マシュマロ型提督   作:gromwell

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日頃のご愛読ありがとうございます!
そして、お待たせしました!!
ちょっとシリアス物を書いてたせいで完成が遅れたのは秘密です。

SERIO様、第八話の誤字報告ありがとうございました。



第九話『むつみあい』

「それで、どうしてこんな所に連れて来られたのかしら?」

 

 お洒落なカフェに似合わない、少し苛立ちを含んだ陸奥の声に麻守はただただ小さく縮んでいた。

 

 麻守は何時もの作業服ではなく、軍刀を帯びた真っ白な軍装姿。陸奥も何時もの肌の露出した制服ではなく、茜色に金糸でススキが刺繍された、付け下げという着物を着用している。本人曰わく私物らしい。

 

 純白の皿に上品に飾り付けられたガトーショコラを、これまた上品な仕草で口に運ぶ陸奥の姿に店内の客の視線が集中している。

 

 それを気にしてか表情は何時もの通り。ただし、蠱惑的なつり目の翡翠の瞳は少し細められている。

 

 頭部も含めた艤装を全て外した陸奥は外見からでは艦娘と判断出来ない。だからか、先ほどから誰かしらの視線が途切れる事が無いほど注がれているのである。

 

 つい先ほどから視線を此方へ向けている十時の方向の席の男性客へ、すっと視線を走らせると、それに気づいた男性客は少しはにかんだ表情を浮かべつつ、俯いた。

 

 嫌悪感より気恥ずかしさの為だろう。

 

 視線を合わせられない程に、陸奥はこの場において、際立った美貌の持ち主だった。

 

 そうしてそんな彼ら、彼女らが次に視線を向けるのは、ぽっちゃり体型のおじさん軍人の姿である。

 

 どこからか「何でこんな美女と」という怨嗟の声が聞こえた。

 

「まさか不倫!?」との訝しげな声も聞こえる。

 

 最も可能性の高い、仕事上の関係という発想が無いというのは、案外この場の人間はゴシップネタに飢えているのだろうか。

 

 ともあれ、麻守は意を決して、本題を切り出す事にした。

 

 緊張のせいでまるっきり味を感じないコーヒーを一気に飲み干すと、その勢いで言葉を発しようとする。

 

 まるでプロポーズでもするかの様な意気込みから告げられた言葉は、随分と意外なものであった。

 

「実はこれから、お見合いをする事になっている」

 

「お見合い?誰の?」

 

「とある参謀のご子息の」

 

「それで、私まで東京に連れて来られた理由は何かしら?」

 

「君には──」

 

 聞き耳を立てていたカフェのスタッフと客達がゴクリと固唾を飲む。

 

 陸奥は目蓋を閉じて麻守の次の言葉の待つ。

 

「彼の見合いの相手を頼みたい」

 

 その瞬間、麻守と陸奥以外の全員が、見事なズッコケを披露したのであった。

 

 カフェから出た麻守と陸奥はお見合い相手の待つホテルへと到着していた。

 

 ロビーに備え付けられたソファーでひと休みした後に、立派な庭園に面した部屋に通された二人は、何をするでもなく待機していた。

 

「それにしても、こんな時期に何やってるんだか……」

 

「すまん、だが今日さえ乗り切れば、資源・資材がわっほわっほ」

 

「あらあら、資源と資材目当てに部下を見合いさせる気なのかしら」

 

 陸奥がほぅと息を吐いた。

 

「もう、本当にいきなりお見合いだなんて……どういう人選なのかしら」

 

「むう……」

 

 二人で陸奥以外のお見合いの光景を想像してみた。

 

「ふむ、少し鍛え方が足りないな。よし、この長門が立派な軍人に鍛え上げてやろう!」

 

 駄目だ、ただの鬼教官と訓練兵の会話しか思い浮かばない。

 

 北上と大井は論外だろう。面倒くさそうにあしらう北上と、その場にすら現れないであろう大井の姿が容易に想像できた。

 

「貴方の将来設計、ぱんぱかぱーん」

 

「その程度で私をお嫁さんに?莫迦めと言って差し上げますわ!」

 

 あれで結構、現実を見てる愛宕と高雄はそれなりの人物でない限り、始めからお断りオーラ全開で相手の心を折りにいきかねない。

 

「テートク、ワタシにお見合いしろとは何事デース!?」

 

 論外である。お見合いの話をした途端に金剛はブチキレそうである。麻守の命が危ないかも知れない。

 

「お見合いね。鎧袖一触よ、心配いらないわ」

 

 加賀は相手の方が心配である。容赦ない言葉と冷たい視線の波状攻撃で心を粉々に粉砕しかねない。

 

「はむ、あむ、ごくん。なかなか美味ですね、上々です。あ、食べないのなら頂けますか?」

 

 赤城は……、ひたすら食事に集中しているか……。

 

「貴方はいったい何をしているのですか!?こんな所でお見合いなどしている暇があれば訓練なさい!慢心、ダメ、ゼッタイ!」

 

 軍人モード全開でお説教のどちらかだろう。なお、軍人モードの赤城は正論を的確にぶつけてくるので面倒くさい相手だったりする。

 

 雪風は論外である。見た目からして幼過ぎる。Yesロリータ、noタッチの精神である。

 

 大和は着任の経緯を鑑みるに、見合い相手を自分で勝手に見つけて来そうである。勿論、本来の相手は放置で。

 

「……」

 

「……」

 

 見事に適任者が居なかった。

 

「何というか、納得したわ」

 

「う、うむ、よろしく頼む。会って話をするだけで構わないが、その……」

 

「わかっているわ」と陸奥が首を振った。

 

「穏便にでしょう?それから断ることが前提という雰囲気は出さない事も、ね?」

 

「ああ、お見合いではあるが、所謂演習の様なものだと考えて欲しい。彼に気に入られても、彼を気に入ろうと結婚という事は現状あり得ないのだから」

 

 未だ、艦娘の扱いについては法律の整備が整っていない事もあり、鎮守府や泊地からの外出は基本的に禁止と軍で取り決められている。

 

 仮に犯罪に巻き込まれてしまった場合の法的措置が出来ないのだ。

 

 今も、国会では艦娘についての法案が取りまとめられつつあるが、施行にはどれほどかかるか分からない状況である。

 

 そういう事情であるので法的に艦娘との結婚というのは認められていない。

 

 艦娘にとっても人間の男性というのは軍の関係者と数人しか面識がない上に、大抵は既婚者である。恋愛の対象となり得る男性の数が少な過ぎる。何より、かつての軍艦としての魂からか、色恋というものは、あまり身近なものと感じていない者が多い様子である。

 

「憧れが無いわけではないが、それが我が身の事となると想像出来ないな」というのが恋愛に関して語った長門の言葉であった。

 

 陸奥にしてみても、恋愛を描いた小説やテレビドラマなどに共感するところはあれど、さて自分は?となれば首を傾げるばかりである。

 

 麻守とそんな関係を望むかと問われれば、首を横に振るだろう。

 

 決して麻守が嫌いな訳でも、麻守に魅力を感じない訳でもない。

 

 それなりに敬愛しているし、信頼もしている。そもそも、そうでなければ、とうに勧誘されるまま、余所の鎮守府へ異動している。

 

 (それに、そういうのとは少し違うのよね)

 

 艦娘は人間とは違う。生物的な繁殖に対する欲求は皆無と言っていい。

 

 そういった男女の睦み合いという事を行うとすれば、それは親愛の情や絆といった精神的な結びつきを確認し合う為の行為であって、子を望んだものではあるまい。

 

 そこが艦娘と人間の女性が決定的に違うところであると陸奥は思う。

 

 人類を、国家を守る為とはいえ、艦娘が行っているのは戦闘行為。いわば破壊行動である。

 

 それに対して人間の女性はどうか、自身の胎内で愛する異性との子という生命を育て産み落とす。

 

 そういった意味において、人間の女性は艦娘とは対極の存在である様に感じていた。

 

 艦娘に生殖能力があるのか不明であるが、陸奥は自身が子宝に恵まれることはないだろうと思ってる。

 

 そういった事をぼんやりと考えているうちに、襖が開き麻守とお揃いの軍装を纏った男性が部屋に現れた。

 

「横須賀鎮守府所属、 久蘇 定徳(くそ さだのり)大尉であります」

 

 直立不動で名乗った久蘇が敬礼する。見た目は二十歳前後というところか。階級は本人の実力か、はたまた親の七光りによるものか。

 

 立ち上がった麻守が敬礼を返し、陸奥は深々と頭を下げた。あくまで一般女性を演じる為である。

 

 ちなみに麻守は久蘇に陸奥の事を福島 睦子(ふくしま むつこ)という偽名で紹介していた。あくまでも艦娘である事は伏せておく気らしい。

 

 お互いの自己紹介が済んだところで、庭園へと移動した。

 

 自然と久蘇が陸奥の三歩先を進み、エスコートする形になる。

 

 時折、辺りを窺う様にゆっくりと首を巡らしながら庭園内に設置された長椅子とテーブルへ歩みを進める。

 

 背後には池が広がり、周りは樹木や垣根が囲むように配されている。

 

 陸奥が長椅子に腰を下ろした後に、久蘇は陸奥の許可を得て隣に座った。

 

「突然の見合いの話に随分と驚かれた事と思います」

 

「ええ、本当に。つい先ほど聞かされたばかりで、戸惑っているわ」

 

 陸奥を挟んで久蘇の反対側にしれっと座る麻守を睨みつけて、陸奥は特別嫌みったらしく言った。麻守は知らん顔で庭園を眺めていた。

 

「申し訳ありません。私の都合を押し付けてしまいました」

 

 「気にしてないわ、貴方もいきなりの話だったんでしょ?」

 

 陸奥の指摘に久蘇が目を見開いた。どうやら図星だったらしい。

 

「相手に変に気を使って、自分を貶めるのは感心しないわね。あ、これはお姉さんからの忠告よ」

 

「は、はぁ……」

 

 陸奥のウィンクを交えた言葉に曖昧に頷く久蘇だったが、その言わんとするところは理解した様子だった。

 

(ふーん、なかなか素直じゃない)

 

 この見合いを仕組んだ、どこかの誰かさんはよりもずっと純粋で扱い易いだろう。

 

(さて、このまま食事でも出てきて「ハイお終い」という訳にはいかないわよね)

 

 久蘇の世間話に耳を傾けながら陸奥は思考する。

 

 成立しない事が前提のお見合い、一般女性を装った艦娘。このお見合いの目的はいったい何なのだろう。

 

(何か裏があることは間違いない)

 

 何やら策謀の臭いがする。

 

 ジロリと麻守を睨むとついっと顔を逸らした。やはり何かあるようだ。

 

(さあて、此方が釣った側かしら、それとも釣られた側?)

 

 陸奥は庭園の人が潜めそうな場所へ視線を巡らせる。もはや呑気に久蘇の話など聞いちゃ居なかった。

 

「福島さん?」

 

 訝しげな久蘇が陸奥の肩に手を置こうとした瞬間──

 

「……む!」

 

 突然、麻守がテーブルを蹴倒した。

 

 驚く間もなく陸奥はその陰に久蘇を引っ張り込んだ。

 

 直後、銃声が響いた。

 

「ちょっと、聞いてないんだけど?」

 

 こめかみをピクピクさせた陸奥が屈んだ麻守の胸倉を掴んだ。反対の手は久蘇の背中を押さえて、その体勢を低く保っている。

 

「む、こんな簡単に引っかかるとは思わなんだ」

 

 奇襲に失敗した襲撃者に向かって、どこからかわらわらと出てきた憲兵の腕章を付けた男達が突撃していく。

 

 既に包囲された襲撃者は、それでも必死に逃れようと大立ち回りを演じていた。

 

「あ、あのまさか、この見合いは……」

 

 久蘇が恐る恐る麻守へ訊ねる。

 

「餌ですな。君のお父上と対立している者からの刺客に対する」

 

 まさか、本来の襲撃計画を破棄してこの餌に食いつくとは思わなんだと、麻守は苦笑した。

 

「そんな、睦子さんまで巻き込んでですか!」

 

 陸奥を一般女性と思い込んだままの久蘇が麻守に掴みかからんばかりの怒気を発して抗議する。

 

 囮を使うにせよ、やり方があったはずである。

 

「仕込みの時間が有りませんでしたからな。奴らの襲撃計画が実行される前となれば、今回の策しかありませんでした」

 

 無防備な状況でのお見合いとなれば、久蘇の殺害が容易であると判断したのだろう。最悪、失敗しても相手の女性が危険に晒されたとなれば、それはそれで彼の父親である参謀にとっての痛手になる。

 

「くっ……」

 

 上層部が一枚岩で無いことは久蘇も承知していたが、敵対する相手の身内を襲撃する事までは想定していなかったのだろう。

 

「申し訳ありません。貴女を危険な目にあわせてしまい……」

 

 久蘇が額を地面に擦り付けるように頭を下げた。

 

「私の事は気にしないで、途中からどうせこんな事だろうと予想してたから」

 

 久蘇の頭を地面から離すと陸奥は胸元から取り出したハンカチで、汚れた久蘇の顔を拭いてやる。

 

 この時、陸奥も麻守も油断していた。襲撃は失敗に終わったと思い込んでいた。この襲撃が陽動だという可能性に考えが至らずに……。

 

 久蘇が僅かに目を見開いたかと思うと陸奥の身体に腕を伸ばした。

 

「ちょっ──」

 

 抗議の声をあげる間もなく陸奥は地面に押し倒された。そのまま馬乗りに、久蘇の身体が覆い被さってくる。

 

「やだ、放し……!」

 

 そこで陸奥は異変に気付いた。

 

 脱力した久蘇の身体を押しのけようとして掴んだ、彼の右腕がぬるりとした液体に濡れていた事を。

 

 鼻腔を鉄の臭いがくすぐった。

 

(銃声はしなかったはず、だったら消音装置か遠方からの狙撃!?)

 

 素早く体勢を変え、今度は陸奥が久蘇に覆い被さる。

 

 引きちぎった袖で久蘇の右上腕部を縛り、応急手当てを施した。襦袢の袖まで引きちぎってしまったが、気にしている余裕は無い。

 

 近くに居たはずの麻守はテーブルの陰から飛び出て、憲兵達に何やら指示を出している。

 

 この無防備な状況を襲撃者は逃さなかった。

 

 いつの間に近づいていたのか、テーブル近くの垣根から男が飛び出した。

 

 手には消音装置が取り付けられた拳銃が握られている。

 

 銃口は腕の痛みに呻く久蘇を庇うように立ちふさがる陸奥へと向けられていた。

 

 外しようの無い至近距離、襲撃者は成功を確信したのか口元に薄ら笑いを浮かべた。

 

(甘いわねぇ、色々と)

 

 陸奥は自身の油断と、勝ち誇った襲撃者の滑稽さと、そして自分を庇った久蘇を嘲笑する。

 

(お生憎様、私は──)

 

 艤装を緊急展開する。瞬く間に陸奥の身体は無骨な鉄塊に包まれた。

 

 基部が稼働し、左舷の四十一センチ連装砲二基、四門が襲撃者に向けられた。

 

「艦娘なのよね……!!」

 

 ──こうして、今度こそ久蘇大尉襲撃事件は幕を閉じたのであった。

 

「はぁ……」

 

 ところ変わって襲撃事件から数日後の麻守鎮守府。

 

 そこには執務室のソファーに突っ伏して溜め息を吐く陸奥の姿があった。

 

 襲撃事件そのものは、その後に首謀者も含めた犯行グループ全員が逮捕されて解決したものの、久蘇大尉に怪我を負わせてしまったことが問題になっていた。

 

 いくら陸奥が艦娘とは知らなかったとはいえ、それを庇って怪我をした以上、麻守と陸奥の落ち度である。

 

 その処分が本日、言い渡される事になっていた。

 

 顔を上げた陸奥が、相変わらずのほほんと書類を捌く麻守を恨めしそうに睨んだ。

 

「……ん、そろそろですな」

 

 そんな陸奥の視線をガン無視して、麻守は書類から手を離した。

 

 数回のノックの音に向かって麻守が入室を促した。ガチャリとドアが開く。そして──

 

「久蘇 定徳大尉、内地近海鎮守府へ提督見習いとして着任致しました!」

 

 頭を下げ、元気な声で挨拶をする件の人物の姿があった。

 

 麻守と陸奥への処分は、どうやら彼を鍛え上げる事らしい。

 

「な……!ちょっと……、えぇぇ!?」

 

「宜しくお願い致します!!」

 

 陸奥の戸惑う声と久蘇大尉の声が麻守鎮守府に響き渡った。




色々詰め込んだ結果、こんなんなりました。
予定外ですよびっくり!
新キャラの久蘇 定徳大尉は名前こそこんなんですが、イケメン風味なイメージです。どうなんだろ?ちゃんとイケメンしてるかなぁ?
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