オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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前回より文量多めです。


第二話 一揆前夜

昭武たちにとってついにありがたくない日がやって来てしまった。

松倉山には数百、いや数千の人々が集まっていた。その全てがこれから松倉の町から今回の一揆の目的である、飛騨最大の豪族姉小路良頼の居城、桜洞城で殺し合いをする。

昭武は今まで平湯村にやってくる商人達から様々なことを聞いてこの世を少しは知っているつもりではあったが、それは誤りであったことを知った。

 

「すげえな優花。これが一揆か」

 

「武兄い…こんなに多くの人が殺し合いをするんだよね……。怖いよ…」

 

昭武はまだ感心する分まだマシだったが優花の場合はうずくまってガタガタと震えていた。

 

(優花は弓に優れているからオレよりも平気かと思っていたから意外だ。…いやこれはむしろ優花の性質によるものだな)

 

「優花。オレだって怖いし恐ろしいと思っている。でも賽は投げられたんだ。腹くくって戦うしかねえよ」

 

昭武は南蛮の偉人の言葉を持ち出して優花を励まし、もとい自分を奮い立たせる。

 

「うん」

 

それが効いたかわからないがとりあえず優花の震えはひとまず治まった。

 

「さて、親父の代わりに指揮するやつって誰なんだろうな」

 

優花を励ました後、昭武は指揮する人を一目見るため人混みの中を探し回る。

 

(オレらを指揮するということは実際、オレたちはその人に殺されるということになりかねない。せめてどういう人物なのか見ておきたいな)

 

「すいません、総大将はどこにおられるか知りませんか?」

 

「ああ、あの方のことか。いいとも案内してやろう」

 

昭武は村長格の人に連れられ山の頂に場違いに設営されていた陣幕にたどり着く。

 

「さて着いたぞ。あの方はとても優しいお人だが、くれぐれも粗相をしてはなりませぬぞ」

 

「承知した」

 

昭武は村長格の人に会釈をして陣幕に足を踏み入れる。

踏み入れた先には白幕が張られているため至って質素であるが昭武は不意に足を止めていた。

そこでは少女が一人きりで床机に座り、軍略書を読みふけっていたのだ。

綺麗な黒髪をポニーテールにして、姫鎧を華奢なその身にまとっている。

昭武は姫武将というものをこの時初めて目にするのだが、彼女は昭武の想像と違っていた。昭武は姫武将といえば男勝り、あるいは優花のような活発な女性がやるものだと思っていたのだ。

しかし目の前の姫武将は将にしてはあまりに儚げな容姿で違和感を感じる。だが昭武は容貌で判断するのは愚か者のすることだと弁えている。

雷源の話ではこの総大将は昭武たちと同じ年にして博覧強記として名高く、その智謀は隣国の美濃の斎藤道三に比するらしい。

 

(まぁそんな優秀な人間なら優花同様姉小路領一帯に名が知られていてもよさそうなのだが……)

 

しばらく見ていると総大将が昭武に気づいて会釈する。よくよく見たら優花に勝るとも劣らないくらいに整った顔立ちをしていて、昭武は内心驚いた。

 

「来ていただいたのに、無視してしまいすいません。わたしが此度の一揆の総大将を務めさせていただく琴平桜夜です」

 

「ああ、オレは熊野雷源の息子、星崎昭武と申す。以後お見知りおきを」

 

「まぁ、あなたが雷源様の……。雷源様にはいつもお世話になっておりまする」

 

「父とはどういったお知り合いで?」

 

「わたしは雷源様の菩提寺の尼見習いです。仏の道を学ぶ傍らで雷源様のお造りになられた学び舎で軍学を習いました。そしてその縁で此度の一揆の総大将に推されましたのでお受けしました」

 

「そうでしたか……」

 

「それはそうと星崎様、何の御用でわたしの陣まで来ていただいたのですか?」

 

「いや、さしたる用などありませぬ。ただ一目貴女を拝見したかっただけにございます」

 

「そうでしたか。わたしも星崎様に会えて嬉しいですよ」

 

そう言ってにこっと年相応の可愛らしい笑顔を桜夜は浮かべる。この笑顔も下手したら明日で露と消える。昭武にはそれがとても残念なことに思えた。

 

「琴平殿、勝敗は貴女の双肩にかかっておりまする。なにとぞお頼み申す」

 

「はい。未熟者でありますが最善を尽くします」

 

「では、オレはこれにて」

 

陣幕を出て、昭武は桜洞城の方角の斜面に座り込んだ。

 

(これからあそこで幾千の人々が殺しあうのか………。戦乱の世とはどうにも狂ってやがるな)

 

昭武はそうおもわずにいられなかった。

 

 

****************************

 

数日後に桜洞城から東に現代の単位で三キロほど離れた村で行われた軍議には総大将である桜夜と村長格の人々が集められ、昭武と優花も平湯の村長代理として並み居るお偉方の末席に控えていたが、まだ年少なので発言の機会を与えられずにただ軍議を見守るだけだった。

軍議は最初の部隊の編成、出陣する時刻などはするりと決まったが、肝心のどう敵を攻めるかというところが村長同士で紛糾していた。

 

「下呂村の村長殿、此度は野戦の方がよろしいかと。我が軍は数千もの大軍、それに対し姉小路軍は多くてせいぜい千を越える程度じゃ。策を講じるまでもない」

「神麻の村長よ。それは愚かというものぞ!我らと姉小路軍では兵士個々の強さに差がある。数倍という戦力差など有利にもならぬわ!」

 

「あの…その…」

 

言い合う村長たちを前に桜夜はすっかり気圧されている。

 

(…まったく老害どもめ、指揮を請うたくせに何をでしゃばっているんだ。この場に総大将の琴平殿がいるというのに、それを無視するぐらいなら親父が出ないと知った時点で蜂起をやめるべきだったんじゃないか?)

 

村長たちは雷源が推薦した者と言っても桜夜を総大将として認めることに抵抗があった。しかし、それでも村長たちは蜂起をするためにやむなく桜夜を受け入れたという経緯がある。

 

「かー!このへっぴりごしが!腰が引けすぎじゃ!」

「うるさいわい!このうつけの耄碌じじいが、頭の毛と一緒に知性も抜けたか!」

 

もはや村長同士の論争は軍略から外れてただの口喧嘩に成り下がる。こうなればもう黙ってる必要などない。昭武は老害どもをキッと睨みつけて怒鳴った。

 

「ええい!やかましいぞ老害ども!黙って聞いときゃ勝手に筋道逸れるしよ。黙って琴平殿の話を聞けい!」

 

「ああなんじゃ若造が⁉︎」

「流れ者風情がなんて口の利き方を…許せん」

 

村長二人が昭武を睨みつける。

 

「うるさい、オレは正論を言っただけだ。それにこのまま仲間割れしたまま戦うと、どう戦おうがこちらは壊滅する」

 

「むむむむ……」

「…それならば致し方なし」

 

口うるさい村長もさすがに生き死にを持ち出せば黙る。陣が静かになったのを見計らうと昭武は桜夜に話をするよう促した。

 

「村長様方が策を練っていたたいたのはありがたく思います。しかしわたしは始めからどのような策を用いるか決めていたのです。これからその策をお話ししましょう」

 

桜夜の策は平たく言うとこういうものだった。

夜陰と共に桜洞城の死角に兵の中でも体力のあるものを配置し、それ以外のものが城下町を朝駆けしている間に本丸を落とすいわば強襲策であった。

そしてその死角にはオレと優花の隊が配置されることとなった。

 

「星崎殿に此度の鉾の役目を果たしてもらいます。勝敗は貴方の双肩に懸かっているので頑張ってくださいよ?」

 

「委細承知した」

 

軍議が終わると昭武は桜夜に呼び出されたので陣のさらに奥、天幕で桜夜を待っていた。

 

「すいません、わざわざ残したりして」

 

「構いませぬ。十中八九オレは残されるとわかっておりました」

 

なにぶん昭武たちが担当するのは強襲を実行するという策の中で一番核となる部分だ。これで居残りにならない方がおかしい。

 

「まず初めに感謝をさせてください。星崎様がおられなければ、軍議が進まなかったと思うので」

 

「いや、あれは感謝されるほどのものじゃないでしょう。オレが怒鳴らずとも他の良識ある村長が止めたはずです」

 

「それでもありがたいですよ……。では本題の話に入りましょうか」

 

「そうですな」

 

星空の下で語り合う昭武と桜夜。本題の話はすぐに終わったがなぜかそこで解散しようとは互いに思わなかった。結局二人は朝日が昇り、優花が昭武を呼びに来るまで延々と話を続けていた。

 

「やけに話し込んでしまったな……、徹夜で戦なんてできるだろうか」

 

「できなきゃ困りますよ。まだまだ話したいことがたくさんあるので」

 

「これから兵達のところに行ってくる。じゃあな」

 

「『じゃあな』なんて言わないでください。ここでは……」

 

「じゃあ『今度一杯やろうぜ』ってのはどうだ?」

 

「ふふふ、それでいきましょうか」

 

「ああ、じゃあ今度一杯やろうぜ、桜夜殿」

 

「楽しみに待ってますよ昭武殿」

 

桜夜の声を背に受けて昭武は陣幕の外へと歩き出す。

今度飲む酒が美味く感じられるように、オレは為すべきことをなそう。そう昭武は密かに決意したのだった。

 




次回から戦いの描写となります。

読んで頂きありがとうございました。
9/15に今更ながら改訂しました。
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