インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

14 / 31
14 鈴音、襲来

「転校生? こんな微妙なタイミングに?」

 

 朝のSHR前。

 玲次は女子生徒の雑談に混ざっていた。そこで興味深い情報が入ったのだ。

 

 今はまだ4月。そろそろ5月に差し掛かろうとしている頃だ。しかし妙なタイミングだと玲次は訝しんだ。IS学園は普通の生徒が飛び入りで転入出来るような学校ではない。恐らく代表候補生かそれに近い特殊な生徒が転入するであろうことを推測するのは容易だった。

 

「そ、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

 黒鉄や白式に興味を持ったのだろうか。それとも単に個人の事情なのか。

 前者の可能性が高いし、今後とも他国から新たに代表候補生と投入してくる可能性は高いのは想像に難く無かった。男女のパワーバランスを再び揺らがせると言うのだからその原因を探らせに行くのは何らおかしくは無い。

 その考えに男尊女卑だろうと女尊男卑だろうと男女平等だろうと思想面での関係は無い。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

 数少ない代表候補生、セシリア・オルコットは腰に手を当てて胸を張って話に割り込む。

 残念ながらその可能性はちょっと低い。

 

「多分おれか一夏辺りじゃァないすかねぇ……」

 

「ちょっとお待ちなさい! わたくしは眼中に無いとでも!」

 

「いやいや……そう言う事じゃなくて」

 

 いつも通りプライドは高い。食い下がるセシリアに玲次は手をヒラヒラさせて否定の意を示す。

 

 負けをちゃんと認めたり、失言を謝ったりするので別に悪い人間では無いのだが。それに実力はあるので笑える立場では無い。

 

「そいつってどんな奴なんだろうな」

 

 いつの間にか教室にやってきた一夏が割って入る。これでかなりの大所帯と化しており、いつの間にか清香や箒まで混ざっていた。

 

「このクラスに転入して来る訳でもないだろう? 別に騒ぐほどの話でもあるまい。……気になるのか、一夏」

 

 最近不機嫌な箒がむすっとした表情で言う。

 何でそう不機嫌なのか分からず一夏は困り、玲次はさり気なく目を逸らした。

 

 この嫉妬魔め、と思わない事も無い。

 

「そりゃ、少しはな。なんせ結構代表候補生なら実力はあるんだろうし……」

 

 一夏の返しに箒は「ふんっ」とそっぽを向いたが、何か思う事があるのか、どこか神妙な顔をしていた。そんな姉に玲次は何が出来るのか。今の玲次には――無理だ。

 姉の恋心優先にしていたら損をするのは一夏だ。セシリアと一夏がくっつく可能性はゼロではないが、現状その様子は無い。

 一夏は何かに憑りつかれたかのように強くなる事に拘っているが、一夏が強くなれば玲次としても彼にIS関連で気を配る必要も減るし、テロリスト相手から何かされる可能性もグッと減る。

 

「さてさて、零落白夜抜きの省エネ戦法にも慣れなきゃならないからやること多いよこれは。噂に聞かない4組の機体ってどうなの? 場合によっては立ち回りを考えなきゃならないけど」

 

「4組の専用機……データにはありませんわね。ある情報は日本の代表候補生のサラシキさん、と言うぐらいですわ」

 

 それを聞いた一夏は「うそだろ……」と大きく項垂れた。

 前情報抜きで戦うのは一夏としても怖いものがあるようだ。が、直ぐに立ち直り顔を上げた。

 

「……取り敢えず、やれるだけやってみるさ。前情報抜きだとしても逃げていい訳じゃないからな」

 

「やれるだけでは困りますわ! わたくしが教えるからには織斑さんには勝って戴きませんと!」

「そうだぞ、仮にも専用機を持っていてそのような弱気でどうする」

 

 セシリアと箒が口々に檄を飛ばす。それに一夏は「そんな無茶な」と苦笑いする。

 直感的操作では気付けばジリ貧になっているから多少は機体状況に気を配らないとならないという課題がある。

 

 考えなしで直感フル活用で攻めてエネルギー切れで自滅するか、無駄に意識し過ぎて動きがちぐはぐになって叩き落とされるかと言う両極端な状況から打破しなければ一夏は立ち止まったままだ。

 

「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せだよ~。なにせ優勝したクラスは半年間学食のデザートフリーパスで毎日タダでデザートが食べられるからね~」

 

 清香が呑気そうに言う。

 玲次としても学食のデザートのフリーパスはとても魅力的な景品だった。

 男が甘いモノが好物で何が悪い。

 

「そうそう。おれを潰したんだから勝って貰わないと。フリーパスが掛っているし」

 

「お前も欲しいのかよその、フリーなんたら……」

 

 何の臆面もなく玲次は縦に頷いた。「篠ノ之君分かってるね~」とか数名から声が上がり余計に一夏は脱力した。

 

「4組に気をつければ大丈夫だよ~、きっと」

 

 と、クラスメイトの一人が言ったその時である。

 

 

 

「その情報――古いよ」

 

 と、教室の入り口から声がした。

 教室の入り口には腕を組み、片膝を立ててドアに凭れている小柄なツインテールの少女が居た。

 

 見慣れない顔だ。言うまでも無く1組の人間では無い事は明白であった。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝は出来ないから」

 

 玲次は思いっきり拙ったと顔を顰めた。

 代表へのねじ込みと言う可能性も考えておくべきだった。そもそも今回の景品は女子にとっては喉から手が出る程欲しくなるようなものだ。2組とて女子ばっかりなのだから欲しいと思う人間が大多数だろうし出来れば勝率の高い人間に託していたって何もおかしくなんかない。

 

 さて、どうしたものか。玲次がふと一夏に目をやると、当の一夏は彼女の登場に驚いているようだった。それも――尋常では無い驚き方だ。

 

 そんなに強敵が出て来るのがショックだったのかと最初はてっきり思っていたのだが、実際は違い予想斜め方向のものだった。

 

「鈴……? お前まさか鈴なのか!?」

 

 まるで見知った間柄と言わんばかりの物言いだ。

 本当に見知った間柄なら世間と言うモノはよっぽど狭いものだ。

 

「そうよ。中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 フッと不敵に鈴音は笑う。

 小柄な所為もあってかちょっと背伸びしているように見えた。身も蓋も無い事を言ってしまえばあまり似合っていない。

 鈴音の身長は、170台の一夏の肩ぐらいしかない。多分150とかそこらだろう。

 

 因みに玲次は165だ。

 

「え、何? 知り合い?」

 

 玲次は鈴音と一夏を交互に視線を移しつつ状況を把握しようと一夏に質問した。

 

「あぁ。お前たちが転校して居なくなった辺りに入れ替わりで俺の所の小学校に転校してきて知り合った。いわば、セカンド幼馴染と言う奴だ」

 

 成程。入れ違いならば玲次が知る訳が無い。

 次に箒へと視線を移すと箒は何が何だか分からず混乱している様子だった。そんな中一夏は――

 

「ところでお前――カッコつけてるようで悪いが、すげぇ似合わないぞ」

 

 玲次が思っても言わなかった事を容赦なく言ってしまった。流石鈴音とは幼馴染なだけある。初対面の玲次と違って言う事に容赦がない。

 

「んなッ――!? この空気でなんてこと言うのよアンタは!」

 

 キレた鈴音は一夏に詰め寄る。

 流石に幼馴染でもアレは空気が読めていない発言だったようだ。黙ってあのノリに付き合うのが正解だったのかも知れない。だがこれで二人の関係が何となく見えたような気がした。

 

「で、何時までこの1組の教室に居るつもりなんだ?」

 

 その時、ドスの効いた女性の声と威圧感が鈴音背中を襲った。状況に気付いた周囲の生徒たちは蜘蛛の子を散らすかのように散り散りになり自分の席へと逃げていく。

 玲次もそそくさと自分の席へと退散した。

 

 なんせ命が惜しい。

 

「ち、千冬さん……?」

 

 鈴音がまるで錆びたブリキの人形の如くぎこちなく首を後ろに向ける。一夏を知っているわけだから千冬と顔見知りでもおかしくは無いという事か。

 

「織斑先生、だ。とっとと戻れ。SHR中の教室に余所者が突っ立っているつもりか」

 

「……っ、また後で来るからね! 逃げないでよ、一夏!」

 

 彼女も千冬の恐ろしさは知っているようだ。脱兎のごとく2組へと走って行く彼女の後姿を見送りつつ、玲次は大きく溜息を吐いた。

 これで一夏の勝率はがっくりと落ちたようなものなのだから。

 

 

◆◆◆

 

 昼食の時間。いつものように玲次と一夏、箒は食堂へと足を運んだ。気付けばセシリアなどクラスメート数人が付いてきていたが、別段驚く事も無く券売機前まで辿り着いた。のだが――

 

「待って居たわよ、一夏!」

 

 どーん、と券売機の前で一夏たちの前に立ちふさがるツインテールの少女が一人。噂の転入生、凰鈴音だった。

 

「待ってたのは別に良いとして取り敢えずそこをどいてくれ。食券が買えない」

 

「う、うるさいわね……分かってるわよそれくらい。アンタを待ってたのよ」

 

 一夏にしては極めて冷静かつ的確な返しに鈴音はちょっと不貞腐れつつ大人しくそこを退いた。尚、彼女の片手にはお盆を持っていてラーメンの入ったどんぶりが白い湯気を立てて鎮座している。

 

「いや別に待ってくれとは一言も言ってないぞ。来るかどうか怪しい奴待ってたらラーメン冷めるし伸びちまうぞ」

 

「アンタが速く来ればいい話でしょーが!」

 

「無茶言うな!」

 

 一夏と鈴音が軽い口喧嘩(一方的に鈴音が噛みついているだけに見えなくも無いが一夏の物言いも中々遠慮が無い)に発展しているのを尻目に玲次はさっさと、発券した豚骨ラーメン大盛りの券を食堂のおばちゃんに渡し、現品と交換してもらう。

 

 鈴音と一夏のやりとりを見ていると、これから更に騒々しくなりそうな、そんな予感がしていた。

 

 

 

 

「鈴、いつ日本に帰って来たんだ? おばさん元気か? それといつ代表候補生になったんだ?」

 

「一度に沢山訊かないでよ。アンタだって何突然ISなんて使い始めてんのよ。ニュースで初めて知った時びっくりしたわよ」

 

 一夏と鈴音が旧交を温めている一方玲次は、ずず、と豚骨ラーメンを啜りつつそんな二人を観察していた。近くの席には箒や清香、セシリア、その他諸々の生徒たちが座っていた。

 

「織斑君と凰さんって幼馴染とは聞いたけど、どういう関係なの? もしかして付き合ってたりする?」

 

「や、何でおれに訊くの相川さん」

 

「そりゃもう織斑君の事よく知ってそうだし」

 

 清香は肉うどんに七味を掛けつつ玲次と話していると、注意が散漫になり肉うどんの上に大量の七味が掛ってしまい、気付いた清香が「あっ」と短い悲鳴を上げた。

 

――ご愁傷さま……

 

 涙目になっている彼女に「水、取って来たら?」と言い、清香が一旦水を取って来て戻ってきてから玲次は質問に対する答えを続ける。

 

「確かに姉とおれは、一夏とは幼馴染だけど引越しとかで暫くブランクがあってねぇ……その間に知り合ったっぽい」

 

「つまり知らぬ間に篠ノ之さんにライバル出現! って感じだね……うぅ、辛い」

 

 辛さに耐え切れずコップの中の水を呷る。見ててちょっとかわいそうになって来た。

 

「あー、やっぱ気付いてたかー」

 

「それはもう初っ端から屋上に呼び出してるんだから、噂も出るよ」

 

 確かに1日目から呼び出すとかよくよく考えたら異常事態だ。箒もよくもまぁそんな目立つ事をしたものだ。

 

「べべべべべ別に奴にそういう感情など抱いている訳が無いだろう!」

 

 話を聞いていた箒が慌てて否定しに掛るが、そんな事をするから余計に色々言われるんだよなぁ、と玲次は苦笑いしつつ「はいはい」と返し、レンゲでスープを掬い、啜っていた。

 

 

 一方鈴音はどんぶりを持ってレンゲを持たず豪快に啜ってから、切り出した。

 

「一夏、アンタクラス代表なんだって?」

 

「おう。一応、な」

 

「ふーん。あ、あのさぁ。ISの操縦見てあげてもいいけど?」

 

 その提案は大丈夫なのか。幼馴染だからって敵に塩を送って良いのか。……人の事言えないけれど。

 玲次がそう思い立った所でセシリアが口を開いた。

 

「あなたは2組でしょう? 率直に言わせていただきますが敵の施しは受けませんわ」

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

 

 ばっさり言い放つ鈴音にセシリアが一気に不機嫌な顔になる。

 

「既に織斑さんへのIS操縦の教導に関しては同じ組のわたくし、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットで既に間に合っていますわ。そもそも一組の代表ですから一組の人間が教える事は当然のこと。あなたこそ後から出て来て何を図々しい事を――」

 

「や、でもアンタ、話に聞くと素人に負けたって」

 

「んぐっ……!」

 

 セシリアとしても与えられた役割を奪い取られるのは嫌なのだろう。玲次が勝利出来たのは偶然の産物と状況が味方しただけなので結果=強さにはならないのがちょっと厄介な所だ。

 鈴音とセシリアとではどうも相性が悪そうに見えた。上手く表せないが何かが正反対と言うべきか。

 

 

 一触即発の空気になるセシリアと鈴音を他所に玲次は鈴音に対抗して黙って鈴音と同じくどんぶりを持って豚骨ラーメンのスープを飲み干した所で昼休みの終わりを報せる予鈴が鳴り響いた。

 

 因みに、清香は予鈴から1分後、半泣きで七味まみれのうどんを完食したとかなんとか。

 

 

◆◆◆

 

 箒はまるで蚊帳の外に立たされているような感覚を覚えた。いや、現に立たされているではないか。

 

 そもそも専用機を持っているか否かで様々な面で違って来る。専用機が無いと必然的に学園の量産機を借りるのが普通だ。だが、そう簡単に借りられる訳では無い。事前に申請などと言った手続きをしなければならない。それだけでも相当後手に回ることになる。

 

 剣術を今でも一夏に教えているがそれ以外は殆ど出来ていない。

 そして話は専用機持ち同士で話が進んで行く。

 

 専用機さえあれば、と思いはするものの、家族を滅茶苦茶にしたものを求めるにも抵抗があった。

 

 

 このまま一夏が自分の知らない何処かにいなくなってしまうんじゃないか、と妙な不安が襲う。

 もし黒鉄が自分のもとへと現れたならば、どうなっていたのだろうか、とふとそんな事を考えてしまうが、あった所で機体の性質からして相性が悪いのは明白だった。

 それに自分はISそのものの適正が低いではないか。

 

 一抹の寂しさと悔しさと抵抗感などといったものが綯い交ぜになったものに襲われながらも、箒は冷えてしまった味噌汁を呑み干してから鈴音とセシリアの喧嘩の板挟みにあった一夏の姿を見てから大きく溜息を吐いた。

 

 これ以上考えると頭の中がぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。




 暫く箒の苦悩は続く。
 自分の家族を滅茶苦茶にした大嫌いなものを、求めなければならないという訳の分からない状況とかどうしろと。


 予定通りに話が運べば原作より速くあの機体が出るかも知れない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。