インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

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20 架空の空

 学園の地下50メートルに存在する区画が存在する。レベル4……要はIS学園教諭でもそれなりの地位に居なければ立ち入る事も許されないのだ。

 そこでは機能停止した黒いIS――学園が暫定的にティターンと名付けたISの解析と事件の処理が行われていた。

 

 その一角、薄暗い室内にて千冬は仏頂面で今回の事件の戦闘記録映像を繰り返し観ていた。

 教員の介入無しでの闖入者への対抗、及び撃破。3人とも随分と無茶をしてくれたものだが、一夏と玲次、鈴音の奮闘で1機鹵獲する事が出来たという点では感謝するべきであろう。しかし無茶自体は咎めるつもりではある。調子に乗ってまた無茶をやらかされて死なれては困る。

 

『織斑先生』

 

 戦闘記録映像を映すディスプレイに割り込みでウィンドウが開く。ウィンドウにはいつもの様子からでは想像できないであろうほどの険しい表情の山田先生――真耶が映っていた。

 千冬がコンソールでドアのロックを解除すると、真耶がタブレット型端末を持ちきびきびとした動作で入室してきた。慣れた手つきで端末に表示されたレポートを千冬に提示する。

 

「あのISの解析結果、出ました。やはりあれは――無人機だったようです」

 

「そうか……」

 

 遠隔操作、独立稼働。いずれも自律兵器には実装されている機能ではあるが、ISには未だ実装が成されていない。何せ構造がISの方が複雑であるからだ。そもそも無人兵器の使用自体ISの登場によって禁止されており、偵察程度の使用しか許されてはいない。

 

「どのような方法で動いていたのかは不明です。篠ノ之君の手に渡った黒鉄と同じく、中枢機能が何かしらの手段で消去(デリート)されていて修復も恐らく不可能かと」

 

「用意周到な事だ……コアはどうだった?」

 

「コアも未登録でした。こちらはデータ改ざんの形跡が無かったので正真正銘のエクストラナンバーです。恐らく残り2機も同じかと……」

 

「そうか……」

 

 報告を聞いた千冬は天井を見上げた。

 黒鉄とあの3機、きっと無関係ではないだろう。……妙に胸騒ぎがした。これから黒鉄を中心に何か面倒な事が起こる、そんな予感が。

 

「……黒鉄の監視を強化した方が良いだろうな」

 

「そうですね……」

 

 千冬と真耶の視線がディスプレイの映像に移る。玲次がティターンと戦闘している様子が映されていた。

 

 

◆◆◆

 

 

 あのアリーナ乱入事件後、教員らによる事情聴取で丸一日拘束された。クラス対抗戦はこの事件で中止を余儀なくされ、玲次自身吐ける事は殆どなかった。

 

 そもそも信じて貰えるかどうかと言われればNOであるし、吹聴すれば一夏らの身に危害が及ぶ可能性を考慮すれば、返答内容は急に襲われたと言う形にするのが玲次がはじき出した答えだった。

 やはり件の電話に関しては証拠隠滅を入念に行ったのか電話代は一切掛かっていなかったようで教員の口からそれらしき話はなかった。恐らくは傍受はされていない、と思われる。

 

 その最中興味深い話を耳にした。

 案の定黒いISは無人機であったとの事だ。しかも登録された467+1のうちには入らない全く新規のコアと言う恐るべき事実。

 逃亡したもう一機の黒いISと紅いISの行方は知れず、以後紅いISはレッドフェンサー、黒いISはティターンと呼称する事にしたと言う。

 

 なお、無人機エクストラナンバーの登場に対し委員会及び日本支部の対応は完全に後手に回っているらしい。黒鉄という前例や高速道路の一件と問題が山積みになっているのでどこから手を付ければいいのか分からない状況になっているあげく、無意味な責任の所在の追求が続いているという、解決策の糸口が一切見えない状態だと、IS学園職員の一人が愚痴っていた。

 

 

 

 事情聴取から解放されて教室にやって来れば、生徒たちが一気に群がって来た。当然の反応だ。何せ訳の分からない侵入者との交戦という前代未聞の事態での当事者なのだから。それがISとなると猶更だ。本来ならば一夏で半分くらいに分散されるハズが、彼の不在により玲次ただ一人受け止める形となっていた。故に負担マシマシで玲次を襲った。

 

 恐くなかった? ――当然怖かったよ。危うく死ぬとこだったよ、もう。

 

 あのISは何だったの? ――知らないからこんな大騒ぎになってるんだよなぁ……何なんだろうね、ほんと。

 

 織斑君は大丈夫なの? ――大丈夫。まだ眼は覚ましてないけど命に別状はないそうだよ。

 

 一頻り質問攻めを喰らった後、それなりに満足したのか女子生徒たちが散り散りになった所で玲次はげっそりとしていた。ほとぼりが冷めるまで、息つく暇も無さそうだ。恐らく次の休み時間で第二波がやって来るに違いないのだ。

 それから授業はいつも通りに行われた。それでも生徒間の空気はいつも通りとはお世辞にも言えやしなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

「よっ」

 

「玲次か」

 

 一夏が目を覚ました。

 その報せを聞いた玲次はその旨を箒に伝えた後真っ先に医務室へ向かうと一夏がベッドに横たわって暇そうに天井と睨めっこしていた。

 今回の案件では一人でどうにかする事自体無理難題だと理解こそすれど、最後に丸投げしてしまったのは迂闊だった。一夏が無茶な瞬時加速を行なった事を玲次が知ったのは戦闘が終わってから。それを知った時は激しく後悔した。

 

「具合は」

 

「一応大丈夫だ。とは言っても暫くは動けないな。俺も白式も無茶をしたみたいだし。全身打撲程度で済んだのが奇跡みたいなものだって言われた」

 

「そりゃそうだ。まさか衝撃砲使って無理矢理加速させるなんて普通じゃやらないし、想定外だ……」

 

「でも、お前が命懸けでチャンスを作ってくれた。だから俺も全力で応えたかったんだ。ま、千冬姉にはこっぴどく怒られたけどな」

 

 一夏は屈託なく笑う。こういう奴だから箒も鈴音も彼に惹かれたのだろう。やるときはやる奴なのだ、織斑一夏という男は。そう言う奴なのは古い記憶ではあるが知っている。

 真剣な目でそう言って来るものだからむず痒かった。

 

「そう言ってくれるのがカワイコちゃんだったらいいんだけどね」

 

 玲次は苦笑いで軽口を返し「悪かったな野郎で」と憎まれ口で返す。

 

「事実あれをやらなかったら、命中しなかったのは事実だ。アイツ、あんな速度でも余裕で反応して防御態勢をみせた。その点、おれの見通しは甘かった……ごめん、焦っていた」

 

 自身の未熟は重々承知だった。

 相手は想定以上の暴力で踏みつけて来る、それに対し自分たちは立ち向かうだけの力をまだ持ち得ていないのは3機目の所属不明のISが現れた事で浮き彫りになっている。

 

「お互い、色々上手く立ち回るだけの技術が必要だな。お前がチャンスを作ってくれなかったらそれすら当たらなかっただろうし」

 

 一夏は笑っていたが、玲次は笑えず黙りこくっていた。

 次に奴らは襲って来るのはいつなのだろうか。問答無用の殺し合いに自分たちは生き延びることが出来るのか。無意識に握り固めていた拳が震えていた。

 

「――鈴?」

 

 入り口に向かって一夏が呟く。玲次が振り向く。

 やや開かれたドアから鈴音が覗き見しており、気付かれるや否やさっと身を引っ込めた。

 

「……お邪魔虫は退散した方が良さげか」

 

「え? 何でお前が居なくなる必要があるんだ?」

 

 きょとんと一夏が疑問符を浮かべる。駄目だコイツ本物の朴念仁だ。まぁ筋金入りの朴念仁でなければこんな状況になっていないのでそう簡単に治る訳がないなと思うとなおの事、眩暈がした。

 

――箒と鈴音……ほんと君らいつか報われると良いなぁ……

 

 玲次は派手に溜息を吐き頭を抱えながら、フラフラと医務室から出て行った。

 

「おい、玲次なんで溜息なんか吐いてるんだ? なんかフラフラしているし大丈夫か? おーい!?」

 

 

 

 玲次と入れ替わりで鈴音が入室する。鈴音はベッド脇の椅子に腰かけた……のは良いのだが何か話す話題が見つからずお互い無言のままであった。鈴音から何か言いだすのかと一夏はてっきり思っていたものの鈴音から何か言いだす気配がない。

 妙な静寂に耐え切れず一夏が口を開いた。

 

「……試合、無効になったらしいな」

 

「そりゃそうでしょうね。あんなものが割って入って来たんだから」

 

 やっと鈴音が吐いた言葉は案外そっけないものだった。

 まだあの事を怒っているのだろうか。流石に貧乳と言ったのは拙過ぎたと心底反省する。ヒートアップしていたとは言えあの暴言はしてはならないものだ。

 

「……決着、どうする? 次の再試合もなにもクラス対抗戦自体中止になってしまったし」

 

「その事なら別に良いわよ」

 

「何でだ」

 

「い、いいからいいのよ!」

 

 何故だ、と言いたかったが鈴音があまりにも必死なのでこれ以上の理由は追求しないようにした。しかし、ケジメだけは付けておきたい。幼馴染として云々より人間として。

 

「鈴。ごめん。悪かったよ、色々酷い事言って」

 

 頭を下げる一夏に鈴音が面食らったような表情をしてから、すぐ取り直した。

 

「ま、まぁそこはあたしもムキになり過ぎていたってのもあるし。お互いさま。もうこれで手打ち、いいわね」

 

 鈴音と喧嘩する事自体は珍しい事ではない。

 と言うか女友達でここまで喧嘩するのは鈴音ぐらいだ。鈴音自身サバサバしている事もあってか尾を引かない所為で尚の事喧嘩の回数が増えた訳だが。

 

「それと、思い出した事がある」

 

 昔、鈴音と交わした約束の事だ。IS絡みで色んなことが起こり過ぎて、忘却の海に投げ捨てられていた。ちゃんとサルベージ出来たのは幸いか。

 その約束を交わした時は今と同じ夕暮れだったか。

 

「料理が上達したら、毎日あたしの作った酢豚、食べてくれる? ……って。そんな感じの約束だったよな。で、どうだ、上達したか?」

 

「え、あ、う……」

 

 再び面食らった鈴音はしどろもどろになり、視線が泳ぎまくっていた。簡潔に言い表すなら相当焦っているように見える。夕暮れのせいなのかは定かではないが耳も赤かった。

 

「ふと思ったんだが、その約束ってもしかして違う意味なのか? 俺はてっきり料理の修行の練習台かと思ったんだが……」

 

「違わない違わない! だ、誰かに食べてもらった料理って上達するでしょ!? だから、そう、だから!」

 

 早口で詰め寄りまくし立てる鈴音に一夏は気圧されて思わず上半身は引いた。と、同時に打撲痕がずきりと痛んだ。

 

「た、確かにそうだな。いや、もしかしたら酢豚=味噌汁だったのかなとか勘違いしていたよ」

 

 はははと、怪我の痛みを悟られぬように笑って見せる。きっとその笑みは引き攣っていることであろう。

 

「そ、そそそそそうね! ……深読みし過ぎよっ、う、うははははは……」

 

 何故だか鈴音も何かを誤魔化そうと笑い始めた。

 両者とも無理をした笑い声が病室に響き、通りがかりの医者が「えっなにこれ」と困惑しきっていた。二人の無理した笑い声が収まると、こほん、と一夏が咳払いしてから気を取り直した。

 

「そういや、こっちに戻って来たってことはまた店をやるのか? やるんならまた食べに行きたいぜ」

 

「それは――」

 

 鈴音が言い淀み、そして表情も一転して暗くなった。

 

「もう、お店はしないんだ……ううん、出来ない。あたしの両親はさ……離婚しちゃったから。あたしがあの時国に帰る事になったのはそのせいなんだよね……」

 

 一夏は記憶にある、鈴音の中華料理店で昼飯食べていた思い出が音を立てて崩れていくような感覚を覚えた。記憶が正しければ鈴音の両親は相当仲が良かった風に見えた。それが一体何が……

 鈴音の様子からして冗談なんかには見えないし、鈴音がそんなたちの悪い冗談を言う性格ではないのは一夏が一番よく知っている。

 加えて、言われてみればあの頃の鈴音は酷く不安定だった気はする。何か隠し事をしている風でもあったし、めっきり鈴音の中華料理店にも行く事もなくなっていた。あの頃は引っ越しの支度のせいだろうかと思っていた。

 

「母さんの方の親権なのよ、ほら、女の方が立場が上になった時代だし待遇は上で……だから父さんとは1年くらい会ってないの。多分元気だとは思うんだけど」

 

 信じられなかった。豪快で気前のいい鈴音の父親や、鈴音に似て活動的な母親の姿が鮮明に思い出せるからこそ、あの二人が離婚にまで至る姿が想像出来なかった。現実を受け入れるのにもう少し時間がかかりそうだ。

 どんどん沈んでいく鈴音にどう声をかけたらいいのか分からず、一夏はへの口で黙り込んでいた。

 

「家族って、難しいね」

 

 家族。一夏が知る両親はどれも他人のものだった。

 一夏は自分の両親というものを殆ど知らない。故に彼女の一言にどんな思いが詰まっているのか計り知れなかった。

 それでも、一つだけ確かな事がある。鈴音が悲しんでいるという事だ。

 

「なぁ――鈴」

 

「何よ」

 

「今度どっか遊びに行くか」

 

 その時、鈴音の目の色が変わってパッと明るくなった。思いの外効果てきめんで一夏は嬉しくなった。鈴音に沈んだ顔は似合わない。笑っていた方がずっといいのだ。

 

「それってまさかデー」

 

「五反田も呼んで、また中学の頃のメンバーでさ」

 

 鈴音が溜息を吐いた。呆れ交じりでもあったが、何処か優しい溜息のように一夏には思えた。

 

「仕方ないわね……」

 

「え、何がだ?」

 

「色々よ! 察しなさいよ」

 

「あっはい」

 

◆◆◆

 

 

「朗報よ。黒鉄のオーバーホールと同時に換装プランが採用されるのよ!」

 

 地獄に仏とはまさにこのことか。

 後日、芝崎に研究所に呼び出された玲次は黒鉄の換装プランの実装をいつもの研究施設で知らされた。

 信じがたい話だった。何せ黒鉄に与えられた拡張領域はたかが知れており、結果グレネードとハンドガン程度しか積めなかったのだ。

 

「え? 行けるんですか?」

 

「えぇ。その代り、機動力がやや低下を起こしてしまうのと少し癖があるという所かしら。前々からプランはあったからそれなりに固まっていたのよ。残る問題は容量だったのだけれども」

 

「つまりそこは解決したという事ですか。しかし一体何故?」

 

「あーそれはね……」

 

 芝崎は部屋の奥に鎮座している損傷したの黒鉄を見やる。一夏と白式ほどでないにせよこちらも随分と無茶をしたものだ。オーバーホールは修繕も兼ねている。

 一つ間を置いてから芝崎は言葉を続けた。

 

「戦闘終了後、コアの中で何かが変化した……と言うか一部ブラックボックスが解放されたのよ。その原因はまだ分かってないけれど。これで換装に対応できるように調整すればあとは現物の完成を待つだけよ」

 

 それは有り難い事だ。手段が増えるという事は、使い手がしっかりとしていれば柔軟性が増す事と同義なのだ。しかし急なブラックボックスの解放が玲次にとってはどうにも不可解であった。

 あの黒いISとの戦闘で黒鉄のコアが覚醒したのだろうか。

 

「暫く悪いけれど黒鉄は預からせて貰うわ」

 

「あんな状態のままにはして置けませんしね、頼みます」

 

「後で換装プラン……プランGの資料を渡しとくから。それと、もう一つ」

 

「もう一つ……?」

 

 芝崎はちょっと得意げな表情で、「ついて来て」と言い玲次はそれに従って共にこの研究室を出た。

 

 

 

 それから別の施設へと向かった。そこは黒鉄を預けている研究所に比べれば比較的学生寮には近く行き来しやすい位置にあった。目算だが寮からは徒歩10分程度だ。

 

「IS学園にはIS操縦のエキスパートを育成する機関としては申し分のない設備と人員が用意されている。但し、唯一最大の欠点が存在する」

 

 芝崎は淡々と前置きの説明をしながら、施設の一角にて電子ロックが掛ったドアのパスワードを慣れた手つきで打ち込んでいく。ドアが開け放たれると、縦長の部屋が姿を現した。

 全長3m程の半球体状の機械が数機程縦長の部屋の左右にセットされており、機械特有の駆動音が小さく聴こえて来る。

 

「それはISそのものの実技のし辛さ。整備科なら類似の教材を用意すれば良いけれども、ISそのものの操縦は代えが効かないし、学園が保有している教材用としてあるISは僅か十数機程度。学園生の数はその何倍もあり、圧倒的に足りていないのが現状よ。自主的な練習をやろうにも早い者勝ちでかつ競争率が異常に高いと言う様相を呈している所か、ISのレンタルを巡ったトラブルも少なくはないわ。学生も昔より格段に増えて来た事で今後同じような事がもっと多く起こるであろうことは目に見えている」

 

 その手の話なら女子間のゴシップめいた話はよく聞かされるので玲次も聞いたことがある。

 一番新しい出来事で言えば昨年当時の1年生間でISの使用権を巡ったトラブルが起こっており、予約した事で使用権を得た女子生徒から何やら脅し取ったという話があるらしい。

 IS学園としたらそう言った沽券にかかわるような事は早急に解決したい事だろう。

 

「ISコア自体は量産のしようがないから、代替品を作るよう上が頼んで来た。まぁ……4年近く前かしらね。ISの代わりになるようなものなんてそうそう作れる訳がない。じゃぁ、擬似的に再現できればいいのではないか? そう考えた私達は数年もの歳月をかけてコイツを創り上げた――そう、このIS用のVRシミュレーターを」

 

「IS用のVRシミュレーター?」

 

 VRとは話の流れからしてあのヴァーチャル・リアリティのVRしか思いつかない。

 

「えぇ。可能な限りISの操作性に近付けたから、これが量産された暁には環境も大きく変わるはず。ちなみにこれ、男性でも使えたりするのよ」

 

「……マジか」

 

「とは言っても予算の都合上そう一般に出回るような代物じゃないから、男性が当たり前のように触れる機会は滅多に無いのかも知れないのだけどね」

 

 幾らするのだろうか。ちょっと気になってから真剣な表情で芝崎と向き合った。芝崎も何故か釣られて真剣な顔で対応する。

 

「……で、そのお値段は」

 

「それは――」

 

 玲次の耳にごにょごにょと耳打ちすると、玲次はドラ○もんの如く青ざめさせた。想像を絶する値段であった、最先端技術とは言えそこまで値段がするものなのか。己の見通しが甘かったことを思い知らされてしまい、茫然自失となった。

 

「えぇぇ……」

 

「そんなビビらないの。ISよりは安いから」

 

「えぇぇ……」

 

 あんまりな値段だったので言語中枢に異常を来たしたかのように同じ反応が口からこぼれ出るばかりだ。

 

「それに一気に増やしたりはしないわよ。ゆっくりと増やしていくつもり。そうでもしなきゃ学園の運営も立ちいかなくなるしね」

 

 常識的に考えてそりゃそうだ。

 納得した玲次はやっと同じ反応をしてしまう事をやめた。それにしてもそんなもののある場所へ何故自分を連れ込んだのだろうか。

 

「で、俺をここに呼び出して何を」

 

「動作テストをやって欲しいのよ。黒鉄が無い間だけでも――」

「じゃぁやりますやります」

「即答!?」

 

 まさか即答されるとは夢にも思っていなかったのか、芝崎はたじろいだ。

 玲次からしたらVRに触れられるという事自体が貴重な体験だ。許されるのであれば喜んで体験してみたくなるというものだ。実際心は踊りに踊っていた。

 

 芝崎から許可を得たので早速目についたシミュレーター一機に近寄って、外装を様々な角度から観察し始めた。見た所、ゲームセンターに置かれている戦場の絆の筐体を思わせる密閉式のものだ。

 芝崎が外殻のコンソールを操作すると、ハッチが開かれる。

 中を覗くと、四肢に取り付けるプロテクター……ISの装甲を限りなく簡略化させたようなものがセットされていた。

 

「じゃぁ、中に入って。マークのついてるとこの上に立ってなさい」

 

「ん? 今更な質問ですけど、ISスーツに着替える必要があるんじゃないですかこれ?」

 

 ISに乗るとなるとISスーツを嫌でも着せられてきたので、念のために聞いてみる。正直な所着たくは無かったがデータ収集上と追従性の都合上着ざるを得ない事情があるのだ。

 

「別に厚着って訳でもないし、設定すれば問題ないわ。それに着替えるの、ぶっちゃけめんどいでしょ?」

 

 よく分かってらっしゃる。態々着替えるのも面倒だ。

 玲次は指示に従い、シミュレーター内に入るとハッチが閉められた。閉所恐怖症ではないが些か不安になる。間もなくして両腕と両足ががっちりと機械で固定され、何かよくわからないヘルメットを被せられた。

 

『じゃ――始めるわよ』

 

 そして真っ暗な空間に光が差した。

 

 

 

 

 

 

『それじゃ。先行お試し版としてプランGによるターゲットダウンを行うわよ』

 

 擬似的に展開された空間の中で、玲次はタイプG追加武装であるレールガン《遠雷》を構える。

 当然だが、烈火や時雨に比べれば圧倒的に重い。おかげで機体の動きがやや鈍くなっている。序でに発射には武器サイズの都合上両手が塞がる為格闘戦は実質封印されたに等しい。

 使い方をマスターするには骨が折れそうだ。

 

 左右にはビルが立ち並び、車道のど真ん中で玲次は立ち尽くしていた。見渡す限り人気は無くゴーストタウンと化していた。

 纏う黒鉄のプランGの装備はレールガン、ミサイルポッド、アンカー、迅雷のみ。追加オプションとして両肩部にシールドが付いている。

 

『ターゲット展開レベル1。四脚型自律兵器のポピュラーな奴を5機この擬似市街地内にセットしたわ。そいつらを全部撃墜して』

 

 勝利条件:敵機の全機撃破

 敗北条件:自機撃墜

 

 やるかやられるか。実に分かりやすい勝利条件にレベル1らしさを感じる。敵機数もたかが知れているし、初陣よりは多少動ける自信がある。ならば上手く立ち回ってみせよう。

 

 玲次は機体のメインシステムを索敵に回し、敵機の位置を確認する。12時の方向、800m先に1機。

 3時の方向900m先に2機。

 7時の方向500m先に2機。

 

 散らばってはいる。しかしISの機動力であれば1km未満などさしたる問題ではない。まずは12時の方向の1機から仕留める。玲次はポジションを確認した後遠雷の射出準備に入りスコープを覗き込んだ。

 

 スコープの向こう側の世界には一体の自律兵器がこちらに向かって走りながら車道に乗り捨てられた民間車を機銃で蜂の巣にしていっている。遠雷は射出準備は完了した事を報せるが如く砲身に電気が奔る。

 目標をセンターに入れ、そして深呼吸してからトリガーに掛けた指を引いた。

 

「撃ち貫くッ」

 

 耳をつんざく銃声と共に銃口が爆ぜる。射出された弾丸は目にも留まらぬ速度で道路上を駆け抜けて、四脚型自律兵器の胴体である部分を左半分ほど()()()()()

 

「うわぁ……」

 

 強力過ぎる。

 遠雷の威力に玲次は舌を巻いた。シミュレーションの補正もあるのかも知れないが、高威力な飛び道具が無かった黒鉄を使ってきた玲次には中々新鮮なものだった。

 砲身に冷却用のフィンが開き、白い湯気を放つ。どうやら連射が効く代物ではないらしい。再射まで次弾装填含めて15秒を要する。15秒間の隙は中々デカい。

 セシリアや鈴音みたいにバカスカ飛び道具を撃てないので、遠雷は遠距離用の必殺兵器と考えるた方が良いだろう。

 撃つなら確実に急所を狙わなければ、逆襲される危険がある。

 

 さて、次は7時の方向の奴をやる。

 

 冷却フィンが畳まれた後、砲身が折り畳まれる。ビルの陰に隠れながら7時の方向で暴れている自律兵器に近付いた。

 お次はマイクロミサイルを使おう。300mまで詰めた所で脚部装甲に取り付けられたマイクロミサイルポッドを展開し、狙いを付ける。

 そして隙を見つけた所で、瞬時加速を発動。2機の頭上で通り抜けざまにミサイル数発降らせた。

 

 瞬時加速に対応出来ず、一方的に頭上から降ってくる火薬と金属の塊が2機の機械人形を吹き飛ばし鉄屑の塊に変えた。

 やや発射タイミングが遅れたが、ミサイルの追尾してくれたお陰で無駄なく全弾命中を成し得た。

 

「ラスト……!」

 

 残るは開始時点3時の方向に居た奴だ。迅雷とアンカーは健在なのでいつも通りの戦闘で試してみる。

 瞬時加速を再び行い一直線に残り2機のもとへと急行し、50m離れた道路上に着地する。

 突然の黒鉄の登場に臆する事なく2機がマイクロミサイルを発射。玲次はPICをカットしたまま跳び避け、目標を見失ったミサイル群は玲次が先ほどまで立って居た地点で虚しく爆ぜ、落下の勢いのまま逆手持ちで抜刀した迅雷を一機に突き立てた。

 返り血の代わりに火花を浴び、もう一機が隙を突こうと機銃を味方巻き込んで発砲を始めた。

 

 こうなる事は分かっている。

 迅雷で無力化させた自律兵器そのものを盾にして防ぎつつそのまま突っ込む。

 

 ガン、と金属同士がぶつかり合う音が鳴り響いた所でアンカーで縛り付ける。一旦引っ張り自分より後ろに下げた後で大きく振りかぶってハンマー投げに使われるハンマーの要領で振り下ろした。

 ぐしゃり、とぺしゃんこにされた自律兵器と、盾にされるわ、投げられるわと散々な目に遭った自律兵器は完全にスクラップと化していた。

 

『やっぱレベル1程度では肩慣らしにもならないか……』

 

 芝崎が何かぶつぶつ言っている間玲次はVR空間の街並みを歩き回っていた。

 見れば見るほどよくできている。建造物の中に入る事も出来るようで付近の自動ドアに近づくとちゃんと開かれていた。生憎ISを纏った状態では装甲が邪魔をして入り様が無かったが。

 

『じゃ、レベル5でやってみましょっか』

 

 芝崎の声でハッと我に返る。ハイパーセンサーが反応している。ISの反応それも5機だ。

 どれも量産型ISのラファール・リヴァイヴだ。

 ISに量産型なんておかしいだろと言う話だが、コアにも好き嫌いがあるらしく無理やり合わないものを載せると拒絶反応(リジェクション)を起こして機能低下を起こす可能性がある。打鉄含めて量産機はコア受けしやすいらしい設計なのだという。

 

 5機のカラーリングは通常のラファール・リヴァイヴと異なり、赤、青、黄、桃、緑とカラフルで統一性の欠片も無かった。ゴレンジャーか何かかコイツらは。

 

「いやー、5対1はちょっときついんですけど」

 

 立ち回り次第で勝てない事は無いかもしれない。しかし性能差が物量で覆る事は往々にしてある。3分で12機を単騎で落とすなんて馬鹿げた事をISに乗って数か月程度の人間に出来るかと言われたらそれは微妙な所だ。

 

『まー、ここまで増やしたのは訳があるのよね』

「そう、このセシリア・オルコットが居るのですから!」

 

 

 

 

「え゛」

 

 芝崎の台詞を補足する声がした方を――空を見上げる。

 蒼い機体を纏う金髪ロールの少女がこちらを見下ろしていた。

 

 

 勝利条件:敵機の全機撃破

 敗北条件:自機撃墜or僚機撃墜




 前回の騒動で出番が無かったセシリアさんへの救済措置的な側面もあるVR編、突入。
 IS対ISの市街戦がやりたかったんや……

 そんなに長くはないです。
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