「またですか……。あなたたち、一体何をしてるんです? って学長!」
あの後、さらにミラとカムイ学長を保健室に運び、医者に頭を抱えられたが、その日は解散となった。
後日、カムイ学長が一番に目を覚まし、ソウマとミラが眠っていることから、状況を把握する。
ルールに基づき、生徒会長はザックに決定した。
副生徒会長として、ミラ、補佐役にソウマ、クライヴはそれに近い形となった。
さらに決闘から三日後。
シャケノボリ記念講堂では、茶熊学園に在籍しているほぼ全員が集まっていた。
人間や、獣族、魔族、海人族といった様々な種族がこうして集まると圧巻だ。
月に一度の全校集会である。
「それでは続きまして、生徒会の発表を行います。新生徒会長になったザックさん。一言お願いします」
「はいよ」
ザックは名前を言われ、ステージに上がる。
「えー、このたび生徒会長になりました。ザックです! 宜しくな!
入っている部活は軽音部だ。入部者募集中だから、どんどん入部してくれよな! 一緒にバンドやろうぜ! 以上だ」
ザックのほぼ部活の勧誘挨拶が終わると、講堂内にパチパチと申し訳程度の拍手が響いた。
それでも、ザックは一部の女子に人気があり、多少なり黄色い声もあがっていたようだが。
「え、以上ですか?」
「おう、特に言うことなんてないぜ」
カムイ学長は予想以上に挨拶が短かったので、補足をする。
「ま、まあいいでしょう。生徒会には特別生のクラスより、生徒会長にザックさん。副生徒会長にミラさん。補佐・代理役にソウマさん、クライヴさんが入りました。以後、この学園の方向性、取り決めなどを生徒会中心に行っていきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
ご意見などもありますでしょうから、そのときは遠慮せず、新しく出来た生徒会室に来てくださいね。
えー、続きまして学長挨拶。あ、わたくしですね」
カムイ学長はそう言うと、ほとんどの生徒がぞろぞろと講堂を後にした。
「あ! ちょっと、帰らないでくださ~い! 今日は10分で終わらせますから~!」
と、こんな具合で全校集会は終わる。
茶熊学園には新たに生徒会室が設けられ、生徒会のメンバーは主に放課後、そこで執務をおこなうこととなった。
全校集会があった日の放課後に早速、生徒会メンバーは生徒会室に集まっていた。
ザック、ミラ、ソウマ、クライヴの4人である。
生徒会室とは名ばかりで、特に華やかな部屋ではなく、広さは教室の半分ほどで、部屋の中央に長テーブルが置かれ、端にはホワイトボードが設置してあるだけの殺風景な部屋であった。
「まさか、シスターさんに負けるなんてな。俺もまだまだだ」
ソウマは8人がけの長テーブルにつきながら、やれやれとため息をついた。
他の3人も同じようにテーブルにつく。
「あら、あたしは負ける気しなかったけどね」
「みくびってたよ。まったく……」
「あ、そうそう、園芸部室のもやしの世話してくれたの、あんたでしょ? それは礼を言っとくわ」
「ああ。気にしないでくれ。なかなか面白かったよ」
「あんた園芸部に入りなさいよ」
「いや、やめておくよ……なんかあの部屋、気が滅入りそうだし……」
「なあ、今日ってこのあとどうするんだ?」
クライヴは自身の眼鏡の手入れをしながら、今日の仕事を確認する。
「さあ? まあ最初だし、適当に過ごせばいいんじゃねえか? それよりお前ら、楽器やらねえか? ベースとドラムがまだいなくてよ」
「あたしがこんなのに負けるなんて……。きーっ! 次は絶対、生徒会長になってやるわ」
「なあミラ。お前なんでそんなにやる気満々なんだよ」
「あたしには、やらなきゃいけないことがあるのよ。魔術ギルドの資格もできれば欲しいし、『副』生徒会長じゃだめなのよ!」
「まあとにかくだ。これから忙しくなるぞ。各自部活動もあるだろうけど、頑張っていこう。なんというか……、生徒会長と副生徒会長さん、サボるなよ?」
しかし、ソウマの不安は現実のものとなった。
それから、2週間後。
生徒会室は書類でいっぱいになっていた。
「うわ! なんだこの書類の山は……」
見回りから戻ったクライヴは生徒会室のありさまに目を丸くする。
「クライヴ先輩! 頼む、手伝ってくれ!」
ソウマは書類を1枚1枚見ながら、焦っていた。
「久々に来てみたらこれかよ……」
「ほんとだよ。俺も久々で、びっくりしたぜ」
「お前は久々じゃダメだろ! って起きろミラ!」
「ふにゃ?」
「クライヴ先輩。とりあえず、こいつらを見てくれ」
クライヴはソウマから書類を受け取ると、どうやらそれは各部活動の部費申請書であった。
「なるほど。不公平がないようにその部活にあった予算を決めなければいけないのか。こっちの束は? どれどれ、生徒の悩み相談……か。ミラとザックはこれを頼む。解決できそうな問題とそうでない問題。急を要する問題とで仕分けをしておいてくれ。こっちの難しいのは俺らがやるから」
「へいへい」
「お前たち、今日は帰れると思うなよ?」
「そんな!」
ザックとミラは悲鳴をあげる。
「当たり前だろ。どんだけサボってたんだよお前ら……。って、軽音部、部費高すぎだ。却下」
「何を言ってやがる! 楽器とか高いんだよ! 仕方がないだろ!」
「ちょっと! 園芸部の部費3000ゴールドって何よ!? 一桁足りないんだけど!?」
「園芸部はそんなもんだろ」
「あんた、今度から背後に気を付けることね」
「む! 新体操部はこれでは少ないのではないか? もうちょっと色を加えてあげよう」
「クライヴ先輩! 贔屓してる! ひでえ!」
「……」
ソウマは色々な意味で頭を抱えていた。
そしてさらに、ザックは何か思い出したかのように席を立った。
「いけね! 今日新入部員が入ってくるんだった! 挨拶しねえと! というわけだから、悪い! みんな。明日からちゃんとやるから。じゃあな!」
「おい! まて! あいつめ……」
ザックは仕事を放りだし、そそくさと行ってしまう。
「ふう。ちょっと、息抜きしてくるわ。すぐ戻ってくるから。何か飲み物でも買ってきてあげるわよ」
「そうか。悪いな。俺はアイスコーヒー。ソウマはどうする?」
「ん? あ、じゃあ俺もそれで」
「わかったわ」
それが、ミラの本日最後の言葉となった。
生徒会室の扉が勢いよく開かれたのは、それから数分後であった。
「おい、ノックくらいしたらどうだ。って、ソフィ殿!」
「いきなりすみません! 皆さま、校庭でモンスターが暴れております! 力を貸して頂けないでしょうか!?」
「なんと! ソウマ。ここは風紀委員として、俺が行ってくる。後は頼む」
「え!? ちょ、クライヴ先輩!」
ソウマの悲鳴もむなしく、「安心してくれ!」と言葉を残し、クライヴは行ってしまった。
そして、生徒会室は大量の書類を残し、ソウマだけとなった。
ソウマは大きくため息をつき、開けっ放しのドアを閉めるため、席を立った。
ドアを閉めた後、ついでに空気の入れ替えをしようと窓際に行き、窓を開けて、夕焼けに染まる空を見上げた。
(できることから一つずつやっていこう。どうしても駄目そうなら学長先生に相談だな)
眼下でモンスター達と戦っているクライヴとフランを眺めながら、ソウマは一つ気合を入れた。
本当は生徒会長になってそれゆえの景色を見たかったのだが、人生思い通りには決してならないとあのシスターさんに思い知らされ、そして意外な結末も待っているということをザックに教えられ、ヴィルフリートには自分の夢を改めさせられ。生徒会長にならずともソウマは沢山の得たものがあったといえよう。
ソウマ自身もそれには気付いており、思い通りにならなければ、その原因を考えるのも学園生活の楽しみでもあった。
「よし」
ソウマはその日、徹夜をした。
◆
生徒会は相変わらず、忙しい毎日であった。
ついには、ザックとミラは完全に生徒会に来なくなり、実質、ソウマとクライヴで仕事をこなす毎日となっていた。
カムイ学長はさすがにこれではまずいと思い、策をうった。
次期新入生候補はすでに決まっており、とある一人の人物に手紙をだしていた。
『シャルロット・フェリエ』である。
ルクサント王国の‘元’御子である彼女は、冒険者ギルドで優秀な評価を得ているのと、辞めてしまったとはいえ、御子であったゆえのカリスマ性。騎士として申し分のない実力。そしてなんといっても惹かれるのはその容姿だった。
パッチリとした瞳に、金髪のショートカット。女性でありながら昂然たる立ち振る舞い。
学園の看板娘としても納得がいくものであった。
本人の住所は分からないので、ギルドに依頼をする形となったが、シャルロットがギルドで依頼を受ける際に、メッセージを預かっていることを窓口経由で知らせることができる。
数々の実績とビジュアルを評価したカムイ学長だったが、性格に問題が発覚するのは、もう少し後の話である。
一方で、地道に生徒会の仕事を全うしたソウマには特別に、学長のツテで魔術ギルドのブロンズライセンスが与えられた。学長も容易な判断で生徒会長を決めてしまった事に少なからず反省したのだろう。
途中で仕事を投げ出してしまったミラは、独自に布教活動をしているようだ。
悪魔という種族の性質上、仕方のないことなので、カムイ学長も目を瞑っている。
第1期生による今回の生徒会騒動。
生徒会長、副生徒会長共に、性に合わず失脚という残念な結果となった。
しかし、学生達はその仮定において、大いに経験値が得られたに違いない。もしまた問題が起きても、学生達は今回の反省を生かして、学園を正しい方向に導いてくれることだろう。と、カムイ学長はあくまでもポジティブに考えた。
時期が来れば、第2期生が入学し、色々なイベントが催されることとなっている。
世界各地から屈強な冒険家が入学してくるにあたって、また、様々な人間関係が築かれ、衝突や摩擦が生じるかもしれない。
そのうえ、今度はもっと厄介な事件が発生するかもしれない。
しかし、茶熊学園の生徒達ならきっと、いや、必ずや事態を解決できるはずだ。
茶熊学園。
冒険家のための冒険家育成学校。
歴史はまだまだ浅いが、これからの発展に注目していきたいところである。
-了-
<茶熊学園の歩み>
―第1期生の生徒会長騒動―
著:カスミ・アサミヤ (茶熊学園第2期生)
つっこみどころ満載ですが、ご読了ありがとうございました!