ご注文は「笑顔」ですか? 作:未完
「あなたってもしかしてこの店のマスターなんですか?」
ここはラビットハウス。ここでは今、傍目から見るととても奇異であろう光景が繰り広げられている。
俺の目の前にいるのはどうやらうさぎらしいティッピーと呼ばれる奴がいる。うさぎらしい、と言うのはそのもじゃもじゃな見た目だけから来てる訳ではない。
「あの…さっき喋りませんでしたか?」
ということである。俺の記憶が間違っていなければこのティッピーは先ほどダンディな声でしゃべったのだ。というか、記憶が間違えるはずないくらい個人的にはインパクトがある。というわけでティッピーに話しかけている。
「……」
今店内ではうさぎに話しかける高校生、という何とも傍目から見たら可哀想な図が完成してしまっている。
三話 邂逅と下着姿の強盗さん
いや喋れよぉぉ!
むなしい叫び声に心の中でエコーがかかる。
さっきあんなにダンディに叫んでたじゃないですか…
なんとなく焦ってるような雰囲気をティッピーから感じなくもない。が、しかし一向に反応は無い。
…ならばこっちにも算段がある。
「失礼します」
俺はティッピーの前に立つ。腕を前に伸ばした。そして、手をティッピーの横に当てる。
「おりゃ」
「うわぁっはは、ひひっ」
そして俺が手の指をわさわさと動かす。それに少し遅れてダンディな笑い声か聞こえてきた。
端的に言うとくすぐったわけである。しかし、初めてココアに共感するかもしれない。なかなかに触り心地が良い…
「やめんかぁ!」
「ぼべしっ」
ティッピーの底力を見た。おれの抱擁にも近いくすぐりから暴れもがいて脱出したらしい。途中でおれの顔に当たって変な声を出してしまった。
しかし、これでしゃべることの裏付けはとれたわけで。
「で、どうなんですか?マスターなんですか?」
「むむむ…そうじゃ、わしがラビットハウスのマスターじゃよ。」
やっぱりか。香風娘が微妙な顔をしていたのも頷ける。腰を落ち着けて話すためカウンターの席に座る。
「で、なんでうさぎの姿なんですか?」
「知らん」
えええ…
「自分の状態もわからないってどうなんですか…」
「うるさいわい。」
思ったより適当な理由でここに居るのかもしれない。
「しかし、お前はここに居る理由はないんじゃろ?なんで帰らんのじゃ。」
「…まあ待てっていわれましたし。」
「待て、律儀に待つとか犬っぽいの。」
「うさぎに言われたくないです。」
さっきの仕返しだろうか。このおじいちゃん思ったより茶目っ気があるらしい。
「しかし、その仏頂面なのに律儀な所とか、あいつを思い出すのう…」
「?あいつって誰ですか?」
「なに、昔の知り合いじゃ。」
彼はとても懐かしそうに目を細めた。うさぎの目だがなんとなくそういうのがわかった。
「そういえばお前の名前を聞いてなかったのう。年上には自分から名乗るもんじゃぞ。」
「俺の名前ですか?…深入琳です。」
「深入…なるほどのう。」
そこで深く頷いた。何を得心したのだろうか。俺の名前…いやまさか名字?
「すいません、もしかして『あいつ』って…」
「すいませんお客様。只今戻りました…ってティッピーはうさぎですよ。何話しかけてるんですか。ぜ、絶対喋りませんからね。」
店員さんが戻ってきた。俺がティッピーに話しかけてるのを見て焦ってるらしい。
「チノ、此奴は大丈夫じゃよ。」
「おじいちゃん!?…まあ、それなら良いんですが…お二人とも知り合いだったんですか?」
「大体そんな感じじゃ。」
知り合いでは無いのだが。それよりも結局聞けなかったことの方が問題だ。非常に気になるのだが…
「あ、でもティッピーのことは内密にお願いします。」
「わかってますよ。」
喋るうさぎの居る喫茶店。色々とマスコミとかその他もろもろ大変なことになりそうだしな。
「…あの敬語じゃなくても良いですよ。おじいちゃんの知り合いですし。年上に敬語で話されるのはちょっと。嫌、だったら良いんですが…」
段々と声の小さくなる香風さん。
「ん、そうか。わかった。」
まあ、妹みたいな年齢っぽいしな。
「普段から香風さん一人で切り盛りしてるのか?」
「香風さん…」
「香風はわしじゃぞ。」
…これはしょうがない。なるべく下の名前で呼びたくないんだがな。
「普段からチノちゃん一人で切り盛りしているのか?」
「日中はだいたいそうですね。夜はバータイムなので父が。」
ここはバーにもなるのか。まだ俺は入れる年齢ではないが。しかしこの親と子をもつ香風父が少し気になった。
「そういえば…あ、お名前聞いてませんでした。」
「ああ深入琳って言うんだ。よろしく。」
「香風チノです。よろしくおねがいします。」
という訳でこのまちでの知り合いが一人増えましたとさ。
「おじいちゃんの相手をしてくれた分コーヒーいっぱいサービスしますね。」
「良いのか?ならお言葉に甘えて…」
そういってチノちゃんはコーヒーを淹れ始める。
「リンさんはこの町に引っ越してきたんですか?」
「今年この町の高校に進学することになったんだ。」
俺も晴れて高校生となるわけである。
「ココアさんと同じ高校なんですか?」
「ん~恐らくそうだな。」
話を聞く限りはそうっぽい。しかし結構クラス数もあるんだ同じクラスになる事はないだろう。
「リンさんも何処かに下宿するんですか。」
「いや俺は一人暮らしだよ。」
「一人暮らし…憧れます。」
目がきらきら光っている。そんな良いものでもないと思うが。
「チノちゃんも高校生になったらやってみたら?」
「そうですね…」
真剣に考えるチノちゃん。しかしまだ進学を考える年でも無いだろうに。
「チノは寂しがり屋だからむりじゃな。」
「お、おじいちゃん!私にだって一人暮らしくらい出来ます。」
頬を赤らめてティッピーもといおじいちゃんのからかいに反論するチノちゃん。なんだかこころが安らぐなあっと、コーヒーを淹れ終わったようだ。俺の前にコーヒーが置かれる。
「どうぞ。…あの、もう一つ聞いても良いですか?」
「ん?何だ。」
彼女はどことなくそわそわして話しかけてきた。何をそんな言いにくそうにしてるんだろうか。話に答える前に一口コーヒーを飲もうかな。
「その…ココアさんとはお付き合いされてるんですか?」
「ごほっ」
むせた。全力でむせた。そんなこと俺にとっては背後斜め45度から手榴弾を投げ込まれたような気分だった。つまり、意味がわからない。
「ないないない。どうしてそうなる。」
「いえ、お二人ともとても仲良さそうにしていたので。」
仲良さそうというよりただココアに俺が引っ張り回されてただけのようなきがするんだが。
「大体、今日初めてココアと会ったんだ。」
「初めてですか!?でもここまでリンさんが案内したって。」
あいつ一人じゃ果たして無事についたかどうか怪しい。
「まあ、ここに来たのは偶然だけどな。」
「…ふふふ。そうですか。」
ん?なんか微笑ましい様子を眺めるような顔をされてる気がする。
「なんでもないですよ。それより早くコーヒー飲んでください。うちの自慢のブレンドですから。」
「なんか腑に落ちないが…いただきます。」
コーヒーを口に含む。香りに包まれる。趣のある店内で静かな時間が流れていく。会話はあれ以降無く。チノちゃんはそれ以降はあまり喋らず黙々と業務をこなしている。いい店だなぁ、と思う。これから三年間結構な頻度で通いに来てしまいそうな予感がする。
「強盗っっ!?」
のんびり過ごしていているとなんか物騒な言葉が聞こえてきた。二階からだろうか。ココアの声である。
「なんでしょうね?上にはココアさんとリゼさんしか居ないはずなんですが…」
「リゼ?」
「バイトの子です。」
そういえばもう一人バイトが居るって言ってたな。
「ちょっと様子を見てきます。」
「一人で大丈夫か?強盗とか言ってたけど。」
もし本当に強盗が居たら危ないんじゃないだろうか。
「ティッピーが居るから大丈夫です。」
「何もだいじょばなくないか、それ…」
とまあ紆余曲折を経てティッピーに店番をまかして俺とチノちゃんが様子を見に行くことになった。階段を上がって二階の廊下に出る。しかし一客がこんな店内に入っても良いのだろうか。そんな疑問をよそに俺たちは二人がいるであろう更衣室の前に来た。
「ココアさんリゼさん開けますよ?」
ノックをして扉を開くチノ。ここで気をつけてほしいのは声を発したのはチノちゃんだけだということ。あたりまえである。
しかし、これが不味かった。
扉を開くと制服に着替えたココア。それともう一人はおそらくバイトのリゼさんであろう。
それは良いんだ。
良いんだがそのリゼさんが
あ、目があった。
そしてみるみるうちにリゼさんの顔は赤らみはじめ…
「お、男おぉ!」
悲鳴とともに手元に持ってた銃をこちらに向かって投げてきた。あれはグロック17だろうか。モデルガンでも野球ボールの三倍以上重さがあったような…
とかのんびり考えてるうちに意識が遠のいていく、チノちゃんとココアの声が霞がかって聞こえるなぁ…
ここで俺の意識は一旦途切れた。
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