涙の在処   作:みくてく

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想定よりも少々長くなりそうなので、2話を分けて投稿することにしました。話はまだ盛り上がりませんすいません。


2話(前編)

 感情を無視して言えば、正しい選択であると理解はできる。

単純に住む場所の問題だ。

今現在、村で余っている家屋はなく、自分の家は過去4人住んでいたが、今は自分ひとりだ。

家に一人居住者が増えたところで、スペース的には全く問題にならない。

繰り返すが、感情を無視すれば、だ。

 

 いや、そもそも感情がどうだというのも自分の青臭い言い訳であって、自分が拾ってきた以上、自分が面倒をみる、というのは至極当然の事で、たとえ相手が年頃の女性で、自分が年頃の男だろうが、そこは通すべき筋――

 

「――――」

 

 大きく息を吐き出し、ボリボリと頭を掻いて、何度目になるかわからない思考のループからどうにかこうにかぬけ出す。決まったものは仕方がないのだ。

 

 

 

 結局、モーリスが拾った少女ヘズは、街にいくまでの間モーリス宅に住むことになった。なので、面倒もモーリスが見ることになった。実にシンプルである。

一時的にとはいえ住むことになったので、村の住民への挨拶もする必要があるが、今は病み上がり…というか本当に治っているのかどうかも定かでない状況なので、とりあえず明日、可能であれば村の集会でも開いてヘズを紹介することになった。

 と言っても、その挨拶も今日のうちにほとんど終わってしまったと言ってもいい。

村長が家を出た後、入れ替わるように入ってきたトバルが原因だ。遅かれ早かれこうなることはわかっていたが、実に早かった。

トバルは入ってくるなり

 

「お嬢さん、おれの心はあなたの美しい黄玉の瞳撃ちぬかれました。…どうか!君の笑顔で、ずっとおれを支えてくれないか…!」

 

 と、よくわからない言葉で、おそらく口説こうとしていた。どうすれば初対面の人間にそこまでウザったらしい言葉をかけられるのか研究の余地すらありそうだが、ナンパの結果は当然のごとく

 

「あの…ご、ごめんなさい」

 

という控えめととるべきか、理解が追いついていないと取るべきか、単にドン引きしていると取るべきかはわからないが、ともかく見事に拒否された。

 

「はは、そうだねそうだね。それはしょうがない。なにせ僕たちはまだ出会ったばかりだからね。…ところで君、夢で僕と会ったりしてない?」

「いえ、すみません…」

 

 一人称が変わっているのもそうだが、夢の話まで持ち出すあたり、意外と効いているのだろうか。とはいえ、このまま放っておくと、いつまで続くかわからない。

 モーリスはトバルの首を無言で押さえつけて、ヘッドロックに移行し、そのまま家の外まで引きずろうとしたが、トバルはなんとか抵抗し、

 

「待て、待ってくれ!痛い、痛い!もう少しソフトな連行の仕方をしてくれ!頼む、痛い!」

 

と必死に懇願した。とはいえ、ここでしょうがない、とは言えない。

 

「流石にお前ぐらいの大きさになると、これでしか運べない。運がなかったな」

 

無慈悲な宣告と共に、彼はついに追い出された。

 

「来るならせめて明日以降にしろ」

 

そう言ってトバルを解放したあと、一旦は静かな時間が流れたものの、トバルによってヘズの存在が一瞬で村の住人に伝わり、収穫が終わって比較的暇な住人達が押し寄せてきた、という次第である。

 そういうことで、人だかりが消える頃には月光が煌々と降り注ぐ夜になっていた。

ヘズも住人の問答から開放されて、少しは落ちついたのか、ほぅ、と息を吐いた。

 

「飯は食えるか」

「あ…はい、料理ならわたしが――」

「いやいい。あんたはうちの客だ。客の飯は家人がつくる。それが礼儀だ。食えないものはあるか」

 

 モーリスは囲炉裏の上に藁を敷いて薪を置き、火をかける。

 

「いえ、とくには」

 

もともとは世話を焼く側の性格なのか、あるいは数少ない自分の取り柄ぐらいは役に立ちたい類なのかはわからないが、少々居心地が悪そうではある。

が、この村で料理というほどのものは作れない。そもそも調味料がない。せいぜい食べやすいサイズにして、焼いたり茹でたりするぐらいだ。

鍋に水を入れ囲炉裏の上に掛ける。ずっと視線を感じる。今この家にはモーリスとヘズしかいないので、視線の主は必然的にヘズということだ。

 

――この女は、見えない。

 

 と、モーリスは思う。むろん、目が見えない、というわけではない。

意識を取り戻してからの彼女は、つねに懦弱だ。自分を見ぬものには目を向けられるのに、自分に対する瞳からは必ず目をそらしている。

 それが意図することは、少々わかりにくい。大雑把にいえば何らかの罪を感じているのだとおもわれるが、視線に対する忌避はモーリスだけでなく、村の住人全員に対してそうであった。

全員に対してそうである、ということから想像できることがあるとすれば、人ではなく状況に対する恐怖だろうか。自分が生きていることに対する忌避感や絶望感を何らかの経緯で感じている――そう考えると少々合点がいかないわけでもない。

 たとえば、彼女はここからかなり遠い都市の出身で、名家の出身であるとする。不自由なく暮らしていた彼女であるが、とあることが原因で罪に問われた。その結果として街を追放される形になり、ここに流れ着いた。

 大筋としては有り得ないことではない。ただし、罪として追放されるにしても一人で放り出される、というのは考えづらい。すくなくとも彼女についていたであろう媵臣(ようしん)――平たく言えば彼女の身の回りの世話をするものだが――は共についていくことになるだろうし、家の規模によってはそれもかなりの人数になる。

 

 考えているうちに、夕飯が出来上がった。山菜と鶏卵の雑炊である。卵は昼間に顔をみせた住人が気前よくくれた。言うまでもないが、村が出せる食事としてはこれでもかなり贅沢な方だ。彼女にとっては粗食かもしれないが。

 雑炊を椀についで彼女の前に置く。

 

「不味いだろうが、食っておけ。この村ではこれ以上の飯はでない」

 

自分の分も椀についで、顔の前で手を合わせた後、十字を切ってから頂く。いつもの癖のようなもので、別に他意はなかったのだが、どうやらこの行為は彼女にはそれなりの意味合いがあったらしい。

 

「あなたも、彼の方を信仰されているのですか…?」

 

 あなたも、という言葉をどう捉えるべきか。モーリスは彼女の形がぼんやりとではあるが見えてきたように思える。

言葉によって人の形が見えるということは、それが彼女の中で大勢を占めるものであるということだ。

 

「俺は神の教えだとか、そういう難しいことは知らないが、人が死ぬということは知っている。死んだ奴がこれで救われるかはわからないが、俺自身がその死から少し、離れられると思う。だから死ぬときは、必ず祈る。これを信仰というなら、そうなんだろう」

 

 もっとも、この在り方はトバルに教えてもらったものだ。昔は――いや、今でも自分はトバルにとっては目を離せないほどに弱い存在なのだろう。あの男にはなんだかんだと世話になっているし、信頼している。その言葉が何も通らなければ、モーリスとしてはお手上げだった。

 が、一応なにか思うところがあるのか、彼女は黙考している。モーリスとしても特に続ける言葉もないので、黙々と食事を進めるしかない。それよりも、雑炊が冷めきる前に食べてしまったほうが良いと思うのだが、一向に食事に手を出す気配がない。

 

「…あの、もう少し聞いてもいいですか」

 

 なんともわかりづらい言葉である。貴族というものが、こういうしゃべり方なのかもしれないが、いちいち言外に含みを持たせて来るのはまどろっこしいことこの上ない。

 

「構わないが、先に飯を食え。余計にまずくなる」

 

 そこではっとしたのか、ようやく食事をし始めた。が、一口で動きが止まり、こちらを見て

 

「あの、お塩などは…」

 

と、実に切実な願いを口に出した。無論、答えは一つである。

 

「この村に塩なんて高価なものはない」

 

 まあ、過度に味付けのされた街の料理に慣れていれば、そう言いたくなるのも仕方がない。が、この村にいる以上は受け入れてもらわなければならない、残酷な現実である。諦めてもらうよりほかない。

 

「外で少し顔を洗ってくる」

 

 水はなくもないが、気を効かせたつもりであった。まずいと思うものを人に見られて食べるのは辛い気がしたのである。しかも作った張本人であるからなおさらだ。それになんとなく外に出たい気分でもあった。

 

「まぁ、なんだ。食っておいたほうがいいとおもうが、無理なら残してもいい。あとで俺が処理する」

 

 一応、モーリスなりに出来る限りの気は回しつつ、出る前にちらりと彼女のほうを見ると、真剣な面持ちで目の前の料理と睨み合っていた。

 




はい、言い訳をします。
もともとこのSSは4万文字想定で作っていたのですが、1話で半分以下に端折ってしまったので、2話の長さがちょっとめだっちゃうかなァ、と思った結果2話を分けて投稿することにした、という次第です(´・_・`)

きっと次の話でファンキルっぽさがやっと出て来ると思うので許してくださいなん
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