ご注文は「笑顔」ですか? 作:未完
新しい制服。白いセーラ服にピンク色のセーター。それらを身に着けた私の姿。それが目の前の姿見に映される。
「ふふっ」
思わず微笑む。今日からこの服を着て学校に通うんだ。新しい街にまだ知らない友達。そのことを思うと少しの不安はあっても、やっぱりワクワクしてくる。
「こんな感じも良いかな?」
そんなワクワクが少し抑えられなくて、感じるままに色々とポーズを取る。伊達メガネなんかつけちゃったりして。
…むむ?これはかっこいいのでは?
「そろそろいきますよ。」
そこで掛けられる声。呆れを含んでいるその声のする方に目を向けると、チノちゃんがジトっとした目でこちらを見ていた。…少し恥ずかしい。
「それにしてもリン君どこに行ったのかな?」
「居ませんでしたね。」
学校への道のり。二人でのんびり会話をしながら進んでいく。途中まではチノちゃんと一緒らしい。
つまりこれからは毎日チノちゃんと一緒に登校出来る!二人で仲良く並んで通学するのって凄く姉妹っぽい。きっと傍目からみたら仲の良い姉妹に見えるはず!
「やっぱり先行っちゃったかなぁ。」
「多分そうだと思いますよ。」
リン君とは私は同じ学校に通う事になっている。なので一緒に行こうと思って声をかけたんだけど、家には誰もいなかった。彼は凄く朝が弱い(ここ数日の様子でわかる)だからてっきりまだ寝ていると思っていたんだけど。でも、一応はしっかりしてるリン君のことだ。きっと先に行ってるはず。
「…ココアさん、一つ聞いていいですか?」
「ん?どうかしたの?」
お?可愛い妹が何か聞きたいらしい。妹の頼みであれば何でも聞くよ!なんてったって私はお姉ちゃんなんだから!
「その、リンさんのことなんですけど…」
リンくんのことについて聞きたいらしい。むう、私よりリンくんのことが出るのは姉としてちょっと悔しい。
「ココアさんはリンさんのこと…」
でも仕方ないから妹の話を聞くことにしよう。
「好きなんですか?」
「へ?」
七話 確認って大事だよな
「ヘクチッ」
変なくしゃみが出る。木漏れ日の温かい春だというのに風邪でも引いたんだろうか。いや、はたまた誰か俺のことを噂して…ないな。
考えるまでもない結論を下した俺はのんびり木陰を歩いて行く。手には花束。さっき言ったような木漏れ日と、草木の合間を縫って吹いてくる春風が非常に心地良い。ここは市街地からそこそこ離れた高台。脇に目を振るとそこには上から見下ろす木組みの街がある。遠目から見てもやっぱり浮世立っている感じがする。それぐらいとっても絵になる景色である。未だにあの街の一員になってしまったことに実感が得られない。そんなことを考えながら足元の緩やかな石段を登っていく。石段の間はゆったりとしたスペースがあり階段と言うより半分スロープみたいな感じ…なんて言ったら良いんだろうか。表しにくい。
ともかく、何故今俺がそんなところをのんびり登っているのかについては、当然理由があるわけで。逆に理由がなければあまりこういった坂は登りたくない。自分で欠点だとわかる位には俺は体力が無い。
そんなことや明日からの学校の事をぼんやり考えつつ黙々と足を進めていく。そう間もなく目的地に着いた。
そこは寺。なんの変哲も無い寺である。ここには何回か来たことがある。
落ち着いて居るが、何とも言えない厳かな雰囲気に少し緊張が高まる。と同時にやっぱりここは日本だったんだなって間抜けなことを思う。あの木組みの街にだいぶん犯されているらしい。心中苦笑しつつまた足を進める。
寺には大体一緒にお墓があるわけで。今日の目的はお墓参りである。
しかれた石畳をならしつつ迷い無く進んでいた俺は1つのお墓の前で足を止める。
「来たよ…母さん。」
そう声を掛けた。
「好きだよ?」
「!!…ああ、そういうことですか。」
チノちゃんは突然変なことを聞いてきた。何故だろう?そして、一瞬驚いたあとすぐに呆れ顔に変わっていた。
「…じ、じゃあ私のことはどうですか?」
「チノちゃんのことも好きだよ?」
今度は少し恥ずかしそうにそう聞いてきた。コロコロ変わる様子が面白い。
「そうですか…」
まだ顔の赤いチノちゃんはそういうつもりじゃないんですが…とぼそっと言った。何のことだろう?
「やっぱりココアさんはココアさんですね。」
「むぅ、なんか私呆れられてる?」
「気のせいです。あ、じゃあ私はこっちなので。」
「え!思ったよりも短いっ!」
どうやらチノちゃんと同じなのはここまでらしい。思ったより短い距離で残念。
「いってらっしゃい、ココアさん。」
「むぅ、チノちゃんもいってらっしゃい。」
そういって歩き出すチノちゃんに手を振って別れる。一人になった通学路。寂しいなぁ…
「そういえばさっきのは何だったんだろう?」
私はリン君もチノちゃんのことも好きだ。妹と友達のことを嫌いな人なんているのかな?
「あ、リゼちゃん!」
向こうからやってくるバイト仲間に声をかける。少し寂しさを紛らわせてもらおう。
「じゃあまた来るよ。」
そう言って話を終わりにした。別段大した話はしていない。近況報告とか隣の居候がうるさいとか、そんなとりとめない話。
今ある日常のことしか話さない。それはいつも通りである。
桶やお供え物の後始末をし終わった俺は立ち上がる。次来るのはお盆の頃だろうか。
寺のある丘から降り歩くこと数十分木組みの街に戻ってきた。時刻は昼過ぎ。今日は珍しく早起きしたので、時間はある。早めに帰って家の片付をしてしまおう。そう思い、歩を進めると知り合いの姿が。
「リンじゃないか。」
「よっす、リゼ。」
制服姿のリゼ。これは近くのお嬢様学校の制服じゃないか。
「お嬢様だったのか…意外だな。」
「意外っとは失礼だな。それに別段普通の家庭だ。」
普通の家庭ってあんな学校行けるのか?ああ、でも特待生制度とかあるのかもしれない。
「そういえばリンは今日サボりなのか?」
「ん?いやまだ学校始まってないけど。」
彼女の学校はもう始まって居るようだが、俺とココアの通う学校は明日が始業式である。それを聞いたリゼが変な顔をする。
「朝、学校に行くココアに会ったんだ。制服も着てたしてっきり学校へくんだとばかり…」
「は?ココア?」
何故そんなことを…って一瞬疑問に思ったが、なんというかすぐに察した。
「まさか…」
「多分そのまさかだ。」
リゼも気づいたようだ。流石だぜココア。期待を裏切らない!
「ふふっ、ココアらしいな。」
軽くお腹を押さえて、笑いを漏らしている。
「言わない方が良かったか?」
「聞いちゃった物は仕方が無い。」
後で軽くからかってやろう。恐らくリゼも同じ腹積もりだろう。
「…ん?リゼって二年生だったのか?」
そこで俺はふと気づいた。制服の胸元にある小さいバッチ。クラスの所属を表すそれに書かれている数字は「2」だった。
「ああそうだ。」
「まじか…ずっとタメだと思ってたんだが。」
確かに春休み中すでにバイトしているのだから当然のはずである。とすると敬語で話したほうが良いのだろうか?年上には敬意を持つべきってどっかのおじいちゃんが言ってた気がする。
「いや、良いよ。なんか敬語だと私が落ち着かない。」
「そうか、それなら良かった。」
確かに落ち着かない。俺の中ではなんとなくリゼはダチみたいなポジションである。衝撃的第一印象のせいで女子という感じがしない。
「なんか失礼なこと考えてないか?」
って本人に言うと怒られそうではある。
「おっと、私はそろそろ行くよ。バイトがあるんだ。」
リゼがそう言ったので二人だけの井戸端会議を終わりにしようとする。
「きゃああ!!」
とそこで悲鳴が聞こえてきた。声からして女性の声だろう。何かあったようだ。
「あっちか!?」
それを聞いたリゼは風のように声のした方へと走り出す。…速え。とてつもなく速え。短距離ならそこそこ速い自信はあるのだがリゼには勝てそうな気がしない。そんな感想を思いつつ彼女について行く。仮にも(って言ったら失礼か)女子である彼女だけを行かせる訳には行かないだろう。
「大丈夫か!?」
路地裏に駆け込むと一人の少女が佇んでいた。金髪でショートカット。服装はリゼの学校の制服である。どうやら無事みたいだ。
「なにがあった?」
彼女に問いかけるリゼ。体が震えている彼女は、かくかくとぎこちなく首を回し、こちらの方に顔を向けて、
「う、うさぎが…」
と青ざめた切羽詰まった顔で言ってきた。
…本当にこの町は飽きない。たが、さっきまでの心配をできれば返して欲しい。
「すいません!わざわざ来て頂いて…」
「いや、良いよ。あいつ良く道を塞いでいるんだ。」
リゼがやたらとワイルドな野良うさぎを追っ払ったことでようやく動き出した彼女。何回もペコペコとリゼに礼をしている。されいているリゼは若干戸惑いつつ受け答え。
どうでもいいがやたらと金髪な彼女の目がキラキラしてるのが気にならなくもない。あの目は見たことがある。
「リゼ時間は大丈夫なのか?」
「ん?…ああ、そろそろやばいな。」
「そうなんですか!?すいません私のせいで…」
そう言ってしょぼんとする彼女。感情が非常にわかりやすくて見ていてココアと違う面白さがある。
「今度このお礼をさせて下さい!」
「いや、別に良いよ。」
「いや私が納得出来ないんです!同じ学校の先輩ですよね?今度連絡します!!」
「そ、そうか。」
「桐間紗路です!よろしくおねがいします!」
「て、天々座理世だ。」
金髪少女の圧に負けるリゼ。あのリゼが押し負けるなんて…!この子恐るべし。
「…とりあえず私は行くよ。リン、ココア達によろしく伝えておいてくれ。」
「ん、了解。」
そうしてリゼと別れる。よろしくって何をだ?あれか?ココアが学校に行ったことか?
しかしココアも不幸な奴だ。そうだ、とりあえず駄目姉に苦労してるチノちゃんに教えてあげよう。
…あれ?なんか自然にラビットハウスへ向かう流れになってるんだが。
「あ、あの。」
リゼが居なくなったのでここに残るのは二人。桐間紗路と名乗った彼女と俺である。
「ありがとうございます。あなたも助けに来てくれたんですよね?」
「んん、まあそういうことになるのか…」
助けたと言ってもそもそも助けるほどのことじゃなかったし、だいたい兎を追っ払ったのはリゼだし。
「よかったら今度お礼をさせて下さい。」
そう言われてもなぁ…でも断っても聞かないだろうし。好意はありがたく受け取っておくことにしよう。
「えっとその…お名前は?」
そういえば名乗ってなかった。
「深入琳だ。」
「桐間紗路です。よろしくおねがいします。」
またこの街での知り合いが増えたテッテレー
しかしほぼ全員女子っていうのはどういうことだろうか…
「えっと天々座先輩の彼氏さん、ですか?」
「違う違う違う違うただの知り合い。」
「そ、そうですか。」
何故か否定しないと身の危険を感じた。決してこのことで彼女が怒るってことは無いだろうけど、なんか顔を真赤にして俺に殴りかかってくる未来が見えたのだ。つまり要約すると俺は死ぬ!
とまあ、俺の必死さに少し引いている彼女。しかし、どうにもさっきから彼女の言動に違和感を拭い切れない。
「桐間さん…いや桐間でいいか。多分俺たち同い年だから敬語使わなくていいぞ。」
恐らく勘違いしてるであろう彼女。しかし同輩に敬語を使われるのは少し居心地が悪い。
「え?でも天々座先輩は…」
「まあなんというか成り行きで。」
なんとなく腑に落ちてなさそうだが仕方がない。
「…じゃあお言葉に甘えて。改めて桐間紗路よ。よろしく。」
この少しサバサバした感じが彼女の本来の姿なんだろう。さっきまでのうさぎに怯えてた乙女とは打って変わってである。
「携帯もってる?」
「ん?持ってるが。」
一体何に使うというのだろうか。
「天々座先輩は同じ学校だからいつでも会えるけど、あなた違う学校でしょ?」
「ああ、そういうこと。」
どうやら連絡を取れるようにしたいらしい。そこまでしてお礼されるとなんだか申し訳ない。
「良いのよ、私の気が収まらないだけよ。」
さいですか。
「ココアちゃんっていうのね。私は宇治松千夜よ。よろしくね。」
いろいろあって街をぐるぐるしていた私は野うさぎ達にようかんを上げている浴衣の少女に会った。今は二人で並んでベンチに座りようかんを食べている。
「千夜ちゃん…」
「どうかした?」
何処かで千夜ちゃんの名前を聞いたことがある気がする。どこだっけ?この街に来る前のはずはないから、えっと…
「あ!」
「ど、どうしたの?」
思い出した!そうだこの前リン君の話に出ていた彼女だ!!
私が突然大声を出すから少し驚いちゃったらしい。でも私のほうが驚きだよ!
「リン君って知ってる?」
「…リン君って深入リン君?」
そうそう!そのリン君!やっぱり間違いないらしい。
「リン君に話聞いてから千夜ちゃんと会ってみたかったんだ!」
「へえ、そうなの。それは嬉しいわ。」
あらあら、と落ち着いた動きで頬に手を当てて笑う。とっても様になる姿だと思う。おしとやかで良いなぁ。
「ココアちゃんとリン君ってどういう関係なのかしら?私気になるわ。」
今度はずいっと身を乗り出して目を光らして聞いてきた。一転してやんちゃっぽい感じ
「どういう関係って、友達だよ?」
それを聞いて千夜ちゃんは少し残念そうにする。
「リンくんのこと好きだったりしないの?」
「ん?好きだよ?」
チノちゃんと同じことを聞いてきた。一体何なんだろう?友達を嫌いな人なんて…
「ココアちゃんそうじゃないわ。」
「どういうこと?」
チッチッチと指を振る千夜ちゃん。わかってないわと物申す様子である。
「女の子だけで会話するときに会話で「好き」って単語が出たらそれは「Like」じゃなくて「Love」の方なのよ。」
「へ?」
Likeの意味は好き。Loveの意味も好き…だったはず。でもその意味は違くて…そこまで考えて顔が熱くなるのを感じた。
「違っ、さっきのはそういう意味で言ったんじゃないよ!!」
「あらら、ココアちゃん真っ赤よ。」
千夜ちゃんが眩しいくらい笑顔になる。
「でもお似合いだと思うわよ。」
「もう!だから違うってば!!」
まだ顔から熱が引かない。恥ずかしい…!
今日一日で千夜ちゃんのことが少しわかった気がする。
「あ、リンさんこんにちは。」
「ああ、チノちゃん。こんにちは。」
桐間と別れた後帰り道にチノちゃんに会った。しっかりと挨拶する所が礼儀正しくて可愛いらしい。
「あれ、リンさんは今日学校だったんじゃ…」
「ああ、それは…」
そこでチノちゃんに説明をする。
「ふふっ、ココアさんらしいですね。」
クスリと笑うチノちゃん。
「…そうだな。ココアらしい。」
同意の意を述べる。その言葉がすぐに出てきたことに少々驚く。まだ出会ってから数日しか経ってないのに~らしいなんて言えるくらいになっている。それだけこの街の人々のキャラが濃いのか。
「…リンさんってココアさんの事どう思ってますか?」
チノちゃんがそう聞いてきた。
「めちゃくちゃ騒がしい隣人だな。」
「そ、そうですか。」
そう即答したのに少々チノちゃんは戸惑う。それで終わりにするのも何となく憚られたので、でもまあ、と続けて…
「まあここまで来たら何らかの腐れ縁があるんだろうさ。」
なんて言ってみる。第一出会いからして特殊なのである。いきなり「お前の顔は辛気臭い!」なんて言われたら嫌でも印象が残る。
「…そうですか。」
それでチノちゃんは何か納得言ったらしい。…いや、まだ納得してないか。
「今日も家で夕食食べていきますか?」
それでももうこの話は終わりでいいと思ったのかチノちゃんはそう聞いてきた。
「ああ…お願いしてもいいかな。家結局片付いてないし。」
「わかりました。」
明日から学校だ。なんというかやっと始まるという感じが強い。きっと一週間前の俺はこんな感じの生活を欠片も想像してなかっただろう。
ただ、これも悪くない。これで良いか。と少しだけ、本当に少しだけ納得している自分がいる。
「ココアさんは間抜けですね。」
「確認て大事だよな。」
「二人共もう言わないでッ!」
恥ずかしさで顔を赤くしているココア。いつも振り回されているので、そんな彼女は新鮮だった。日々の鬱憤を晴らしたくなってくる位には嗜虐心がそそる…って言うとなんか俺変態みたいじゃね?
「今日は厄日だよっ!」
そんなココアの叫びが聞こえる、ラビットハウスでの食卓であった。
まだ学校が始まってない衝撃の事実!
遅筆を改善したい…!