ご注文は「笑顔」ですか? 作:未完
目を開けるとそこは見知らぬ天井だった。
こういう書き出しで始まる小説はそう少なくない気がする。しかし、これは俺にとって現実に起きていることなのだ。部屋にはあまり家具がなく、ある物といえばベットとクローゼットくらいだった。どうして俺はこんな所にいるのか。まだぼやけている意識を押して思い出すこととする。思い出すことは…そう、俺が気絶する前の事。
「てか思い出すまでもなく覚えてるわ…」
あんな印象的な事を忘れるほど俺はボケちゃいない。
要約。
「お、男ぉぉ!」
赤面した下着姿の女の子に銃を投げつけられました。
現実は小説より奇なりという言葉があるが案外そういう物なのかもしれない。
四話 大事なことほど近くにあるんだね!
どうやら俺は気を失っている間に二階の部屋に移されたらしい。しかし、女子達だけで運んだのだろうか?割と自分は細身ではある。だがそれでも男子なのだし、重さはあるのだが…
そんなことを考えながら階段を降りていく。窓から入る光はオレンジ。少々長く眠っていたようだ。
「じゃあこれをキッチンまで運んでください。」
「うん、わかった。」
チノちゃんとココアの声が聞こえる。恐らく納戸にいるのだろう。
「うわっ!これ重い!」
どうやら何かを運ぶらしい。
取りあえず声をかけるか…
そう思い納戸に入る。
「普通の女の子には持てないよぉ~。」
「えっ!?あ、ああそうだな。普通の女の子には無理だよなっ!」
ドスンというめちゃくちゃ重そうな音ともにバイトの人、リゼさんが荷物を落とす。
…どうやら先ほどの疑問の答えはここにあったようで。
というか荷物落として大丈夫なのか少し心配になる。。
「あ!リン君おはよう!」
「あっ…」
快活そうに挨拶するココア。対してリゼさんは言わずもなが気まずそうだ。当たり前か。着替え見られたり、気絶させたり…なんかよくわからない第一印象だな。
「その…さっきはすまなかった。」
「いや良いですよ。入る前に声掛けなかった俺が悪い。」
更衣室だしね。しょうがない。
「いや、そうも行かない。何かお詫びさせて欲しい。」
「お詫びっていってもなぁ…」
「私に出来る範囲なら何でもするぞ。」
何でも、ですか!
…て喜ぶ程俺もガキではない。ガキではない。
しかしどうしたものか。特にやって欲しいことなんて無いのだが…
とここでチノちゃんに耳を貸すよう小声で言われる。
「こういうときのリゼさんはなかなか頑固です。」
チノちゃん情報。何かしら言わないと解放されないってことですか。
「…じゃあそのうちコーヒー一杯奢ってください。それでチャラで良いです。」
「そんなことでいいのか…?」
「男が女性に奢らせるっていうのはよっぽどじゃないと無い。ってことで充分詫びに値すると思いますが?」
「!そ、そうかわかった!全力で奢るぞ。なんなら今すぐにでも!」
「いや、後で、いいです…。」
なんか凄く嬉しそうですなぁ。リゼさんの圧に押される。何か良いこと有ったのかい…
「そういえば自己紹介がまだだった。天々座リゼだ。よろしくな。」
「よろしくお願いします。深入琳って言います。」
またまたこの町での知り合いが増えましたとさ。
「天々座さんは…」
「呼びにくいだろう。リゼでいい。」
…この町の子達は皆何故ファーストネームで呼ばせたがるのか。
「リゼさんは…」
「まて、敬語も無しだ。なんか、その、落ち着かない…?」
「いや、疑問形でいわれても。」
不思議そうに首を傾げながら言うリゼさんに俺も首を傾げたくなる。何だかあずかり知らぬ力が働いているような…
「わかりました…いや、わかった、か。これで良いかリゼ。」
「そっちの方がしっくりくるな。うん。改めてよろしくなリン。」
「よろしく。」
あんまり下の名前で呼びたくないんだがな。知られたらあいつらに何言われるかわからん。
…もう会わないかもしれないが。
「リン君見て見て!」
リゼとの自己紹介を終わった俺はココアに騒がしく呼ばれた。その様はまるでフリスビーを取ってきた犬のようだ…
「あ、また失礼なこと考えなかった?もう!」
ぷんぷんと鼻をつんとするココア。何故お前には俺の心の声がわかるんだ。OH MY GOD…
「それより見てよ、私が作ったんだよ!」
そういって彼女が見せてきたのはカップに描かれた可愛らしいうさぎであった。ラテアートって奴かだろう。
「ほお、良いじゃないか。可愛いし。」
まだ初めてから間もないはず。それにしてはよくできている。なかなかセンスあるんじゃないか?
「リンさん、この失敗作達も見てください。」
「…努力を重ねるのもセンスの一つだよな。」
チノちゃんに見せられたラテアート。恐らくココアの作った努力の証であろう。にしても数が多い。これどうやって飲みきるのだろうか…
「どうするんだこの量…」
「リン君も一緒に飲も?」
流石に飲みすぎで御手洗いが近くなりそうな気がする。
「ん?この妙にリアルな戦車の奴は誰のだ?」
「それは私のだ。どうだ?」
「すごいな。色んな意味で。」
リゼのか。しかし、何故に戦車なんだよ。
「父が軍人でその影響でな。」
「はあ、なるほど。」
お父さんの影響デカすぎませんかね…
「あ!でも私は普通の女子高生だから安心していいぞ!」
「お、おう。」
銃を向ける女の子が言うこの言葉の説得力のレートはSかAかはたまた…
第一印象って大事だな。うん。
「チノちゃんのは無いのか?」
「チノちゃんのはこれだよ。私と仲間なんだよ!」
そういって見せられたラテアート。
…なるほど。これは前衛的だ。前衛的すぎて俺にはわからない。しかし、ただひとつココアに対して言えることはある。
「いいか?これはココアのと一緒にしたらだめだ。そもそもある次元が違うんだよ。」
「なんか諭された!」
チノちゃんの芸術的センスが意外すぎる。画家を目指しても良いぐらい。
「今日はそろそろ締めましょうか。」
「おつかれー」
「おつかれさまー♪」
どうやらラビットハウスの本日の営業を終了するらしい。時間が経つのを忘れて結局最後まで居たわけだが…
「ちょっと待てココア。」
「ん?どうしたの。」
さて此処で考えてもらいたいことがある。そもそも俺がずっとこの喫茶店にいる理由を思い出して欲しい。そして誰にそうするよう言われたのかも。
「俺がここにいるそもそもの理由覚えてるか?」
「え?あれ?なんだっけ?」
予想が的中。いったい今日で何回当たるのか。
「一緒に働くため?」
「俺はここのバイトじゃない!」
お客様であるまである。
「そういえばそうだったな」
え、ちょ、リゼさん…
「そ、そうだ!!リン君も此処で働いたら良いんじゃないかな!?」
「話を逸らすな。」
ココアさんは完璧に忘れているようです。
「お前が待ってろって言ったんだろうよ。お礼するとか何とか言って。」
「あっ!…うん、お礼ね。覚えてたよ。」
腕を組んで頷くココアさん。ココアさんは完璧に忘れて居たようです。大事なことなので二回。
「お礼…お礼…」
「特に無いなら俺はもう行くぞ。」
そろそろ家に向かわないと準備もあるし。そろそろ荷物が届いている頃だろう。そうおもって俺は出口へ向かおうとした。
「待って!それは駄目!!」
「んなっ!」
そう思った俺の手を彼女は思い切り掴んだのだ。思わず俺は振り向き彼女の顔を見る。しかし、彼女の顔には疑問の表情が見えた。まるでなんでそうしたのかわからないような…
「わかった、待つよ。待つから手を離してくれ。」
「あ、うん…」
ゆっくり彼女は俺の手を離した。
「あ!そうだ!」
そこでココアは何か思いついたらしい。そこにはさっきまでの表情はなかった。
「夕ご飯一緒に食べようよ!私が作るから。それがお礼でどうかな?」
「どうっていわれても…」
そこでチノちゃんの方を見る。それで察してくれたらしい。そもそもここは香風家なわけである。食卓の権限はチノちゃんにあると見える。
「別にうちは大丈夫ですよ。」
「じゃあ決まりだね!」
どうやらまた俺のあずかり知らぬ間に決まってしまったらしい。
…まあでもどうせこのままだと夕飯はカップ麺の予定ではあったし。
それに比べればやはり人の作る飯の方が良い。
だから、それぐらいなら良いのかもしれない。
「ココアお姉ちゃんですね…」
「チノちゃんもう一回言って!」
キッチンの方から楽しそうな声が聞こえてくる。あんまりはしゃぎすぎて怪我しないように。そんな事をぼんやり祈りつつ俺は食卓に座っている。料理を手伝おうと思ったのだが女子陣に「大丈夫です(だよ!)」って言われてしまったので待機している。決してサボっているわけでは無い。
夕飯のシチューができるまで特にすることもない俺は携帯電話の電源を入れる。メールマークに1という数字がついている。
「…猪熊か。」
文面をさーっと読んでいく。よくある引っ越した友人へのメッセージ。なんだかんだ気遣いのできる彼女らしい文面である。
「ま、そうだよな」
やっぱり話題に触れて無くても滲み出るのが気持ちってものだろう。いやそれともただ単に俺が気にしてるだけか…
どちらにせよわざわざ蛇を突く必要も無いので無難に返信を書くことにする。
「こっちは問題ない、っと。」
向こうもこれから高校生になる。きっとその内関わることもなくなるんだろうな…
なんて鑑賞に浸っていたところ、ノックの後部屋のドアが開いた。
「何者?」
「こちら父です。」
「君がココア君だね。…それと意外な来客も居るようだ。」
そう言って部屋に入ってきたダンディな香風父。しかし意外な来客って表現は微妙にずれているような。
「急にお邪魔してすいません。深入琳っていいます。」
「タカヒロだ。大丈夫だよ。食卓は賑やかな方が良い。」
穏やかで落ち着いた口調。バーテンダーっぽい。
「ココア君、今日からよろしく。」
「お、お世話になります。」
深々とお辞儀をするココア。柄にもなく緊張しているらしい。
「こちらこそ。チノをよろしく。」
こちらも礼をする香風父。どっちかって言うと世話になるのはココアの方だという言葉を何とか飲み込む俺偉い。
その後ティッピーがチノちゃんの頭から香風父の頭へ移る。
「じゃあ。」
「は、はい!」
そういって香風父は部屋から出ていった。
「お父さんは一緒に食べないの?」
「ラビットハウスは夜になるとバーになるんです。父はそのマスターです。」
「へえ、そうなんだ!なんか裏世界の情報提供してそうでカッコイイね…」
「何の話ですか…」
やはりチノちゃんにもココアの思考はわからないようで。
「できたー!」
てってれー!チノとココアのシチューが出来上がった!
鼻に届く食欲そそる香りはなかなかどうして腹を鳴らさせようとしてくる。つまり、腹が減ったということ。
「「「いただきます!」」」
三人の声が揃って響く。シチューを口に運ぶ。「美味しい…」
「やったね!チノちゃん!」
「そうですね。」
ココアは意外にも…といったら流石に失礼か。料理は普通に出来るようで文句なくシチューは仕上がっている。
「しかし夕飯までごちそうになっちゃて…申し訳ないチノちゃん。」
「いえ良いんですよ。こんな賑やかな食卓はなかなか無いですから。」
そういえばよくよく考えたらチノちゃんは今まで一人だったのだろうか。小中学生でそれはちょっと寂しいのではないだろうか。
「大丈夫だよチノちゃん!これからは私が居るからね。」
「ココアさん…」
ココアが気を使ったのか…いやきっと自然体なんだろう。チノちゃんにそう言った。
「だから私を姉だと思ってお姉ちゃんってよんで!」
「それは嫌です。」
やっぱりココアはココアだった。
「それよりリンさんはこんな遅くまで家に行かなくてよかったんですか?引っ越してきたばかりなんですよね。」
「まあ荷物を開けるだけだし。まだ春休み中だし大丈夫。」
宿題のない休みは気楽で良い。
「チノちゃんは学校の宿題とか終わったのか?」
「はい、大体は。」
まあそうか計画的に終わらせてそうだもんな。
「ココアは?」
「へ?春休みって宿題無いんじゃないの?」
ああココアの学校は宿題が無いのか。そう思ってのんびりシチューを食べる。そして飲み込み終わったところで気づく。
「実はお前俺と同じ学校なんだよ…」
「え!そうなの!?」
そうなんです、はい。
「でな。入学前の課題が出てたはずなんだよな。」
「へぇ~そうなんだぁ…え゛?」
そこからココアの顔から血の気が引いていく。学校が始まるまであと数日ある。しかし春休み自体は一月近くあるのだ。よって課題もそれだけの量が出されている訳である。なかなかに多い。
「ココアさん。」
「はい。」
「終わんの?」
「…無理だよ!助けて!リン君!」
ですよねぇ。少なくとも学校が始まるまではココアとの関係は続きそうである。
「お邪魔しました。」
「よかったらまた来てくださいね。」
夕飯も食べ終わり、帰路に就く。
「じゃあねリン君!今度宿題教えてね!!絶対だよ!!」
「わかったわかった。」
それを最後にドアを閉めて外に俺は出た。
季節は春。しかし夜はなんとなく寒い。
「さてと家に帰るか…」
帰ると言ってもまだ一度も行ったことのない家なんだよね。果たして帰るって表現が正しいのか。
そんなことを思いつつ。俺は地図を取り出す。俺の新居の位置が書かれた地図だ。
しかし小さいけど一軒家だって奴は言ってたけど高校生で一軒家ってなんか贅沢だな。
まあそれはともかく新居へ向かおう。これがあっちで…それがこっちで……
「ん?ん!?」
いやまさかね。もう一回しっかり確かめよう。これがそっちで、あれがこっちで…
「まじかよ…」
衝撃の事実をすぐに認められるはずもなく。しかし現実はそこにあるのだから仕方がない訳で。
「二人になんて言おうか…」
そんなことを考えつつ半分呆れながら俺は新居へと入った。
彼女は窓にもたれて外を物憂げに見ていた。
(ココアさん)
やっぱり引っ越してきたばかりで寂しかったり不安だったりするんでしょうか?
「はぁ…シチューもう一杯おかわりしとけばよかった…」
そんなこと…やっぱりココアさんはココアさんのようです。
「てっきり寂しくなってるのかと思いました。」
そういって私は窓の近くに行きます。
「チノちゃんがいるから寂しくなんか無いよーだ。…それにしてもこの街ってとっても素敵だね。」
「そうですか?」
急にそんなことをいうココアさん。私はずっとこの街に住んでいてほとんど外に出たことが無いからあまりわかりませんね。
「うん!これからたくさん楽しい事がありそう!」
…ココアさんはやっぱりココアさんみたいです。いつも前を向いているそれが彼女なんでしょう。
「ココアさんよろしくお願いします。」
「お姉ちゃんとして頑張るね!」
「やっぱりちょっとまってください。」
そんな他愛もなく話せるのが少しうれしい。なんて思っちゃうのはちょっと子供っぽいでしょうか…
でも二人で窓から見る街はちょっとこれまでとは違って見えます。
そんな風に穏やかに時がすぎるかと思っていたんですが…
「ゲホッゲホッ!ああ、ホコリが凄くて…」
隣の家の窓が勢い良く開いて中から人が顔を出しました。よっぽど苦しかったのでしょうか…え?
「あれ?」
そこでココアさんが異変に気づいたようです。私にもわかりました。
「リン君?」
「…ああ、えっと。こんばんわ?」
私の日常もちょっとづつ変わっていくようです。
遅刻に遅刻を重ねてしまいすいませんでした。次回更新は2月5日の予定です。