オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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第三十二話です。
美濃動乱①とかを除けば、初めて前後編に収まりませんでした。
どうやら原作沿いとオリジナル展開の平行進行は中々に字幅を取るようです。作者の頭も二つを擦り合わせるのに必死だったので、時系列やら誤字やら細かいところを間違えていそうな気がします。

では、どうぞ


第三十二話 多聞山・清水寺の戦い 中編

左近救出が成ったとほぼ同刻。

白雲斎が多聞山城の城代を討ち取り、松永方の武将が降伏したため多聞山城の戦いは終わった。

多聞山城の天守で昭武は軍議を行っていた。

 

「見ての通り多聞山城は落ちた。今からオレたちは清水寺に行って光秀の救援をするが、順慶どのと左近どのはどうする?同行しないなら護衛のために手勢を割いて筒井城まで送ってやるが」

 

「昭武どの。私たちごときのために手勢を割いてはなりません。分隊長の言ですが、京の松永勢は一万を越えていると聞きました。対する昭武どのの軍は二千足らず。この状況で手勢を割くのは愚者のすることです」

 

左近は情勢と照らし合わせて丁寧かつ辛辣に昭武の好意を断った。

 

(毒舌だが理にはかなっているな)

 

せっかくの好意を無碍にされた形となるが、昭武は左近に感嘆していた。左近が稀に見る直言の士であったからだ。

 

「それに、私にはまだ為すべきことがありますから」

 

(こうして私が助けられた以上、宗厳も助けないと後味が悪いじゃない。今も不本意に剣を振るうことを余儀なくされている宗厳のことを思うとやせ衰えて力が出ないはずなのに五体に力が湧き上がってくるわ。もう貴女は松永に縛られなくてもいい。そのことを宗厳に伝えてあげなくちゃ)

 

順慶と同じように左近もまた大事な人のために軍旅に加わることを決めた。

 

「そうか。ならばこのまま京に進軍するだけだな」

 

昭武はそれを見届けると鷹揚に頷く。

 

「昭武よ、少しいいか?」

 

「なんだ白雲斎。何か考えがあるのか?」

 

「ああ、これは提案なんだが……」

 

白雲斎が昭武に耳打ちをする。話し声が収まると昭武は「いいぞ」とまた鷹揚に頷き、白雲斎の言を容れた。

 

 

夜明け前の京の都を童子切安綱を右手に携えて白雲斎は駆けていた。

すでに何度か松永兵とやり合ったため、白雲斎の顔と童子切安綱には血がべったりと付いていた。

 

「松永軍は弛んでいるな……。傀儡で兵の質をある程度誤魔化すことが可能だとはいえ、傀儡への傾斜が激しすぎる……」

 

松永家の兵六人を鎧袖一触に斬り殺したのちに白雲斎がボヤく。

今白雲斎が斬り殺した兵たちは久秀の馬廻を務めていた松永軍中でも剛勇で知られた者たちであった。

今、京の都では松永兵が各所に闊歩していた。これは久秀が兵たちに光秀と義元が立て籠もる清水寺を攻撃する前の最後の余暇を与えたためである。息抜きをする兵たちに紛れる様な形で久秀の傀儡も見張りのために闊歩していた。

松永軍が京を占領する一方、混成軍は京と奈良を結ぶ大和街道の途中にある槙島城で馬の交換を行っている最中で京にはまだ到着していない。

白雲斎が熊野軍二千の到着に先立って京で松永軍に対して童子切安綱を振るっている理由は久秀の傀儡を狩るためであった。

 

(松永久秀の傀儡は日の本は無論、唐国や天竺にもなく、さりとて南蛮にも属さない術だということは体感して分かった。昭武や琴平桜夜が言うにこの傀儡の術は回教興隆以前の条支国や波斯に由来するものの可能性が高いらしい。儂は童子切で無理やり斬り伏せることができるが、陰陽師にとっては術理が分からぬ異形の術。相良の小僧麾下の今孔明ですらまともに戦えるか怪しいだろう)

 

白雲斎はそこまで読みきり、昭武に進言をしていたのだった。

 

余暇の最中に白雲斎に襲いかかられた松永兵は恐慌状態に陥って白雲斎からどうにか逃げおおそうとして討たれ、動じない傀儡は丹念に刈り取られていく。

多聞山城に引き続き、京の傀儡が底をつく寸前までに陥ったその時、ふと白雲斎の鼻腔に花神の匂いがした。

 

「松永弾正少弼久秀。松永弾正、松永霜台、蠍。わたくしを指す言葉がいくつもありますゆえ、お好きなように覚えていただければと存じます」

 

十文字槍を携えた久秀が白雲斎の前に現れる。

 

「出たか。大元が」

 

「貴方には、いくら傀儡を出しても粉微塵にされてしまいますから仕方なくわたくしが出張らざるを得なかっただけですわ」

 

久秀が苦笑する。

白雲斎は久秀にとっては初めて出会った天敵とも言える存在だった。

 

「お前を相手にすることを勘定には入れていないが、よかろう。お前を討ち取れば、戦は終わる」

 

「うふふ、せっかちな殿方は嫌われますわよ? 甲賀からきた余所者でありながら、その才幹で戸隠全ての忍びを屈服させ戸隠忍びの頂点となった戸沢白雲斎どの?」

 

久秀が含み笑いを浮かべる。

 

「お言葉を返そう、露骨に迫ってくる女子も同じことと。尤も多くの場数を踏んだ貴女ならお分かりだろう? 蘭奢待で何十年もサバを読んでいる松永久秀どの?」

 

それを白雲斎は慇懃無礼に振る舞うことで迎撃した。

挑発し合う白雲斎と久秀。

いずれどちらからともなく童子切安綱と十文字槍が振るわれ、ぶつかり合うかのように思われたが、そこに割り込む一つの影があった。

影は白雲斎を視野に捉えると一跳躍し、刀を抜いて白雲斎に斬りかかる。

 

「ッ!!」

 

白雲斎はその影の一撃を童子切で受けた。

 

「そういえば彼女がここにいたことを忘れていましたわ」

 

「白々しい。初めからここに伏せていたのだろう。そうでなくてはお前は単身儂の前に現れるという愚行を演じるはずもない」

 

白雲斎は久秀の挙動をある程度読みきっていた。ゆえに影の速くかつ強力な一閃を防ぐことができたのである。

 

「防がれたならこうする」

 

影の刀が童子切の上を滑り、白雲斎の首へと向かう。白雲斎はそれに気づき、飛び退くも顎髭の一部を切り取られた。

だが、白雲斎もただでやられはしない。飛び退いたと同時に苦無を三本、影に投擲しうち二本を影の肩と腹に的中させる。さらに中空で体勢を整え、影に向かって苦無二本を追加投擲して追撃した。

白雲斎による息もつかせぬ逆撃。密かに戸隠由来の術をも使ったこの攻撃に耐えられる者は、雷源や一義、長堯などかなり限られている。

しかし影は、耐えてみせた。

 

「ほう……」

 

白雲斎が目を細めながら影の方を見やる。

非常に整った中性的な顔立ちに長い睫毛と黒い髪のショートカットをしている美少女だった。

 

「柳生石舟(宗厳)か、なるほど。いい人選をしたものだ」

 

戦国畿内の武力最強は剣豪将軍・足利義輝であるが、次強の地位は三好長慶の弟、十河一存とこの柳生宗厳が争っていた。

この三人の中で今現在日の本にいるのは柳生宗厳のみ。事実上の最強と言えた。

この時、白雲斎は久秀が全力をもって自分を始末しにかかっていると察した。

 

(儂の武力ならば松永、柳生の順に始末することができるが、松永が傀儡だけの術者とは考えにくい……。傀儡は討ち漏らしはあるがほとんど狩った。逃げるか)

 

一度決めた白雲斎の行動は早い。

煙玉を何個も使って目くらましを行い、神がかりの速さで駆けて京の都を脱した。

 

「逃げてしまいましたか……。仕方ありませんね、逃げに徹した戸沢白雲斎を仕留めるのはそれこそ神の御技。潔くこの場は諦めますわ」

 

この後、久秀は連れてきた一万千の手勢を六千と五千に分け、自らは六千の隊を率いて清水寺を囲み、五千の隊を結城忠正に与えて京の南に配置した。

 

***************

 

白雲斎と久秀が暗闘を繰り広げていた頃。

光秀は清水寺に京に残る全ての軍を集めた。

 

(前田どの、竹中どの、蜂須賀どのの三人がいないです。まさかサル人間を追いかけて美濃に行ってしまったですか)

 

光秀は名物勝負で不正をして勝ち、そのせいで良晴は美濃に行くことになってしまった。

 

「光秀様、どうなされますか?」

 

桜夜が光秀に問い掛ける。

 

(もう十兵衛とは呼んでくれないですか……)

 

桜夜と光秀は濃飛同盟の宴の時に打ち解け、友人関係にあった。

上洛戦の時は自由時間を与えられるとたまに二人で碁や食事を楽しむほどの仲であり、その桜夜にあだ名で呼ばれなくなったことは光秀に罪の意識を再燃させるのに充分だった。

 

(宗久どのにも言われましたが、織田・熊野家では家臣団とは家族であるそうです。私はその流儀を知らなかったとはいえその和を乱すような真似をしでかしてしまったです。こうなるのはある種当然のことです)

 

光秀は瞑目する。暫し息を整えると瞳を開いた。

 

「ここを守るです。幸いなことに信奈様は美濃に向かっておりますし、昭武殿は筒井城の熊野・加治田混成軍と合流しました。援軍のアテはあります」

 

「十兵衛殿、あなたは……」

 

光秀の目論見に気づいた桜夜は絶句する。

 

「桜夜どの、皆まで言わないでほしいです。最悪の場合は桜夜どのには義元様を連れて逃げてもらいますよ? 二人とも討ち死にしては駄目です」

 

敵は六千、味方は八百。

その上篭るのは寺で守備力は期待できない。

しかし、こうするほかなかった。

 

「まあまあ。光秀さん桜夜さん、頼りにしていますわよ!この程度の危機、あなたたちの知恵でどうとでもなりますわよね?」

 

おーほほほ、とこの後に及んでも高笑いする義元だけがご陽気だった。

 

「御意。京を守るは、明智光秀。この命に代えましても最後まで義元様をお守りいたします」

 

この時、光秀はこの地に我が身を捨てがまる覚悟を固めていた。

 

 

夜が更けると同時に清水寺に松永軍六千が押し掛けてきていた。

 

「明智十兵衛光秀、参る」

 

光秀は自ら前線に立ち、種子島を撃って敵の名だたる将を討ち取り、松永軍を怯ませる。

桜夜は狭隘な廊下に陣取り、長堯直伝・五人組連携で松永軍を捌いていく。

 

「皆の者、僕たちは五人組と戦っている松永軍の後背を貫くっ!!」

 

宗晴は平湯兵八十を率いて松永軍を思わぬ方向から強襲した。

この三者の試みは能く松永軍の侵入を阻み、夜明けから数時間で落ちると思われた清水寺は正午になっても落ちることはなかった。

 

「ここまで粘られるとは……、お見事です」

「そこの女、どこの誰ですかっ⁉︎」

 

突如光秀の前に久秀が現れる。

 

「うふ、我が名は、大和は信貴山城主、松永弾正久秀。以後、お見知り置きを。すぐに、末期の別れとなりますけれど」

 

「この女が……⁉︎」

 

光秀は思わず目を見開いた。

天下三大悪人の筆頭とも言える松永久秀がこのようなたおやかな美女だったとは到底思えなかったのだ。

 

「槍は宝蔵院流にございます」

 

「宝蔵院流、もしや弾正どのは興福寺のご出身でしょうか?」

 

「ええ、そのとおりですわ」

 

「その信心深き方が足利幕府を滅ぼし、奈良の大仏を焼き払い、今こうして天下布武を妨げんとするのですか。仏の道を見失いましたか!」

 

「仏の道ではありませんが、わたくしは今、道に迷っていますの。長慶様を失って以来、わたくしは寄る辺を失くしました。今は織田信奈さまがわたくしの新たな寄る辺としてふさわしいお方かどうかか知りたいと思っております」

 

「ならば、わざわざ謀反など起こさず、信奈様の隣で見極めればそれで充分ではないですか!」

 

「不充分ですわ。人は、追い詰められた時にこそほんものの姿をさらけ出すのですわ。……あなたご自身のほんものの姿も、じきにさらけ出されましょう」

 

蠱惑的な笑みを浮かべながら久秀が十文字槍の穂先を光秀に向ける。

 

「そうですか……!では!」

 

それを見た光秀は種子島を捨て、腰の刀……明智近景を抜き放つ。

 

「ついに抜きましたわね……。気高く美しき姫よ。名をお聞かせ願いたいですわ」

 

「織田家臣、明智十兵衛光秀。剣は鹿島新当流、免許皆伝」

 

名乗りながら光秀が新当流奥義、一の太刀を繰り出した。

しかし、久秀は紙一重で躱した。

 

「まさしく今の太刀筋は一の太刀、ですわね」

 

久秀が目を見開く。

 

(種子島の名手である上に、柳生新陰流開祖、柳生宗厳と同等の剣士でもあるというのですか……)

 

なんでも一流にこなせる光秀は戦国の世に最も適応しているとさえ言える奇跡的な天才だった。

 

(こんな武将すら麾下に納めうるとは織田信奈、いかほどの大器なのでしょうか)

 

久秀の心中で織田信奈への期待が高まる。だが、まだ足りない。

 

「くすっ。あなたのような英傑と出会うと、わたくし、どうしようもなく、殺して差し上げたくなってしまいますの!」

 

久秀が光秀に急接近する。

そして光秀の攻撃可能範囲ギリギリに近づくと囁くような声音で光秀に告げた。

 

「そういえば、あなたがそれだけの熱を上げている織田信奈さまですが、先程近江路で刺客に撃たれてお亡くなりになられたそうですわね……」

 

「…な…なんですと?」

 

この時、隙を作らぬよう心がけていた光秀の心に隙が生まれる。

光秀は久秀の言を聞いて天が崩れたような感覚に陥った。

 

(あの、信奈さまが……死んだ⁉︎相良良晴を追って私の、せいで⁉︎」

 

心の間隙に打ち込まれた楔が間隙を徐々に広めていく。

心の変化は身体にも作用する。

ついに光秀は久秀を前にして刀を持った腕をだらりと垂らし、無防備になってしまった。

 

「うふ、わが春花の術に、かかりましたわね」

 

勝利を確信した久秀の十文字槍が、光秀の命を刈り取るべく彼女の白い首筋に迫る。

 

(しまったです……!)

 

遅まきながら光秀が意識を取り戻すも、もはや後の祭り。

 

(申し訳ございません、信奈さま。ごめんなさい、相良先輩)

 

光秀は静かに目を閉じた。

 

 




読んで下さりありがとうございました。
三章もそろそろ大詰めです。
……今思えば、三章はわりと忍びが出張ってきてますね。
相手が久秀で暗闘の必要性が上がるからでしょうか。
誤字、感想、意見などあればよろしくお願いします。
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