オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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一部、リアル古文書ちっくに書いてしまったので、後で現代語訳入れます。


第五十五話 打開の一手

 笑わせる門というものがある。

 それは今まで一度も開いたことがない、いわゆる開かずの門であった。

 曰く、この門は八代当主のれんにょ様が作ったもので中には本猫寺を救う大秘宝があるとされている。

 いつしか大坂に危機が訪れた時、この門が開かれ衆生を救う……。

 これが、れんにょ様が残した滅びの予言の対となるいわば救いの予言だ。

 しかし、だとしたらなぜ織田軍が門前にいる今この時でも門は開かないのだろう。

 当代の当主様たちは、最高の笑いを私たちに届けてくれているというのに。

 けして何かが足りないとは私には到底思えないのだ。

 ……もしかすると、疑ってはならないことなのかもしれないけれど、救いの予言なんて本当は嘘っぱちで滅びの予言こそが真実なのかもしれない。

 

 ……だとするならば、私たちはいったい何のためにここに来たのだろう。

 

 ********************

 

 良晴は協力者であるフロイスと合流するとすぐに本猫寺へと向かった。

 しかし、試練を突破してけんにょとの会見を終えるとすぐにきょうにょの手によって昭武らと同様に抗戦派の門徒に取り囲まれていた。

 

「交渉など、もはや手遅れぬこ。今、我らが大坂から追われれば本猫寺は滅び、予言は成就する……。賽は投げられたぬこ」

 

 良晴を縛るための縄をしごきながら、きょうにょは良晴を睥睨する。

 

「違う! まだ本猫寺は滅びない! むしろ武家と戦えば戦うほど滅びに近づいていくんだ!」

 

 だが、良晴が引くはずもなく、フロイスを庇うように一歩まえに出る。なまじ史実における本願寺の末路を知っているがために引こうにも引けないのだ。

 

「そうね。争えば争うほど、憎しみは増すばかり……。そうなると、穏便に矛を収めることは出来ないかもしれないわ。……けれど、もはや本猫寺と武家は不倶戴天の間柄。もうどちらかが参ったと言うまでは争いを続けるしかないのよ」

 

 きょうにょの隣に立つ玄仁は、良晴に申し訳なさそうな目を向けている。

 

「そういうわけだぬこ。相良良晴、それと星崎昭武にルイズ・フロイス。お前らには死んでもらうぬこ。それが、門徒の総意だぬこ」

 

「きょうにょ!ちょっと待つにゃ!フロイスは武家じゃないにゃ!あくまで中立の立場で訪れているにゃ!それを殺してしまうのはまずいにゃ!」

 

 さすがにフロイスまで害すると言われれば、けんにょも沈黙を守れず、きょうにょに食いかかる。

 

「しかし、門徒からしてみれば異教徒も許すべからざる立場だぬこ。織田家が南蛮との貿易を奨励している以上、なおさら耶蘇教は受け入れることはできないぬこ」

 

 が、食いつかれたきょうにょの反応は淡白だった。というよりも、きょうにょは門徒たちの上に乗っかっているようなものなので、あまり自分の意見を言うつもりはないらしい。

 

「だからといって、天文法華の乱のような宗教戦争なんてやらせるわけにはいかないにょ!せめてフロイスは解放するにょ!」

 

「門徒を納得させられる理由がないぬこ。もはや、天命は定まった。織田家と果てるともなき戦いを繰り返し、本猫寺は滅ぶ、それが八代様の予言でもあり時代の流れだぬこ」

 

「理由なら、あるぞ」

 

 包囲網の外から落ち着いた声が聞こえてくる。

 その声の主人は手鎖を仲孝に引かれた状態の昭武だった。

 

「地下牢にいるんじゃなかったぬこ?」

 

「それはですね。星崎どのと相良どので牢を二つ作ると管理が面倒だからです。どうせなら一ヶ所にまとめた方が楽じゃないですか」

 

「まあ、よいぬこ。それで理由は何ぬこ」

 

「かいつまんで言えば、経済と補給の問題だな。まず、大坂自体が堺と同じく南蛮と日ノ本の交易の比重が高いことだ。南蛮を追い出せば、それだけ距離があまり変わらない堺に流れ、織田を利する。それに、門徒と武家の間の実力差を埋めるために種子島もいるだろう。しかし、それに使う火薬の材料である硝石は南蛮でしか出ない。つまり、自らの首を締めるだけだ」

 

 きょうにょに促された昭武は滔々とフロイスを害することによって生じる南蛮交易への悪影響を説く。この昭武の理屈はこの場にいる誰もが納得のいくものであった。

 

「せやな。硝石がのうなったらうちら雑賀衆は使い物にならへん。無駄飯食いになるぐらいなら紀伊に帰るで」

 

 孫市も昭武に同調する。

 発言権が減っていたとしても、本猫寺の軍事の比重は孫市ら雑賀衆に傾いている。彼女にそこまで言われれば、門徒たちと言えどもさすがに無視できなかった。

 

「……わかったぬこ。しかし、武家である星崎昭武と相良良晴については、妥協はできないぬこ。せいぜいこの場での切腹を取りやめるぐらいぬこ。織田家との和睦交渉の間は人質になってもらうぬこ」

 

 渋々きょうにょは受け入れた。が、やはり本猫寺の武家に対する恨みは激しい。門徒ではない良晴と昭武に温情はなかった。

 その後、細かい条件をきょうにょは告げ、それをまとめた書状を持たされてフロイスと桜夜は解放された。

 期限はひどく短く、一週間しかない。

 さらに悪いことにこの期限に信奈が間に合う保証はどこにもなかった。

 

 ********************

 

 本猫寺の長い間放って置かれた蔵。

 ここを今回きょうにょは即席の牢獄として扱っていた。

 

「もしも信奈が大坂に来てくれなければ、切腹。来てくれても笑わない門を抜けられなければ、切腹。正直言って、怖いな……まだ戦場にいた方が気が楽だ」

 

「まあ、今回は何もできないからな。信じて待つ以外何もできない」

 

 良晴と昭武は男二人で蔵に幽閉されていた。

 フロイスと桜夜はすでに解放され、使者となって信奈の元に向かっている。残された男はただただいつか来る救いの手を待つばかりである。

 

「全く逆だよなあ。俺のいた未来なら幽閉されている女の子を勇気ある男の子が助けるというがテンプレだけど、まさか俺自身が助けられる側になるとは思わなかったぜ」

 

「その未来って確か姫武将がほとんどいないとこだろ。だが、こっちはわんさかいる。だからオレは別におかしくないとは思うぞ。……情けなさが増すのはなんとも言えない気分だが」

 

「はは、それは言えてる」

 

 良晴が乾いた声で笑うが、それが終わると沈黙が蔵の中を支配する。

 死を前に抵抗できない状況に直面すれば、そう容易く明るい気分にはなれないのだ。

 

「なあ、昭武」

 

「なんだ?」

 

「宗教って、なんのためにあるんだろうな。人が幸せになりたいがために、神にすがり、信仰心を抱き、心安らかに生きようとするからこそ、宗教というものがあるんだろう? それなのに、なぜ殺し合わなければならないのか、未来から来た俺にはよくわからねえ。俺の時代でも……宗教戦争は、ずっと続いていたんだ……」

 

 良晴は彼らしからぬひどく悲しげな表情を浮かべていた。

 それに対し、昭武は真正面から良晴の目を見据え、真摯に答えた。

 

「それは誰もが自分の尺度を持っているからだろうな。その尺度の違いを理解して妥協ができればいいが、それが出来ずに考えが凝り固まってしまうから戦争が起きる。……実際のところはどれかが必ず正しいということはありえないはずなのにな。十字軍とかプロテスタントの話を聞くたびにそう思う」

 

「……この国でも、門徒たちはずっと一揆を続けてきたんだ。それは武家が、無責任でだらしなかったからだ。信奈は、その悪循環を終わらせようとしている。一揆が収まらなければ、戦乱は続く、もともとは応仁の乱を引き起こして国を分裂させてしまった武家の責任だが、信奈ならば。信奈には、それだけの覚悟がある」

 

「相良、信奈公だけだと思うなよ? オレだってそうさ。……いつも見てきた。終わらない戦乱に喘ぐ民を、戦うことに苦しむ武家たちを。だから、オレは天下泰平を夢見たんだ。及ばずながら手を貸すぜ」

 

「答えてくれてありがとな、昭武。思いを口に出せたおかげで少し楽になった気がする。思いを心の中に留めることは意外と辛いんだな」

 

 先程に比べて良晴の表情は晴れやかなものになっていた。

 

「まあ、それはお前の性分だろうよ。良くも悪くもお前は素直だからな」

 

 そう、相槌をつきながら壁に寄りかかって昭武は締めようとしたが、壁に身体を当てたと同時に壁がなぜかガラガラと音を立て始めて崩れ、昭武に大量の瓦礫が降り注いだ。

 

「おい昭武! 大丈夫か⁉︎」

 

「ケガはない。が、瓦礫が重くて動かせない。助けてくれ」

 

 良晴はせっせと瓦礫を片付けるが、その中に大量の巻物が含まれていた。

 巻物はとても古いもので、字が達筆なため良晴には一見して何が書いてあるか分からなかったが、昭武が手に取ると目を丸くした。

 

「これは、れんにょの御文だな。飛騨の寺で実物を見たことがある。筆跡も形式もあれにそっくりだ」

 

「なあ、昭武。これってもしかして……!」

 

「ああ! 一発逆転あるかもしれないぞ!」

 

 

 良晴と昭武が瓦礫と御文を分別していると、良晴らから引き離されていた雑賀孫市が蔵に忍び込んで来た。蔵の見張りをしている下間五人衆は良晴らには甘いらしい。

 孫市はまず織田信奈らが本猫寺へ入る際に笑わない門を通ること、信奈が入寺できなければ、良晴と昭武は切腹させられることが決定したと告げた。

 

「ほんま堪忍な良晴はん、昭武はん。軍事以外でのうちの発言力は微々たるもんや。大勢を覆すまではいかんかった」

 

 すまなそうに伝える孫市。

 

(門徒である桜夜が全てを行うという手段は取れないか。これは困ったな…)

 

 一度、笑わない門をくぐった昭武にはその条件の厳しさを身に染みて知っていた。

 昭武の時は十回まで笑ってもよかったのだが、昭武は九回笑わされている。

 

(織田家の陽気な家風だと危ない。相良の命がかかっているとは言えど、本猫寺側の笑わせることへの執念は異常だ)

 

 だが、それ以上の問題もある。

 

「門をくぐること自体が難関やけど、それより笑わない門を越えた後が問題やな」

 

「けんにょと信奈の直接会談、だな?」

 

 良晴の言に孫市は頷く。

 

「せや。両方の提示する条件が噛み合わないんや。うちらも大坂退去は呑めんし、そっちもうちらが出す条件は呑めんやろ? せやからどうしても会談は決裂してしまうんや」

 

「だよな……。ん? ちょっと待て」

 

 そこで昭武は思い出した。

 確か、先程の御文の中に裁判に関係するものがあったはずだ、と。

 昭武はすぐに、御文の山からそれを取り出すと広げて孫市に見せた。

 

「これは、どうだろうか?」

 

 広げられた御文には『蹴鞠に神性有り候。その力、万歳にも比肩し候。自然、訴訟沙汰ある時、これを用いて判断する可く候。然れども今様の蹴鞠には神性有らず、いにしへの蹴鞠をこそ蘇らせる可く候。さすれば、門徒を熱狂せしめ、渦となりて大歓声に変じ大いなる力にならん。断じて鉾楯交わすこと有る間敷候』と書かれていた。

 

「そういえば、蹴鞠は神聖裁判やったな。あまり使われてはおらんかったから半ば忘れてもうた。しかし、いにしへの蹴鞠と言われてもどんなのか分からんし、果たして公家の遊びやった蹴鞠を武家が受け入れてくれるものやろうか」

 

 この孫市の不安はもっともなものであった。いにしへの蹴鞠と言われても手がかりが少なすぎて全く想像ができないのである。それは、古今東西の知識をある程度持っている昭武でも同じことだった。

 だが、良晴は違った。

 

「あ、思い出した。蹴鞠の起源は確か中国だ! 時代考証が合ってるのかはわからないけど、サッカーらしきものを三国志の映画で曹操がやってたのを見たことがある! そうか、サッカーでいいんだ!」

 

「作家ー? なんやそれ」

 

「別に南蛮蹴鞠って言い換えてもいい! この南蛮蹴鞠こそが本来の蹴鞠に近いやり方なんだ。スピーディーな展開で合戦に近い南蛮蹴鞠なら武家も受け入れてくれる!」

 

「なるほど。これを神聖裁判に取り入れれば、御文がある以上門徒は受け入れるしかないし、信奈公もこれに好機を見出すしかない。だが、相良。これは容易にできるものなのか?」

 

「できる。ルールがわかりやすいのも南蛮蹴鞠の売りだ! 蹴鞠が上手い選手を集めてルールを覚えてくれれば、すぐにできる!」

 

 良晴の顔にもはや絶望の色はない。信奈を第六天魔王にしない。その思いを奮い起こすと、並みの武将では及びもつかないほど豪胆になる。

 

(そうだ、それでこそ相良良晴。オレが認めた男だ)

 

 活気を取り戻した良晴を見て、昭武は静かに頷いていた。

 

 ********************

 

 孫市も去り、良晴も寝静まったころ。

 昭武のもとに再度、仲孝が訪れていた。

 

「昭武どの。きょうにょさまがお呼びです」

 

「きょうにょが、か?」

 

「はい」

 

「……ともあれ、行かなくてはならないか」

 

 仲孝に引き入れられ、いやいや昭武はきょうにょの部屋に入る。

 待ち受けるきょうにょの横には玄仁が立っていた。

 

「何の用だ、きょうにょ。切腹にはまだ早いだろう」

 

 きょうにょに対する昭武の反応は微妙なものだった。きょうにょが抗戦派の暴発を抑えているのは理解しているものの、きょうにょが統制したからこそ和睦が難しくなった側面がある。決して敵対心を解いていい相手ではない。

 

「星崎昭武、お前に温情を与えるぬこ」

 

「なに?」

 

 きょうにょの言葉に昭武の動きが止まった。

 

「よく聞くぬこ。織田信奈が到着しだい行われる笑わない門の試練において、お前が織田方を五回以上笑わせることができれば、仮に織田信奈との和睦が成らずとも星崎家との和睦は認めてやるぬこ。勿論、切腹も取りやめてやるぬこ」

 

 これは、昭武にとっては願ったり叶ったりの条件と言えた。閉ざされた交渉の道がまた開かれたのだから。

 しかし、昭武は即答できなかった。

 なにしろそれは飛騨のために良晴を追い詰めることに他ならないのだ。

 飛騨のために良晴を裏切る。国主としてはこちらの方が正解だろう。だが、昭武自身はそれを拒んでいた。

 

「一つだけ、教えろ。何回笑うと切腹になる?」

 

 だから、昭武はきょうにょは問う。

 それは理性と感情、その二つが妥協できる範囲を見出すためだった。

 

「芸の罠は五つで命の蝋燭は二十本。蝋燭が消えれば、全員失格、お前たちは切腹ぬこ」

 

 揺れ動く昭武の心情をよそにきょうにょは淡々と告げた。

 二十本のうち五本。つまりは四分の一である。昭武が笑わせ過ぎた場合、それが致命傷になりかねない数だった。

 

(とはいえ、オレは誰かを笑わせようとした経験はあまりない。なら、大丈夫だろう)

 

 昭武は自分自身を納得させてから頷いた。

 

「……わかった。その条件を受け入れよう。この約定、決して違えてくれるな……!」

 

 かくして、試練の下準備はほとんど完成する。

 

(これで、算段は全て整ったぬこ。織田信奈、必ずやお前を退けて滅びの予言の成就を防ぐぬこ)

 

 決意を新たにきょうにょは下準備に入るのだった。

 




読んでくださりありがとうございました。
全国版を持ってる方ならご存知でしょうが、次はアレです。ギャグなんてシリアス依存症の作者にとっての鬼門ですが、どうにか頑張って書きます。
何かあれば、お気軽にどうぞ。
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