インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

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 お待たせしました
 23話も殆ど出来てますのでしばしお待ちを(`・ω・´)


22 炒飯

 一夏の心は踊っていた。

 ずっとベッドの上というのはどうも窮屈で困る。医務室特有の薬品の臭いもあまり好きじゃない。そんな治療と書いて拷問と読むなにかがやっと終わった。医務室での窮屈な生活から解放されたのだ。

 そこに何の感慨も湧かない訳がない。

 

 空を見上げると太陽が一番高い場所で下界を照らしていた。散らかった部屋を大掃除した後のような清々しさだ。退院がてら昼飯にでも行こうと思った所で偶然にも箒と出くわした。

 

「……身体はもう、大丈夫なのか?」

 

「あぁ。しばらく無茶はするなって言われたけれど」

 

「その調子だと舌の根乾かぬうちにまた無茶をするんだろうな、貴様は」

 

「心配するなって。そんな無茶する機会なんてそうそうない」

 

 無茶をせずに単純な実力差で勝利したいものだと一夏は思う。

 今回のレッドフェンサーと呼ばれるタイプとはまた矛を交える事もあるだろうと思うと、今後とも箒に世話になりそうだ。箒に勝てるまでに至らなければ多分、奴には勝てないだろうから。

 1対1で、鈴音や玲次の力を借りずにやっていく事が一夏の抱く理想であった。千冬のようになるにはまだまだ先は長そうだ。それでも一秒でも早く近づかなければならない。

 

「し、心配などしてはいないっ。一応幼馴染が教員たちに迷惑を掛けるのは忍びないだけだッ――ただ、私も見ているだけで力に成れなくて済まないと思っている」

 

 ムキになって返したかと思うと、箒は俯いた。そんな箒の気持ちが分からなかった。今回皆に心配かけたのは()()()()()なのに。

 

「なんで箒が責任感じる必要があるんだよ。俺が、弱かっただけだ」

 

「…………馬鹿者が」

 

 違う、そうじゃない。と箒の胸の内が叫んでいた。

 そもそも15や16の子供一人が何とか出来る範疇を越えているのだ。自律兵器の事だって大人たちが子供たちに全てを丸投げしているに等しい状態だ。

 

「……お前の太刀筋は甘すぎる。それに踏み込みが足りん、後で覚悟しておけよ」

 

「あぁ、覚悟しておくよ」

 

 止める事は出来ない。そんな権力など持ち合わせていないのだ。持っているのは所詮篠ノ之の血と束の妹という肩書、そして剣道の実力者という事だけなのだ。

 あのアリーナを襲った敵に近付けるだけの太刀筋を与えられるのであれば少しでも一夏にくれてやる。それで生き延びる可能性が増えるならば幾らでもくれてやる。

 でも今はこれだけじゃない。あともう一つ、くれてやれるものが増えた。

 

「所で――昼はまだか?」

 

「まだだけど、どうした?」

 

「付いて来い」

 

「ちょ、おい、引っ張るなって!」

 

 

◆◆◆

 

 箒に半ば強引に連れられた先は箒の部屋だった。

 同じ部屋の娘は外出中のようで今はこの部屋にはおらず実質二人きりという状態だ。

 

「なんでお前の部屋なんだ」

 

「まずはうがい手洗いをしろ。それからテーブル横の椅子について待って居ろ」

 

 なんで部屋に呼び出されて威圧されなければならんのだと一夏はやや不機嫌になりつつも、言われたとおりにうがい手洗いを済ませ、部屋の片隅のテーブルについて、ぼんやりと待ち続けた。

 箒は台所に行ってそれからずっと出てこない。その代り香ばしい匂いが台所に漂って来た。腹が減っていたのも相まって一夏の嗅覚は2割増しで敏感であった。これはごま油を炒めたような匂いだ。

 

「……何か作っている……っぽいよな?」

 

 台所の方を覗こうとしても、テーブルからは死角になっていて見えない。でもここから動いて覗きに行けば箒が機嫌を損ねそうな気がしたのでこれ以上動くのは止めにした。

 それから十数分後、やっと箒が台所から出て来た。手には箒らしからぬ物を持って。

 

 

 

 

「えっ……お前が作ったのか?」

 

 状況から察するにそれ以外は考えられない。しかし箒にしては意外過ぎるのだ。

 

 誰が想像できるのか。――まさか箒が炒飯を作るなど。

 もっと和風の――それも魚でも捌いていそうなイメージがあったのだが。

 

「そうだ。……なんだその意外そうな顔は」

 

 何の風の吹き回しだ。

 最近中華ブームなのか。流行っているのか。否、箒が流行りに乗るタイプには思えない。

 じゃぁ、何の冗談だ、何の悪ふざけだ。否、箒が冗談を吐く性質か、悪ふざけをする性質か。

 

「……食えと?」

 

 一夏が、テーブルの上の白い皿に乗せられた黄金色のソレを見ながら問う。

 

「嫌なら喰わなくていいぞ」

 

「折角作ってくれたんだから食べるよ」

 

「うむ、遠慮なく食べるが良い」

 

 とは言われても、傍で仁王立ちで見られれば落ち着いて食べられる気がしない、妙に神妙な表情で見下ろしているものだから、千冬の監視下で補修を受けている時と同じような感覚でレンゲを手に、炒飯を掬い上げ、恐る恐る口に運んだ。

 

 

 

 

「ご馳走様」

 

「ど、どうだった?」

 

 完食後すごい剣幕で訊いてくる箒に、何でこんな殺伐とした空気の中でご飯を食べねばならんのだ。と一夏は心の底でぼやいた。

 完食までずっと傍で仁王立ちで微動だにせず食事中に一挙一動を監視されてれば気も落ち着かないしゆっくり味も楽しめない。

 味より一挙一動に粗があれば怒られそうな空気をなんとかしてほしかった。

 

「……いつまでそんな至近距離で仁王立ちなんだ。正直滅茶苦茶怖くて味が良くわからなかったぞ」

 

「あ゛」

 

 仁王立ちで一夏を緊張させてしまった事に気付き、「しまった」と箒の視線が泳ぎ始める。こういう時玲次なら気の利いたフォローが出来るんだろうかと思いながらも一夏は精一杯のフォローをしてみる。

 

「別に不味いって訳じゃなかったから、多分美味かったんだとは思う。後味は良いし」

 

「そ、そうか……」

 

 安心したらしく箒がホッと一息を吐く。

 一応嘘ではない。後味も悪くはない。落ち着いて味わいたかったのが心残りだが。

 

「それにしてもなんで炒飯なんだ? 正直意外だったぞ」

 

 一番気になった事を訊くと箒はまた挙動不審になり始めた。

 

「別に何だって良いだろう? 気紛れだ! 気紛れ!」

 

 そんな事もあるのか。一夏は無理矢理己を納得させた。これ以上深入りしてまた地雷を踏むのは御免被る。

 

「その、今度は身の振り方に気を付けよう。また作ってやる」

 

「いや、いいよ。箒の手間になるだろ」

 

「お前が納得しても私が納得せんのだ! えぇい! 一夏、お前には実験台になって貰うぞ!」

 

「えぇッ!?」

 

 唐突にムキになった箒に呆気にとられて勢いに押し切られてしまい、どうしたものかと悩んでいると、箒も箒で自分の言った事に何か思う事でもあったのか喜怒哀楽とも表現できぬ奇妙な顔持ちになり、それ以上何も言わなかった。

 両者とも完全に言葉を失い何とも言えない空気の中で自然解散という形に終わった。

 

 

 なお、その一部始終を一夏から聞いた玲次は大爆笑したとかしなかったとか。

 

 

◆◆◆

 

 

「なんすかこれ」

 

「新兵器よ。プランGの後追いとしてね」

 

 また芝崎から研究室に呼び出しを喰らった玲次は、渡された図面を観て仏頂面となっていた。

 新兵器だというその図面には拳銃が描かれていた。それも時雨のようなオートマチック型ではなく、リボルバー式だった。

 

「……なんで今時リボルバーなんですか」

 

 オートマチックの信頼性向上によりあまりリボルバーを使う必要性も薄い筈だ。弾を籠めるにもひと手間ふた手間かかるので、『マグチェンジでは到底味わえないリロードタイムが生むギリギリの緊張感に快感を覚える物好き』でなければ使う人間なんて限られている。

 

「そりゃもう殴る為よ」

 

「えぇ?」

 

 NAGURU? ナグル……なぐる……殴る……殴る? 拳銃で殴ると?

 脳内変換に5秒ぐらい時間がかかった玲次の目が点になった。確かに銃身やグリップが拳銃にしては長い。確かにオートマチックより構造が単純なリボルバーの方が鈍器には向いては居たりする。オートマチックだと複雑な構造もあって壊れるリスクが高いのだ。

 

「篠ノ之君、基本銃とナイフ両方使うから、どうせなら銃でも殴れたら良いじゃない? ちょっとした剣を受け止める盾にもなるし」

 

「はぁ……殴っても後腐れの無い武器なのは良い事ですが……」

 

「建前はそんなのだけど、スタッフにリボルバーが好きな奴が居てね……何かリボルバーこそ至高だとかなんとか熱弁していたのよ……」

 

 リボルバーは確かに格好いい。それは分かる。理解は出来る。玲次とてロマンの分からぬ男ではない。ただ自身が実際に使うとなると別の話になる。

 それで良いのか。大丈夫なのか。

 

「まぁ、一応実用に耐えられるようにシミュレーションはしたし、あいつの趣味程度で終わる程うちは甘くはないわよ……うふふふふふ……」

 

 芝崎が獲物を見つけた肉食獣が如き不敵な笑みを見せ、玲次に一抹の不安が過った。芝崎もアレな人種(変態技術者)のカテゴリに位置する人間だったんじゃないのかという、そんな不安が。

 

――凝るのは別に良いけれど程々にしてよ……

 

 せめて良い武器になると良いな、とプランGの使用感を信じて完成を待つ事にした。なんやかんやで彼らの腕は確かなのはプランGで証明されているのだから。

 

 

◆◆◆

 

「――以上が本事件の顛末です」

 

「ご苦労だったわね、織斑さん」

 

 とある会議室にて千冬はアリーナ乱入事件の資料を読み上げた後、最奥の席で報告を聞いていた50代後半の女性が千冬の労をねぎらった。

 長方形に囲われたテーブル群の左右の席に座っていた役員たちがざわつく。

 その役員の割合は女性8割男性2割という光景であった。IS絡みだとこういった光景は珍しくはないのだ。ざわつきが収まった所で会議室の奥にいた女性――IS委員会日本支部会長が口を開いた。

 

「ここ数か月信じられない事ばかりが起こるものですね……エクストラナンバーの登場と言い、防衛システムが機能しなかったりと」

 

 IS委員会日本支部。

 国際IS委員会を母体とする組織であり、最もIS学園に近い支部とも言える。IS学園と国際IS委員会を繋ぐ橋のような役割を持つ。

 

「ですが事実です。エクストラナンバー第一号である黒鉄の出現、ヴァンパイアによる襲撃事件、更には新たなるエクストラナンバーの登場。今後何が起こってもおかしくはない状況となっています。加えて――」

 

 

「どうせ男どもの仕業でしょう。女性たちの躍進と正当な評価に対し怒る時代錯誤なお馬鹿さんは腐るほどいますから」

 

 と、誰かが千冬の言葉を遮るように吐き捨てた。

 

「女性は篠ノ之博士が与えた今の時代に満足しています。篠ノ之束博士の遺産を悪用しようだなんてバチ当たりな事を女性ならばしません。男の野蛮かつ醜悪な嫉妬による工作と私は推測しますが」

 

 先程の発言をした眼鏡を掛けた吊り目という見るからにヒステリックな印象を受ける女性役員は、相当なタカ派の人間で、女尊男卑筆頭と言える人間であった。隠しもしない女尊男卑思考に少ない男性役員があからさまに嫌な顔をした。嫌悪感を感じている同性の役員もちらほらと。しかし彼女を糾弾する事は困難であった。日本支部副会長という肩書を持っているのだから当然だ。彼女の機嫌を下手に損ねる事は自身の立場を危うくする事に繋がる。

 千冬としてもこの女の物言いは気に喰わなかったが相手にする気も無かった。体力と時間の無駄だ、雑音(ノイズ)として処理するに限る。

 千冬は彼女の言い分を無視して話を続けた。

 

「ISコアを新規に造る事が出来る人間が居る、もしくは未登録のコアが現存しているという事実は無視できる事態ではありません。最悪国家間のバランスも大きく変わる可能性があります。送り込んだ者が男性であれ女性であれ、早々に突き止めなければならないかと」

 

 進言を黙って聞いていた会長は目を閉じ、思考に入る。

 時間も経てば状況も変わる。それを乗り越えられるだけの柔軟な対応が求められる訳だが、そう簡単に出来れば苦労はしないのだ。政府が重い腰を上げるには相当の準備が必要な上に、毎度毎度後手に回る。それは千冬も理解はしていた。納得にはほど遠いものではあるが。

 

「確かに、この件に関しては由々しき事態です。世界のバランスをその意志一つで崩しうるものがあるという事だけでも充分に危険な事。国家間の疑心暗鬼を生み、最悪国家間の関係悪化にも繋がりかねません。その上IS学園生そのものに攻撃が加わったとなると、箝口令を飛ばしたとはいえ生徒たちの記憶を消す事は、そして目撃してしまったという事実を消す事は出来ません、生徒さんの数も減るでしょうし、最後まで隠し通す事も不可能でしょう。それに()()()3()()()()()()I()S()()()()()()()()という事もありますからね」

 

「――3人目。フランスの、ですね」

 

 織斑にも篠ノ之にも無関係なフランスの少年が一人ISを操る力を持っていたという事が最近明らかになった。一応まだ表沙汰にはなっていないがその旨は既に学園に知らされている。

 しかもこの流れだと1組に流れるであろうことは目に見えていた。学園の上層部はどうも面倒事を千冬に押し付けている節がある。まぁ、一夏と玲次の件は学園に捻じ込んだ責任を取る形なので文句は一切ないのだが。

 

「追跡に関しては自衛隊に一任するとして、現状、学園の立ち回りを見直す事も必要となるでしょう。まず貴方たち教員には専用機持ちを中心に育成に力を入れて欲しいですね。特に今回の一件で味方同士の連携を深める事は必要でしょう。今回は多少無茶をする事で運よく撃退出来ましたが次もあるとは限りませんからね。代表候補生も男子生徒の彼らへの護衛としても使えるでしょうし、彼らも自分の身は自分で守って貰えるだけの力を持って貰わなくては。この件の犯人をいぶり出す――言い方が悪いですが餌としても機能しますから」

 

「――――」

 

 確かに理には適っている。気に喰わないが。

 しかし、千冬は彼らを、彼女らに技術を教え込み、見送る程度の事しか出来なかった。千冬にはもう彼らの代わりに戦える力などもってはいないのだ。腹立たしい事に。自律兵器と戦いに行く玲次と一夏を止める事は出来ない。そもそも奴らが言っても大人しく聞くような連中じゃない。

 

「家族に友人の弟さんと心苦しいでしょうけど。状況が状況です、今は割り切って下さい――こちらも出来る支援はしましょう。特に――IS学園の防衛システムや機材の予算絡みは政府と掛け合ってみる価値はありますからね」

 

 会長の諫めるような口調に千冬は何も言い返せず黙り込む。じくりと、古傷が疼いた。




 舌の根乾かぬうちに新武器フラグ。
 一応これで通常形態も強化される形となります。

 モデルはR-1改のGTリボルバー……知っている方は少ないかもしれませんが、用途はそれそのまんまです。
 簡単に用途を説明するなら『トンファーにもなる拳銃』という代物です。
 初出のゲームは15年以上の前のゲームなんですよねぇ……歳は取りたくないもんです。



 次回は五反田家のお話となります。
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