マシュマロ型提督   作:gromwell

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随分と時間が掛かりましたが何とか書けました!ホメテホメテー

雪風、可愛いんじゃー天使なんじゃー。



第八話『大型建造~妖精さんの蜂起~』

 冬支度もそろそろ本格的に始まった内地近海鎮守府、通称麻守鎮守府はちょっと困った事になっていた。

 

 早々に複数の正規空母やら戦艦やらを建造してしまった麻守鎮守府は、大本営から建造禁止を言い渡されていた。

 

 同一の艦娘が複数建造された例が無い現状、貴重な戦艦や正規空母といった大型艦を独占されては堪らないというのがその理由である。

 

 この決定に対して麻守はむしろ歓迎さえしていた。戦力は既に過剰なほどであるし、備蓄可能な資源や資材の量とその消費量、それに加えて食費などを考えると、これ以上の艦娘の着任は勘弁して欲しい。

 

 しかし、そのせいで割を食った存在もいる。

 

 他ならぬ工廠の妖精達である。

 

 装備の開発もある程度やってしまった現在、工廠の掃除と機材の維持管理しかやることがない。要するにとてつもなく暇なのである。

 

 艦娘達の肩に乗っかって、諸々の雑事の手伝いをするのもいい加減飽きてきた妖精達が、執務室の麻守の仕事机の上で仕事を寄越せと抗議活動に打って出たのは、必然であった。

 

「しかしですな、こればかりはどうにもならんのです」

 

 言葉を発せない妖精達の抗議活動はなかなかに珍妙である。

 

 必死に手旗信号で抗議のメッセージを伝えようとしている妖精の傍では、複数の妖精が人文字で抗議文を作ろうとぱたぱた動きまわっている。

 

 当の妖精達は真剣そのものなのであるが、見た目がファンシーで可愛らしい為に、いまいち真面目にやってるように見えない。

 

 肝心な抗議内容が伝わらない。そのせいで益々抗議活動に熱が入り、麻守の言葉に何の反応も示さなくなってしまっていた。

 

(果たしてこちらの言葉は通じているのだろうか……)

 

 そんな不安に押しつぶされそうな麻守である。

 

「とりあえず、羊羹でも食べて落ち着きなさい」

 

 妖精サイズに切り分けた羊羹を盛った皿の登場で、あっさり妖精達は大人しくなった。

 

 なかなかに現金なものである。

 

 しかして根本的な解決とは言えず、はてどうしたものかと頭を悩ませる麻守であった。

 

 建造してもこれ以上艦娘を食べさせていくのは鎮守府の懐事情もあって厳しいのである。

 

 そんな渋る麻守を見上げてひとりの妖精が、一枚の書類を麻守の目の前に引っ張り出した。

 

「む、大型建造解禁のお知らせ……?」

 

 妖精の目が訴える。

 

「禁止されたのは建造。だけどね、大型建造は禁止されてないよね。提督、やっちゃいなよ」

 

「……しかしですな」

 

 大型建造は消費する資源・資材が桁違いである。マルの数が一個も二個も多いのである。

 

 今はある程度余裕があるので一度くらいなら問題ないが、先々何があるかわからない為、出来うる限り備蓄しておきたい。

 

「一度だけ、一度だけだから」

 

 そう訴えかける妖精達。

 

 まるで捨てられた子犬のようなつぶらな瞳がうるうると麻守の良心にダイレクトアタックを仕掛けてくる。

 

「大丈夫。私達、失敗しないので」

 

 今回はその失敗しないのが不安なのである。

 

 未だに大型建造でのみ建造可能な艦娘である大鳳、大和、武蔵らの建造報告はない。

 

 大規模反攻作戦の準備もいまや援軍として此方に向かいつつある海外の艦娘の到着と、我が国の決戦の切り札たる大和型姉妹の建造と練成待ちの状態である。

 

「せめて彼女等が余所で建造されるまで待てませんか……」

 

 泣く子と妖精と艦娘には強く出られない麻守が渋面で懇願する。

 

 まるゆ辺りなら大歓迎だが、阿賀野型軽巡の加入ですら苦しい懐事情をどうか理解していただきたい。ましてや大和型を建造してしまったとなれば、あっという間に燃料・弾薬までもが枯渇してしまう恐れがある。

 

「却下です」

 

 妖精さんは非情であった。 

 

「このビッグウェーブにいつ乗るの!?」

 

 「「「「今でしょ!!」」」」

 

 無駄にぴったりな連携プレーで畳み掛けてくる妖精さん達の前に、力無くうなだれた麻守は、大型建造申請書にサインしてしまうのだった。

 

 そうして、何の音沙汰もなく日々が過ぎゆくのであった。

 

 そんな事もあったねと思い出すこともなくなったある日の早朝、麻守は自身のお腹の違和感で目が覚めた。

 

 早朝といえども夜明け前の暗がりのせいで目視確認が困難である。

 

 肌寒いのを我慢して布団を捲り、首を持ち上げ自身の腹部に目を凝らす。

 

 そこには、麻守のお腹のぜい肉と戯れる、工廠の妖精達の姿があった。

 

 ある者達は腹の上で跳躍を繰り返し、この弾まないトランポリンを堪能している。

 

 かと思えば、ごろりと寝転がって、だらしない表情で寝落ちしかけてる者達もいた。

 

 他にもソリのような物に乗って腹から胸元へ続く緩やかな下り坂を滑走する猛者達もいる。

 

 麻守のお腹が、妖精達のレジャー施設にでもなってしまったかのような光景である。

 

 ひとまず、悪乗りした妖精達を一通りお説教した麻守が何用か問うと、例の大型建造が終了したとの報告がなされた。

 

 ひと仕事終えた後の充実感でテンションアゲアゲな妖精達の報告する様子に言いようのない不安を感じた麻守だった。

 

 大型建造の申請書にサインしたのはいつだったか……、あれは確か一ヶ月ほど前……?

 

「……!」

 

 麻守の顔面が蒼白になった。

 

 建造期間が一ヶ月などまさに桁違いではないか。

 

「提督、それは違う」

 

 妖精さんのひとりが麻守の肩によじ登りながら指で示す。

 

 右手の指は三本、左手の指は二本立っている。

 

「さ、三十二日!?」

 

 こくんと麻守の肩に乗ったまま頷く妖精さんは気持ちいいくらいのドヤ顔である。

 

「私達、失敗しないので」

 

「……嘘!?」

 

 そこは失敗しろよ。というか、まるゆを建造してない時点で麻守的には失敗である。それも超弩級の失敗である。

 

 寝間着として着ていた猫さんの柄のパジャマのまま、麻守は部屋を飛び出して走った。

 

 何度も躓きながら、何度も転びそうになりながらも麻守は走る事を止めなかった。

 

 息があがる、脇腹が酷く痛む、お腹が揺れる。

 

 それでも、麻守は必死に工廠までの百数十メートルを走った。因みに直線距離だと麻守の部屋から百メートルもない。

 

 やっとの思いで工廠に辿り着き、入り口のドアノブに手を伸ばす。

 

 ギイという軋むような音と共に開いたドアの先、其処に新たな艦娘が居た。

 

 開いた入り口から差し込むぼんやりとした光が一筋、うっすらと工廠内を照らす。

 

 その光に照らされて、赤みかかった茶褐色、本来はそうらしいがどう見ても鮮やかな赤色の、舵を象ったヒールとバルバスバウを象った丸っこいつま先の脚部艤装が見える。

 

 陽が昇り始めているのか、ゆっくりと工廠内を照らす陽光が明るさを増していく。

 

 左はひざ上、右はひざ下という左右で長さの違う黒いソックス。

 

 赤地に黒い縁取りのミニスカート、上腕部から手のひらの半分まで覆う白い袖。

 

 膝まであろうかという焦げ茶色の長いポニーテールの髪を揺らし、艦娘は麻守へと顔を向ける。

 

 そして──

 

「しれぇ、猫さんのパジャマ、とても可愛いです!」

 

 無邪気な雪風の声が響いたのだった。

 

 何故ここに?と疑問に思うが、そういえば着任後からずっと、決まって建造完了の際は雪風が立ち会っていた事を思い出した。

 

「生まれた時に傍に誰も居ないのは淋しいですから」

 

 思い返せば、雪風の建造完了時には、麻守も初期艦の叢雲も立ち会ってやれなかった。

 

「しれぇ……?では、この可愛いらしい猫さんのパジャマを着たお腹ぽっこり中年男性が、提督なのですか?」

 

 遠い記憶に埋没していた麻守の意識を呼び戻したのは、目の前の艦娘だった。

 

 雪風の声に反応したその艦娘は、あからさまに不審者を見る目つきである。

 

 すぅっと茶色の瞳が細められ、威圧的に麻守を見つめてくる。

 

 一方の麻守はそんな事など華麗にスルーして、目の前の艦娘の今後の事を必死に考えていた。真正面から艦娘の目を見返してはいるが、意識は別の事に向いている。

 

 もう疑う余地も無く、あの大艦巨砲主義の申し子にして最強の戦艦であろう。だとすれば、食べる。とてつもなく食べる。赤城も真っ青なほどの量を食べるのは間違いない。

 

(ああ、本日の朝ご飯、白飯のお代わり禁止にして、おかずも一品増やさないと……。そうだ、漬け物の四号と六号を出せばおかずを増やさずに済むかも……。味噌汁ももう一つ鍋を追加して作らないと足りない恐れが……)

 

 眉間にしわを寄せ、必死に朝食の献立の作戦変更を検討する麻守の表情は、鬼気迫るものだった。

 

 仮にお湯で簡単に作れます的なインスタントでも使おうものなら、赤城と加賀による「食事と士気の関係」という特別講習とお説教と愚痴を延々と聴かされる羽目になってしまうのだ。

 

 因みに量が足りなければ、今にも泣きそうな表情の赤城と無表情の加賀の二人が「お腹が空きました」と空腹アピールを延々と目の前で繰り返すのだった。正直、ウザい。

 

 麻守の表情が益々険しくなる。

 

(この男……、これだけ威圧しても怯むどころか睨み返してくるなんて……!!)

 

 艦娘が顎に手をあて、何やら考え込んでいるが、麻守はそれどころではない。人間、突発的な事案に遭っては自分の事でいっぱいいっぱいなのである。 

 

 二人の間に流れる不穏な空気を察したのだろう。

 

 奥の陽の光の届かない位置に居た雪風がトテトテと麻守に駆け寄って敬礼する。

 

 思考の海に潜りながらも条件反射的に敬礼を返した。

 

「しれぇ、大和さんが先ほど着任されました!」

 

「……大和──」

 

 ぼそりと呟いたきり、麻守は黙りこくったままだ。

 

 麻守のささやかな脳みそは今、必死に皆がお腹いっぱいになる朝食という事案の解決策の思案でフリーズ寸前なのである。

 

「しれぇ、お腹でも痛いのですか?」

 

 ずっと険しい表情の麻守を雪風が首を傾げて見上げた。

 

 チラリと雪風の白い太ももが目に入る。

 

(む、程良く育った大根を思い出しますな……)

 

 そこで、ふと麻守は思い出した。

 

(大根か……。そろそろ畑の大根も畝から首が見えるくらい成長していた筈……)

 

 そして、閃いた。

 

(そうか、大根飯!あれならば葉も使うから量が増えるし白飯のかさましにぴったりですな!!)

 

 そうと決まれば早急に動かねばならない。時間は有限であるのだから。

 

「雪風、すまないが急ぎ畑より大根を根こそぎ穫ってきて欲しい。葉は付いたままで良いから調理場まで運んでくれますかな」

 

「お仕事ですね、しれぇ!雪風、大至急任務を全うします」

 

 敬礼の後に雪風は全速をもって畑へ向かい駆けて行く。

 

 それを見送った麻守が自身の肩の妖精を手のひらの上に乗せ、大和の肩へと優しく乗せた。

 

「貴女が大和ですな」

 

「貴方が提督ですね」

 

 そう確認し合うと、どちらとも無く右手を伸ばし握手を交わす。

 

「ようこそ、我らの鎮守府へ」

 

「大和型戦艦一番艦・大和、着任致します」

 

 二人の顔にニヤリと笑みが浮かぶ。

 

(……朝食は存分に用意する。食べきれるものなら食べ尽くしてみるがいい!)

 

(なるほど、これまで会った提督とは違う様ですね。存分に腕を振るえそうです)

 

 大和の肩の上で妖精が目をぱちくりさせた。

 

(この二人、何か面白い!)

 

「では、儂はこれで失礼する。後の事はその妖精に頼んであります。それから、朝食はマルナナマルマルより食堂で行いますので、それまでに艤装のチェックを済ませておいてくだされ」

 

「了解致しました」

 

 大和の返事に頷いて応えると、麻守は足早に去っていく。

 

 そんな彼の背中には「やってやるにゃ」という文字が並んでいた。そのパジャマ、何処で買ったんだろう。

 

「本当に、この鎮守府でいいの?」

 

 麻守の去った工廠で大和の顔を見上げ、妖精が問う。

 

「構いません。少々備蓄が心許ない様ですが、それは彼の手腕に期待といったところでしょう」

 

 実のところ、大型建造が各鎮守府で解禁される以前に既に大和は建造済みであった。

 

 試験的に行われた大型建造で奇跡的に建造された大和は、自身の存在を正式に大型建造が解禁されるまで秘匿するよう、大本営と話をつけていた。

 

 大和を必要とする鎮守府は多い。それこそ、全ての鎮守府が彼女を欲しがるだろう。

 

 では、大和が必要とする鎮守府は何処であるか。大和を指揮するに足る提督は誰であるか。

 

 大型建造解禁後、大和は妖精達の協力を得て、各鎮守府を巡って提督達と会い、話をしてきた。一種の面接である。

 

 その途中、建造を禁止された鎮守府があると聞き、妖精達の情報網を使ってその鎮守府の提督を調査して貰っていた。

 

「ふふっ、どの鎮守府でもまるで国賓の様な扱いだったというのに」

 

 この鎮守府ではパジャマ姿での応対である。しかも、可愛い猫さんのイラストの。

 

 服装はともかく、物怖じせずに真正面から、大和と向き合った提督は、あの麻守が初めてである。雪風に席を外させて、一人きりになっても、態度が変わらなかった事も着任を決めた大きなポイントだった。

 

「本当に良い提督を見つけてくれました」

 

 大和がどこからか取り出した妖精サイズのラムネを妖精に手渡した。栓が空けてあるそれは、中のビー玉がカチリと音を立てた。

 

「ふふん。私達、失敗しないので」

 

 ドヤ顔でラムネを一気飲みする妖精の姿を頼もしく思いながら、大和は工廠の妖精達に声を掛けた。

 

「さあ、皆さん。艤装の動作確認、各部点検を済ませてしまいましょう」

 

 大和が展開した巨大な艤装の三連装砲や髪飾りの様な電探、大和の頭の上にぞろぞろと妖精達が姿を現した。

 

「目標、一時間。終わり次第アイスクリームを支給!」

 

 ラムネを飲み終えた妖精が命令を下す。

 

 わあっ!と歓声が聞こえそうな程に活き活きと作業に取り掛かる妖精達はキラキラと、とても輝いていたのだった。




今回は妖精さん達がメインでしたー。
あとは麻守鎮守府の着任メンバーに一話ずつ書いてやれればなーと。大井、金剛、高雄、陸奥、雪風、大和で、あと六話か……そうか……。
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