オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

21 / 68
第二十六話です。
今回は導入部なのでやや文量は少なめです。

では、どうぞ


第二十六話 上洛

雷源が神通川で玄仁を撃破して一月、稲葉山城改め岐阜城下に三種の旗が翻っていた。

もっとも多いのは黄地に黒の永楽銭。次に多いのは白地に黒の三つ葉葵。残りの一つは黒地に黄の四つ割菱であった。

三旗の軍勢を合わせて、四万八千。内訳は永楽銭が三万、三つ葉葵が一万、四つ割菱が八千だった。

 

「わたしたちはこれから上洛を果たすわ!全軍進めえ!」

 

永楽銭の旗の主、織田信奈が高らかに命を下すと、万軍が整然と西への行軍を開始する。

此度の上洛は建前上は今川義元を足利家なき後の将軍につけることが目的であった。

 

「ぐずぐずしている暇はないわ。速攻で京まで一直線よ!」

 

信奈は上洛において美濃、北近江、南近江を通る中山道を用いた。信奈たちは伊勢から東海道を用いて上洛することもできるが、飛騨の熊野家と北近江の浅井家に対する配慮で中山道に決めた。

此度の上洛軍に参加する将は多い。いちいち名を連ねる尺がないため有名どころのみ紹介すると、織田家から信奈と勝家、長秀、良晴、犬千代、五右衛門といった尾張時代からの家臣に道三、利治、半兵衛といった美濃組。さらに此度の上洛案を持ってきた新参者の明智光秀の計十一人。熊野家からは雷源や昭武、優花といった一門に一義、長堯、白雲斎といった最古参。加えて桜夜、宗晴、塩屋秋貞、山下氏勝といった雷源の生徒たちと井ノ口と長近の元金環党と盛清と四万の計十四人。松平家と浅井家は当主以外に有名どころを連れてきていなかった。

 

「ははは!こりゃ実に豪華なこった!」

 

雷源は馬上で呵々大笑していた。今この場には飛尾三における多士済々の将が勢ぞろいしている。こんなのを見せられて生来の傾奇者の性がおとなしくしているわけがない。

雷源は行軍の合間合間にこれ幸いとばかりに勝家や犬千代といった織田家の猛将と一騎討ちに興じていた。

 

「や、なかなかのもんだ。かかれ柴田の名は伊達ではないな」

 

結果は雷源の全勝であった。それを自慢げに語られた一義は「羽目を外しすぎです」と苦笑いを浮かべて、影でこっそり四万に雷源の夕餉を減らすよう命じていた。

その夜、雷源の腹が一晩中鳴り響き、起き出した優花に「うるさい」と怒鳴られるのであった。

 

雷源が遊んでいるうちに、上洛軍は長政との集合場所である佐和山城に到着した。

佐和山城で待っていた長政は信奈の姿を見つけるやいなや馬上から降りて信奈に「義姉上」と恭しく頭を下げていた。

信奈たちはやや違和感は感じたものの、それはまだ信奈たちの想定内であった。しかし次に「共に天下へ参りましょう」と優しげな表情で言った時には、信奈たちは面食らった。とりわけ半兵衛の調略の際に居合わせた面々はそれが顕著だった。

 

「なあ相良。お前長政公に薬とか盛ってないよな?」

「なんでだよ⁉︎俺もなんで長政がこうなったかわからないんだぞ」

「じゃああれか、なんかの策か?」

「策じゃない。で、でももしかしたら長政って……」

 

ここから先は良晴は口にしなかった。信澄が織田家の姫に扮して長政に嫁いでいることを昭武に勘付かれかねなかったからであった。

 

 

ともあれ、これで織田連盟(長政が入ったためもう飛尾三合従とは言えないため)の軸帯が確かなことは証明され、上洛軍の兵力は五万八千にまで膨れ上がった。

今、織田連盟の上洛を阻むのは南近江の六角義賢ただ一人。

この六角家という大名家は義賢の前の当主、定頼の代には楽市楽座や本城への家臣集住などの革新的な政策を道三や信奈よりも早く導入している。また外交では中央との関係が深く何度か畿内の勢力争いに介入しており、浅井家とは初代浅井亮政の代からの因縁があるという中々に語る点が多い大名家であった。義賢の居城、観音寺城の堅牢さもその一つで長政は何度か観音寺城まで攻め込んだことがあるが、ことごとく追い返されていた。

 

「義姉上。六角の兵はさして強くないですが、観音寺城はかの稲葉山城にも匹敵する難城。一旦野陣を構築し、支城をひとつずつ気長に落としていくのが上策かと思います」

 

長政がそう献策したが、信奈は難色を示した。

 

「ならば、義賢を釣り出して会戦で破ることはできないのか?」

 

これは雷源の言である。しかし長政は頭を横に振った。

 

「義賢は観音寺城からは出てこないでしょう。約六万の兵を相手に野戦を行うのは、臆病な義賢にはできません」

 

「そうか。ならば敵の身動きを別の方法で縛ることにしよう。例えば六万を十八に分けて全支城を包囲するとかな」

 

「雷源、それでは時間がかかりすぎるわ。織田軍の長所は速さと勢いよ。包囲だけじゃ足りない。陥落させるのよ」

 

「はは!なるほど。了解した!」

 

信奈の案に雷源は頷き、織田連盟が一斉に進軍する。

六角の将兵は一家がひとつずつ丹念に城を落としていくと勝手に考えていた。しかし信奈の取った作戦はそれを逆手に取るような形であったため、普段より城と城との連携が取りづらい状況に陥った六角家は苦戦した。

普通は余程の将が率いていない限り大将なき軍団は強くないためこの作戦を取れば却って自分を不利にする。だが、織田連盟に関しては事情が異なる。

 

「長政。織田家には、わたしの代わりに大将を任せられる武将が少なくとも六人はいるわ。六(柴田勝家)。万千代(丹羽長秀)。今は伊勢にいるけど、左近(滝川一益)。新たに加わった十兵衛(明智光秀)。この四人の次に新五(斎藤利治)。そしてこの中では一番格下だけども、サルよ!」

 

「うちにも俺の代わりができる奴は何人かいるぞ。一義。長堯。昭武。優花。桜夜。一月前に部将にしたばかりだが虎三郎。もっともうちは兵数が少ないから昭武、長堯、虎三郎の三軍だけだがな」

 

信奈と雷源が言い放つ。

6+3で大将の数は九人。大将が九人いれば、支城の攻略速度も九倍となる。

五万八千という大兵を率いていても、名だたる将全てに兵が行き渡らないぐらいに織田連盟は人材が飽和していたのだ。

 

「……お見それしました」

 

長政は戦慄した。自らを今まで苦しめ続けてきた六角家がああも簡単にやり込められてしまうとは思わなかった。

 

(潤沢な人材に、兵法の常道を逆手に取った大胆な用兵。やはり私はこの方たちには敵わない…)

 

天下布武を掲げる織田信奈とかつて北陸無双と謳われ、あの朝倉宗滴ですら勝星を上げられなかった熊野雷源。

この二人を味方にできてよかったと長政は心底思った。

その後、織田連盟は六角家の支城を半日で全て陥落させ、観音寺城を再び囲んだ。

義賢は(もはやこれまで)と織田連盟に観音寺城を明け渡して、自らは一族を引き連れ甲賀に退去し、戦は終わる。

此度の戦で水際だった活躍を見せたのは、光秀と井ノ口であった。光秀は正確無比な鉄砲隊で敵将を撃ち抜き、井ノ口は圧倒的な制圧力を誇る鉄騎隊で、迂闊にも迎撃に出てきた守備隊を蹂躙した。

この二人の活躍を信奈は絶賛し、光秀には恩賞としてういろう一月分を与え、井ノ口には「あんた織田家に来ない?」とわりとねちっこく勧誘をかけるほどであった。

 

********************

 

信奈率いる上洛軍は、ついに京へ入った。

岐阜を出発してから二十日余りという、神速での上洛であった。その早さから松永久秀は降伏し大和に撤退。三好三人衆は摂津に撤退した。

織田連盟の上洛は今まで武家の内訌に振り回されてきた京の人々は初め否定的だった。「成り上がりの武家の連合」「一種の山賊」など悪しざまに言われることもあった。

しかし、信奈が兵たちに民に対して極めて優しい軍規を徹底させ、雷源が桜夜や飛騨三奉行(金森長近、塩屋秋貞、山下氏勝)を総動員して京の寺社やインフラの復興を進めるにつれて京の人々は好意的になっていった。

文官が京で辣腕を振るう一方、武官は京周辺の平定に充てがわれていた。

勝家と雷源、白雲斎が摂津で三好三人衆に追撃。昭武と優花、利治、長堯が大和の平定。五右衛門と犬千代、井ノ口が京周辺の盗賊の掃討を担当した。

 

 

昭武と利治は三千の兵を率いて大和に向かった。昭武たちの任は大和の平定とあるが、大和の過半が織田家に降伏した久秀の勢力圏で、残りは興福寺や東大寺といった寺社勢力が根を張っていて安易に手を出せないため、大してやることがなかった。

 

「この任はおそらく松永久秀への威嚇が目的なんだろうな」

 

上記の事柄から昭武は任の趣旨をこのように判断した。

松永久秀は美濃の斎藤道三、備前の宇喜多直家と並んで戦国三大梟雄に数えられる危険人物で、降伏したと言えど、あまり信用が置けない。

九十九髪茄子を差し出して安堵している隙に信奈の背後を刺すことも充分考えられた。

 

「こんなめんどくさい任につけやがって……。あれか?足元見て難題を無理やり飲ませたことを根に持っているのか?」

 

「多分そうだと思うよ武兄。信奈どのってすごい負けず嫌いだろうし」

 

「若殿が難題を飲ませたからこそ漸く飛騨の発展の基盤を築けたのです。必要な対価のうちだとそれがしは思いまする」

 

「優花と長堯がそう言うなら致し方なし、か」

 

ここまで宥められると昭武は愚痴を言う気すら無くす。

 

「ちょっと皆さん?巻き込まれた僕には何にもないんですか?」

 

この四人の中で一番悲惨なのは昭武たちに連座させられる形となった利治であった。

昭武たちはしばし筒井城にて久秀の動向を探ろうと盛清の手の者を多聞山城や信貴山城に放ったが、ことごとく返り討ちに遭い、何の情報も得られなかった。

 

「やはり梟雄相手では厳しいか……」

 

忍びによる情報入手に手詰まりを感じかけていたその時、筒井城に一人の来客が現れた。

 

「私は筒井順慶と申す者。昭武様と利治様にお願いしたき儀があって罷り越しました」

 

筒井順慶。

昭武たちが在城している筒井城の前の城主で、松永久秀と戦い続け、そして敗れた大和の雄。

そんな彼女の願いは昭武たちを新たな争乱へ引きずり込むものであった。

 




読んで下さりありがとうございました。
いよいよ昭武たちが上洛を果たしました。熊野家を盟友に引き入れたので、信奈たちは二章とは対照的にイージーモードに入っております。これから数話はオリジナル展開となります。
誤字、感想、意見などあればよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。