蒼き鋼のアルペジオ ~The new world~ 作:ARUba4g
「……三時の方向に未知の艦あり?」
自身のレーダーが送ってきた情報に、女性は首を傾げる
。
「戦闘中とはいえ、ここまで接近されるとは……」
そう呟く女性は、そう言っている割に落ち着いた表情を崩さない。
女性が居るのは、巨大な艦の上だった。戦艦ほどでは無いにしろ、全長200メートルは越えているだろう。その艦の上に載る他の艦よりやや多い五基の主砲は、語らずともこの艦の火力を示している。女性は、そんな艦の艦橋の上のピンク色のクッションに正座していた。
潮風に揺れる短めの緑髪は、後ろでお団子のように結ってある。纏っている和服が非常に似合う女性は、どこか優しげなその容姿を、今さっき彼女が呟いたように戦闘中であるためか、厳しく引き締めていた。
「………ッ!?」
だが、続けざまにレーダーが送ってきた情報に、流石に驚いたように表情を変える。
「……全艦、人間の艦隊への追撃を中止。三時の方向より接近中の艦艇に目標を変更」
すると、全ての艦が停止。それぞれの主砲が三時の方向を向く。それに留まらず、副砲、高角砲、果ては機銃までもが、斉に同じ方向に向いた。さらに、全艦のVLSが幾つもの口を開ける。
奇妙なまでに統率されたその動きは、おそらく見ている者が居たのなら、異様な恐怖感を与えていたことだろう。
「……まさかこんな所で会えるとは思ってもいませんでしたよ。私たちの敵」
明らかな敵意をもって、三時の方向を睨む。その方向には、人にはまだ見えない距離だが、メンタルモデルの倍率調整可能な視認システムには見える、高速で接近する白銀の艦があった。
女性は、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
それは、本来彼女たちには必要ない「呼吸」という概念。気を落ち着かせるためとは言え、そんな無意味な事をするようになってしまったのも、「体」を得た故か。
ともあれ、それで気の昂りを押さえた女性は、至極冷静に、指令した。
「……全艦、撃ち方始め!目標、駆逐艦【ヒビキ】!」
その声とほぼ同時に、全ての艦のVLSからミサイルが垂直発射されていく。その一発一発が、ただの霧の駆逐艦一隻程度なら、一撃で沈められる【侵食弾頭兵器】だ。だが、それだけではなかった。
全ての艦の主砲が、ガゴン!と音をたて変形する。
直後、閃光。
空を裂く様に無数のビームが、ミサイルと同じ方向に駆ける。
この光景を見たものは思うだろう。明らかなオーバーキルだ、と。
だが、女性は、まるで厳しい表情を変えようとしない。それどころか、さらに表情を引き締めているようだ。
まるで、この程度では足りない、とでも言うように。
「……さぁ、勝負です。裏切りの白銀【シルバーべトレイル】」
おもむろに呟き、自身の主砲を炸裂させる。
女性――重巡「ナチ」の目に、もはや人間の艦隊は無く、ただ倒すべき相手だけが映っていた。
*********
「……前方、ミサイル…感あり………48ぐらい……」
理可が、相変わらず小さな声で結構シャレにならない情報を伝えてくる。」
「おうふ。殺る気満々だなオイ。駆逐艦一隻なんだからもう少し加減を…」
幸が、勘弁してくれ、とでも言いたげに首を振る。
「続けて主砲発射音多数……」
「……」
それを見たヒビキが、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「相手に伝えてやろうか?あんま撃ってくんなって」
幸は拗ねたように前を向き、「あーいいよそっちがその気なら野郎オブクラッシャー……」とかなんとかぶつぶつ言っている。
「……あと、敵重巡が何かわかった。ミョウコウ型ナチだ………と思う」
「ナチか………」
連は、少し思案すると、よし、と声を上げた。
「突っ込むぞ」
「それってあえて考えてからやること?ねぇ?ねぇ!?」
幸がツッコミをかます。1秒かからないナイスツッコミだ。いつもボケのくせに。
そんなことを考えてると、隣から声が上がった。
「談笑中すまない。一ついいか?」
「どうした?ヒビ―」
――――――ガゴオンッッ
ビーッ、ビーッとアラートが鳴り響く。
「いや、もうすぐ着弾だぞと言おうとしたんだけどな?」
「もっと早く言え!!」
幸が慌てて迎撃戦の操作をする。
というか幸は今まで気付いてなかったのか。大丈夫かこの艦。
若干の不安を抱きつつ、連は大きく深呼吸をした。
体内に取り込まれた冷えた空気が、気管、肺、脳を急速に冷却してゆく。
「……よし。いくぞ!!」
「おうよ!」
「……ん」
「ああ」
『無茶しないでよねー?』
信頼できる仲間たちの声が、連のかけ声に続く。それぞれが、それぞれの役割を全うするために動き出す。こういう所は、なんだかんだ皆頼りになる。
―――さぁ、砲雷撃戦開始【バトルスタート】だ。
「ヒビキ、最大戦速」
「了解した」
ゴオオオッッッッ、と、爆音。ヒビキの後部に20メートル以上の水柱をたて、一瞬艦が前のめりになったかと思うと、昔の海軍の人間が見たら卒倒するであろう速度で、動き始めた。
戦艦などに比べれば小柄だが、決して小さくは無い白銀の駆逐艦は、海面を滑るように走る。
が、そこにミサイルの第二波が着弾。白銀が水柱の中に消える。しかし、それだけでは無かった。
ミサイルが着弾した瞬間、ジジジジという異音と共に着弾点がどす黒い球体状に歪む。
それは、まるで空間を喰らっているようだった。
【侵食弾頭兵器】。霧の主力兵器にして、霧の『矛』。着弾点の周囲の空間を重力波によって侵食し、物質の構成因子の活動を停止・崩壊させるという、霧のみに許された超兵器。
人類には無きその『矛』は、今までに命を賭けて必死に戦った人類とその艦を、どんなに無慈悲に消し去ってきただろうか。
いま、それが「ヒビキ」に容赦無く、雨のように撃ち込まれた。大型艦に比べ、華奢とも言える船体は、無惨に消え失せる………
―――と、なるはずだった。
「【クラインフィールド】、展開!!」
連の声と同時に、ヒビキの船体が一瞬、虹色に包まれる。
【クラインフィールド】。霧の艦隊の無敵たる象徴。【侵食弾頭兵器】が霧の矛とするならば、【クラインフィールド】は、霧の盾。強制波動装甲より生み出されし盾は、万物を阻む。
位相幾何学に存在する、「クラインの壺」のような形状をとっているために、一般的に【クラインフィールド】と呼ばれるこのバリアーは、壺に入れた物がいつの間にか外側に存在する「クラインの壺」と同原理に、エネルギーを超科学的に別の空間に一時逃がすという霧の艦隊の防衛兵器。
一時というのは、このバリアーは、敵の攻撃を無効化するものではなく、あくまで一時的に敵の攻撃により発生したエネルギーを「逃がす」ためのものということ。さらに言えば、逃がせるエネルギーも決して無限ではない。つまり、人類でも破壊できない訳ではないのだ。
あくまで、霧の【クラインフィールド】を飽和できる破壊力を持ち、かつ霧の艦艇に破壊されない防御力、または速度を持つ兵器が人類にあるならば、だが。
しかし、ここにその条件をクリアしている数少ない例がいる
駆逐艦「ヒビキ」は、最早船とは思えない機動で、重巡「ナチ」以下の艦隊に肉薄しつつあった。
やむ気配のない侵食弾頭とレーザー。そして隙をついて撃ち込まれる侵食弾頭兵器の魚雷である【侵食魚雷】。むしろ、これだけの攻撃を受けても一隻の駆逐艦が沈まないことの方が不思議なほどだ。
「あーあ、本ッ当に人使いの荒い職場だよなぁ!?」
「じゃあ一緒に海の藻屑になる?幸?」
「………頑張って働きます」
「よろしい」
うちのヒビキちゃんは人使いが荒い。とはいっても今現在降り注いでるミサイルの雨を撃ち落としている、連が増設させ、両舷ともサボテンみたいになってる機銃群をほとんど動かしているのはヒビキなので、文句はあるまい。
外で響きわたっている爆音が、どれだけこの状況が危険かを訴えかけている。まぁ、それもヒビキと砲雷担当である幸が頑張っていなければ、艦内で爆音を聞くはめになる訳だ。
ヒビキに接近するミサイルは、ほとんどが機銃により落とされる。それを抜けてきたミサイルと敵のレーザーは、霧の駆逐艦であり、連の魔改造が施されたヒビキだからこそできる、まるで舞っているかのような回避でやりすごしていた。侵食魚雷は、水中に大きな衝撃を与える事で敵の魚雷を誘爆させる防衛兵器【重高圧弾頭】で破壊。ヒビキの防衛を破り、船体を掠める攻撃は、ヒビキの【クラインフィールド】で中和。
ゴリ押しともとれる方法で正面切って突き進む白銀の駆逐艦は、まるで光の槍のようだった。
やがて、艦隊との距離が4キロを切った、その時だった。
「ヒビキ、急速潜行!!」
駆逐艦に対する指令としてはあり得ない単語。だが、
「了解」
指令は、あっさりと受理される。そして、
・・・本当に潜行を開始した。
「このままナチの真下を抜ける!!真下に入った瞬間に上方に向けて侵食魚雷をフルファイアー!目標はナチのみ!ほかの艦には構うな!」
「了解!」
ヒビキにこの海戦初の攻撃指令。こころなしかヒビキが少しワクワクしているように見える。
「……魚雷着水音……38……」
「うしっ!全部誘爆じゃあ!おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらぁ!!」
幸がうるさいが、この調子なら大丈夫だろう。きっと抜けられる。
―――さぁ、この一撃で決めさせてもらおう。
*********
「ッ!?何て速度なの!?」
ナチが驚くのも無理はない。霧のデータベースでは、ヒビキの速力は最高90ノット程度となっている。
だが、今のヒビキはどう見積もっても100ノット以上はでている。その上、非常に正確な機銃の射撃や重高圧弾頭。そして異常なほどの機動力。
(……接近される!?)
海戦において、戦艦や重巡は、接近戦よりもアウトレンジからの攻撃の方が有利。対して駆逐艦などの小型艦は、懐に入り込まれると脆い大型艦と戦う際、接近戦の方が有利。これは、霧の海戦においても変わらない。
それを狙い、ヒビキは接近している。そうナチは予測していた。
だが、それは数秒ののち裏切られる。
「え!?」
ヒビキが水飛沫をあげ、海中に消えていく。
それはナチの予測プログラムに存在しなかった「潜行」という行動だった。
「………くッ!」
数秒の停滞をへて、ナチは艦隊とともに海に魚雷を撃ち込む。
だが、時既に遅し。
ヒビキは、既に魚雷の第一波をくぐり抜け、ナチの真下にいた。
「速いッ!」
その時、ナチの耳に届いたのは、多数の魚雷発射音。敗北を告げる鐘の音。
ヒビキが放った侵食魚雷は、ナチ艦隊の侵食魚雷と激しくぶつかり合いながら空間を喰らい尽くしていく。
そして、それをくぐり抜けた4本の侵食魚雷が、ナチ艦底部で爆発した。
ねぇ?失踪したと思った?ねぇねぇ?
残念。まだいます(ニッコリ)
はい、というわけでこんなに遅れてしまい申し訳ございません!!
ようやくテストが終わり、無事2話を執筆することができました!
まぁ、テスト結果は、【敗北】(D)みたいになってますけどね(*^^*)もうなんか悟りを開きそうになるぐらいひどかったです。ハイ。
………誰か慰めてください。もうライフがゼロ近いです。
【お知らせ】前回のヒビキのスペックの速力を変更しました。作者が設定をしっかり決めて無いばかりに、申し訳ございません(-_-;)。それともう一つ。近いうちに、一話を少し書き換えるかもしれないので、もしよかったら見てやってくださいm(__)m
では、次回もほどほどにご期待ください(笑)
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VLS(ヴァーティカル・ローンチング・システム)
ミサイルの垂直発射システム。発射されたミサイルは、空中で対象に向きを変え飛んでいく。再装填や、発射機を向けるための旋回を削減するために作られた。
霧の艦隊の艦では、殆どといっていいほど装備されているもの。装備数は艦艇により違うが、少ない駆逐艦などだと24、海域強襲制圧艦や超戦艦などだと、1000を超える。
ただし、あくまで一度に撃てる数であって、積んでいるミサイルの数とは比例しない。