防盾付きの三連装魚雷発射管を丸っこくした様な半透明のピンク色の物体。

 

 魚雷発射管もどきは中が空洞になっていて、三つの突き出た魚雷部分の先端には穴が開いている。

 

 それは言わば、三連装魚雷発射管スポイト。

 

 麻守は白いプラスチックプレートのふたつの窪みにそれぞれ一番と二番の袋の中身の白い粉を入れて、窪みの内側の中ほどに引かれた線まで水を注いだ。

 

 くるくるとかき混ぜて粉を溶かすと一番の粉を入れた窪みの水がピンクに染まっていた。二番の粉の窪みは特に変化はなく水は透明のまま。

 

「これで、一番の水を吸い上げて、二番の水に入れてみなさい。なるべく一滴ずつになるように」

 

 そう麻守は告げると三連装魚雷発射管スポイトを加賀に手渡した。

 

「本来、魚雷なんて装備出来ないのだけれど」

 

 よく意味も意図も理解出来ないまま、加賀は言われた通りに魚雷発射管型スポイトで吸い上げたピンク色の水を透明な方の水に垂らした。

 

 ピンク色の雫が三つの穴から一滴ずつ、透明の水に落ちた。

 

 そして──固まった。

 

「……」

 

「む、加賀……?」

 

 そして、加賀も固まった。

 

 だってそうだろう。

 

 水に水滴を垂らして固まるか?普通に考えたら固まる訳ないでしょうふざけんな。なに色落ちしたイクラみたいになってんの。

 

 驚きの余り混乱する加賀の頭のなかではそんな言葉がぐるぐる堂々巡りしていた。

 

 何度か麻守が声を掛けたが反応はない。

 

 しばらく、何やら考えていた麻守が透明の液体に沈む色落ちしたイクラもどき──粒状のゼリーをプラスチックのスプーンで掬った。

 

 その表情は悪戯小僧そのもの。

 

 思考停止に陥っている加賀の薄く開かれた唇へそっと突入するプラスチックスプーンとそれに搭載されたピンク色の粒ゼリー。

 

 麻守の操るプラスチックスプーンは見事に粒ゼリーを加賀の口内へ投下、無事に白いトレーの上に帰還した。

 

 加賀は反射的に口内に投下された粒ゼリーをゆっくり咀嚼して飲み込んだ。

 

 そして、数度まばたきをすると──

 

「……なるほど、簡単にゼリーを作る事が出来る商品なのですね」

 

 何食わぬ顔でそんな感想を述べた。まるで思考停止など無かったかのように。

 

 そんな加賀を麻守は黙って見詰めていた。間違っても「いま驚きすぎて固まってたろ!」と不粋なツッコミはしない。

 

 何故なら、それは……。

 

「……不思議ですね、これは」

 

 無表情だったその顔に僅かではあるものの、どこか楽しげな笑みが浮かんでいたのだから。

 

 加賀自身も気づかなかった笑顔は、麻守を惚けさせるほど魅力的だった。

 

 そのせいか、麻守はらしくもない言葉を、自らの心の内を零してしまった。

 

「綺麗な笑顔ですな……」

 

 無意識のままに零れた言葉は加賀の頬を赤く染めた。

 

 初めて自身に向けられた言葉にどう反応して良いか判らない加賀は、ついついきつく睨んでしまう。

 

「からかわないで頂戴」

 

「参りましたな、つい本音が漏れましたわい」

 

 加賀の突き刺さるような視線などなんのその。麻守は何時もの口調で飄々と言って笑った。

 

 加賀はそれを無視して三連装魚雷発射管スポイトを駆使して粒ゼリーを量産する事に集中する。口下手な自分では麻守を言い負かせない以上、無視するより他はなかった。

 

(む、少々やりすぎましたな)

 

 そう思うものの、時折チラリと見える加賀の表情は柔らかい。

 

(さて、休憩はこの辺にして仕事を片付けますかな)

 

 脇に置いていた書類を手に取って、ペンを走らせる。

 

 それは、いま加賀が夢中になっている駄菓子の試験評価報告書だった。

 

(──艦娘のレクリエーションには極めて有効。速やかなる量産、配備を求む……と、こんなものですかな)

 

 書類を書き終え、顔を上げた麻守が見たのは、粒ゼリーを淡々と食べる加賀の姿。

 

 今度は声に出ないよう、気を付けてその顔を眺める。

 

(やはり、眼福ですなあ……)

 

 願わくばずっと、この笑顔と共に在りたいという想いを抱いて──




あれ?今回、麻守のお腹関係なくね?
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