オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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第七話です。

先ほど第六話の最後に少し加筆しましたので、第七話を読む前に第六話を読み返すことを推奨します。


第七話 濃飛同盟

 

 

数日後の稲葉山城の屋敷。

星崎一行はようやく道三に御目通りが叶い、屋敷の客間で正座をして道三が来るのを今か今かと待っていた。

 

(ここが道三公の屋敷か……)

 

客間には道三が集めた品々が飾られていた。飾られている品々はどれも文化の道に関しては素人の昭武でさえ一見して名品だとわかるものばかりで、元商人である道三の審美眼が優れたものであるかを示していた。

 

(あ、あれは……!)

 

そんな七珍万宝の中の一つを桜夜は指差す。昭武も桜夜の指差す先を見てみる。そこには、昭武一行が贈った勝定左文字があった。

 

(一応は喜んでもらえたみたいだな)

 

昭武一行が安堵して息をもらしたその時、道三が客間に入ってきた。

いかにも歴戦の戦国武将といった感じで武勇で鳴らした雷源とは違う種類の迫力があった。

しかし桜夜を見て「可愛いのう」と少し頬を緩めたあたり、情が通っていないというわけではなさそうだ。

 

「済まぬ、待たせたな」

 

そう言って道三もまた座り込む。

 

「御目通りを許して頂き、ありがとうございました。オレは熊野雷源が嫡男、星崎昭武。隣に侍るは熊野家の宰相の琴平桜夜にございまする」

 

「琴平桜夜です。此度は諸国に名高い道三様に御目通りできて光栄です」

 

「そなたらが姉小路家を打ち倒したのか……なるほどな」

 

道三の視線が平伏する昭武と桜夜に向けられる。

するとなぜか自分の体に何かが這い回っているような感覚に襲われた。

 

(ふむ、美濃の蝮というあだ名はこの体を這い回ってくるような視線からつけられたのかな?)

 

昭武は一人で勝手に納得して、顔を上げる。

 

「さて、昭武殿達はこの蝮に何の用か?」

 

「オレら熊野家と同盟を組んで頂きたく存じます」

 

「同盟か。では問う。昭武殿達はなぜこの蝮と盟を所望する?」

 

道三が先ほどとはまた違った目つきで昭武達を睨みつける。

だが昭武は怯みもせず逆に似たような目つきで道三を睨み返した。

 

「オレら熊野家は飛騨の統一が悲願でな。そのための背後の保証が欲しいんだ」

 

「背後の保証とは言うがそれならばワシではなく武田に頼めばよかろう。武田の方が国力はあるからのう」

 

「それではダメなんです」

 

「ほう?それは何故」

 

興味を惹かれたのか道三がやや前のめりになる。

 

(なかなかの食いつきですね。このまま畳み掛けるとしましょうか)

 

桜夜が笑みを浮かべ、語り始める。

 

「道三公、飛騨は全土を統一しても十五万石にしかならないことをご存知ですよね?」

 

「うむ、確か律令制の世では飛騨は調、庸を免除されておったな」

 

「十五万石しかなければ全てを統一しても、せいぜい濃尾の一豪族程度にしかなりません。それでは襲い来る外の勢力には太刀打ちできないでしょう」

 

「そうじゃのう」

 

頷く道三。

 

「だが、一つだけ外の勢力に打ち勝てる方法がある」

 

「それが盟を組むことであろう?軍事同盟を他国と結んでしまえば、飛騨の国力、いや熊野家の国力は上がるからのう」

 

道三はしたり顔で語るが残念ながら違う。

 

「道三様、確かにそれもまた方策の一つではありますが、しかし私は熊野家の国力というより飛騨の国力の話をしているのです」

 

「飛騨の国力ではワシにはわからぬ。どうやっても十五万石で頭打ちになるじゃろうて」

 

道三は匙をなげる。しかしこれは仕方ない。これから昭武達が言うことは詭弁だ。まともに考えてわかるわけがなかったのだ。

 

「飛騨十五万石の石というのは元々米の単位でございます。確かに飛騨では米は十五万石しか取れない。

ーーだが他の作物ならどうだ?」

 

「とはいえ飛騨は土地が貧しいはずじゃ、他の作物とはいえども収穫が大して変わるとは思えぬ」

 

「変わりますよ。昭武殿が熊野家の家督を継いだらまず南蛮から馬鈴薯を買い付けます。馬鈴薯と言うのは南蛮人が新大陸と呼ぶ地の作物で、なんと荒野でも育つそうです」

 

訝しる道三に桜夜は援護射撃を行う。

 

「なんと!そんな作物が⁉︎」

 

桜夜の情報に道三は目を見開く。

 

(そんな作物が実在するのであれば、日ノ本はひっくり返るだろう。今、日ノ本の大多数の武家は食料収奪のために戦を起こしている。作物ができず領民が飢えているからじゃ。だがしかし、もしその馬鈴薯とやらが普及すればほとんどの戦がなくなるではないか)

 

「ええ、南蛮の地では見栄えが悪いということでまだ食べる習慣はないようですが。もし飛騨で馬鈴薯を栽培出来たなら耕地は米や稗のみを作っていた頃と比べて数倍に広がりましょう。単純計算ですが馬鈴薯を用いれば飛騨は三十万石の国と同じだけの収穫を得ることができます。しかし……」

 

「しかし、なんじゃ?」

 

突然黙る桜夜に訝る道三。

 

「馬鈴薯の種自体、この飛騨ではまず手に入らないのが難点です」

 

「南蛮の作物である以上それは当然じゃろうて……で長々と語っておったが、その馬鈴薯と我が斎藤家と同盟を組むことには何か関連があるのか?今の話を聞いておる限り、ワシにはそなたらがワシと必ずしも同盟を結ばなくてはよいように思えてならぬのだが」

 

「いや、道三公と同盟することは我ら熊野家には必要ですよ。ーーあと織田家もな」

 

(ワシと織田家と盟を組むじゃと?……こやつまさか!)

 

昭武が織田家のことに言及した時、聡い道三は全てを察した。

 

「おぬし、海を狙っておるのか?」

 

「いかにも」

 

道三が尋ねると昭武は首肯した。

 

「飛騨、美濃、尾張はまるで団子のように南北に連なっている。なればその三国と同盟ないしは通商関係を結べば、飛騨でも南蛮の物産が手に入るからな。一応越中も考えには入れたが、彼の国はにゃん向宗の勢力が強すぎて耶蘇教を信仰している南蛮人を寄せ付けない」

 

「なるほど、そなたたちがワシに盟を求める理由はわかった」

 

(それにしても飛騨にいながらして、尾張の海を得ようとするか。なんと遠大な戦略を掲げているのだろうか)

 

道三は昭武と桜夜の構想に打ち震えていた。

 

「道三様。私達と同盟を組みますか?自分の利益ばかり語ってしまいましたが、道三様にもこの盟による利益はありますよ」

 

(溜め込んだ知識と舌をできる限り振り絞った。これで盟を結べなければ、オレはその程度の人間だということだ)

 

昭武は覚悟を決め、

 

(この小僧達もひとかどの人物ということか……。それも内治に関しては雷源をも凌ぐほどの。手を組むには申し分がない。ーーしかしだからこそ疑ってしまう)

 

道三は黙考する。

 

「昭武殿、最後に問う。そなたは早晩飛騨を統べるじゃろう。そして馬鈴薯を用いて飛騨を富国とする。じゃがその先はどうするつもりじゃ?そのまま飛騨を統治して終わりかの?」

 

道三は問いと言いつつも挑発混じりに尋ねる。

 

(果たしてこやつは信ずるに値するか否や)

 

「いや、それはない」

 

それに昭武は胸を張って答える。

 

「オレは今までと違ったものがみたい。こんな乱世なんて手早く終わらせて次の時代を見てみたいんだ」

 

「それは、天下統一ということでよいかの?」

 

天下統一。昭武にとっては耳慣れない言葉ではあるが、それが何であるかおぼろげながら想像はできた。

 

「天下統一よりも天下泰平だな。だが、統一しなければ泰平が成らないというのならオレがそれを志そう」

 

昭武のこの言葉を聞いて道三の疑いは氷解した。

 

(そうか、そなたは乱世に倦んでいたのじゃな)

 

道三は稀代の謀将には似つかわしくない優しい笑みを浮かべる。

端からこの二人のやりとりを見ていた桜夜はただただ瞠目するばかりであった。

 

「道三公、盟を結んで頂けますか?」

 

「うむ、ワシもまた次の時代を見たいと願っておるからな」

 

昭武と道三が固い握手を交わす。

かくして濃飛同盟は成った。

 

 





読んで下さりありがとうございました。
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