ご注文は「笑顔」ですか? 作:未完
「私あなたのことが好き…好きなの!」
顔を真っ赤にして彼女はそう言った。正直意外だった。思ってもいなかった。
…なんていうのは嘘だろう。いつまでも目を背けてたからこんな時、こんなことになったんじゃないのか。
彼女の真っ直ぐな気持ちから俺は逃げたんだ。そんなのずっとわかっていたこと。わかっていたのに逃げ続けたんだ。だから俺は…
「俺は別にお前を好きじゃない」
だから俺は答えは出さない。
出せない。
そしてまた逃げる。
あの居場所は心地良かった。でもそんなもの俺には過ぎたもの。どうせ俺には何もない。
「どうせすぐ居なくなるんだ。俺のことなんか忘れろ」
忘れて早くその傷を塞いでくれ。俺なんか気にかけて傷つくとか冗談じゃない。
「わ、忘れるなんてできっこないじゃない! 忘れるなんて…」
「お前のこと俺はをなんとも思ってない。だから忘れろ。」
軽く睨みつけるような形を取る。そして俺は背中を向けて歩き出す。そこで彼女は崩れ落ちた。
…ああ、きれいな髪が地面についちゃうだろうよ。
あたりまえだが振り向きはしない。これであいつらとも終わりだ。俺はいなくなるんだから無駄な気をかけずに済む。啜泣く彼女に掛ける言葉はないし、
第一俺にそんな権利はない。
プロローグ~春風に吹かれて~
ある春の日。
電車から降りた俺はこの町の駅を出た。そこそこ人が多い。観光目的も多いんだろう。
「…ここはホントに日本か?」
最初の一言がそうなるのは仕方がない。そう思うほどに日本らしくない。住宅街のコンクリート塀は見当たらない。建物は全てあたたかみを感じる。木造建築だろうか。建築に別段詳しくないがなんとなく趣がある。
また、住むところが違えば人も違うのだろう。地毛っぽい金髪が歩いてた。髪から雰囲気までふわふわしてる人もいる。街の雰囲気のせいかそんなに違和感は感じない。まあ物珍しいものには事欠かなそうな街である。気になる物がありすぎて目を回しそうになる。しかし、あんまりあたりをキョロキョロ見ていても怪しい奴になるからそろそろ止める。
(この街に住むんだからな)
なら、焦って見る必要もない。そう思い目的地へと俺は足を進める。空は快晴。街は程よい活気に満たされ、まるで俺のこの町での始まりを祝うようだった。…そうでも思わないとやってられるか。
西欧を感じさせる石畳の街並みを進んでいく。嫌でもでも気分が高まってきそうな感じだ。街中には川が流れていて、舟漕ぎのおじさんが子どもたちに向かって手を振っている。微笑ましい光景を片目に俺は紅茶店のウインドウを見るのに立ち止まった。こった模様のカップに様々な種類の茶葉等など…売ってるものまでオシャンティー。
…果たして自分はこんなところで住めるのだろうか。
いらぬ不安にとらわれるた俺は、振り払うようにまた足をすすめる。足取りはそこまで軽くない。
家屋の集合する場所では結構路地が入り組んでいる。もし小学生の頃にここに来てたら間違いなくかくれんぼをやりそうだ。てか、やってみたい。果たして全員見つけるのにどれだけかかるのか。ただ、これだけ狭いと出会い頭とか危なさそうである。手元の地図へと目を落とす。後もう少しだろうか。そろそろ疲れてきたので早く部屋でゆっくりしたい。段々とインドア根性が顔を見せだした。これはいち早く目的地につかなければ。
そんなときにとある路地に差し掛かる。
「うわっ」
「きゃ!」
路地の向こうから飛び出てきた人に俺はぶつかった。それも結構な勢いで。やっちまったぜ、てへぺろ。言ったそばからこれである。
「いててっ」
その人は急いでたのか、曲がり角に走り込んできたようだった。ちゃんと前方を注意しないと危ないじゃないか! なんてブーメランなことを考えてるのを見せない様に相手の方を見る。衝突で互いによろけ、その人は後ろに倒れこんでしまった。態勢を立て直したのは自分の方が先だったので。倒れこんだその人に向けて手を差し出す。
「大丈夫ですか。」
「わ、ありがとうございます!」
俺の手をつかんで立ち上がったその子。自分と同じくらいの年齢だろうか? あるいは下か。栗色の髪をした快活そうな女の子だった。
「ごめん、少し急いでて…」
俺のことを認めてからすぐにタメ語に変えてくる辺りに彼女の人当たりの良さがわかる。てへへ、と愛嬌よくその子は笑った。笑顔に裏表が無さそうで、やっぱり皆によく好かれそうなタイプだ。
「いや、大丈夫。それじゃあ。」
「あ、うん…」
軽く会釈して彼女の横を通る。素っ気ないという人がいるかもしれない。が、別段曲がり角でぶつかっただけでそんな深く話すこともないだろう。何事もなかったように目的地へ向かって歩いてゆく。つもりだった。
「待って!」
前言撤回。何事も無くなかった。まさかの向こうから来ました。一体何の用か。あまり良い予感はしないが、呼ばれたら振り向くしかない。
途端風が吹いた。春風だ。思わず目を細める。
「そんな暗い顔しちゃダメだよ!」
目をゆっくりとあける。春風になびくスカート。柔らかい色合いのその服は彼女にとても良く似合っている。
「笑顔だよ!笑顔!」
そして眩しいくらいの笑顔。こんな季節にはぴったりだな、なんてことを惚けながらも思った。
これが彼女との出会いだった。