インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

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08 Riot Highway

 篠ノ之箒は無力感を感じていた。

 玲次の一件だってそうだった。

 

 玲次がテロに巻き込まれた時、気が動転しそうになった。幸い助かったようだが、こうしてIS絡みの騒動に今後巻き込まれて行くであろう事を考えると、気が気でなかった。

 

 

 そして追い打ちを掛けるかのように一夏がISに適合した、と言うニュースが箒の耳に入った。

 姉が――束がISなんてものを造らなければこんな事にはならなかったのだ。

 幼馴染である一夏と再会できるという小さな喜びこそあったのだが、これから起こるであろう事を想像すると素直に喜べやしなかったし、その喜びも直ぐに塗りつぶされてしまった。

 

 こんな状況下だ。自分に何かしてやれる事は無いかと探していた。だが、その為にはISに嫌でも触れざるを得なかった。だがISに対する拒否感や嫌悪をどうにか出来るほど箒は器用に出来ていない。

 そして唯一出来ることが剣道だった。幸い一夏の専用機は近接主体と聞いたのだ。

 

 幸か不幸か一夏は既に剣道をやめてブランクがあるようだったのでこの手で存分に鍛え直す事が出来た。

 

 

 けれども、どう足掻いてもどうしようもない事が次々と振りかかって来る。

 その最たるものが――

 

 

 今回の一夏が何者かに襲撃を受けたという事態だった。

 

 彼らに振りかかる不幸と言うものは際限がないのか、と心底嘆いたが嘆いた所でどうにもなる訳が無かった。

 これに箒が割って入る事は出来ない。自分には専用機も無くそれを行使する権限も持ち合わせていないのだ。だがそれに対し、玲次は一夏を助けに行くと言い出した。

 

「どうしてお前まで……」

 

「一応その権限はおれにもあるし。それに――このまま放置して見殺しにするのも後味悪いでしょ。それにおれは適正Aだ」

 

「そう言う問題では――」

 

 それが身内となると何処かもやもやとしてしまう。他人なら別に死んでもいいという訳では無いのだが。セシリア・オルコットも同行するとの事のようだが……数日前にいざこざがあったので不安要素しかない。

 

「それにIS適性が高いのは()()()()()()()()()()って話だから大丈夫大丈夫……多分」

 

 そう言い残して玲次は輸送用ヘリにセシリアと搭乗していく事を止めようとしたものの断固として玲次は譲る事は無く、箒はただヘリポートで一夏と玲次の無事を祈ることと己の弱さを呪う事しか出来なかった。

 

 

//

 

 

「一機目ッ!」

 

 一機目の自律兵器を両断し、一夏はブレードを構え直す。動かし方はある程度玲次に教わっているのである程度は戦える。

 ブレードの斬れ味も悪くない。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁッ」

 

 直ぐさま近くで機銃の砲門をこちらに向けようとした別の一機にブーストで接近し、斬り上げて斜めに真っ二つにした。

 だが、他の個体とて案山子ではない。機銃やレーザーの発射準備を済ませて、一夏を蜂の巣にしようとしている。

 それを一夏は真上へと即座に飛翔して退避した。

 

 間一髪だった。多方面から飛んできた弾丸と閃光は先程まで一夏が立っていた位置を通り過ぎて、コンクリートの壁やアスファルトを抉ったり、フェンスを引き裂く。

 現状、残量SENは80%。

 

 最初と、突撃の際にそれなりに被弾してしまったのだがまだ戦えるだろう。

 

 まだ3機程いる。

 

 守っていては負けだ、攻めろ。速く自律兵器を始末してあの愉しげに見ているあの女をぶっ飛ばしてやる。

 

 一夏は自分に言い聞かせるように頭の中で唱えながら、ブレードを構えたまま急降下して健在な一機に落雷した。

 それなりに大きな質量が金属を容易く斬り裂く剣の切っ先を対象に向けたまま落下したのだ。これでどうなるかは自明の理であった。

 

 ぐしゃり、と自律兵器の頭頂部にブレードが根元まで突き刺さり、そこからさらに押し込まれて自律兵器の装甲はメキメキとプレス機に掛けられたアルミ缶の如く音を立てて潰れていく。

 

 その間に機銃が飛んで来てSENがじりじりと減ってはいるが、気にするほどの余裕が一夏には無かった。

 刺さったブレードで潰れた装甲を掻っ捌き、飛び退いてから残り2機を睨み付けてから、次の標的に飛び掛った。

 

 吸血鬼女は愉しげに一夏の奮戦を観ている。

 いったい何が愉しいんだ。何が。

 

 一夏の苛立ちは募る。それに伴い太刀筋も乱暴になり、縦に振り下ろされた一撃は、急所を外してしまい一撃で一機を仕留めることが叶わず、已む無く咄嗟の斬り上げ。そして追い込みのヤクザキックで漸く3撃目で完全な破壊に至った。

 

――残り一機だッ!

 

 9時の方向に立っていた自律兵器の機銃が火を噴き、レーザーも飛んでくる。躱しきれず直撃を貰うが、その程度ではISを貫けはしなかった。

 

 だが、問題は別にあった。民間車両が3台こちらに迫ってきた事をハイパーセンサーがしらせて来たのだ。

 

「拙いッ⁉︎」

 

 約100kmで迫る車だ。凄まじい勢いでこちらに迫って来る。

 このままでは自律兵器か自分に衝突しかねない。

 

 一夏はどうすればいいのか分からず歯噛みしたところで、吸血鬼女が動いた。

 

「ッ⁉︎」

 

 思わず身構える――が、一夏に攻撃がくる事は無かった。その代わり背後から金属特有の耳障りな音が響き――

 

 3台とも車体が真っ二つに斬り裂かれて、車だった鉄塊が走行中の勢いを保ったまま喧しい音を立ててガッタンガッタンと転がりながらこちらに飛んで来た。それなりに大きな鉄塊がこちらに中身を撒き散らしながら飛んで来たのだ。その中身は、見るに無残なものとなっていた。血が一夏と白式に降りかかり、幸運にも斬られなかった運転手は勢いよく外に放り出され、即死であろう勢いで地面に叩きつけられた。

 

 あの吸血鬼女が何処からか取り出したロングブレードでやって来た3台の民間車両全て斬り裂いたようだ。

 

「ほら、続けて?」

 

 そして斬り裂いた跡を確認してから一夏と残り一機の自律兵器を一瞥する。

 

 こいつは何の躊躇いも無く殺しやがった。

 

 一夏の苛立ちが更に募る。

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!

 一夏の魂を怒りと倒さなければと言う使命感擬きのナニカが押す。

 

「アンタはッ!!」

 

 背後から残り一機からの銃撃が飛んでくるが頭に血が上った一夏には全てが苛立たしかった。

 

「邪魔だッ!!」

 

 無造作にブーストで詰め寄りブレードを突き刺し、下向きに搔っ捌いた。そして一気に離れてから破壊された自律兵器たちは爆発を起こした。

 どうやら機密保持でもしたいらしい。自爆装置がセットされていたようだ。

 

「はぁ……ッ」

 

 息を、吐く。それは気を落ち着かせるためではなく、逆に己を奮い立たせるためのものだった。

 一夏は手持ちのブレードを握り直して、周囲の状況を確認した。

 

 鬱陶しいものはもう居ない。

 わらわら居た四脚の自律兵器は、斬り伏せられた後に全て自爆した為に、最早兵器としての体をなしていないスクラップの山を作っていた。

 処理しないと恐らくは高速道路は閉鎖だろう。車が来ないのは恐らく、後をつけていた政府の人間が閉鎖しているからだろう。

 

「次は……お前だ!」

 

 吸血鬼女に向かってブーストする。残量SENを気にしている余裕など一夏には無い。ただ奴を斬る。それだけを考えていた。コイツを放って置けばまた誰かが死ぬに違いないのだから。

 そして勢いよくブレードを振り下ろした。

 

「ふぅん。元気だねェ~」

 

 が、それに物怖じする事なく吸血鬼女はロングブレードで一夏の放った一撃を受け止めた。

 ガキン、と音を立てて火花が四散し、二人を中心に発生した衝撃波が自律兵器だった残骸を僅かに動かす。

 

 余裕綽々な吸血鬼女に一夏は益々苛立つ。

 

「でもISに振り回されてる感じ。機体性能に助けられてるっぽい。うん、期待外れ」

 

 と、まるで品定めするかのように言ってから、一夏を蹴り飛ばした。

 

「くぅっ……」

 

「じゃぁ、行くよ~?」

 

 そして吸血鬼女はブレードを仕舞い、ナイフを取り出して身を低くし、構えを取った。

 蹴り飛ばされた一夏は咄嗟に姿勢制御を行い、体勢を立て直して足に地を付けてブレーキを行う。するとガリガリと音を立てて火花を散らしてゆっくりと速度を落としていく。

 

――来る!

 

 そんな中吸血鬼女がこちらに向かって飛び掛かって来たので咄嗟にブレードを構えて迎撃するべく、射程距離に入った所でカウンター気味にブレードを振るう――が

 

「なっ……消えた!?」

 

 フッと吸血鬼女の姿が掻き消えた。

 

――いや、違うッ!

 

 センサーが警報を鳴らしている。()()()()()()()()

 

「遅いよ」

 

 一夏は咄嗟に振り向きざまにブレードを振るって引き離そうとしたものの吸血鬼女の方が速かった。

 

「ガァッ!?」

 

 ナイフの一閃を貰い、背中に強烈な衝撃が奔った。

 幸い絶対防御が機能して衝撃で済んだが生身だったら真っ二つにされていたに違いない。だが幾らISを纏おうとエネルギーシールドは容易に貫通しており残量SENは50%を切っていた。

 前のめりによろけつつも、これ以上受けまいと振り向こうと試みた矢先既に吸血鬼女の姿は背後には居ない。

 

 が、次の瞬間。

 

 頭上から吸血鬼女が落下してきてナイフを一夏の頭目掛けて突き立てるべく落ちて来た事に気付き、今回はそれを辛うじてブレードで防いだ。だが、吸血鬼女の落下の勢いも相まって衝撃が上から圧し掛かり、肘が曲がりそうになり、膝は些か耐えられず曲がってしまう。

 だが、状況はどうであれ防ぐ事は出来た。

 

「ふぅん、まぐれかな? それとも……」

 

 後は押し合いだ。一夏は全身に力を籠める。吸血鬼女は平然としている。この時点で差は目に見えていたのだが、一夏に後退という発想は無かった。

 一秒でも早くこの女を倒す。苛立ち、怒り、表現し難きナニカが一夏の背中を押す。そして――

 

「どっちだっていい……! アンタだけは倒す……関係の無いハズの人を巻き込んだお前を俺は――許さないッ!!」

 

「ッ!?」

 

 初めて、吸血鬼女の表情に一瞬の驚愕が見えた。

 その理由を探るよりも先に結果が目に見えるように現れた。

 

 白式の装甲が急速に、まるで塗りつぶされて行くかのように変わって行く。最初はブレードを握っていた拳から、腕へ、胴体へ、そこから非固定浮遊部位の肩部バインダー、脚部へと広がりを見せて行く。そして――

 

「このぉッ!!」

 

 しびれを切らした一夏は力を敢えて抜いて、後退。吸血鬼女の押しを受け流して地面に落下させた所で後退して距離を取った。

 

「ははっ、まさか初期形態で私とやり合ってたなんて。びっくりだよ。流石は()()()()()()()()

 

 感心する女だが、白式の唐突な変化に一夏は少し困惑していた。

 どうやら一次移行が完了したようで、白式は正真正銘一夏の専用機へと変わったらしい。その為の機体形状変化なのだろう。

 そして手持ちのブレードの形状も変わっていた。それは少し見覚えのある形状だった。

 

【雪片弐型】

 

 白式の補助AIが、そうブレードの名前を教えてくれる。

 

――雪片、だって?

 

 その雪片と言う名前に一夏には聞き覚えも見覚えもあった。

 雪片とは姉である織斑千冬が現役時に使用していた半身とも言うべき白き剣。その純白の刀身が変形し、二つに割れ間から青白い光の刃が現れ、ブゥンと音を立てた。

 

「――いける」

 

 謎の確信が胸の内にふつふつと湧きおこる。

 尊敬している姉が持っていた力だ。負けるはずがない、と。

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 そして地面を抉るように蹴り、勢いのままブーストして吸血鬼女に飛び掛かった。

 

「ふぅん、でもやっぱ――」

 

 だが吸血鬼女の表情は再び驚愕の色が消える一方、一夏が距離を詰め横一文字に一閃を放つが――

 

「素人は所詮素人だ」

 

「なッ――」

 

 一夏の目の前には吸血鬼女はいなくなっていた。何処へ行ったか探る必要は無い。背後の情報が脳に送りこまれている。そこからはじき出される結論は――

 カウンター気味に擦れ違いざまに一撃を叩き込まれていたという事だ。

 

 現に残量SENは10%以下を切っていた。その上1%ずつ一定の間隔で減って行っている。一体何故だ。

 その理由を探るより先に脇腹を力一杯に鉄パイプでぶん殴られたような痛みが襲う。思考どころじゃなかった。絶対防御とて全てはシャットアウトは出来ないのだ。

 何が絶対防御だよと心の中で愚痴りながら地面に膝をついた。

 

「じゃ、一夏チャンかーくほっ」

 

 ガシャガシャと物々しい音やジェット音が周囲から聞こえて来る。自律兵器反応12機。9機は先ほど破壊した四脚型と同タイプ。残り3機は初めて見る飛行型だった。

 まだ戦力がある事実から鑑みるに完全に舐められていたのか。

 

 一夏は睨みつけるように吸血鬼女を見上げる。

 

――こんな所で終わるのか。俺は。

 

 悔しくて仕方が無かった。

 

――まだ何も出来ちゃいない。姉と同じ剣を持っておきながら、俺は!

 

 拳を握りしめる。

 そんな中――何かが急速接近してくる事をハイパーセンサーが報せて来た。

 

「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 黒いナニカが、一夏と吸血鬼女の間に横から割って入り凄まじい勢いで隕石の如く地面に落下、咄嗟に吸血鬼女はバックステップで後退した。そして――

 

「ちっ、外れたか」

 

 と、男の残念そうな声が聴こえた。それは一夏には聞き覚えのある声だった。

 

「玲次、なのか」

 

「よっ。待たせたねェ。んで、何がどうなってるのか詳しくは分からないけど、大雑把に言ってこの紅いISに乗ってるのがここら辺の自律兵器の元締めって事で良いかい?」

 

「多分、そうだと思う。けど、何故ここに?」

 

 玲次が纏うIS、黒鉄は黒を基調に紫色の部分も所々ある機体だった。装甲は比較的細く見えるのは高機動型であるが所以か。玲次は手にハンドガンを出現させて吸血鬼女に迷わず向けた。

 

「そのまま放って置けば後味悪い事になるしね。それに、専用機持ちはある程度の権限が与えられている」

 

「……気を付けろ、あいつは、強い」

 

「まぁそんな気はした。一応アシストは居るっちゃ居るけどね」

 

「アシスト?」

 

 何のだ。一夏が怪訝な表情をしていると、周囲の自律兵器が射撃体勢に移行し吸血鬼女は敵が増えたにも関わらず嬉しそうに、まるで新しい料理が出て来た事を喜んでいるかのようにニタリと笑った。

 

「まさか男のIS操縦者が一同に会するなんてね。どっちも戴いちゃおっか」

 

 位置的に玲次が一夏を守りながら四方八方自律兵器に囲まれた状況下で戦う事は困難だった。このままでは満身創痍の一夏を護る事は実質不可能。それでいて吸血鬼女に勝利する事など……

 が――その不可能は4方から飛んできた青白いレーザーによって綻びを生む事となる。

 

 立て続けに玲次と一夏に命中しないように放たれたレーザーは四脚型の脚を焼き切り照準を合わせる妨害を行い、その隙に玲次は一夏を無理矢理自律兵器の包囲外へと連れ出した。

 

「今のは?」

 

「オルコットの狙撃」

 

 一夏は顔を顰めた。まさか助けられる事になろうとは。しかも現状敵対しているというのに。

 

「……まぁ、これはこれ、それはそれって事で」

 

 と、玲次は言うのだが。

 あっという間に地上の四脚型が何処からともなく飛んでくるレーザーに撃ち貫かれて全て爆散した。狙いは正確的確に反撃を封じて確実に潰していく様は一夏と玲次には脅威に思えた。吸血鬼女の介入を防ぐように申し訳程度に牽制弾をちゃっかり放っている。

 そして狙撃し終えた本人(セシリア)は直ぐに玲次と一夏の近くにやって来た。

 

「アシストありがとさん。お陰でこいつ(一夏)を助ける事が出来た」

 

「礼には及びませんわ。わたくしはただ、自律兵器と戦いに来ただけですから」

 

 意訳するなら勘違いするな、別にお前らを助けたくて助けた訳では無い、と言う事か。

 

「ん。あとはあの紅い所属不明機(アンノウン)を追っ払うだけか」

 

 玲次は吸血鬼女にハンドガンを向けたまま、空いた手で高周波ナイフを抜刀し、セシリアは手持ちのスナイパーライフルを構えた。

 吸血鬼女は怖気づく事は無くナイフの刀身をねっとりと舐めた。

 

 

//

 

 照合はしてみたものの、敵機のデータにはプロテクトが掛っておりコアナンバーや機体名を参照する事は出来なかった。

 その事実に玲次は舌打ちする。

 

 得体の知れないものを相手にするときは誰だって少しは驚きも恐れもするものだ。

 特に相手はISだ。その力の大きさは重々承知している。

 

「何処の奴……?」

 

 対峙している紅いISの搭乗者は黒髪で顔立ちは間違いなくアジア系だろう。だがそれ以上は分からない。

 一夏を痛めつけただけあって素人では無いのは確かだ。

 

「どうだっていいでしょ? 知ったってどうにもならないんだし。それに金髪の娘もだけど二人とも欲しいな」

 

 と、女は玲次の疑問には答える事は無かった。それどころか欲しいとのたまったので玲次とセシリアは困惑した。欲しいとはどういう事だ。

 

「……取り敢えず、さっさとこの場から立ち退いて欲しいけど、話を聞いてくれは無さげな面してやがりますな」

 

 玲次はハンドガン『時雨』のトリガーに掛けた指に少し力を籠める。それに応えるように女はナイフを新たに何処からか4本取り出して指の間に挟み持った。

 

「話が分かりそうで何より。じゃ、やろっか!」

 

 次の瞬間女はナイフを玲次に投げつけた。

 

「ッ!!」

 

 飛んできたナイフを玲次は時雨で全て狙い撃つ。銃弾に弾かれたナイフは地面にカランカランと音を立てて落ちていった。

 追加装備のハンドガン『時雨』の調子は良好だった。現状黒鉄の兵装は固定装備されていた仕込み刃と高周波ナイフ『迅雷』、アンカーのみだったのだが一応他に装備する為の領域は残っていたのでハンドガンとグレネードランチャーを持たせている。

 

 ナイフを迎撃した直後、上空で飛び回っていた飛行型3機に搭載されていたマイクロミサイルが射出された。合計9発射出された。

 

 成程地上を走る必要が無いから高速道路を崩落させてしまっても良いという事か。人が乗る事を想定していない為、小型かつ機動力は高い。これ程厄介な相手も無い。

 

「織斑一夏、ここは逃げなさい!」

 

「だけど!」

 

「SENの残っても居ない足手纏いを庇い建てする程暇ではありませんわ!」

 

 反駁する一夏をセシリアは突っぱねる。事実残量SENは5%を切ってしまっている。そして次の瞬間4%となった。不調でも起こっているとでも言うのか。一夏は歯噛みしながら後退した。

 この状態で戦えないのに気付かない程一夏は愚かではない。

 

 その間にセシリアと玲次は其々の得物を構えて迎撃態勢に入るが、いかんせんマイクロミサイルの弾速は速く全て撃墜出来ず撃ち漏らしの3発が地面に着弾した。爆煙が巻き起こり、粉々になったアスファルトが塵となって舞い上がる。

 

 その隙に女は動いた。恐らく逃げる一夏を狙っているのだろう。

 マイクロミサイル3発で堕とされる程ヤワではない黒鉄とブルーティアーズだ。真っ先に反応した玲次が高周波ナイフで迎え撃つ。

 

「行かせるかッ!!」

 

 女もナイフで挑み、ナイフ同士の鍔迫り合いが発生し、火花が引っ切り無しに散る。

 

「へぇ、キミはもう少し出来そうだね」

 

 女はニタリと笑う。それに構う事無く時雨を発砲する。それに女は鍔迫り合い状態のナイフを離してひょいと躱してから、もう一度玲次に一閃を放つ。

 

――行動が速い!

 

 玲次は軽く舌打ちしつつ、迅雷で防ぐ。スピードタイプであるという性質はほぼ同じで技量が敵の方が上となると少し考えなければならない。

 セシリアは自律兵器の注意を引き付けており、狙撃を開始している。

 

 となると一対一となる。すでに一夏は白式の機動力を以てかなりの距離まで逃げているので後はこの女を追い帰すかとっ捕まえるのみ。

 だが勝てる自信は正直無いのが現状だ。

 

「ホラホラホラホラ! 守ってるだけじゃやられちゃうよ!?」

 

 愉し気にナイフを何度も振るい、玲次はそれを後ずさりしつつも受け流していく。

 そのうちどんどん自分の反応が遅れてきている事に玲次も気づいた。集中力も削がれてしまう。

 

――このままではジリ貧……

 

「ならさぁ!」

 

 一瞬の隙を見つけて被弾覚悟で仕込み刃を発生させた膝でミドルキックを放った。

 その際数発斬撃が掠り、SENが僅かに削られる。

 

「遅いね」

 

 空高く上方に飛び上り回避される。だが――アンカーが放たれて女のナイフを持った右腕に絡みついた。

 

「あっ」

 

「掛った!」

 

 これでもう動きは制限される。ワイヤーを断ち切られる前に一気に引き寄せ、引き寄せられて急速に近づいて行く女に容赦なく爪先の仕込み刃を展開させたブレードキックを撃ち込んだ。

 

 

 が――

 

「それだけで動きを止めると思ってた?」

 

 寸前の所で絡みついていない手で新たに持った直剣型ブレードの表面で女は玲次の蹴りを防いでいた。

 

 何処までもコイツは自分の先を行っている。その事実を前に玲次は必死に脳をフル稼働させる。諦める訳にはいかない。こんな訳の分からない奴に負けるわけには行かないのだから。

 

//

 

 一方でセシリアは自律兵器の注意を引くべくスターライトMk‐Ⅲを構えてスコープを覗き込み照準を合わせていた。相手は小型でかつ尋常でない程速い。

 まるで幽霊を相手にしているような感覚すら覚えるほどにこちらの狙撃が当たらなかった。その癖自律兵器側は機銃を放ってこちらのSENを削って来る。

 

 威力は砲門が小さい為にたかが知れているが塵も積もれば山となる。

 

 こんな状況下()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……煩わしいですわ!」

 

 超高速で飛び回る相手は狙撃手(スナイパー)にとって越えるべき課題だった。多少動き回っている程度の相手なら当てる事など容易いが今回は相手が相手だ。

 相手は小型故に非常にもろく、武器積載量もたかが知れているという弱点がある。先ほどのマイクロミサイル発砲で手札は機銃しか残されてはい無いハズだ。

 

 落ち着いてやれば勝てる筈だ。生憎相手は人工知能、動きに一定のパターンがある。そして、一通り自律兵器の動きを観察してから来るであろう位置に照準を合わせ――

 

「……そこですわッ!!」

 

 トリガーを引く。

 放たれたレーザーは一直線にその位置へと飛んで行き、自律兵器は自分から飛び込むように飛んで行き、結果的にレーザーはウイングを掠めた。

 

「……ッ」

 

 タイミングが少し速かったらしい。だが戦闘機型自律兵器を落とすのには充分なモノだった。軌道がやや怪しくなり動きも鈍っている。それを狙い撃つ事など造作もなくトドメの一発を撃ち込んだ。

 

 一機目。

 いい加減目が慣れて来た。一機堕ちた所で弾幕もやや減り、落ち着いて狙撃が出来るようになった。パターンさえ掴めばどうと言う事は無いのだ。

 

 今度は直撃させる。

 

 狙い通り、予測した機動を取り始め、次に右へと動く事を予測したセシリアは咄嗟に誰も居ない虚空に向かって引き金を引いた。

 今度は直撃だった。自ら射線に飛び込んだ自律兵器は機首から穴を開けて、まるで叩かれた蠅の如く落ちて行き、高速道路より下の山の中に落ちると燃料漏れで引火でもしたか爆発を起こした。

 

 さぁ、ラスト一機だ。

 

 最後の一機は弾丸を切らしたか弾幕が一切なくなっていた。これなら楽勝だ。

 

 狙いを絞り、同じ要領で飛んでくるであろう虚空を狙い撃つ。今回はタイミングが遅すぎて掠るだけで済んでしまう。だがやはり動きは鈍り、追い打ちのもう一発を撃ち込む事で3機目も撃墜成功した。

 

 

 次は元締めのIS乗りだ。

 何者かは分からないが近接武器主体だ。相性の面でこちらが有利なので倒す事など容易い筈だ。

 

 所属不明の女は玲次と斬り合っていた。玲次がじりじりと追い詰められている事にはセシリアは気付いた。

 だがこちらは狙撃主体。態々同じ土俵に立ってやる道理など無い。

 

 照準を玲次と斬り合っている女に向け、そのまま引き金を引く。――が、女はその瞬間にやりと笑って

 

 玲次を射線上に突き飛ばして盾にした。

 

「なっ!?」

 

 セシリアの表情は驚愕に染まる。読まれていたのか。更にスターライトMk-Ⅲの銃口に女が咄嗟に投げつけたナイフ突き刺ささる。

 玲次は焦ったようにセシリアの方へ向きセシリアは慌てて首を横に振った。

 

――わ、わざとじゃありませんわよッ!?

 

//

 

 玲次は女に盾にされた挙句セシリアの狙撃を叩き込まれ、ブースターが損傷したという情報が流れ込んだ。

 

「うわぁ……」

 

 盾にされた挙句ブースターが損傷するなどと言う笑えない状況に玲次の顔が一気に引き攣る。女は一定の距離を開けており、第二波に備える余裕こそあるがそんな事より盾にされた事がショックだった。

 しかもブースターに当てられるなどと。

 

――どーすんのこれ……

 

 げんなりしていると、女は携えていた得物を量子に変換させた。

 

「今日は撤収だって。ざーんねん」

 

 そうあっけらかんと言い放つ女にセシリアは疑問に思った事をそのまま口にした。

 

「……撤収? 貴女は一体何者ですの? 所属は? 基本的にISの情報にプロテクトを掛ける事は条約で禁止されている筈ですわ」

 

「だーかーら。知る必要は無いの。バイバイ、また会いに来るから」

 

 答える気は毛頭も無いらしく、手を振ってからブースターを吹かせた。

 

「待ちなさいッ!?」

 

 セシリアは主武装を封じられていたため、両肩部に一基ずつ装備されたフィン状の浮遊ユニットに搭載されていた左右二基ずつセットされたBT兵器『ブルー・ティアーズ』を射出し後を追わせようとしたが明らかに速度が違い過ぎる上に対応が後手に回ったため徒労に終わり、ただ全速力で逃げていくISを見送る事しか出来なかった。

 

「出来れば二度と来ないでくれませんかねぇ……冗談抜きで」

 

 玲次は盛大に溜息を吐き、このままでは敗北していた可能性があった事に気落ちせずには居られなかった。

 そして今後も襲って来るであろう可能性を考えると気が滅入りそうだった。

 

 1分もしない内に彼女が撤退した理由であろう自衛隊がやって来たが時既に遅く戦闘は終わっていた。

 そして引き下がった一夏と矢川は自衛隊に保護されたという報告を聴き玲次は心底安堵するのだった。

 

 

//

 

「楽しかったぁ。あの玲次チャンも中々踊ってくれたし」

 

 一夏に吸血鬼女扱いされていた女は呑気にそう呟いた。

 

 流石あの辺りの世代はISの敵性平均値が高いだけある。横流しされた今年の代表候補生候補のデータを閲覧したがどれも高水準にまとまっているという。

 

「ま、捕獲は出来なかったけど強さは分かったしいっか」

 

 そう呟きながらも残量SENは90%と表示されているのに一瞬だけ眉を顰めた。

 

()()()()……掠っただけでも痛いなぁ」

 

 玲次の一撃もセシリアの狙撃も全ていなしたものの一夏の攻撃が一発だけ掠っていた。だが掠っただけで10%もダメージを受けてしまう事実と、掠らせども当てて来た一夏に女は満足そうに舌なめずりした。

 

「今度は本気出せるといいなっ」

 

 と、紺碧の空の下まるで子供のように独り言を口にした。

 




 初戦完敗&技を無効化された挙句盾にされる主人公ズの明日はどっちだ。

 
 自律兵器(小型戦闘機型)
 空戦タイプ。ISに匹敵する機動力を持ち、機体の小ささも相まってこちらの砲撃が命中しにくいようになっている。反面、小型故の総合火力の低さと装甲の脆さが最大の弱点であり、レーザーが掠っただけでも致命傷になり得る。
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