転生食堂と常連達   作:かのそん

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説明役の魔法使いさん。
店長は基本的に引きこもりなので、世界の説明する時には彼女の出番っぽくなってますね。


12話 勧誘と旅立ち ★

 ~0~

 

 人間は大まかに別けて二種類に分類できる。

 研究し、追求する者と、新たなものを創造する者。

 

 

 ◇

 

 

 

「お願いします!」

 

 

 

 時間は昼下がり。

 場所は交易都市ハーフ。そこの大通りから少し外れた所にある、俺の仕事場兼住居の小さな食堂。

 ここで勇者として、近隣のトラブルを解決しながら、過ごした妹の旅立ちの日だった。

 たった3日とは言え、勇者がここら一帯で活動した結果は凄まじく。妹が寝泊まりする、ここにも色々な人達が訪れた。

 

 

「彼の娘を・・・。いえ、私の家内を助けて下さり、本当にありがとうございます!」

「ありがとう、ございました。」

「勇者殿感謝致します。だが、聞き捨てならんな。だれが貴様に娘をやると言った?私はまだお前を認めた訳ではないぞ。」

「いえいえ、彼が時間を稼いでくれたから間に合ったんですよ。無事で良かったです。」

 

 俺は、一緒に戦ったりは出来ない。だから、これらの言葉に籠められた意味や、実際にどんな騒動があったのか、届けられた言葉から想像することしか出来ないし、詳しい事情を聞き出すわけにもいかないので、それはわからない。

 だが、まあ勇者としてあらゆる事をこなし、結果を出し続けている事に対して届けられる数多くの感謝の言葉。

 それらの報告を行う皆の顔は朗らかで、例え泣きながらだったとしても。それはどこか安心した雰囲気で。

 それらの事件の終結をカウンター越しに見届けていると、俺も嬉しくなってくる。

 

 

「魔物の討伐、お疲れ様です!」

「感謝の極み」

「結婚してください!」

「是非私を弟子に!!」

 

 感謝、勧誘、労い、顔を売る。

 各人様々な思惑を持ち、妹を目当てに殺到する人達。その多くがそのままうちで食事を済ませていった。一部の奴はその場で放り出したが、あらゆる層の人達から感謝されている妹の姿を見て。

 

 

『ああ、こいつは1人でよくやっているんだな。』

 

 そんな感傷をたっぷり含んだ一言を思い浮かべながら、周辺地域での活動を終え、うちで食べる最後の昼食を取り、旅立ちの準備を整えた妹へと視線をやる。

 

 

 

「一緒に来てください!!」

 

 身体を直角に折るかの様な綺麗な姿勢と共に発せられた言葉は旅の同行依頼。

 胃が消化のために身体の血液を集めて働き、心地好い眠気が襲い掛かってくる。そんな気だるい空間に、良く通るハキハキとした勧誘の声が響き渡る。

 

 

 

 

「嫌」

 

 そして、その誘いの言葉は。たった一文字の言葉で事も無げに切り捨てられたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

「そんな事言わないで、お願いー。ねぇねぇ魔法使い様ー!!」

「や」

 

 お嬢ちゃんの肩を両手で掴み、前後に揺らしながら繰り返される勧誘の言葉。と言うか懇願。それの答えは先程と同じ一文字。

 同じ一文字ではあるものの、言葉にすると更に短くなっている。取りつく島もない。

 

 今日も今日とて、持ち込みの分厚く重みがありそうな書物。それをかっくんかっくんと肩を揺すられながらも、読み進めているらしく、体制を変えようとしない。あれでちゃんと読めているのだろうか?

 

 

「この前の乱闘事件の時の防御魔法凄かったんだもん、お願いーお願いしますー。」

「やー」

 

 お嬢ちゃんが身体を揺さぶられた結果、本を手放し落とした。と思いきや、小さな魔方陣を展開し、それに乗っける様に本を浮かべて、空中に固定した。

 人差し指を右から左へとスライドさせる事により頁が捲られ、読み進めている。少なくとも身体の揺れで本が揺さぶられなくなった形だ。身体は今も揺すられているが、意地でも読書を辞めようとはしない。

 

 

「研究都市まででいいからさー。王様に頼んで作って貰った、そこにある秘蔵の書庫の入場許可書あげるからー!ねっ、道中だけでいいからー!」

「・・・。」

 若干悩んだのか、集中が乱れたらしく、宙に浮いている書物が床へと落ちる。ゴトッ、って言ったぞ今。あれはそのまま普通に鈍器として使える重さの音だ。

 ってか、それ勝手に譲渡していいのか妹よ。なんて頭の片隅で考えながら、助け船を出してやる事にする。

 

 

「あそこって滅多に入れない場所なんだろ?いい機会だし、少しだけでも助けてやってくれないか?」

「んー・・・。」

「特製のお弁当作ってあげるから。」

「兄さんのお弁当!?」

 

 同行者を釣ろうって時の餌にお前が食いついてどうすんだよ!

 

 

「帰ってきたら、なんでも作ってやるし」

「ん、わかった・・・。」

「いいの!?」

「その代わり道中だけ。書庫への許可書も欲しい。」

「うん!ありがとー助かるよ!!」

 

 魔法使いが仲間になった。

 

 さて、俺が研究都市への道程を同行して、飯全てを担当する訳にはいかないからなぁ。お弁当少し気合入れて作ってやるか。

 

 

 

 ◆

 

 

「やったっ!久しぶりの同行者がいる旅だー!」

 

 旅への同行を承諾した事により、勇者は両手を挙げて喜びを全身で現している。

 彼女の手から解放された私は、床に落とした本を指先から発現させた魔法を使って回収する。

 

 

 魔法。と、一言で言っても、それは奥が深い。

 1人1人が体内に持つ魔力に自分の使いたい効果に近いものを想像し練り上げる。そして、体外に放出する際にキーワードになる言葉。

 呪文や、魔方陣で特定の指向性を持たせて行使する。

 

 体内に練り上げた魔力と、トリガーとなる呪文の種類が異なる物だったり、噛み合わないものであった場合、それは顕現せず、なんの効果も持たずに霧散。或いは粗雑な効果しか得られない。

 

 過去行使された魔法で、一定以上の成果が得られたものや、理論上確立されたもの。それらの呪文、魔方陣が書物として残されている物がある。

 それらは魔道書と呼ばれている。

 

 簡易的な魔法については写し。

 原本を見た誰か、或いはその魔法を使える誰かが書き移した物が、比較的安価で出回っている。

 

 

 

 そして、研究都市。

 魔法、もしくはそれに準ずる物の研究、発展を目的として作られた場所で、都市とは名ばかりの小さな所だ。

 今では基本的に住民のほぼ全てが何かしらの研究者の町でもある。

 

 実用性の高いものから、何のために作られたのかが全く分からない魔法や道具が大量に溢れている。らしい

 実に興味深い。

 が、私はまだ研究都市には行ったことがない。

 

 そこに行かずとも、交易が盛んなハーフ。ここでは色々なものが手にはいる。未だに買うだけ買って手付かずのまま積み上げた未読の書物が沢山残っている。

 需要に供給が追い付いている事は大変喜ばしいことだが、それを消化するまでは、ここをメインに活動するつもりだったのだから。

 うん、まあでも。ここでの活動が終わったとしても、マスターのご飯食べられないのは寂しいから。たまには来ようかな・・・。

 

 

 あの都市までの旅の同行。早急に済ませたい案件だったが、一度訪れた場所でなければ転移魔法は使えない。

 場所を知らないのだから、そこに跳べる筈もない。

 見えればいい訳だから、遠見の魔法を使えばいいとも思ったが、実際に使っての実験は結果的に失敗だった。

 距離が離れれば離れるほど精度が下がってしまい、靄が掛かったような映像しか見れなかった。はっきりと把握出来ずに転移魔法を使っての失敗はしたくなかったので、実験はそこで辞めておいた。

 

 

 まあ、使えたとしても転移魔法は多人数同時には飛べないのだから、結果的に久々の足を使っての移動になるのは確定事項だったけれど。

 若干気が滅入るが。遅かれ早かれ、いつかは必ず訪れたいと思っていた場所だ。

 

 

 ああ、そこには一体どんな魔道書との出会いがあるのだろうか?

 今から楽しみだ・・・。

 

 

 お弁当、なんだろう・・・。

 

 

 

 ◇

 

 

「ありがとー、兄さん!」

「これ、この前の?」

「そうそう、お米だ。ってか、受け取った瞬間に開けんなよ。」

 

 2人分の弁当を用意して、手渡したと思った次の瞬間には中身を確認していた。世界を縮めるのが大好きな兄貴もびっくりのスピードだよ、止める暇すらなかった。

 

 今回の弁当はご飯をメインに考えられた物を作ってみた。

 薄く平らにご飯を詰め、魚の乾物。鰹節的な物を薄目の味付けをして均等に敷き詰める。そこに海藻。うん、海苔だね。海苔で仕切りを入れる様に乗せ、そしてまたご飯を重ねる。最後に胡麻を振掛け、そうして出来るのが。

 うん、そう。海苔弁って美味いよな。

 

 おかずは蜂蜜を軽く塗ってから焼いて、俺特製の甘辛タレで仕上げた、柔らかい豚肉。蜂蜜には分解酵素がどうたらで、お肉が柔らかくなる効果がある。仕組みは知らん。

 それにサラダと、先日お嬢ちゃんが大量に買ってきてくれた砂糖。あれはプリンを作っただけでは使いきれず。

 

 

「余剰分はあげる。」

 

 プリンを食べ終えた後の、若干不機嫌なお嬢ちゃんがそう言って来たのでありがたく貰った。その譲って貰った砂糖を使った甘めの卵焼き。そして最後にカラッ、と揚げた唐揚げとポテトを少々。

 唐揚げの衣には味を損なわない程度のお酒を混ぜて、尚且つ二度揚げをすることによってパリパリにしてある。

 先程の豚肉を柔らかくしたので、こちらは歯応えを重視した。

 

 うん、素晴らしい。

 あとタコさんウインナーとかあったら完璧やね。

 久しぶりに弁当を作るのが楽しくなって、ついつい洗い物やら若干面倒な揚げ物まで作ってしまった。

 

 

「じゃあ、兄さん。いってきます。」

「おう、気を付けてな」

 

 まるで、そこらにちょっと買い物にでも行ってくる。

 そんな気安さで発せられた言葉や、片手をあげる仕草。

 それに答える俺も白い髪に手櫛を入れる様に、頭を撫でてやりながら軽く言う。気持ち良さそうに目を細める妹。

 根元から毛先まで、肩に少し掛かるくらいの髪の毛を優しく撫でて手を離す。

 

 

「・・・。」

「あぁ、お嬢ちゃんもありがとうな」

 

 妹の頭から手を離した所で、こちらを見上げる様な視線に気付いた。特に何も言う気配のない彼女に改めてお礼を言う。

 

「・・・。」

 

 相変わらず無言のまま佇んでいたのだが、おもむろに鍔の広い三角帽子を脱いで両手でそれを持ち、再びこちらを伺っている。

 

 

「うん、気ぃ付けてな。」

 

 直接言葉にはされないものの、ここまでされて分からない奴はいない。先程の妹にやった様に、今度は長く、その腰より下まで伸ばされた金色の髪の表面を滑らせる様に撫でる。

 お嬢ちゃんの髪は動きを阻害しない為、とかそんな雑な理由なのだろうが、毛先に程近い場所をリボンで結んでいる。だからそれを崩すことをしないように、強くは出来ない。

 

 

「うん、いってくる。」

 

 やがて満足げに帽子を被り直し、小さな声で返事の声がする。相も変わらず表情はあまり動いていない。動いていないのだが、確かな満足感を感じさせる雰囲気だ。

 こちらが終わったと思ったら、今度は妹が若干寂しげな感じでこちらを伺っている。無限ループって怖くね?

 

 ってか、いくら大通りから外れているとは言え店の前でこんなことやってると嫌でも人目に付く。しかも相手は勇者様だ。そんな有名人がいるのだから、それも更に増す。倍プッシュ所の話ではない。

 

 

 もう一度、妹の頭へと手を伸ばし

 

「何を遊んでるのじゃー?我も混ぜよー!!」

「ぐほぉ!!?」

 

 台詞と同時に突然脇腹に重い衝撃を感じた。

 どうやら騒ぎが飛び火したらしい。横っ腹に鈍痛を感じて視線をやるとハーピィのちみっこにタックルを貰っていた。何度も辞めろって言っているのに全く聞き分けてくれる素振りがない。

 普通にジャンプして飛び付いてくるのならまだいい。体重も軽いし、若い女の子に飛び付いてもらって嬉しくない訳がない。むしろ合法的に触れるのだから、抱き留めてやってもいいくらいだ。

 

 体重が軽い、身体も小さい。が、それを補って余りある破壊力。ちみっこの場合助走を着けて滑空して、それはもう。

 文字通り飛び付いてくる。さながら砲弾である。

 

 正直たまったものではない。身長が低いので運が悪いと鳩尾に突き刺さる。

 

 

「おぉぉ・・・!」

 

 そして、今日の俺は運が悪かった。ちみっこがくっついたまま、脇腹に手をやり、膝を折って呻き、痛みに耐えようと蹲る。

 こんな痛みの伴う、今日の占いコーナーは早急に辞めていただきたい・・・。

 

 

「兄さん、大丈夫?」

 

 一連の流れを見ていた妹が近付いて来て治療魔法を掛けてくれる。裂傷が逆再生で閉じていくみたいに、一目見ただけで分かる効果はないものの、鈍痛が引いて行くのがわかった。

 

 

「おう、ありがとう。さて・・・。」

「あ、主殿?顔が怖いぞ!」

 

 やってくれた喃。ちみっこ!

 

 

 その日、妹と魔法使いの新たな門出を送り出したものは、1発の拳骨が響かせた重く鈍い音だった。




1番最初に出てきたのが、彼女なので。

魔法使いのお嬢ちゃん描きました。これは上着を脱いだ薄手のワンピースだけバージョンです。

【挿絵表示】


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