オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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北陸十年史編第四話です。
熊野家に比べるとドロっとした展開になっております。

では、どうぞ

*誤字修正のつもりで編集したらいつの間にか千文字増えてた……。




北陸十年史編 第四話 謀略の渦(能登)

押水の戦い以後の畠山家中は義総の予言通りに重臣たちの権力闘争が繰り広げられるようになっていた。

主な対立軸は義総時代から政策の要として重用され、義総死後は押水の戦いで発言力をあげた温井総貞と総貞とは対照的に義総時代には政権中枢から遠ざけられていた能登守護代・遊佐続光の二つで、今や互いに豪族・国人を糾合して主家である畠山家を凌ぐ勢力を持つようになっていた。

光総はこの両派閥には属さずに所領が隣接している長続連と畠山義続の妹である義綱の教育係を勤めている姫武将・飯川光誠と共に義続派に名を連ねていた。

尤も、この義続派とは実質は名ばかりで実情は義綱の影の内閣という方が正しい。

影の内閣のメンバーは個々人の思惑は異なれど、足並みを揃えて義綱の大名親政を志していた。

 

とある日のこと、この影の内閣のメンバーは続連の居城、穴水城で続連が開いた茶会に参加していた。もちろん茶会というのはただの建前であるが。

 

「昨今の温井・遊佐の諍いはどうにかならないのかしら……」

 

艶やかな加賀友禅を着た義綱がこめかみを抑える。

加能越一の美少女として名高く、父、義総からも期待を寄せられていた才媛である。

義総は出来れば義綱に家督を継がせたかったが、義総死亡時では十一歳と若かったので、年長の義続が継ぐことになったという経緯がある。

 

「畠山家が直轄軍を持てば、あるいは……」

 

「そう出来れば中央集権を果たすことができるけれど、兄上があの二人に振り回されているうちは無理よね」

 

「中央集権化されて一番割りを食うのは、遊佐続光ですからな。なにせ遊佐家が代々務めてきた能登守護代を否定することになりますし。

 

光総が述べるも義綱は首を振り、長続連もまた義綱に追従して首を振る。

足利将軍家もそうではあるが、畠山家は直轄軍を持たず、軍事活動では専ら家臣の軍を用いていた。それ故に旧来の守護大名は重臣との関係に細心の注意を払う必要があったのだ。

 

「いずれにしても、中央集権を果たすには直轄軍の所持と遊佐家と温井家の討伐は不可欠よ。あの二人をどうしたら出し抜ける?下手に手を出すと却ってこちらが危ないわ」

 

「共喰いさせるのが一番かもしれませんね。これならば、軍を持たない私たちでも出来ることですから」

 

ここで飯川光誠が提案する。

義綱に引けを取らない美貌を持ち、世話係として義綱と長い歳月を重ねた忠臣であった。

 

「確かに、あの両名は対立しているからな……。安直過ぎる気がするが、悪くはないだろう」

 

「ですな」

 

光総が頷くと同時に続連も頷く。

 

「光総がお墨付きをくれたなら間違いは少ないわね。じゃあこれからの方針は両派閥の対立を助長するよう事を進めるわよ」

 

義綱が決定を下したことで、戦略会議が閉幕し、ただの茶会となる。

しかし、彼らはまだ知らない。

これがこの四人が集まる最後の茶会となることを。

 

*****

 

同刻、七尾城下・遊佐館。

今、この場では二人の男が酒を嗜んでいた。

二人の男の名は温井総貞と遊佐続光。余人からすれば、酒を共に嗜むなど及びもつかない関係であるだろう。

 

「まさか、貴殿からこのような提案を聞くことになろうとはな……」

 

当の総貞もいまいち実感が湧いていないのか、つぶやきを漏らす。

 

「いやはや、総貞殿。そこまで驚くことではありますまい。わしが言い出さなければ、貴方の方から持ちかけてきたはずよ」

 

「まぁいずれが持ちかけるにせよ、今この協定を結ぶことは互いにとって大きな利益がある、違いますかな?」

 

「違いない。儂らにはまだ取り払わねばならぬ障壁がある。雌雄を決するのはこれを取り払った後ですかな」

 

総貞が問うと、続光がゆっくりと頷く。

双方共に悪人面になっていた。

昨日の敵が今日の友となり、明日はどうなるかわからない。

だが、それは二人とも織り込み済みであった。

 

(しかし、今になってつくづく先主様が優れたお方であることがわかりましたな。身罷られた後も、我らに睨みを効かせるとは……。だが、それも近日中に終わりを告げる。まっこと素晴らしいことではないか)

 

続光が盃を高く掲げる。

次に酒を飲む時は、その盃に勝利の美酒が注がれるであろうことを強く確信して、続光は最後の一滴を口にした。

 

********************

 

数日後、穴水城からの帰路にて、光総は夜空を見上げていた。

 

(歓談してわかったが、姫様は義総様に匹敵しうるほどの大器だ。それに飯川どのほどの得難い忠臣を得ている。……ここに我が息子が加われば、死角はないだろう)

 

光総は珍しくご機嫌だった。

何しろ義総が没して失った支えがいのある主君を再び見出したのだ。

 

(次の茶会では、光教も呼んでもらうよう頼んでみるかな。姫様たちと光教が合うかどうかは分からぬが、もし手を携えることができたなら姫様は光教の才を使いこなし、いよいよ能登は空前絶後の発展を遂げることだろう)

 

ーーーだがしかし、結果としてその願いは叶わない。

 

「あんたが渡光総だな!」

「俺たちゃあんたにゃ恨みはねえがその命、もらった!」

 

突如、街道脇の山林から山賊が現れて光総を包囲する。その数五十余人。

 

「お主たち、どこの手の者だ」

 

「はっ!死んでいくやつに答えても無駄だろ?」

 

山賊が鼻で笑う。

 

「お主たちこそ隠す理由はないぞ……!仮に俺がここで倒れようとも、光教はお主たちを寄越した奴をいとも容易く調べ上げるからな……!」

 

「そうかい、なら教えてやるよ。俺たちにあんたを殺して来いと言ってきたのは温井総貞・遊佐続光の二人だぜ」

 

この二人の名が明らかになった時、光総は陰謀の全てを理解した。

 

「はは、その二人が手を繋いでいたとはな……。そんなに能登の国主になりたいのか、そんなに権力が欲しいのか俺には理解が及ばぬな……」

 

(俺の存在は奴らにとっては目の上の瘤だったのだろう。凡庸な主を支える経済・軍事面に抜きん出た勢力……その条件を満たすのが俺たち渡辺町だからな。俺たちを倒さねば奴らは下克上どころか、主人を傀儡にすることもできぬ)

 

「ともかく、その二人に伝えておくがいい……。俺が倒れても畠山家はお主たちの思い通りにならぬ。今でこそ謀略の嵐に見舞われているが、それでも未来の大樹の苗は育っている……!姫様が、飯川どのが、光教が必ず能登の未来を変えてくれる。せいぜい今は増長してあいつらの良き肥やしになるがいい……!」

 

光総が愛刀を山賊に向ける。

 

「ふん、やっちまえ!」

 

それに合わせて山賊の首領が号令を下すと、山賊たちが一丸となって光総に襲い掛かった。しかし、光総はそれを一閃して一蹴する。

 

「どうした!その程度では俺を殺せぬぞ!」

 

「ふん言ってろ。まだこっちには手下がごまんといるんだ。おまえはいつまで持ちこたえられるんだろうなぁ!」

 

以後は光総と山賊たちとの乱戦となる。

光総はその持ち前の武勇で山賊を相手に優位に戦ったが、結局のところ数の暴力を捩じ伏せることはできなかった。

途中から光総は山賊と戦うのを諦めて渡辺町へと逃走を図り、山賊たちを撒いたものの、失血からくる倦怠感が彼の歩みを阻害する。

 

(これは、気を抜いたら死ぬな……)

 

死に対する恐怖は光総にはあまりない。

光総は戦場で幾度も死を感じながら生きてきた。彼からすれば、今宵のこの瞬間もいつかの類似品であった。

 

(そういえば広幸も手傷を負いながら単騎で敗走していたことがあったな。。今の俺と似たような気分だったのだろう)

 

こんなことを考えるほど、光総は精神的に余裕があった。

しかし、そんな光総でも一つだけ恐れていることがある。

それは自分が亡き後の渡辺町のことであった。

 

(俺がいなくなれば、渡家の家督は光教が継ぐのだろう。そのことに対する心配はさしてない。だが、俺を排除すれば温井と遊佐の動きが活発になることには違いない。間違いなく、俺が死ぬのに乗じて渡辺町に何らかの圧力をかけてくる。それが軍事的なものか、経済的なものか、はたまた宗教的なものかは分からぬ。だが、義続様を通じて出されてしまえば、非常に厄介だ……)

 

いつの間にか光総の脳裏に渡辺町の姿が浮かんでいた。

 

(広幸と共に町場を作るのはとても楽しかった。俺は今まで何かを壊すことしかしてこなかったからな……。初めこそ左遷されたのではないか、と疑ったが結果的に見れば一番良い仕事をしたのだろう……)

 

そこまで思い至った時、光総はゆっくりと首を横に振った。

 

「何を、考えているのだ俺は。まだ歩ける、まだ死ねぬ、まだ渡辺町の発展を見届けておらぬ。託された思い、一年と僅かで放り投げることの何と不忠なことか」

 

光総が自らを奮い立たせてなおも歩みを進める。

愛刀を杖の代わりにして、前に進む。

だが、ついに終わりの時が来た。

愛刀から手が離れ、うつ伏せに倒れる。立ち上がろうにも足が全く動いてくれない。

 

(すまない、広幸。悪いな、光教。申し訳ありません、義総様……)

 

意識が見えざる手に引かれて奈落へと落ちていく。

もはや、瞳を開くことはかなわなかった。

 

渡光総、享年四十三。

忠義と創造に生きた勇将は、未だ作り上げたものの完成を見ることなく、不本意ながらも舞台からの退場を余儀なくされた。

 

*****

 

(父上、遅いな……)

 

その日の夜、渡光教は父が帰城していないことを訝しんでいた。

 

「広幸、私は少し穴水城の街道の方へ散歩に行ってくる」

 

「この時間に、ですか?」

 

「ああ、朝までには帰ってくる」

 

「はあ、お気をつけて」

 

光教は重泰だけを連れて夜間の街道をひた走った。

そして、渡辺町から一里ほど進んだところで見つけてしまった。

 

「重泰……。私は狐に、化かされているのか……⁉︎」

 

「いえ。……残念ながら、事実かと」

 

重泰が目を伏せる。

 

「はは、そう、か……」

 

(理不尽過ぎるではないか……。俺は父ほど忠義に厚い武士を知らぬ。だというのに、これか……!)

 

光教は信じたくなかった。

父が謀略の渦に飲み込まれたことを。

清らかな忠義が醜い策謀によって報いられたことを。

 

(凡愚であれば容易く命を落とし、才能を有した者が忠義を尽くしても謀略に飲まれて殺される。ならば、いったいどうすれば良いのだ?)

 

懊悩する光教。だが、答えは割と早く出て来た。

 

(……要は強くなければ全てを奪われるのだ。いかな大義、いかな美徳を掲げていようと負ければ問答無用で奪われる。それに他人に自らの生殺与奪を預けるのもよろしくない。もはや忠義が、信頼が、我が身を守ってくれる時代ではない。……で、あるならば俺は如何なる手段を用いてでも強さを求めよう。そして誰からの指図も受けぬ立場になる。そのためならば悪辣な手段ですら用いよう。いくら悪辣と謗られようとも護りたいものを護れればそれで良い)

 

「……重泰。私が能登を獲れば、このような醜い争いを収められるだろうか?」

 

「……光教様がそれを真に望まれるのであれば、叶いましょう」

 

問われて重泰はゆっくりと頷く。それを見て、光教は天を仰いだ。

 

「そうか……」

 

夜空の暗さに隠されて光教の表情は重泰からは伺い知れない。だが、ただ一つだけ、光教の目尻に光るものを見つけた。

 

「光教様、いえ殿。今宵だけはしかと悲しみなさいませ。明日からは覇業が始まります。今のうちに済ませた方がよろしいかと……」

 

重泰が優しい声音で言うと、光教の理性は決壊した。

重泰にしがみついてひたすら泣いた。

聡く、大人びた言動をしていても光教はまだ十四歳でしかない。

悲しみを完全に押し殺すことはできなかった。

 

 




読んで下さりありがとうございました。
史実だと能登はもっとドロドロの権力闘争が繰り広げられますが、今作ではそこまでドロっとさせるつもりはないです。
これ以上シリアスにすると書くのが辛くて……。
誤字、感想、意見などあればよろしくお願いします。
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