インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

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 何故頭に身に覚えのない光景が出てくるのか
 何故姉に執着するのか
 何故頭が痛むのか
 その答えはただ一つ


31 3年前Ⅱ

 織斑千冬――それは多くの人の憧れでありヒーローとも言える女性。

 

 そんな人が俺、織斑一夏の姉であり親でもあった。

 俺はそんな姉を誇らしく思っていた。それと同時に俺という人間が彼女の足枷になっているという自覚があった。

 

 

 俺には両親が居ない。いや、居たには居たらしいが物心つくまでに両親に捨てられたらしい。

 故に千冬姉は一夏にとって親代わりのようなものだった。

 

 当時の千冬姉は中学生だった。故にアルバイトすることは法律上禁じられている。なのに何故今日まで生きてこれたのかというと、それは千冬姉が従事していた『超法規的な仕事』に依る所が大きかった。

 その仕事はIS関連のものだった。彼女の仕事の内容はテレビでうんざりするくらいに報じられていた。

 

 日本を代表するIS搭乗者、織斑千冬が次々とテロリスト操る自律兵器を斬り捨てる。その鬼神の如き活躍で生計を立てていたのだ。他には研究にも協力していたらしく、そこで稼いだ金で二人が生きるには困らないくらいの環境を千冬は作り守り続けて来た。

 更には西暦2003年の第一回モンド・グロッソでその才覚を振るい最終的には世界最強という称号を得てなおもその強さが留まる事を知らなかった。

 

 2006年――2度目のモンド・グロッソが開催された年。

 

 俺はふと彼女にとって重荷になっているのではないかと思い始めた。

 事実、俺は姉程の才覚は持っていなかった。そもそも男でISに乗れないと思っていたし、千冬姉と同じ剣道やっても思うようには行かなかった。確かに昔は地元で一番強かったけれどもそれが納得いく領域であったかと言われると精々お山の大将が良い所だった。

 

 昔、千冬姉が私がお前を守ると言っていたけれども、それが俺にとって重荷だった。

 

 早く就職して姉の手元から離れよう。……そんなことを中学生になってから思っていた。

 別に千冬姉のことを疎ましく思っていた訳じゃない。ただ自分が千冬姉の傍にいることが辛かった。

 知っている、姉が俺のことを想ってくれていることなんて。そんな姉の想いが俺にとっては支えであると同時に重荷でもあった。

 きっと中卒で就職だなんて姉は納得したりしない。高卒ならギリギリ姉を納得させることが出来るかもしれないが、それでもちゃんとした所に就職するには学費が安く就職率の高い藍越学園に行くのが得策だろう……なんて。

 

 自分に限界を感じ、俺は知人の手伝いと称したアルバイトをこっそりし姉からの仕送りを使うフリをしつつも裏ではその手伝いで貰った報酬でご飯を食べていた。

 就職した時にその使うフリをしたお金を返そうと計画もした。

 

 きっと千冬姉は俺を叱るだろう。でもそれが最後になるのなら安いものだ。

 だが――その計画も第二回のモンド・グロッソ、決勝戦直前で途絶えることとなる。

 

◆◆◆

 

「千冬姉、今日が決勝戦だよな。相手滅茶苦茶強いらしいけど大丈夫か?」

 

 ドイツ、早朝のホテルの一室。決勝戦に赴く為の準備をしていた千冬に、一夏は声をかける。

 世界大会で二度めの世界最強の座を手に入れるか否かの瀬戸際だというのに拘わらず千冬は事も無げに平静を保っており、鞄に不要な荷物を突っ込んでいく。強者特有の余裕を保ちながらもその様は乱雑の一言で千冬はその辺ではいつも通りだった。

 

「アリーシャ・ジョセスターフ……イタリアの格闘機、テンペスタを操る。私の暮桜と有効レンジは同じだが……まぁ、やってみるさ」

 

 いつも通りだった。我が道を行くというか余程の事が無い限りマイペースな人なのは一夏は知っていた。アリーシャ・ジョセスターフなる人物は25歳、第二回モンド・グロッソ初出場でありながら破竹の快進撃を続けて来たダークホースとも言うべき人物だった。

 インタビューによると千冬との対決を意識しているらしく、マスコミが因縁の対決だと囃し立てている。

 

 近接武器で次々と対戦相手を切り伏せるその隙の無いマニューバに姉は勝てるのだろうか、などと少しばかり不安になるのだ。

 だがそれを心配した所で千冬に何か変化があるのかと言われるとこの有様なのでほぼ杞憂なのかもしれない。

 

「そろそろ時間だな」

 

 千冬は荷物を担いで玄関に向かって行く。そんな姉の後ろ姿に一夏は表情を元に戻して言った。

 

「頑張れよ、千冬姉」

 

「あぁ。やってみるさ」

 

◆◆◆

 

 ここは何処だ。

 

 朦朧とした意識に僅かな光が差す。寝ていたのだろうか、と地に横たわったその身体を動かしてみるとジャリ、と砂と衣服が擦れる音が耳朶を打つ。

 

 寝る前なにしてたっけ?

 起きた時の習慣のように寝るまでの出来事を脳から掘り起こしていく。

 千冬姉を見送って少し経ってから試合を見に行こうとしたまでは覚えている。ベルリンIS競技場に向かう為にホテルを出て電車に乗ってそれから――

 

 目を開けると薄暗い空間が広がっていた。埃っぽい空気がめいっぱいに吸った肺が拒否反応を起こす。光源は古ぼけたランプが天井からぶら下がってゆらゆらと揺れている。そこに羽虫たちが寄ってたかる。

 手を左右の手がきつく縛られており動かず。立って歩こうにも両足が縛られて思うように立ち上がれない。

 

 その時自分に置かれた状況を漸く理解した。――俺は、攫われたのか。

 

 古ぼけたランプの光を頼りに、周囲を見渡してみる。真正面には鉄で造られた扉。そこ以外は石の壁だけがあった。まさに殺風景な空間に俺は自身の生命の危険というものを実感して行った。駄目元で扉を押してみたものの案の定うんともすんとも言わなかった。……そりゃそうだ。

 こういう状況(シチュエーション)はドラマとかで見た事がある。こういう時って身代金とか要求したりするんだ。もしくは臓器を取り出す為の準備を誘拐犯とかがやっている真っ最中だとか。

 

 冗談じゃない。

 

 俺はこのまま殺されるのか。

 とはいえ、自分に出来ることなど無かった。何せ、ポケットの中に仕舞っていたはずの携帯電話は無く荷物も無くなっている。まぁ荷物を持たせたまま牢屋にぶち込む間抜けな誘拐犯がいるものかって話だ。

 普通ならきっとパニックになっているものなのだろうが、その時の俺の頭はパニックを通り越して逆に冷静になっていた。

 

 万策尽きたので助けてくれ、と叫んでみたものの無反応だった。こういう時、誘拐犯が黙ってろとか言ってこの牢獄に入って来て俺を殴ったりするものかと思っていたのに。

 石造りの壁に凭れ、ただ途方に暮れる。

 

「――千冬姉、勝ってるかな……」

 

 誰かの返答を期待していた訳ではない。口から零れ出たか細い声は壁にぶつかる前に消えていく。

 腕時計も当然没収されているので今の時間も掴めない。千冬姉が頑張っているだろうか? アリーシャって人と巧く戦えているだろうか?

 

 千冬姉、2連覇出来ると良いな……

 なんたって自慢の姉だ。きっと、巧くやれているに違いない。

 

 2連覇を果たした姉の姿を夢想していると、ようやく時が来たか――乱暴に鉄の扉が開かれた。

 

「よう、お目覚めかァ?」

 

 ランプの灯りが弱い所為で扉を開けたヤツの顔は見えない。けれどもこの敵意から分かる。こいつは――俺を誘拐した奴らの一派だ。しかもご丁寧に日本語で喋ってくれている。

 ……ISの通訳機能でも通しているのだろうか。

 シルエットと声だけで判断するなら、長い髪の先がややウェーブが掛っている――女だ。あの粗暴な物言いながらも声の質は女性のそれだ。

 

「何が目的だよ……俺を攫ってどうしようって言うんだ」

 

「どうするって? 教えねーよバーカ」

 

 女は馬鹿にしたような物言いで返し、俺はただただ苛立つ。

 何もかもが分からないし、俺を突然さらったのだ。苛立っても当然だろう。

 

「っざけるな……!」

 

「チッ喧しいガキだ」

 

 逆上した女は俺のもとに歩み寄り顔目掛けて蹴りを放つ。意識と体が離れるような衝撃が俺を襲う。吹っ飛んだ身体に意識が追い付くと、頬に強烈な痛みが奔った。

 女が倒れた俺の襟首を掴み、牢獄の外に引き摺って運ぶ。

 

「助けなんて期待するなよ? お前の姉貴は試合の時間だし、ここから大分遠いからなァ。態々大事な時間に助けに来るなんてこたぁ有り得ねえよなァ?」

 

 訊いてもいないのに教えてくれる辺り随分と多弁な誘拐犯だ。でもこれで状況は何となく掴めた気がした。まだ試合前ということはそこまで長い時間は経っていないらしい。

 何処へと知らぬ場所へと運ばれて行く中、遠くから破砕音が聴こえて来た。

 

「……チッ、誰か来たってのか。自律兵器ぶっ壊したってことはISか」

 

 女が毒づく。どうやら助けが来たようだ。ドイツ軍だろうか? ISのスラスター音が徐々に近づいてくる。壁辺りから火花を止め処なく散らしながらそれは近づいてくる。誰だ、一体誰だ。

 俺を掴んだ女の手が強く握られる。

 誰だ――それが誰なのか分かった瞬間、俺は心臓が止まるような衝撃を受けた。

 

「千冬姉……!」

 

 暮桜纏う千冬姉が薄暗い通路を突っ切って、近接ブレード《雪片》の先端を壁に走らせながら千冬姉がこちらに迫る。

 

「馬鹿なッ! 試合中のハズじゃなかったのかよ!」

「あぁそうだ……! 貴様らがつまらん事をしでかさなければこうもならなかっただろうな……!」

 

 女は俺を乱暴に投げ捨てると、女の周囲に一瞬水色の粒子が輝いた。すると背中から左右4本ずつ計8本の蜘蛛を思わせる脚が生えた。

 千冬姉が雪片を振り下ろすと女は腕に纏った手甲で防ぎ、金属と金属が衝突する音と共に衝撃波が俺の身体を襲った。

 

 これが、IS同士の戦いという奴なのか。

 テレビや観客席で見るIS同士の戦いこそ見た事はあるけれども、こんな近くで見るのは初めてだ。ここから離れようにも手足が縛られているので動けないし、這おうにも全身に力が入らなかった。

 

 一方、戦闘は一夏の近くで繰り広げられていた。

 技量は圧倒的に千冬姉の方が上だった。女が蜘蛛脚から放つビームを全て刀身で防ぎ、斬撃を加え入れる。防御しようならフェイントをかけてがら空きの所に蹴りを叩き込み、怯ませてから斬撃を叩き込む。

 的確に、脆い所を一発一発叩き込む。堅実でかつ隙の無い連撃に女は焦りの表情を見せる。千冬姉の勝利は目に見えていた。

 

「野郎ッ」

「後悔するんだな亡霊ども……迂闊にこちらに手出しした事をッ!」

 

 しかし――寸前の所で女は千冬姉の一撃を避けた。そして千冬姉を蹴り飛ばしてから俺の方を見てニタリと笑った。次にこの女が取るであろう行動は何となく目に見えていた。

 

「動くんじゃねぇぞ……! このガキを蜂の巣にしたくなければなァ!」

 

「貴様はッ」

 

 女の背中に生えた脚の先端が俺に向いていた。千冬姉が何かしようなら俺をあのビームで撃つつもりだ。姑息な女だと俺は女を睨みつけるが、睨まれた当人は薄ら笑いを浮かべていた。

 

「おっと、動くなつっただろ? 避けるなよ? 大人しく喰らえよ!」

 

 俺に向けた脚とは別サイドの脚を千冬姉に向けていた。俺を人質にして勝利を得ようという寸法らしい。

 

「千冬姉、俺のことは良いからこいつをぶった切れ!」

「うるせぇぞガキィ!」

 

 俺が叫んだ瞬間女の背中の脚からビームが放たれた。外れこそしたが直ぐ近くの床でビームが着弾し、赤熱した床から出る熱気が俺の肌を撫ぜる。

 一発でも生身の人間が受ければひとたまりもないソレを千冬姉はもろに喰らっていた。

 

 今ならISが守ってくれているが、それにも限界がある。千冬姉は一つも抵抗する素振りをみせないまま一頻りビームを受け続けていた。

 

――やめてくれ

 

 俺の中の俺が叫ぶ。俺の為に傷付くのは止めてくれ。このままでは千冬姉が死んでしまう。止めてくれ、止めてくれ、やめてくれ、やめてくれ、ヤメテクレ、ヤメテクレ。喉から出ない声で叫び続けても千冬姉は反撃しようとはしなかった。

 千冬姉には俺は邪魔なものだった。本人がその気でなくても俺にとっては千冬姉の邪魔者でしかなかった。どう見てもそうだろう? 他人の愛も第三者視点からすれば脚を引っ張っているようにしか見えないのだ。

 

「くたばりやがれ、最強さんよッ!」

 

 乱雑に放たれる閃光は千冬姉の暮桜の装甲を焼き、バリアも徐々に弱まって行く。このままでは――

 

 次の瞬間、カチッカチッと何かが空ぶるような音が冷えた空気の中反響した。

 

「しまった! 弾切れ!」

「待っていたぞ……この瞬間を!」

「てめぇ――ッ」

 

 眼にも止まらぬ勢いで千冬姉は女に詰め寄り、斬撃を叩き込んだ。直撃だ。突っ込んで来た千冬姉に焦った女は狂乱した表情で呪詛を込めて叫ぶ。

 

「てっ……めぇ、警告を無視しやがったな、望み通りこのガキぶっ殺してやらァ!!」

 

 女はその拳を振り上げ、俺のすぐ目の前に詰め寄って手刀を俺目掛けて放つ。

 ISのパワーの手刀など勢いよく飛んできた長細い鉄骨をぶつけられるようなものだ。即ち、死。

 

 迫る機械造りの腕を前に死を確信し、全身に力を籠め目をつぶる。

 

 

 貫かれたらどれぐらい痛いのだろうか。そう思考した瞬間、自身の違和感に気が付いた。

 いつまで経っても、それが来ないのだ。

 

 その代りに、生暖かい液体が俺の身体に落ちて来る。

 

 血だ。

 

 その血が俺のものではないことは明白だった。何せ俺の身体に覆いかぶさる形で千冬姉が俺を庇っていたのだから。その事実に気付いた瞬間、自分の目を疑った。現実も疑った。

 

「この……ッ」

 

 千冬姉は女の手刀を脇腹に受け、返す刀で雪片を再び叩き込む。

 

「何だ……何なんだテメェは……シールドバリアのエネルギー切らした状態で突っ込んで果てはガキを守るだと……正気かよ……!」

 

 カウンターを食らい後退した女は信じられない物を見るような顔で千冬姉と俺を見ていた。俺にとって女の反応なぞどうでも良かった。それよりも、千冬姉が今置かれている状況の方が一番気になっていた。

 何故って――当然じゃないか。

 

 普通の人間が喰らえば即死も免れない一撃を食らったのだ。

 

 女はグレネードを投げて脱兎のごとく逃げ出し、千冬姉は肩部の装甲と雪片の刀身を使って俺を庇うようにして防ぐ。もう――シールドバリアのエネルギーが尽きているというのに。

 爆発が収まった所で千冬姉は傷を庇うようにしながら俺のもとへと歩み寄る。

 

「どう……して」

 

「昔言った筈だろう、お前を守る――と」

 

 ISの一撃を食らい果てはグレネードの爆風を一身に受けても尚も笑みを見せる千冬姉。そんな笑顔を俺は見たくなかった。俺の所為だ、俺の所為だ、おれのせいだ、おれのせいだ、オレノセイダ、オレノセイダ

 

「い……嫌だ……」

 

 認めたくない現実というものが眼前にあった。

 こんな現実などあってはならないのだ。笑わないでくれ、詰ってくれ。俺のせいでこんな目に遭ったというのに。大会を棄権して、攫われた俺を助けに来てこんな目に遭って……! どうして笑う、どうして怒らないんだ。お前の所為だって詰ってくれ、笑わないでくれ、やめてくれ……!

 

 それが――俺が最後に見た光景だった。

 

 

 

 

 結論から言おう。この事実を以て織斑一夏という人間は一時的に死んだ。

 死んだというのはやや語弊があるかもしれない。けれども、俺の脳は俺を守る為に一部の記憶を消したのだ。

 

 これまでの積み重ねてきた些細な出来事がごっそりと消えたりしていたので織斑一夏13歳というこれまで積み重ねてきたものは死んだに等しいだろう。

 記憶を喪った間、俺の周囲――特に千冬姉は露骨にIS関連のものに触れさせようとはしなかった。ニュースでIS搭乗者が自律兵器を狩った事を報じられてもチャンネルを無理矢理変えてきたりしてきた。とは言っても千冬姉が家に居た期間はそこまで長くはなかった。

 現役IS乗りの引退から、海外への出張、多分IS学園教師とか。

 

 千冬姉が居ない間、一人でいる時よく人の気配があった。多分千冬が雇った用心棒的なものだろう。記憶を喪っていた時の俺は過保護も良い所だと呑気に笑っていたけれども、記憶が戻った今なら分かる。

 多分、記憶を喪わなければ俺は身を投げていただろうという確信はあった。これ以上千冬姉に迷惑を掛けたくなくて――

 

 

 

 

 記憶を取り戻したのが今で良かったのかもしれない。多分記憶を喪う前と喪った後の考えが統合されたのだろう。

 巡り巡って姉と同じ誰かを守る力を、切っ掛けを得たことは幸運だったのかもしれない。しかしその切っ掛けを得たのが千冬やラウラの犠牲の上で成り立ったものであるというのなら俺は――

 自分の限界を超え、この身が砕け散ろうとも、どんな手を使ってでも千冬姉の代わりにならなければならないんだ。

 

 

◆◆◆

 

「どうしておれにそんな話を?」

 

「……お前には一応伝えて置いた方が良いと思ってな。篠ノ之弟」

 

 雨が降っていた。昼間なのに薄暗くじめじめとした空気が、この使われていない空きの教室に漂っていた。今朝やっていた天気予報によるとここ一週間は雨が降り続けるそうだ。

 この空きの教室にいるのは千冬と玲次の二人だけ。玲次は壁に凭れて大きく溜息を吐いた。

 

「3年前の謎の不戦敗、何か怪しいとは思ってましたけどそういう背景があったってことですか……それで、一夏の居場所突き止めてくれたドイツ軍に借りを返す形でドイツの教導隊に一時出向――その時の教え子にやたら懐かれて今の有様ってことですかい」

 

「その認識で相違はない。だが――」

 

「他言無用、知ってます。にしても、あの娘随分と面倒なもの担いでやってきたものですね。黒鉄関連を知りながら事件でなくした一夏の記憶をしれっとバラシに来たもんだ、胃が痛くなるというものですよ。それに誘拐犯の正体、何かヤバげですし」

 

 玲次は虚ろ気に窓の外を見渡す。並び立つ木々と学園施設群、雨に濡れた道路にて傘を差して歩いて行く生徒たちの姿が見える。その光景がまるで蜃気楼のような、非現実的なもののように見えた。

 ちょっと前の自分はその蜃気楼の中で生きていたことを思うと、気が遠くなりそうだった。

 ずっと蜃気楼の中で生きていたかった。

 

「何か、もう後戻りできそうに無い気がしますね」

 

「そうだろうな。お前の黒鉄のことも、そして愚弟のことも……とっくにもう後戻りできん所まで来てしまっている。そんな気がするよ……」

 

「おれはどうすれば良い?」

 

 玲次の問いに千冬も同じく、窓の外に映る光景を見渡してから応えた。

 

「黒鉄のことも探りつつ、愚弟のことも少しばかり気にかけてやってくれ。……愚弟とラウラをあんな風にした責任の一端は私にあるのにも関わらず、第三者であるお前に押し付ける。全くここまで酷い姉も居まい」

 

 自嘲気味に吐き捨てる千冬に玲次は否定しなかった。けれども、千冬には千冬の立場や戦いというものがある。もう現役のようにその力を振るえないし、下手に刺激しようなら一夏やラウラに何が起こるか分からないのだ。

 

「第三者にしか出来ないことも多少なりとてありますよ。彼女に対する拘りも特にありませんのでボーデヴィッヒさんのメンタル面をどうこうは個人的な恨みつらみあるんで出来ませんけど。一夏の奴のブレーキ役くらいは買いますよ、前々からあいつ危なっかしかったですし。危なっかしさ5割増しした現状放置はできませんから。それに噂で言う姉貴の代わりになろうって言う気概……なんか、かなり嫌な予感がしますし」

 

 言い終えると、外からゴロゴロと雷雲の音が聴こえてくる。本格的に雷が落ちようならぶりっ子気取った一部女性陣の悲鳴も聞こえてきそうだ。

 

「今日はそろそろ寮に帰れ。雷に打たれて死ぬなどというつまらん死に方は許さんぞ?」

 

「ははは……そういう間抜けな死に方はおれでも御免被りますよ、じゃぁ、帰ります」

 

 冗談めかして言う千冬に玲次は苦笑いして返した。この人も少し冗談が言えたりするんだな、なんてちょっと感心しながら空きの教室を後にした。

 

 

 学年別トーナメントまで――残り1週間

 

 




 一夏くんのメンタルがそろそろ危ない。でもまだここからが始まり
 ラウラに色んなものを持たせ過ぎてシャルが空気な事案。扱い間違えたら冗談抜きで空気になりかねないので一部イベントをずらすことに。

 1999年:白騎士事件(12話)。ISの存在が世に知れ渡り、コアの配布を開始。問題視されていた2000年問題が篠ノ之束個人によって解決させられ、彼女を救世主と呼ぶ声が出る。
 2001年:ISの自律兵器を使用したテロに対しての運用がされはじめる。先陣は織斑千冬が切り、徐々に女尊男卑の風潮が強まって行く。
 2003年:重要人物保護プログラム発動により篠ノ之家離散。この頃からテロが活発化する。第一回モンド・グロッソ開幕。千冬が世界最強の座を掴み取る。
 2004年:一夏が鈴音と出遭う。
 2005年:技術が急速に発達。女尊男卑もさらに加速する。VR技術が注目され始める。
 2006年:第二回モンド・グロッソ開幕。一夏誘拐事件と織斑千冬引退(31話)
     数か月後に篠ノ之束、消滅
 2007年:鈴が転校する
 2009年:突如468機目のISの出現。世界初の男性IS操縦者2名出現。本編へ。
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