蒼き鋼のアルペジオ ~The new world~ 作:ARUba4g
「ありゃ?ナチ?」
何処かに座っている少女が、小首を傾げる。同時に頭のツインテールがわざとらしいほどに揺れて、まるで連動しているようだ。
「……ナチが……大破。救援要請………か、どうしたんだろ?」
それは、さきほど黄海に攻めてきた人間の艦隊の生き残りの追撃任務を与えたナチが大破し、救援を求めている、との情報だった。
『えぇぇ!?ナチ姉!?うそぉ!?』
数秒後に、結構な声量の通信。
「嘘じゃ無いと思うよ?あと、うるさーーー」
『そんな!?なんで!?』
「……………」
『ちょっと!?ヤマシロ!?黙ってないで!?緊急事態だよ!?近くだし、助けにいかなきゃ!!』
ヤマシロと呼ばれた少女は若干疲れぎみに、「さっきから発言してんだけどね……」とぼやいてから、手早く詳細情報を読み取る。
「………へぇ。シルバーべトレイル……」
ヤマシロは、情報を読み終えると、クスッと少し笑った。
「ま、まだ沈んじゃいないみたいだし、助けなきゃね。しかも、すぐそこだし」
『ナチ姉が……人間の艦隊なんかにやられるはず……』
「………ちょっとは情報を見たりする気は無いの?アシガラ?」
すると、アシガラと呼ばれた声の主はきっぱりと『無い!』と断言。
「………何故?」
『そこにいる敵を倒せばいいだけじゃない?』
「………」
こいつは早死にする。ヤマシロはそう思った。
「………ま、いっか。アシガラだし」
呟くとほぼ同時に、ヤマシロが座っていたモノが、ゴオオオオオオと、音を立てて動きだす。
………巨大、としか言い様の無い。まるで小山のような大きさ。それは、艦だった。
ナチよりも一回り巨大なソレには、これまたナチのよりもさらに巨大な主砲。しかも六基十二門を載せ、数まで多い。
やたらと他の艦に比べて高い艦橋は、一度見た者の脳裏に深く焼き付くであろうインパクトをもっている。
「それじゃ………第二遊撃艦隊旗艦【ヤマシロ】、いくよー」
フソウ型二番艦、大戦艦ヤマシロ。それが、彼女の名。
ヒビキに、確実に、巨大な脅威が迫っていた。
*********
「崩壊音低下……重力子センサー解析………速報値………だよ」
理可の声に睡魔を誘われるのはきっと俺だけではない、はず。
まぁ、今はどうでもいい。状況は………
「あれ?まだ浮かんでるのか?頑丈だなオイ」といったのは幸だ。
自身も、すぐに幸の目線の先―――メインモニタ―に視線を移す。
そこには、「Nati heavy cruiser」の文字と、その下に赤く「大破」のマークが出ている。
「侵食魚雷は四発ヒットしたはずなんだけどなぁ?こんなに固いのか、重巡は?」
「モノにもよるが、重巡クラスなら四発ぐらいならフィールドで耐えられる。だが、それでもかなりナチは頑丈だな。一発ずつ撃ち込まれるのと、同時に撃ち込まれるのは訳が違う。当然同時に撃ち込まれた方が演算が追い付かない可能性が高くなる」との、ヒビキ氏のコメント。まるで実体験を語っているようだ。
…………ハイ。何回かさせた記憶があります。モウシワケゴザイマセン、モウスコシイタワリマス。
おっと、ちょっと気が抜けた。まだ敵は存在しているのだ。
ヒビキの話からするに、おそらくナチはフィールドを張れていない可能性が高い。そして応急修理中である可能性も高いので、今なら反撃の危険も無いだろう。
「ヒビキ、面舵180度!」
「ん」
ヒビキの左舷前方と右舷後方のサイドブースターが起動。船体の中心点から円を描くように右に急速ターン。先ほどナチの下を潜り抜けて来たので、ナチは六時の方向にいることになる。
「もう一度攻撃を仕掛ける。目標はナチのみでいい」
「了解!!」
幸の威勢のいい声と共に、ヒビキの180度ターンが終了。ナチを正面に捕捉した。
と、その時だった。
「……着水音120。三時の方向から」
「「「!?」」」
ヒビキがナチを捕捉したように、また、新たな脅威もヒビキを捕捉した。
*********
「ッ!?」
重巡ナチは、先のヒビキの雷撃の応急修理に追われていた。
「くッ!艦底部がごっそりと………」
ナチの艦底部はひどい有り様だった。直前でフィールド演算を全て艦底部にまわしたが、それでも防ぎきれずに、艦底部に大穴が開いている。その上、当然ながら現在進行形で浸水中だ。
すでに沈降を開始している船体をなんとか保ちながら、ナチは艦底部の応急修理を最優先。ジ、ジ、と無いはずの脳内が奇妙な音をたて始めるほどに演算を集中させ、艦底部に、船体を構成する物質―――まだ活性化しているナノマテリアルをかき集める。
結果的に、主砲五基全てに副砲が殆ど、さらに幾つかの兵器を無に帰すこととなった。
「……致し方無いわ。沈むよりはマシ…」
だが、そんなナチの努力もあり、艦底部の穴は応急ではあるものの埋められ、浸水も止まった。
ナチは、艦内に侵入した海水を排水しつつ、ヒビキの状況を確認する。
「………やっぱり戻ってくるか」
レーダーに映ったのは、面舵でターンを始めているヒビキ。
現在のナチは満身創痍。主砲類も失ったうえに、艦底部以外の強制波動装甲にも深刻なダメージを負い、クラインフィールドを張ることすら出来ない。今なら人間の艦艇でも彼女を沈められるだろう。
「……ヒビキ、貴女は私の予想の遥か上を行くのね」
諦めともとれる呟きに返事はなく、ただただ青空に吸い込まれてゆく。自身の敗北を自覚したナチは、その冷静な判断能力故か、決して足掻こうと、無駄なことをしようとせず、静かに目を閉じる。
そういえば、ヒトも終わりを覚悟したとき、こうやって目を閉じるらしい。何故だか、やたらヒトっぽくなってしまった。おそらく、というかほぼ確実に「彼女」のせいだろうが………
『ナチ姉!!無事?!大丈夫!!』
聞き覚えのある大声量で、最後の回想となるはずだった思考がブッツリ中断される。
「………え?」
『よかった!無事なんだね!?待ってて、今助けにいくから!』
『ナチー?大丈夫ー?』
再び聞こえた声に彼女に沸き上がった感情は、驚きか、喜びか。
感情など無いはずの彼女は、一瞬、不思議な感覚にのまれた。だが、すぐにソレから目を醒ますと、現実を確認するかのように、喋りかける。
「……アシガラ?ヤマシロさん?」
こうして、戦況は、現実は、いとも簡単に裏返る。
*********
「仕方ない。魚雷回避行動をを最優先!ナチは後だ!」
実に悔しそうに、連は告げる。目の前のチャンスを無下にしてしまった悔しさ故。だが、艦と乗組員を指揮する立場の艦長である以上、そちらの方が優先事項。仕方の無いことだ。
「了解した。取り舵いっぱい」
ヒビキの船体がグワンと左に傾く。そのまま左へ舵をとった。
「連?浮上しないのか?」
幸が言いたいことはわかる。水中だと、基本的に侵食魚雷と超重力砲しか使えない、だから浮上して他の兵器も使用して迎撃しよう。ということだろう。
………その通りだが、今はこのままの方がいい。
「………いや、このままだ。機関、微速に変更。敵魚雷をできるだけ引き付けてから、重高圧弾頭をフルバーストする」
『ええ!?危なくない!?』
「大丈夫だ、遥。………任せろ」
画面の向こうの遥はしばらくむぅー、と唸っていたが、『………ん。わかった。微速ね?』と了承してくれた。
「……ありがとう。総員、衝撃に備えろ!」
「魚雷群、まもなく着弾。重高圧弾頭装填。幸、誘導任せるぞ?」
「おう、任された!」
ヒビキのVLSが、一斉に開放。120の凶弾に対し、大量の重高圧弾頭が向かって行く。
直後、衝撃。
重高圧弾頭によって誘爆した魚雷群は、海を喰らいながら、ヒビキに衝撃を伝わせた。
ゴオオオン!と壮絶な音を響かせ、巨大な衝撃がヒビキを襲う。
「ッ!!今だ!機関停止!」
『え!?わ、わかった!とめるよ!?』
ヒビキの機関が全停止。巨大な塊となったヒビキは、衝撃が起こした流れに煽られ、「音無く」、移動を開始した。
*********
「………反応が消えた。やったの?」
ヤマシロが疑問形で呟いたのは、仮に仕留めたのだとしたら、あまりにも呆気ない最期だな、と感じたためである。
裏切りの白銀【シルバーべトレイル】と呼ばれたあの駆逐艦は、大戦艦「コンゴウ」を旗艦とする第一巡航艦隊、通称「黒の艦隊」の第六駆逐隊に所属していた。
だが、彼女はある時に黒の艦隊から姿を消し、「人間が乗る霧の艦」として霧最大の脅威として再び現れた。
「たかだか駆逐艦一隻に何が出来る?」ヤマシロの姉にあたる者の言葉だ。
ヤマシロも初めはそう考えていた。ほとんどの霧がそう考えていただろう。
だから、不思議でしかたなかった。
黒の艦隊旗艦のあの表情が。
元々怖い顔だなー、とは思っていたが、あそこまで鬼気迫る表情は見たことがなかった。
自分の艦隊から裏切り者が出て、思うところもあるだろうとは考えたが、何もそこまで?とその時は思った。
そう、その時は。
ヤマシロは、暫くしてからコンゴウの表情の意味を悟る事となる。
第五遊撃艦隊の消滅。また、その増援に向かった第六遊撃艦隊の半数の艦艇の撃沈。
信じられる内容ではなかった。なにせ、これを「一隻の駆逐艦」が成し遂げたのだから。
被害は27隻にも及び、それまでの霧史上最大の損失となった。
これ以来、ヒビキは霧の「最大の脅威」として認定され、撃沈最優先目標になっている。
「………ま、まだどうせ沈んじゃいないよね」
『ヤマシロ!念のためだ、もっと侵食弾頭をーーー』
「まぁ、待ちなって。………ゆーっくり炙りだしてやるからさ」
第二遊撃艦隊+α対、白銀の駆逐艦。のちに「黄海海戦」と呼ばれる戦いの幕が上がった。
「蒼矢連」霧の駆逐艦【ヒビキ】艦長
年齢:18歳
性別:男性
国籍:日本人
【詳細】
2036年5月2日に蒼矢家長男として誕生。父が海上自衛隊であったために、昔から艦艇などに興味があった模様。尚、母は若くして死去している。
性格は非常に明るく、誰とでも仲良くなれるような雰囲気をもっている。羽織ったコートは父の物で、とても大事にしているようだ。土壇場の判断力に優れ、その点からヒビキクルー達からも厚い信頼を寄せられている。好きなものは猫。嫌いなものは、全てにおいての「待ち時間」。
尚、彼には不明な点が多く、詳細は随時更新中である。