通常業務を問題なくこなせる様になったので、執筆再会しました。お気に入りしてくれた方々が削除することなく残っていてくれた事に深い感謝と謝罪を。
お気に入り人数3桁突破ァ!!
d(・∀・)bありがとうございます
~0~
人間誰であろうと大なり小なり苦労している。
苦労していないと言う人間は、努力をしている。
◇
「店主よ、私を雇ってくれないか!」
とある昼下がり、狭い店内。
そこに凛とした声が響き渡った。
声の主は、ここ最近になって時間帯に頓着せずに来店してくれる様になった蜘蛛の魔人。
その大きな特徴は、背中から腰に掛けての位置に付いている、自らの身体より大きい3対6本の、どこまでも黒く、無骨な、それでいて部屋の灯りを反射する程にキチンと手入れの行き届いてた、外骨格に覆われた頑丈な蜘蛛の脚。その脚と蜘蛛の腹を持つ女性。
そんな彼女が発した声は、先程店内に響き渡ったのと同様、とても良く通る。例え人のごった返す街中であろうと聞き逃すことはないであろう声だった。
事実、街中で雑談を交わすくらいには仲良くなった彼女には、買出しの時や町をぶらついている時に何度か呼び止められている。
その声が。立ち振舞いが余りにも堂々としているからか、それに釣られて周囲の視線が集まるのは少々居心地が悪く感じるのだが、元気な挨拶と言うものはそれだけで良いものだ。
顔見知りでもなければ、すぐに興味が失われ。各々が安売りされている物や、掘り出し物を探すと言う自分の目的に向けられ、反らされて行く複数の視線。
それらに僅かな間だけ晒される事等、些末な事に思えてくるぐらいには良いものである。
「さあ店主よ、返事を聞かせて貰おうか!」
「いや、何の前触れもなく急にそんなこと言われてもなぁ・・・。」
バッ、っと。蜘蛛で言う所の触肢に当たる部位。人間で言う手。それを前へと勢い良く突き出し、声を張り上げている彼女。
少し前までは試験がどうとかと言って、色んな料理を注文していた彼女だが。
最近だと、その日の朝市や、野菜を持ってくるミラの宅配物から多目に入っている物から見繕って作る、日替わり定食を好んで注文していた。
なんでも、自分では最低限しか出来ない料理。それを近場でーーと、言うか目の前の席でーー色んな工程を見ているのが楽しいらしい。
今日の場合であれば。朝市で安く手に入った魚。それをメインに据えた焼き魚定食。それを捌いている所から焼き上がるまでを目の前の特等席で観察し、完食。
最後に必ずデザートのプリンを食べてから帰っていくのが通例になりつつあった。
あったはずなのだが・・・。
今回はその通例が適応されず。食後のデザートを完食後。いつも通りであれば、すぐに席を立つはずなのだが。今回はそうはならなかった。
あまり長居をする事のない彼女の、そんな行動を怪訝に思っていると、ひと息付いた後、出たのが先程の雇用に関する話だった。
「第一うちはそんなに繁盛してる訳でもないし、狭いから1人でもそこそこなんとかなってる。従業員を雇う程の店ではないぞ?」
「そうか。ちなみに私は今、住所不定無職だ!」
ちょっと待って。何でちなんじゃったの!?
しかも、そんな大声で誇るように言う内容ではない事を、何故、今、ここで、ちなんでしまった!?
「店主よ、私は今。貴方のせいで住所不定の無職だぞ。」
「は?俺なの?」
「そうだ、責任取ってくれるだろう?」
「えぇ・・・。」
そんな立板に水の如く、知らない知識を立て続けに暴露され続けた事から始まる騒動は、いつものような毎日が、普段と少し違った事が関係あるのだろうか?
◇
「お魚お魚ー。やっきざっかなー♪」
ハーピィ一家の騒動を終えて数日後。最近では少し珍しい、ミラと2人で朝食の準備をしていた。
彼女は今、こちらに聞こえるか聞こえないかの小さな声量で、小気味良いリズムの自前の歌を口ずさみながら魚の準備を手伝ってくれている。
ミラから、簡単な下処理を済ませて貰った魚を受け取り、円を描く様に包丁を入れて頭を落し、背びれの側面から骨に沿うように包丁を入れ、身を開く。
手を止めずに包丁を動かしつつ、そんな彼女の上機嫌な姿を眺める。
少し前までは俺達、二人での食事が当たり前だった。
だったのだが、今では魔法使いのお嬢ちゃんやら、小さいハーピィだったりが乗り込んでくる為に、2人で落ち着いて食事をする事が、ほぼなくなっていた。
もちろん、賑やかなそれが嫌いな訳ではない。おふざけも行きすぎると俺が怒ったりもするが。1人で食べる食事とはどれだけ凝っていても味気のないものだ。
「おっさっかなー♪おっさっかなー♪」
種族の性質上、母親1人によって育てられた彼女にとって、俺という存在は。ここの交易都市ハーフに住む、年齢の離れた兄。それと若い父親を足して2で割ったら3余ったみたいな、そんな存在。
自分で言ってて良く解らなくなってきた。
お父さん嫌いとか、兄さん臭いとか言われる事なく。
洗濯物を分けたりとかもされず。真っ直ぐに育ってくれた、可愛い魔人の女の子。
ただ、ちょっと。いや、少し。いやいや、だいぶ距離が近すぎる、そう思うことが事が最近ちらほらと・・・。
例としては、今朝。
そんな彼女と2人で朝市の買い物をしている時。
「は~、寒いねぇー。」
唐突に横から白々しい声での訴えの声が上がった。
この世界には、かつての俺が生まれ育った日本の様なハッキリとした四季は存在しないものの。確かにここ最近は秋から冬に移り変わる頃の肌寒さがある。
その気温の低下も、朝にもなれば更に増す。
もちろん変温動物の。人よりも蛇に近い体質を持つラミア族の彼女が、その低気温を相手に何の対策も取っていない訳がない。
むしろ、身体のラインが余裕で隠れるほどに色々な物を身に纏いふわふわのもっこもこだ。
そんな着膨れした彼女が、体温低下を防ぐためとか、人が多いからはぐれないようにするため。とかなんとか矢継ぎ早に言葉を重ねてくる。
上半身だけなら普通の成人女性と変わらない位置にミラの頭が来る。だが、いくら人が多いと言ってもラミアである以上、避けられないのが下半身の大きさと、移動した軌跡に開く人の波。
その開ける現象だが、何も見た目やらで忌避され避けられて出来ている訳ではない。ラミア族の移動後の尻尾を踏まない様に周囲の人達が気を付けながら移動する為に、人の流れにちょっとした指向性が出来るのだ。
物理的に人の流れを変える程に存在感のある、そんな彼女を簡単に見失うわけがない。
「ほら。」
「んふ~♪」
実直な良い子に育った弊害なのか、こいつは嘘が下手だ。
苦手な嘘で必死な姿を微笑ましく思い。わざわざ無粋な指摘する事をせず、こちらから手を取ってやる。
すると、パッ。と花が咲いたような笑顔になり、繋いだ手をにぎにぎと確めるように握り返してくる。
その繋がった手を周囲に誇示する様に、移動している間、少し大袈裟なくらい前後に振ったりもしていた。
そんな微笑ましくも少し恥ずかしい買い物の様子を思い出しながら、捌き終わった魚を焼いてる。
そんな時だった。
「あー、良い匂い。」
匂いに釣られたらしい、ふらふらと何処からともなくやって来るロリkoン゛ンッ!!
相も変わらず全身の至るところに、赤い装飾品を身に付けた商人が来店してくる。扉の前にはきちんと準備中の看板を設置していたにも関わらず、だ。看板を無視し、さも当たり前かの様に席に着いた。
「まだ開店前だよ、看板見えないのかよ。」
『こまけぇこたぁいいんたよ!』
その乱入に対する軽い不満を訴え、返ってくるのは朝イチから元気ハツラツなジェスチャー込みの日本語による返答。
不毛な言い争いと、形ばかりの抗議を終えた彼を加え、俺は一匹多く焼くことになった魚と、その準備に取り掛かる。
「こう色々作ってると醤油が欲しくなるよ。」
「塩も悪くはない。いや、素晴らしいものだ。たが、そうだな、魚の種類によっては欲しいな。」
「なんか近いもんとか知らないのか?」
「いや、生憎だが俺も作り方とか知らない。そもそも原材料の大豆かそれに近いもんを見つけないと。俺の仕切ってる流通範囲内では、まだ見た事もないな。」
「ん~?」
余り接点の無く、前回の騒動の場に居なかったミラは。俺と彼の仲良さげな会話を見ていて暫くの間、不思議そうに首を捻っていたが、朝食が完成に近付いた辺りでどうでもよくなったらしく、盛り付けの手伝いをしてくれた。
皆の前に食事が出揃い、手を合わせ。異口同音で「いただきます」をした。俺と商人はともかく、こちらの世界ではあまりこういった習慣は無い。
教会に勤めている方々なんかは、お祈りとかするのかも知れないが。少なくとも俺の交遊範囲内では教会関係者の人が居らず、その真相は分からない。
だが、俺が育ての親代わりで一緒に暮らしていたミラは。幼い頃に、俺がしていたこの行為を不思議そうに見て、初めは理解を示さかったものの。
幼い子供が意味も分からず親い人の真似をして、それを見た親や、家族が喜ぶ。そうしたら、子はその笑顔と雰囲気で、それを良いことだと思い、繰返す。そして、やがて定着する。
ミラもいつしか、この挨拶を進んで真似し、この習慣はいつの間にか彼女の母親にも伝播していた。
「あー、油の乗った魚はいいねぇ。」
「全くだ。」
箸を使い骨を次々と取り除き、食べやすい様に身を解していく赤い男。俺は個人的な好みだが、骨を取り焦げ目を付けた皮を一緒に頂く。その苦味とパリパリの触感が好きだからだ。
「ん~・・・。」
そして、むんむん唸りながら魚の骨と格闘しているミラ。昔に比べると格段に上手くなったミラの箸捌きだが、まあ魚の骨は難しいのだろう。ドワーフのおっさん程ではないにしろ、たどたどしい箸裁きで骨を取り除いている。
「今度見掛けたら、あの骨いっぱいの魚買ってきてやるからな。」
練習の為にな。そんな一言を付け加えながら言い放ってやったら、気分を害したらしく、ムスーッ。っとした顔で頬を膨らませた後、残っていた魚を、大口を開け骨もそのままに放り込まれ。
わざわざこちらに聞こえる様にバキバキと音を起てながら噛み砕かれたソレは、彼女の胃袋へと消えていった。
オレサマオマエマルカジリ。
うん、魔人って凄いなあ。ぼくにはとてもできない。
「突然すまなかったな、ごちそうさん!」
「まいどありー、二度と来んな。」
そんな少し意地悪をした朝食を済ませ、忙しそうに取引へと向かう男を送り出し。母親の所へと戻っていくミラを送り届けた。
「ほれ、いくぞ。」
「ん~・・・。ん。」
暫くの間ぷりぷりと不機嫌だった彼女は、一緒に歩いている時に、どちらともなく自然と手を繋ぎ。家まで距離が残り半分に差し掛かる頃には、いつもの笑顔に戻っていた。
そんな少し慌ただしい朝の時間を終えて、昼飯には早く、朝飯には遅い。
「邪魔するぞ!」
「おぅ、いらっしゃい。」
そんな微妙な時間に彼女は訪れた。
うん、わざわざ今朝の記憶を持ち出しといてなんだが。今回の訪問と今朝の出来事全く関係なかったな。
◇
「相変わらず見事なものだ。魚を扱う店は他にも見てきたが、ここほど手際の良いところはなかったぞ。」
蜘蛛の魔人である彼女が訪れる度に行われる行為。
まず特等席。調理台を挟んでの対面に座る。そして、日替り定食の献立を細かく尋ね、全てを聞き終えると注文する。
そして、その4対8つある複眼でジィッ、と。こちらの調理風景を飽きもせず眺めている。その姿に、つぶらな瞳をしたあの蜘蛛を幻視しながら作業を続ける。
そう、獲物に飛び掛かるタイミングを見計っているハエトリグモだ。じぃっー、っと。俺の手元や調理器具に。穴を開けようとしてるんじゃないかと思う程に凝視してくる。かわいい。
「へいへい。」
そんな内心を悟られないよう、素っ気ないおざなりな返答になってしまうが、勘弁してもらいたい。つぶらな瞳に捉えられており、割りと余裕がないのだから。
幸い、あちらも気にしていないらしく、突っ込まれたことはない。
品質管理の問題が付いて回る為、火を通したりする事でしか安全に提供出来ない。よって生では商品にはなりえない、これは腹痛とかその他諸々のダメージを含めて身を持って実証済みだ。
である以上、生で店に出す事は出来ない魚だが。
SUSIの発祥である日本出身の身としては、魚の扱いには負けていられない。ただの個人的な意地だけど。
大体米だって少し前に、狼の魔人と一悶着起こした結果、やっと手に入った物だし。
「うむ、美味い。」
「口に合ったようでなによりだ。」
軽い日々の雑談を交えつつ、出来上がった日替り定食を直接手渡しによって配膳する。彼女が食べ始めたのを確認してから、完成に時間の掛かるプリンの下準備を平行して進める。
器を用意し、卵を混ぜる。
「今回の魚の出産地域はーーーだったか?
この味付けはーーーだな、付け合せはーーー。」
こう、味がどうとか、焼き加減が良いとか、こちらの意図した事を事細かに拾い、説明されるのは少々むず痒いものがある。
魔法使いのお嬢ちゃんよろしく、黙々と脇目も振らずに食べ進めている姿を眺めるのも好きだが。少々話が長いしても、喜んで、なにより笑顔で食べてくれているのだ。邪魔はすまい。
そんなこんなで、食事が終わり。
デザートを完食した後、発した言葉が先程の雇用に関するもの、と・・・。
「と、言うか俺のせいってどうゆうことなんだ?」
「いやなに、私の主がハーフに訪れた際に、食事をする為の場所を探す事。これが私の、実質最後の仕事だったのだよ。」
「ふぅん。あー、なんか合格とか不合格とか色々とやってたな。あれって結局どこに決まったんだ?」
俺の知っている店ならもう一度訪れ、知らない店であれば名前と場所を聞いておこう。独りで店をやっている以上休みは簡単に作れる。
後で常連に文句を言われる可能性があるが、食べ歩きが好きな俺は、好奇心で休むことがザラにある。気になるんだから確かめないと落ち着かない。仕方ない事なのだ。
「うん?何を言ってる、ここだぞ?」
「CoCo?ふぅん、聞いたことな・・・ん?」
カレー、いや。カレーは俺がこの前作ったのが生まれ変わって初めて食べたものだ。美味かった。とか何とか想像を巡らせている途中で違和感に気付いた。なんか彼女と俺のイントネーションが違うな。
「こ↑こ↓?」
「なんだ、その変な鈍りは。そうだ店主よ、ここだ。」
「いや、少し待ってくれ。確かあんた相手に出した料理の半分くらいは不合格判定じゃなかったか?」
そう、彼女とのいざこざがあってプリンを振る舞った時以来何度も来てくれた彼女だが。その実、その判定は厳しく。先のとおり半分くらいは不合格になったのだった。
余談だが結構凹んだ。そして聞けば改善点なんかも教えてくれたので、僅かながらも改良が進んだりもした。流石にお偉いさんの護衛ともなると良いもん食ってるね、舌が肥えてらっしゃる。
「そうだな。だが正確には半分も合格した、だ。他にも同じくらいの店は何件か見付けたんだが。」
「なにそれ、気になる。って、今は其れ処じゃない。と、なると。あんたの護衛対象の主人が来るって事なのか。」
「そうだ。ついでに私の育ての親でもあるな。言ってなかったか?」
なにそれこわい。
義理の娘と知らなかったとは言え、お偉いさんの可愛い娘さんに全力でセクハラをかましてしまった俺。そんな店に、親本人が来ると言う。
もしミラやうちの妹にそんな事をやらかした奴が、うちに来たら。俺だったら思わず手を出してしまうかもしれん。娘さんは娘さんでここで雇って欲しいらしい。逃げ場もない訳だ。
「それで、どうだ?自慢じゃないが結構やるぞ、私は。」
自らの胸に手を添え自慢気な表情で言う。そんな彼女を眺めながら頭の中で損得勘定を行う。
そこそこの蓄えは、ある。人手は、少し足りていない。今まではひっそりもやっていたこの店も、妹である勇者が訪れてから少し顧客が増えた。人手が足りないのも事実だが、今のところ回ってはいる。
ここで彼女を雇う事は出来なくはない。だが、余計な火種を抱えるのは良くないんじゃなかろうか。
「うん、すまないが。この話は断わる。」
「ぇ・・・。」
熟考を重ねた後、まだこちらが言い切る前たと言うのに、先んじて意図を汲み取ったのか途端に蜘蛛の脚を含め縮こまる目の前の存在。
「うん。いや、こちらこそ突然すまなかった。」
「すまん、とりあえず。あんたの主が来たら全力で腕を振るうのは約束しよう。だが、こちらも今現在困っていないんだ。だかra」
「そうだな、飲食店に蟲は良くないもんな。」
「・・・。」
「店主を相手にしてから少し勘違いをしてしまったみたいだ、すまない。忘れてくぅひゃぁっ!?」
「・・・。」
「なっなななな、何をする!?」
『別にその魔人の身体を理由に断ったんじゃない。』
ただ、そう言葉で伝えればいいだけの話だ。言えばそれで終わる問題でもある。だけど、俺はそれをしないで彼女の身体を抱き締めていた。今にも泣きそうな、簡単に崩れそうな笑顔を見た瞬間。その姿に幼い頃の妹を重ね合わせ、咄嗟に行動へと移してしまっていた。
最近明るく振る舞う様になった彼女は、まだまだ吹っ切れていないらしい。当たり前だ。生まれながらの問題なのだから簡単な訳がない。
俺だけで1人の人間の価値観を変えるなんて、そんな大それた事はできる訳がない。
「店、主・・・?」
でも、放っておけなかった。
抱き締めた事によって小さな身体だと改めて認識する。その身体が、触れ合う事によってぞくぞくと震えているのもわかる。
なるべく優しく。異形の脚を、背中を撫でてやる。
何度も身を捩って逃れようとしていた彼女だが、いつの間にか弱々しい抵抗はなくなっていた。
「仕事が今の状態で回るには回る。だが人手が欲しくないわけじゃない。」
「・・・。」
暫くして、腕の中の抵抗もなくなり数分がたった頃。
もじもじと所在なさげに動いてる彼女に声を掛けた。
こんな時だと言うのに根性が捻くれている俺の口からは。素直な言葉は出て来なかった。
「だから、前向きに考えておこう。」
「もっと分かりやすく・・・。」
相手側から初めて力を込められる。あちらから抱き返されながら顔は見えないもののそんな声が聞こえる。
その声に小さく溜め息を付きながら、俺は口を開いた。
「お前が欲しい。」
「ッ・・・!!
うん!」
こうして、1人で気楽にやっていたお店に。
1人の従業員が働くことになった。