ご注文は「笑顔」ですか? 作:未完
「いらっしゃいませ」
喫茶店「ラビットハウス」の中は外見と内装がガラッと違うなんてことはなく、天井には照明付きのシーリングファン、フローリングや柱には素材を生かした木目が見え、壁は塗り壁…
知識の浅い俺にもわかるぐらいには趣のある店内であった。
「二名様ですか?」
まず最初に出迎えてくれたのは店員さん…だよな?それにしては若すぎる。余裕で自分たちより下だろう。小学生くらいか? 家業のお手伝い中ってとこだろうか。
「はい、二人です。」
「…ない。」
ここで店員さんとの会話をよそに、ココアが静かに呟いた。何が無いって?これ以上喫茶店に求めるものって何かあったっけ?
「そうじゃないよ!」
まあ、はい。でしょうね…。で何がないんですかココアさん。
「うさぎが、うさぎがいないよっ!」
悲しみに満ちた叫びにも似た声を上げるココア。どうやら俺は完全に彼女の思考ルーチンを把握してきたようだ。予想通りだったぜ。
しかし、予想通りとはいえ、やはりこう思わずには居られない。
(なんだこいつ…)
(なんだこの客…)
あ、何か店員さんとシンクロした気がする。
二話 To be 騒がしい日常
店員さんに訝しげに思われながら、俺らは席に座った。(主にココアのせいである。)
「こちらメニューです。」
可愛らしい店員さんが渡してくれたメニュー。そこには複数の種類のコーヒーといくらかのサイドメニューがのっている。やはりせっかくなのでコーヒーを頼むべきだろう。喫茶店だし。
「もじゃもじゃ…」
メニューで悩む俺をよそにココアはマイペースにことを進めていくようだ。というよりうさぎが絡んでから退行しているような気がする。擬音が口からこぼれるくらいに。
「これですか?これはティッピーです。」
ティッピー、それは店員である彼女の頭の上のもふもふもこもこ生物のことだろうか。
「ティッピーは名前です。一応ウサギです。」
「その子がラビットハウスって店名の由来だったりするんですか?」
年下とはいえ店員さん。俺は敬語を使います。
「いえ…そういうわけではないんですが…」
少し気まずそうに目をそらされた。何か不味いとこついちゃったかね。
「いえ、大丈夫です。それよりも御注文はどうなさいますか?」
そうだ注文注文。ふむ…ぶっちゃけよくわからない。コーヒーは割と好きな方ではあるが、豆の種類が、とか産地が、とかわかるほどではない。ここはやっぱりプロに聞こう。
「オススメのコーヒーとかってありますか?」
「それでしたら、当店のオリジナルブレンドがあります。」
それは良いな。その店の味ってとこが良い。
「じゃあ、それ一つ。」
「わかりました。そちらのお客様は?」
「じゃあ、そのうさぎさん!」
ぴしっ、ともじゃもじゃうさぎのティッピーを指差すココア。
「非売品です。」
「ええーそんなぁ!」
当然である。
「ここは喫茶店だぞ。」
「むぅ、そうだけど…。じゃあ、せめてもふもふさせて!お願い!」
こいつ話聞いてるのか。ここは喫茶店…
「じゃあコーヒー1杯で1もふもふです。」
良いのか!?ちょっとこの店員さんも抜けてるのかもしれない。心なしか頭の上のうさぎもびびって、挙げ句声を出してたような…
「じゃあ三杯!」
そして躊躇が1mmも無かった!思い切りが良いなおい。そんな思い切りの良さ今いらないんだが。
「…種類は?」
「オススメで!」
店員さんも驚き過ぎて軽く引いちゃってる。さすがにそう来るとは思っていなかったらしい。
店員さんはカウンターにコーヒーを入れに戻っていった。
「三杯も飲めるのか?」
「大丈夫だよ!私強いから。」
「まるで酒みたいな言い草だな…」
コーヒーで酔うことってそんな無いぞ。
そんなくだらない話をよそにまだ幼いであろう店員さんは手際よくコーヒーを淹れていく。なる程店を任されるだけはあるな。心地の良い香りが鼻孔をくすぐる。
「いい匂いだね。」
「そうだな。」
ようやっと喫茶店らしい落ち着いた雰囲気になってきた。
「もっとウサギがいれば完璧だね!」
台無しだよ!
俺のココアへ呆れは果たして底をつくことがあるのだろうか。
「お待たせしました。」
そうこうしているうちにコーヒーが出来たようだ。店員さんが机に香りと湯気の漂うカップを並べていく。カップを手にとって鼻に近づける。良い香りだと思う。とりあえず一口。
「…おいしい。」
思わず口から思ったままの感想がでる。その位には美味しい。
「ありがとうございます。」
なんだか店員さんも嬉しそうだ。少し無愛想な子かと思ってたがそんなことはなさそう。単に寡黙なのかも。
「コーヒー三杯頼んだから三回さわる権利を手に入れたよ!」
「コーヒーが先だ。」
「冷める前に飲んで下さい。」
「あぅ!そうだね…」
当然である。ダブル突っ込みにココアも観念したようだ。まず、最初のコーヒーに口をつける。
「この上品な香り!これがブルーマウンテンかぁ。」
「いいえ、コロンビアです。」
勝手に利きコーヒーが始まったらしい。そして間違えるなよ。残念ながらココアにコーヒーの教養が有るようには見えない。つまり当てずっぽうか…
「この酸味!キリマンジャロだね。」
キリマンジャロだからだろう。キリッとした顔で決めるココア。
「いいえ、それがブルーマウンテンです」
全然決まってない。店員さんのジト目度が上がっていく気がする。もう、半分無視してコーヒーを堪能する事にしよう、そうしよう。
そして、最後の一つにココアは手をかける。
「安心する味!これインスタントの…」
「うちのオリジナルブレンドです。」
「え?」
…空気が凍りついた。
「うん!全部美味しい!」
脳天気な声が店内響きわたる。気がした。
「えへへ、もふもふぅ、気持ちいい~♪」
目の前でココアがティッピーと呼ばれるうさぎを撫で回してる。その彼女のふぬけようといったらやばい。いまにも昇天しそうな勢いである。
「おいココアよだれ…」
挙げ句彼女はティッピーによだれをかけそうになっていた。花も恥じらう乙女がそんなことしてて良いのかよ。
「はっ!いけないいけない!」
「ぬぅおー!!ぬぅおあー!!」
その危機を察したティッピー。ココアの腕から逃れようともがき叫んでいる。
…叫んでいる?うさぎが?おかしくないか?しかも今やたらとダンディだったような。
「あれ?今このうさぎ叫ばなかった?」
さすがの異変にココアも気づいたようだ。不思議そうに店員さんに尋ねる。
「…気のせいです。」
「ふーん、そうかなぁ。それにしてもこの感触癖になるなぁ♪」
さすがに気のせいで通すのは無理があるのだが。それで通ってしまうのがココアなのか。
「あの…もういいですか?」
少し疎み気にココアの方、というよりティッピーの方を見る店員さん。
「えぇい!早く離せこの小娘が!」
「わぁ!」
おじいちゃん!完璧にこの兎はおじいちゃんだ!もう暴れたせいで息切れちゃってるよ!
「なんかこの子にダンディな声で拒絶されたんだけど!」
「私の腹話術です。」
「いや、それは無…」
「腹話術です。」
店員さんから思いっきり圧を感じる。この件には触れるなということか…しかし、気になる。
「腹話術なんてすごいね!」
「ありがとうございます。」
ココア…もう俺は突っ込まないぞ。
「それより早くコーヒー飲んでください。」
それより、うさぎの方が気になる俺は異常なのか…。
「そうだ、ココア。下宿先のこと聞かなくて良いのか?」
「あ、そうだった。」
このラビットハウスに入ったもう一つの目的である。
「どうしたんですか?」
「えっとね、私春からこの街の学校に通うことになったんだけど、下宿先探してたら迷子になっちゃって。」
「下宿って……」
ん?下宿やけに反応する店員さん。何かあるのだろうか。
「道を聞くついでに休憩しようと思ったけど。香風さん家ってこの近くのはずなんだけど知ってる?香る風って書くんだけど。」
「香風はうちです。」
「へ?」
…ん、なるほど。
「えええええ!!これは偶然を通り越して運命だよっ!!」
確かにすごい偶然だが、運命ってのは違くないだろうか…
店員さんの手を両手で掴んで激しく上下に振る。まあ、よっぽどうれしかったんだろう。
でも、頭の上のおじいちゃん疲れてるよ!気にしてあげて!
「よかったじゃないか。」
「うん!リン君ありがとう!」
…お礼言われるほどのことはしてない。
「私はチノです。ここのマスターの孫です。」
店員改め香風さんは頭のおじいちゃんを撫でながらそういった。
「私はココアだよ。よろしくね。チノちゃん!」
「はい。ココアさん。」
というわけで無事にココアは下宿先に着きましたとさ。難なく済んでよかった。
「あとは、高校の方針でね。下宿させて頂く代わりにその家でご奉仕するように言われてるんだよ。」
「うちで働くって事ですか?」
「そうだね。」
…ふむ。ああ、なるほどねぇ。
なんとなくだがココアとの付き合いは今日限りで終わらない気がしてきた。
まだ予感だが。
「といっても、家事は私一人で何とかなってますし…店の方も人手は足りてますから。大丈夫ですよ。」
「いきなりいらない子宣言されちゃった…」
まあ、俺がもし店主だったらココアを雇うのには躊躇するよな。うん。そういうことだ。
「ちょっと、リン君。失礼なこと考えなかったぁ?」
「おまえはエスパーかよ…」
なんかココアの思考が読めると思ってるように、俺の思考も筒抜けなのか!?
「んー、とりあえず、挨拶したいんだけど。マスターさんは留守?」
「祖父は去年…」
「そっか…じゃあ今はチノちゃん一人で切り盛りしてるんだね。」
「いえ、父もいますし、バイトの子がもう一人…」
と突然ココアは香風さんに抱きついた。
「私を姉だと思って何でも言って!」
香風さん結構驚いてるようだが、嫌では無さそうなような…
「だから、お姉ちゃんて呼んで?」
香風さんを解放した後、ニッコリ満面の笑みでそう言うココア。それがやりたいのが丸わかりすぎるぞ。
「じゃあ…ココアさん。」
「お姉ちゃんって呼んで!」
せめぎあう二人。そこには見えない火花が…!
「…ココアさん。さっそく働いてください。」
「任せて!」
火花が見えたのもつかぬ間だった。ようはココアは頼られたいだけなのだろう。
「それじゃ上に上がりましょう。」
そう言ってティッピーを置いて香風さんは店の奥へと向かっていった。それを見届けた俺は席から立ち上がる。
「じゃあ、俺はそろそろ行くぞ。」
「え?何処に?」
ココアを無事下宿先に送り届けた訳だし。コーヒーも二人のコントを見つつ飲み終わった。もう特にやることもない。
「何処にって新居にだよ。」
「しんきょ?」
「…ああ言ってなかったか。俺はこの町に引っ越してきた所なんだよ。だから新居。」
そういえば何も言ってなかったな。まあ聞かれてないことは答える必要も無いと言うことで。
「ええ!そんなの知らなかったよ!じゃあ、私一緒に家探すよ!!」
「ちょっと待て!俺は別に迷子じゃない。」
勝手にお前と同じにするな!頭が重くてつい抱えてしまう。
細かい位置までは覚えてないが、ちゃんと地図も持ってるし、住所だってわかってるんだぞ。
「それより仕事するんだろ?」
「ううん……」
こう言えば頼られたい彼女のことだ、ついてこないだろう。
「そうだ!」
…また何か思いついたらしい。今度はなんだ。
「仕事終わるまで待っててもらったり出来ないかな?せっかくだしお礼したいな!」
「いやお礼されるほどの事…」
「私がチノちゃんちにつけたのはリン君のおかげなんだからそういうこと言わないの!待っててね!」
そういって彼女は店の奥へ走っていった。
…ええっと。現在喫茶店のフロアに一人取り残されてます。はい。
大体俺は返事をしていないんだが…
ため息を軽くつき。再度椅子に座る。
しかし、店番いなくて良いのかよ。いくら日本とはいえ物騒では…
とそこまで思った所で俺は気づいた。この空間にもう一人いることに。
もう一人と言うより
思ったより話が進まない!次回はリンとティッピーの邂逅から始まります。
次回更新は1/15日(予定)です。