ある新人義勇兵の軌跡   作:mratian

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出会い

自分の名前以外ほとんど思い出すことができないなか、わけもわからず塔から出てきた16人の少年少女。

案内人に付いていき、丘を下っている最中に夜が明け、日が昇るのを見た。今の時間もまだ早朝だろう。

オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン事務所に到着し、ブリトニーという所長から義勇兵の簡単な説明を受けて出てきたのがつい先ほどの事になる。

己の才覚、独自の判断で情報を収集し敵を叩く。その言葉に従ってセキは見習い章と銀貨10枚を受け取るとすぐに事務所を後にした。

自分と同じように案内された他の15人は見習い章を受け取ることを躊躇したり、受け取ってもすぐに動こうとはしなかったりだった。

セキは待つのが嫌いだったので、言われた通り情報を収集をするためにとっとと行動を起こした。

周囲はまったく馴染みのない景観だった。石造の建築物、道行く人々の格好、どれも見覚えがないし、自分とは違うものだ。

悪目立ちしているのがわかる。怪訝そうな顔で見る者が多い。その視線を避けて歩いていくと大きな通りにぶつかる。

大通りに出てもそれは変わらなかったが、人が多くなったので紛れることができた。そして収穫がひとつ。

鎧、兜などの防具や剣、杖などの武器を持つ人間が増えた。彼らは義勇兵だろう。さすがに辺境軍本隊とやらは共通の装備を使っているはずだ。

自分は今見習いになったばかりなのだから、彼らは皆先輩だ。自分が欲しい情報を持っている。聞いて回りたいところだが。

「声かけられないわー」

話しかけられるほど暇そうにしている人間など見当たらない。これから義勇兵としての仕事なのだろう。

セキも彼らの進む方向へ向かう。

程なくして門に着いた。門の周辺はある程度開けた広場になっている。

広場は10数人の義勇兵。1人で立っている者もいれば、複数で談笑している者もいる。

そこに義勇兵が合流していく。そしてある程度の人数になった義勇兵達は門の外へと出て行く。

「だいたい5、6人ね」

戦うならもっと大人数の方が楽なんじゃないかと思うが、なにか理由があるのか。いや、それよりも目的の人物を探そう。

1人で、人を待っているようなやつ。男で人の良さそうなのがいい。

広場を見回せばすぐに合致した特徴の人間が見つかった。眠そうな目をした軽装の男。広場の隅につっ立っている。

「すみません、ちょっといいですか」

声をかけると、ちらりとこちらを見る男。期待より反応は薄かったが、相手をしてくれるようだ。

「新入りの義勇兵?」

「はい、そうです! いろいろと聞きたいんですけど大丈夫ですか?」

「いいよ。連れがくるまでなら」

「ありがとうございます! …といって、何から聞けばいいんですかね?」

セキは笑いながら、質問を考えておくべきだったと後悔する。

「来たばかりなら何も知らないでしょ。まずはそうだな…」

男の話はお金のことから始まった。金貨、銀貨、銅貨の3種類があり、それぞれゴールド、シルバー、カパーといい、預かり商会で両替と預金ができること。

ブリトニーから受け取った10シルバーのうち8シルバーはギルドに入るために使うことになり、実質2シルバーしか余裕はないこと。

義勇兵としての活動の基礎を教えてくれる各ギルドの掟と場所。治癒役の神官と盾役の戦士か聖騎士はパーティに必須で、特に神官は軽装なのに狙われやすいこと。

ほぼ見習い用の宿舎となっている義勇兵の宿舎の位置。見習いは1日1部屋10カパー宿泊料がかかる。など、些細な質疑をしながら聞いた。

「うひゃー、憶えること多い…」

当然といえば当然だ。今自分がいる場所のことすら知らないのだから。

「そうだね。まだまだあるけど、一度に憶えきるのは無理だと思う。だから、酒場とかで義勇兵に話を聞くといいよ」

シェリーの酒場、という有名な店についても教えてくれた。彼もよく利用するそうだ。

話していると、鐘がなった。同時にセキと男に近づいてくる、犬を連れた女性が1人。結構な美人だ。

「新入り?」

「うん。来たばかりだって」

「ありがとうございました、必要なことはだいたい聞いたんで…」

「あなた」

礼を言って去ろうとしたセキに女性は声をかけてきた。

「この人ほど見習いに優しい人はまずいないから。聞けることは聞いておいたほうがいい」

「そんなことないと思うけど…」

「いえ、人を待っている間ということで話しましたから。おかげで助かりました」

「そう、それじゃ。頑張って」

2人は犬を連れて門へ向かう。他に仲間はいないのだろうか。

「それにしても」

あまり女にモテなさそうなのを選んで声をかけたつもりだったが、完全に読み違えたようだ。

あんな美人が連れなら、女に声をかけられても反応は薄いよなーと思いつつ。

「女でも問題なく義勇兵はできそうね」

 

セキはヨロズ預かり商会で両替をし、市場へ向かった。

市場は食材を売っているところもあれば、その場で調理済みを食べれる屋台や露店もある。

肉の串焼きの屋台で足を止め、少し迷って食欲に負けて1本購入して食べると、腹は落ち着いた。

そうすると、食べ物以外の店も目に入ってきた。雑貨を置いている店もあれば、兜を吊るしている店、武器を取り扱ってる店もある。

ここに来れば必要なものは揃いそうだ。金がある限り。

「問題はどう稼ぐか、ね」

セキは今1人である。あの2人組以外は5、6人で組んでたのだから、義勇兵稼業に仲間はいないと困るもの。特に神官は必須だと男は言っていた。

「そういや、名前聞いてなかった」

自分も名乗ってなかったな。自己紹介ぐらいしておくべきだった。

反省していると、市場の中を目立つ3人組が歩いているのが見えた。何故目立つかといえば、自分と同じで浮いた格好だから。

事務所にいた他の15人のうち3人――背が高めの優男と茶色のセミロングで細目の女と黒色のロングヘアーの女。

「あら、あなた…」

茶髪の女がセキに気付いた。セキも手を振って応える。

「はぁい、あたしセキちゃん。3人は元気?」

「元気って、さっき別れたばかりじゃない」

「ごもっとも。名前聞いていい?」

優男はスガ、茶髪女はワカ、黒髪女はコトノ。3人とも義勇兵になったはいいものの、どうしたものかと考えているうちに、他の人間に置いていかれたそうだ。

ブリトニーに事務所を追い出され、人のいる方へと来たら市場へ到着し、セキと出会った。

「んじゃ、残りは6人ずつで組んだのね」

「ええ。私たちは…あまりしゃべらなかったから」

仲良くつるめそうな奴で固まって組んだ、ってところかなとセキはあたりを付ける。

「それでセキは…早めにいなくなってたけど」

スガが聞いてくる。よく見るとけっこう男前だ。

「優しい先輩を見つけていろいろと聞いてね。どうするか考えていたところ」

「は、早いですね…」

コトノはスガとワカの後ろにいる。

「待つのは性に合わなくてね。3人とも、私と組まない? そしたら、聞いたこと全部教えてあげるけど」

「願ってもないけど、いいの?」

「そりゃもう。1人じゃどうしようもないなーって途方に暮れてたからね。で、どう?」

 

市場にいる人々の邪魔にならないよう4人は移動し、話し合う。

「というわけで、まずはギルドに入る必要があるわ」

「…戦わない職業はダメなのかしら」

ワカが思案顔で言う。もっともな意見であり、セキもそう考えた。

「他のギルドはそもそも入れないらしいわ。職人や商人は小さな頃から教育を受けてなるものだそうだし、よそものが新たにギルドに入るには大金が必要だって」

「甘くないってことですね。すると、どのギルドに入るか、ですが」

と敬語で話すコトノ。ワカとスガの後ろにいて、気弱なのかと思ったが、案外はっきりとしゃべる。

「あたしは聖騎士になるつもり」

「もう決めてたの?」

「人に矢面に立たせるよりは自分でやりたい。でも魔法ってのも使ってみたい」

「暗黒騎士は転職できないから、消去法ね」

「デメリットがあから様すぎますね。名前も不穏で怪しいですし」

「まー、なんかあるんでしょ。極まれば強いとか」

「私はどうしようかしら。神官は必須で、後は自由なのよね」

「ワカとコトノのどっちかに神官をやってもらいたいんだけど、あたしはコトノにお願いしたい」

「私ですか? なんででしょう?」

「丘から事務所に移動した時さ、ワカは結構へばってたでしょ」

言われて、驚いた顔をしているワカ。図星だったようだ。

「よく気付いたわね。正直、億劫だった」

「それで、コトノは歩いてても全然姿勢が崩れないのよね。多分、何かしら鍛えていたんだと思う」

「自分ではよくわかりませんが…」

「まぁ細かい理屈はいいのよ。後はやる気次第だし。

 神官は体も動かすから、多少でも動ける人間がいいかもってだけでそこまでこだわる必要もないでしょ」

「そうですね。私が神官をやりましょう」

「なら私は魔法使いでいいかしら。盗賊も狩人も動き回りそうなイメージだし、向いてなさそう」

そして3人は今まで黙っていたスガに目を向ける。

「女の子1人を前に立たせるわけにいかないからね。戦士をやるつもりだよ」

微笑みながらスガは言う。

こうして4人は職業を決め、それぞれのギルドへと向かうことになった。

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