インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

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 原作に足を突っ込む。
 一応オリジナル要素とか細かい変更点は有りますが。まだ原作通り。

 でも一夏の環境もちょっと変わっています。


04 IS学園と幼馴染

 

 

「なにこれ……」

 

 玲次は誰にも聴こえないようぽつりと呟いた。

 冷や汗が頬を伝う。前知識としては知っていたがいざ現場に居るとなるとまた違って来るものだ。

 

 一見変哲も無いただの教室の中、玲次は久々に再会した旧友の男子生徒の席に視線を移すと黒髪の、ひいき目に見なくても男前な顔をしている少年はとても情けない顔で助けを求めるようにこちらを見ていた。名前は織斑一夏。こうして顔を合せるのは何年ぶりだろうか。

 苗字から察せられるように千冬の弟だ。

 

――おれだって助けて欲しいよこんな状況。

 

 実際玲次たちが置かれている状況は普通じゃない。周囲から刺さる好奇の視線がとても辛い。街を歩く芸能人とはこんな辛さを抱えていたんだろうかとふと思ってしまう。きっとそうだ、そうに違いない。

 奇遇にも姉の箒が同じクラスなので、彼女の席に視線を移す。別に助けて欲しい訳では無い、箒ともこうして直接顔を合せるのが久々なのだ。長い黒髪をリボンでポニーテールに纏めた凛とした雰囲気を持ち近寄りがたい空気を醸し出している。

 そんな箒には「知らん」と言わんばかりにそっぽを向かれてしまった。

 

 四方八方から飛んでくる好奇の視線の中に鋭い視線が一つだけ。後方の席に座っている縦にロールが掛っている金色の髪の少女からだ。彼女の名前は既に知っている。セシリア・オルコットだ。一体何を思ってそんな厳しい目で自分たちを見ているのか分からない。分からないから殊更に居心地の悪さが強くなる。

 

 

 ここまで玲次と一夏が追い詰められている要因は二つ。セシリアに睨まれている事と、

 

 

 

 玲次と一夏以外この場に居る者は全員女なのだ――

 

 

 

 

 

 男でISを使える人間は玲次だけでは無かった。織斑一夏という少年もそうだった。篠ノ之姉弟と一夏は大体6年ぶりの再会した、所謂幼馴染に類するものだ。

 

 教師はまだ来ない。どれだけ待ったのだろうか。それは約5分にも満たないだろうが二人にとって1時間ぐらいに感じられた。それぐらいに周囲の視線が痛い、痛すぎる。

 

 そして漸くお待ちかね――教師がやって来て教壇の上に立った。

 

 ショートカットの、ちょっと大きさの合わない眼鏡を掛けた女性。身長は低めで下手したら生徒に紛れても見分けがつかないかも知れない。それぐらいに顔立ちも幼く、千冬とはまるで正反対の雰囲気を持つ教師だった。

 

 生徒たちの視線が玲次と一夏から教師に向く。

 そして女性教師は大きく深呼吸をしてから、口を開いた。

 

「皆さん入学おめでとう。私は副担任の『山田真耶』です」

 

 彼女の隣にホログラム映像が表示される。最近はハイテクになったものだなぁと一夏と玲次は感心した。普通ならば黒板にチョークでデカデカと名前を書くのだが、ここではホログラムが飛び出すものなのか。

 

 性格なのか何故だかおろおろしている山田先生だが、直ぐに取り直して山田先生は続けた。

 

「今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも放課後も一緒です。仲良く助け合って楽しい3年間にしましょうね」

 

 そして再び、おどおどし始めた。静か過ぎる反応に堪えたのだろうか。どんな反応すれば良かったのだろうか。玲次はちょっと考えてみる。

 大学生みたいにウェ~イとかだろうか? 何だか嫌がるか、益々委縮しそうだ。

 

「じゃ、じゃぁ自己紹介お願いします。えっと、出席番号順で」

 

 その言葉に一夏は眼を見開いた。比較的最初らへんではないか。

 一夏があたふたしている内に数人の自己紹介が終わり、一夏に順番が回る。

 

 それに気づかず、混乱している一夏に山田先生が顔色を窺うかのように覗いてきた。

 

「織斑一夏君?」

 

「――うっ」

 

 一夏は箒に助けを求めるように視線を移すと箒は「知らん」と言わんばかりにぷいっとそっぽを向いた。今度は玲次に向くと、玲次はにこやかにサムズアップし、一夏の顔は絶望に染まった。

 

 神は死んだのか。

 

 元から信じても居ない神に縋るのもバカバカしい話だが、今回ばかりは一夏は信じていない神に縋らずには居られなかった。

 一夏は己の最期を悟り、顔をドラ○もんの如く青ざめさせる。そして――一夏は、息を飲みながら立ち上がった。すると生徒たちの視線が一夏に集中し、一夏は針の筵に立っているかのような感覚を覚えた。

 

「織斑一夏です……!」

 

 そして縮こまってしまうのも癪だったので、腹の底から声を出す。だがこの後に続く言葉が思いつかない。周囲の生徒たちは『何か喋ってよ』とか『これで終わりじゃないよね』と言いたげな顔をしている。

 

――それ以上期待したって今の俺には何も出ねえよ!?

 

 玲次以上にあたふたしていた一夏は趣味の話でもしようかと考えはしたが、それは憚られる。趣味の話しても面白味なんて無い。釣り、ゲーム、身体を動かす事――面白くない。

 ならば勢いで誤魔化してしまえば良い。何をトチ狂ったか一夏はそんな考えに至り、生徒たちの期待を一身に背負って一夏は――

 

「以上ですッ!!」

 

 ……勢いよく着席した。

 それにはさすがの生徒たちも茫然自失。声すら失うのだ。あまりの沈黙振りにカラスや閑古鳥の鳴き声が聞こえてきそうだ。

 

 そんな一夏に玲次は真顔になった。

 

――そんなタメを作るならもうちょっと何か喋れたんじゃない?

 

 なんてことも思ってしまう訳で。

 そんな状況下山田先生は一夏の簡素過ぎる自己紹介に戸惑い、心なしか涙目になっている。タメを作らずに流すように自己紹介すればこのような事にはならなかっただろうに。

 

「つ、次の人どうぞ……」

 

 山田先生が顔を思いっきり引き攣らせながら、次の人へと自己紹介のバトンを渡す。そんな中生徒たちのひそひそ声が聴こえて来た。

 

「あの子があの千冬様の弟さん?」

 

「だろうね。テレビでやってたし織斑なんて苗字珍しいし多分そうだと思う」

 

「あー、何となく似てる感じがする」

 

「ってことはめちゃめちゃ強かったりするのかな?」

 

 確かに織斑姓で思い浮かぶのは千冬の事だ。千冬がISの界隈での影響力は計り知れないのだから。因みに一夏は玲次の記憶では剣道はかなり強かった筈だ。それも箒と張り合える程に。

 数人の自己紹介を経て玲次の出番が回ったので立ち上がった。

 

「篠ノ之玲次です。訳有って男でありながらIS学園に入学させていただきました。趣味はテレビゲームです。宜しくお願いします」

 

 取り敢えず何のゲームかは言わないで置く。言ったところで話が合うタイプも居ないだろう。

 自己紹介を終えて玲次はさっさと着席するとまたひそひそ声が聴こえて来た。

 

「もしかしてもう片方が……自律兵器を撃退したって言う篠ノ之束の弟さん」

 

「篠ノ之ってことはこっちはIS開発者の?」

 

「そそ。ってことはあっちは既にISの事について知ってたり?」

 

 そんな訳が無い。実際問題、数か月前の黒鉄と出遭った時は知識なんざTVでやっていたISバトルの試合とかの知識しかなかった。その結果数か月前の自律兵器との戦闘で空戦が出来なかったのだ。

 今ならそれなりに戦えるようにIS学園の研究施設で教わったのでそれなりに戦えるが……

 

 玲次はひそひそ話に耳を傾けながら苦笑いする。身内だからって何でも知っている訳では無いというのに。

 

 そんな中、がらりと音を立てて横開き式の教室の扉が開いた。

 

 

「全く、朝から騒がしいぞ……」

 

 まるで呆れるようなそのトーン低めの声に一夏の肩はピクリと動いた。一方で玲次も察したのか「まじかー」と戸惑いの言葉を誰にも聴こえないような小さな声で溢す。教室の扉が開いて顔が見えないという1秒にも満たない時間の間に、教室の空気は一変し、静かになった。

 生徒たちの関心の矛先は玲次と一夏から離れて、その先ほどの声の主へと向く。

 

 そしてその声は案の定――

 

「ゲェッ、千冬姉!?」

 

 声の主――織斑千冬は一夏の声に反応し心底呆れた顔で早足で詰め寄り一夏の頭に手に持っていた出席簿で華麗な一撃を叩き込んだ。無論、面であって角では無い。だが怒らせたら角ぶつけられそうな予感が野郎二人にはした。

 

「織斑先生と呼べ、良いな?」

 

「あっはい」

 

 拒否を許さぬその威圧感に圧され、一夏の選択肢には「はい」か「OK」と言う選択肢しか残されていなかった。逆らえば碌な事が起こらないと一夏の本能が叫んでいた。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「あぁ山田君。クラスへの挨拶を押し付けて済まなかったな。後は私がやろう」

 

 山田先生からバトンタッチして、千冬は生徒たちの自己紹介をてきぱきと生徒に済まさせる。山田先生とは異なりかなり生徒たちの自己紹介もシンプルで名前だけで済ませた生徒たちもおり、結構緊張している様子が伺えた。

 

 この山田先生と千冬のコンビは最早アメと鞭か何かだ。アメだけで良かった気がすると一夏は思った。

 

「さて、知っている者もいるだろうが私が担任の織斑千冬だ」

 

 教壇に立ってからそう言うや否や、耳を劈くような女子たちの黄色い歓声が男子二人の耳を襲った。

 一夏と玲次と一夏は耳を塞いだ。

 

 女子の歓声は二人とも苦手だったのだ。ぶっちゃけ耳が痛い。

 

「私、貴女に憧れてこの学園に入ったんですッ!」

 

「私、千冬お姉さまの為なら死ねます!」

 

 

 口々に思いのたけをぶちまける生徒たちに玲次も一夏は顔を引き攣らせる。何故千冬がここまで慕われているのかと言うと、ISが世に現れる初期からの操縦者であり、ISを使用した世界大会の優勝者である事に由来する。

 要するにべらぼうに強いのだ、世界一。

 

 中継を見ていたので玲次は知っているのだが、IS専用の近接ブレード一本で次々と対戦相手を切り捨てていく様は圧巻だった。

 相手が接近戦主体だろうと狙撃主体だろうと、寄らば斬り、寄らずとも寄って斬る。喩え相手が迎撃しようとも悉く躱して切り伏せると言う反則スレスレの強さを持っており、相当な数の自律兵器を斬り捨てている。まぁ、約3年前に諸事情で引退し、一線を退いており現在はこうして教導に身を置いているらしいが。

 

 騒ぐ生徒たちに千冬は心底面倒そうな顔を一瞬するが流石はプロだ。直ぐにそんな顔をやめて――

 

「SHRは終わりだ。さて、IS学園に入学した以上、兵器をを取り扱うと言う自覚をもって貰う。ISの力はIS以外の現行の兵器やオートマトンを大きく引き離す。だからとて、女王様気分になって貰っては困る。そして人生のステイタス気分でこの学校に居る事もな。日本にもテロが起きるこのご時世だ。一国を滅ぼしかねない兵器を取り扱う以上それ相応の危険にもつき当たる事になる。その事を念頭に入れろ。これは遊びでも何でもない。これはこの教員としての命令だ。いいな」

 

 本当に分かっているのか、生徒たちの憧憬の視線が千冬に集まる。

 分かっているようには見えない。一部生徒は全く自覚していないも同然なのかもしれない。

 

 はい、と生徒たちは元気よく返事しているのだが、千冬は溜息を吐いていた。

 

「諸君にはこれからISの基礎知識を半月で覚えて貰う。その後実習になるが、基本動作は半月で身体に染みこませろ。一か月程の間に最低限のスキルを叩き込むのでそのつもりでいて貰う。いいな? いいなら返事しろ。よく無かろうと返事しろ」

 

 その時――一夏と玲次は悟った。

 神は死んだ。居るのは鬼か悪魔か魔人ばかりである。

 

 はい、と威勢よく返事する生徒たちを他所に軍隊よりはマシかも知れないがそれでも強烈な厳しさに眩暈を覚えていると、白い小さな塊が飛んできて玲次と一夏の額に直撃した。

 

「あだっ」「てぇっ」

 

「――言ったよな? 返事をしろ、と」

 

 飛んできたのは白チョークだった。道理で痛い訳だ。二人は着弾した額を痛みの余り押さえる。

 逆らったら命に拘わるのには違いない。玲次の頬に嫌な汗が伝う。

 実際問題千冬のお陰で助かっている部分もあるし、兵器を取り扱う学校であるという事もあるので、ここで異を唱えるのもおかしな話なのだ。――それに命が惜しい。

 観念した野郎二人は謝り返事した。

 

 

 さて、どうやら恒例行事なのか、山田先生は落ち着いた所でISについて先程のおどおどっぷりは何だったのかと思ってしまうぐらいに流暢に説明を始めた。これは大体の人が知っているような事ばかりで、最近作られた学校の教科書に載っている話だった。

 ISというのは、10年前に日本で開発されたマルチフォームスーツ。10年前の当初は宇宙空間での活動を想定していたのだが、現在は停滞中。現在問題になっている国際条約では違法とされる兵器『自律兵器の排除及び撃退』以外の軍事利用はアラスカ条約によって禁止されているので、今は専らスポーツとして活用されている。

 

 そしてここ、IS学園はIS操縦者の育成を目的に作られた唯一の教育機関。世界中の人が操縦者になる為にここに集まり勉学に励み、様々な国の若者たちが自分たちの技能を向上させるべく日々努力に勤しんでいる。

 ……という感じで、説明を終えてから

 

「今日から皆さん、しっかり勉強しましょうね!」

 

 

 SHRが終わり、休憩時間に入った。とは言っても授業までの準備をするためのインターバルのようなものだ。

 

 だが周囲から集まって来る好奇の視線は相変わらずで一夏は精神的に疲れたかぐったりと机の上に突っ伏した。幸い生徒たちがこちらに殺到して来てからの質問攻めと言うデスコンボには遭っていないが、両者が「抜け駆けは許さない」と言わんばかりの謎の牽制をし合っているので、予断は許さない状況だ。

 そんな中一夏が口を開いた。

 

「お互い苦労しそうだな……鬼教官に女子だらけの環境とか普通じゃない」

 

「ま、なるようにならぁね」

 

「マイペースだなお前……」

 

「なに、自棄(ヤケ)になってるだけさね」

 

 玲次はさっさと授業用の教科書を取り出しながら言う。こういった針の筵の上に座らされるような感覚は数日経てば、新鮮味が無くなって行き、周囲の興味から消えていくようなものだ。

 もう慣れるしかない。

 

「所で箒は元気だったか?」

 

「そんなん直接聞けばよく無い。本人近くに居るんだし」

 

「いや、ホラ……こう、話しづらいというか気まずいというか」

 

 本当に気まずそうに返す一夏に玲次は首を軽く傾げる。一応気持ちは分からなくもないのだけれども。

 

「強いて言うなら勉強してるか鍛錬してるかとおれに電話で訊いてくるぐらいには元気だよ」

 

「相変わらず真面目な奴だなぁ……」

 

 一夏は苦笑いする。箒は小学生時代からそんな生真面目な性格をしていた。だが一夏も中々人の事を言えないのは内緒だったり。

 因みに小学生の頃、玲次は一夏と箒とは別のクラスだったのだが、箒を通じて知り合ったのだ。

 

「まぁ無言の圧力をかまして来る親父よりはマシだよ。受話器越しから来る威圧感的なアレはもうね……絶対親父から影響うけてるよあの生真面目さは」

 

 愚痴っていると箒が席を立ち、玲次のもとへ早足でやって来た。噂をすればナントヤラだ。ちょっとまずい事を言ったかも知れないと思った玲次は咄嗟に口をつぐんだ。

 

「一夏を少し借りるが良いか?」

 

 ――が、そんな玲次の危惧は杞憂に終わった。

 

「あ、どうぞどうぞごゆっくりー」

 

 即答した玲次に一夏は「俺の意志は無視か」と恨めし気に見る。

 

「あれ、嫌だった?」

 

「いや、別にそう言う訳じゃない」

 

 態度が何となくそっけない感じが一夏にはしたので箒から話しかけてくれるのは割とありがたい話だ。けれども心の準備と言うモノがあるんじゃないのか。一夏は反論しようとした所でそれを察したのか玲次は一夏だけに聴こえるように小声で言った。

 

「先送りにしまくっていると億劫になるよ、多分」

 

「……確かに」

 

 箒に教室外まで連れていかれる一夏を見送っていると、どたばたと一夏目当ての生徒が後を追っていく。きっと箒の抜け駆けが狡いと思ったのか、箒と一夏の関係を知りたがっているかのどちらかだろう。

 

 生徒たちが半数程消えた所で、廊下側の窓を見ると、他の教室からやって来たのであろう生徒たちがこちらを凝視している。

 

 黙々と教科書を開いて、適当に読み漁っているとまた話し声が聞こえて来た。

 

「優男に見えて結構真面目だったり?」

 

「ギャップ萌えかぁ、イエスだね」

 

――いや、真面目じゃないから。

 

 心の中で勘違いしている女性陣にツッコミを入れつつ、教科書の3()()()()()()の項目が目に入り気が滅入りそうになったのは内緒だ。

 

 

「……えっと、久しぶりだな箒」

 

「ん? あぁ」

 

 一夏は、箒と共に学園の屋上へと上った。正直廊下は話せるような状況では無かったのだ。玲次や一夏目当てに別クラスはおろか上学年から自分たちの教室を覗きに来ているのだから、廊下で立ち話出来たものじゃなかった。

 廊下にひしめく沢山の生徒たちだが、モーセの如く道は開かれた。多分箒から発せられる『どけ、私が歩く道だ』と言わんばかりの気迫に気圧されたのだろう。

 

 一夏は思い出したかのように、昔の箒の姿を思い浮かべる。初志貫徹、頑固一徹、日々鍛錬、日進月歩、武士道。そんな単語が似合うタイプだった。

 多分自分や玲次よりずっと男前だ。美貌に似合わず、何てことを言ったらきっと殺される気がしたので一夏はそこら辺については黙った。

 

 

 箒はポニーテールに結んだ髪を弄りながら一夏を横目に、海を見渡す。カモメたちが鳴きながら飛びまわっているのが見え、立地の良さが見て取れる。

 

 一方で一夏には箒に睨まれているように思えて、少し拙い事を言ったかと焦った。箒は顔つきが些か鋭く、不機嫌そうに見えるのだ。本人曰く生まれつきらしいのだけれども、その所為かキレているのか笑っているのか少しよくわからない所がある。

 

 そんな中一夏は話題を必死に探す。そしてある事を思い出した。

 

「そう言えば、さ。去年剣道の全国大会で優勝したんだよな。アレ俺吃驚したよ。祝うのは少し遅いかもしれないけれど、おめでとう」

 

 すると箒は少しギョッとした顔をした。まるで鳩が豆鉄砲……否、徹甲弾を食ったような面だ。

 

「何故……知っている?」

 

 箒が恐る恐る訊いてくる。また地雷踏んだかと一夏は怯んだ。だが玲次との雑談では玲次は別に顔色一つ変えて居なかったし、大丈夫なものだと思っていたのだが―――

 でも心無しか少し嬉しそうに見える。

 

「……新聞読んだんだよ。引っ越して以来それっきりだったけれど、親父さんは元気か?」

 

「いや、最近あっていないので顔をずっと見ていないんだ……言葉を交わしたのは電話だけで声は元気そうだったが詳しくは分からない」

 

「そっか」

 

 一夏の視界にカモメが雲一つない蒼空を舞っている。海も見えるし中々良い景色だとふと思うも、それと同時に昔の事も脳裏によみがえって行くような感覚を覚えた。

 箒が引っ越して色んな事があったのだ。

 

「……しっかし、お前もIS学園に来てるなんてな。驚いた」

 

 一夏が溢した一言に箒は苦笑いで返した。

 

「お前たち男がISを扱えた事もあって二重に驚いた私程じゃないだろう」

 

「そりゃぁな」

 

 一夏も苦笑いする。そして、ふと屋上の出入口に視線をやった。――人の気配がする。箒もそれに気づいていたようでギロリと出入口に向けて睨みつけた。すると、すっ……と人の気配が掻き消えた。

 完全に尾行されて覗き見されているのが直ぐに分かった。

 

――俺に安息の地は無いのか

 

 覗き見されている事に一夏が軽く恐怖していると、休憩時間の終わりが近い事を告げる予鈴が鳴り響いた。

 

「時間だ。戻るぞ」

 

「あ、おい……」

 

 何故か突然そっけなくなった箒は階段に早足で向かって行く。一夏はそれを追い同じく早足で教室まで戻る事にした。授業に遅れたら何を言われるか分かりはしないのだから。

 




 白式登場はちょっとだけ前倒しする予定
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