転生食堂と常連達   作:かのそん

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8話 自責と新たな火種

 ~0~

 

 後悔するという行為は心の休憩と昔聞いた事がある

 それをしている間は過去の自分を自責している、その間だけは。自分を正当化出来るから、らしい

 

 

 

 ◇

 

 チチチチチ。

 部屋の窓の近くで何かを話している。

 そんな勘違いを引き起こすぐらい、耳にこびりつく。妙にうるさい複数の鳴き声。

 

 昼過ぎに買い出しやらで出掛け、道端で見掛ける鳥達はあんなに静かだと言うのに、朝はなぜこんなにも元気なのか・・・。

 もしくは記憶に残ってないだけで、昼は昼で好き勝手囀ずっているのかもしれないが。

 

 そんな鳥達の鳴き声で意識が浮上する。

 1番最初に視界に飛び込んできたものは、勇者となってしまった、幼馴染の寝顔。心配事が何も無いと言うかの如く脱力しきった表情。

 

 わさわざ隣の部屋を用意したって言うのに、いつの間に潜り込んで来たのか俺の腕の中で呑気に、そして規則正しい小さな寝息を立てている。

 

 

 

「ふあぁっあぁ。小さい身体だなぁ」

 欠伸と溜息が混じり合った息を吐き。一緒に寝ている姿を。2年程の空白で随分と女らしく成長した肢体を、顔を改めて観察し、呟く言葉。それは誰も見ている人が居ないからからこそ漏れでた言葉だった。

 

 俺もコイツも、お互いが子供で。俺が少しだけお兄さんで。色んな世話を焼いてやって、尊敬されたくて様々な事に挑んだりもしていた。

 元々好きだった料理もここまで俺を虜にし、今では生き甲斐にまでなって、しまいにゃ小さいながらも店を持つまでになった。

 これだって元を正せばコイツの影響が大きい。

 

 気紛れで作った俺の料理を食べて、眼を輝かせながら満面の笑みを浮かべたのを見て。もっともっと色んな表情を、笑顔を引き出すのが、堪らなく楽しくって。

 

 

 

「ふふっ、身体は成長したけど。中身は昔のまんまなんだもんな。」

 久し振りに会った妹の顔を、白くなってしまった髪を眺め、遠い過去を、昔の事を思い出していた。

 

 生まれ変わる前までは、無神論者が大半で。それが普通で当たり前だった。逆に宗教と言うと過激な集団と言う括りで纏められる。そんな世界。

 

 例に漏れず、俺も冷めていた。自分でもそう思う。

 ニュースで、新聞で、ネットで、ラジオで、噂で、同僚との雑談で。あらゆる媒介から伝えられる人の死。それが見知った人でなければ何も感じなかった。

 

 そう思い込んで誤魔化していたのに・・・。

 

 

 いざ実際に親戚や、会社の同僚が突然不幸に見舞われてどうだった?

 俺は本気で悲しめなかった。葬列に参加し久しぶりに会った従兄弟達が。毎日顔を付き合わせる同僚達が悲しんで、そして泣いているのを慰めながら、普段と変わらない心情の俺が、そこにはいた。

 

 

 

「だからこそ、こいつだけは・・・。」

 世界は違うけれど、もう一度やり直す事になった2度目の人生。

 後になって守護者とか言うレアな能力がある事がわかったものの。硝子の作り方なんか知ってる訳がないし、農業の知識だってない、内政なんて理解できるわけがない。

 特別な知識を持たない平々凡々な1人の男。

 

 

 そんな俺が生まれ変わったのは王国の近くにある小さな村。ここでは村の全員の距離が前世では考えられないほど近かった。

 治安が良い村だとしても簡単に命が奪われる事がある。

 

 災害で作物が無くなれば餓死、病に犯されての病死、疫病を蔓延させない為に王国の兵士に村を丸ごと焼かれる可能性もあるし、ならず者に襲われて理不尽に、そして唐突に殺される可能性もある。

 

 そんな命の価値が軽い世界なのだから、協力が必須の世の中だった。

 

 

 そんな中、子供なのに精神的には成熟した大人。

 俺と言う異物が投げ込まれた。

 

 実際に血が繋がっているのだが、俺自身が前世の親を思い出してしまい。どこか割り切れなくて。両親相手でも、1歩引いて、距離を置き、遠慮してしまった。

 言われた事はきちんとやるし、誰にも逆らうこともしなかった。そして子供が子供足らしめているワガママ。俺はそれを言った事がない。

 異常に聞き分けの良いだけの。見ようによっては気味の悪く、可愛いげのない子供だったのだろう。

 

 両親相手にでさえそれなのだ。

 

 俺が孤立していくのも当たり前の話だった。

 

 

『兄さん、何処行くの?私も行く!』

 そうして生きて行く中、血は繋がってないが。新しく妹が出来た。

 俺の方から避けても、気が付くと何故かいつも俺にベッタリな明るいやつ。

 何をするにも一緒に付いて回って来て。誰にでも朗らかな笑顔を見せるこいつを通して、俺は村の皆と少しづつ付き合える様になっていった。

 

 

「最後まで・・・。」

 本当であれば誰もが親や家族を通して学ぶことになる人との距離感。それを底抜けに明るい性格と周囲の者を笑顔にする事が出来る。

 無邪気で血の繋がらないこいつから俺は学んだ。

 

 大事なことを教えてくれた。

 心から守ってやりたいと思える。

 そんな稀有な存在。

 

 

「俺の手で守ってやりたかったんだけどな・・・。」

 子供のような正義感を固持し、それを武器にして振り回していた自分が。もう何処にも居ないのだと、改めて思ったが故に、続いて漏れでる言葉。

 朝から変に思考に没頭していたら、なんだか気が滅入ってきた。慣れないことはするもんじゃない。

 

 

 未だに寝ている彼女の身体から離れようとして、洋服を握られている事に気付き、笑みが漏れる。

 弱々しく握られた俺の服から、彼女の手をそっ、と解いてやり。今度こそ距離を離す。

 

 少しだけ寝惚けたままの頭で、寝間着から着替えを済ませる。今日は諸事情により店を開くのは夜。だから仕事着ではない。動き易さに重点を置いた、普段着だ。

 寝ている妹に近付き、起こさないように注意を払いながら頭を軽く撫でる。

 

 

 妹を、勇者の事を俺が助ける。

 

 もう、その能力は俺にはない。

 

 

 

 

 

 

「すぅーーー」

 スイッチを入れる様に気持ちを切り替え、燻る気持ちを割り切って、もやもやを引っ括めて受け入れ。意図的に1つ大きく息を吸う。

 

 

「はあぁぁぁー・・・。さて、頑張りますか。」

 肺の中身、陰鬱とした気持ち、ふとした弾みで漏れ出そうになる過去の愚痴。それら全てを言葉にはせず、肺の中身を空っぽにする大きな深呼吸で、息と弱音を吐き出す。

 

 そうして2年前の気持ちに改めて踏ん切りを付ける。

 

 もう終わった話だ。そうして新しい目標に眼を向けて、それを見据えて、今の生活とやりがいを噛み締めて、次へと向き直る。

 

 

 ここは、俺が俺の為に作った。

 誰にも憚ることのない、俺の場所。俺の城だ。

 そして、そこに前世の主食が加わるかもしれない。

 

 パンも好きだし、ジャガイモだって大好きだ。

 だが米は違う、あれがなければ日本人の1日は始まらない。

 加わるかもしれない、ではない。必ずここのメニューに加えて見せる。

 

 

 そうして、ここを、俺の作った食堂を盛り上げて。

 ちょっと変わった常連達が仕事を終えた後や、嫌な事があった時の息抜き。それを俺の料理とゆっくりできる場所を提供して、その手伝いをしてやるのだ。

 

 そして、いつか旅を終えた妹を迎え入れて、旅の途中で抜けてしまった俺の無力感も、余力も、もやもやも、何もかもを込めて。全力で労ってやる!

 

 

 そうして、抑えようと意識を向けても抑えられない。

 先程の勇者に向けたものとは別物の笑顔を浮かべながら、俺は寝室兼自室から出るのだった。

 

 

 

 ◇

 

「店長ー、おはよー!」

「おぉ、おはよう」

 階下へと降りると、既に今日の分の野菜を配達しにきたであろうミラ。

 

「おはよ。」

 いつもの席を占領したお嬢ちゃんが居た。合鍵を持っているならともかく、魔法を使っての不法侵入。

 うん、これに関してはもう諦めた。言っても聞いてくれなさそうだし。これのおかげで助かったこともあるのだから、強く言えなくなった・・・。

 

 一ヶ月くらい、だったか?

 そのくらい前に見たことない新しい魔物肉を食材として調達してきた事があった。

 で、1人朝飯を食べてたら。それの処理をミスったらしく倒れた。そこに何食わぬ顔で転移してくるお嬢ちゃん。いや、魔法使い様。

 

 あの時は本当に助かりました。そして普段と違う慌てた表情が凄くかわいかったです。はい。そして、回りを見渡して食事の形跡を見つけた後の

 

『またやってるよ』

 的な。特殊な趣味を持っている紳士達なら、反射的にありがとうございます。とか言い出しそうな、そんな冷たい視線に晒されながら治療してもらった。

 

 ちなみに、俺はそんな趣味は持っていない。

 

 危なかった・・・。

 

 

 まあ、そんなことがあったので何か不満等を言おうものなら。そこら辺の出来事を持ち出されて黙らせられる。お嬢ちゃん曰く酩酊状態に近い症状だったらしい。肉食って酩酊って凄い話だな・・・。

 治療中に意識が朦朧としたままの俺は、色々と喋ってたらしいし。

『へるみーぷりーず』とか言ってたらしい。

 

 多分『help me please』なのだろう。

 この世界の言葉ではなく、何故か俺の口から出た言葉は前世の英語。理由は自分でも分からん。それにしても呂律が回ってなかったからか。hell me とか。

 

 記憶にないとは言え、自分の言葉とのすれ違い、そこから派生した勘違いで死ぬのとか流石に理不尽すぎて勘弁してもらいたい。

 好きなように生きて、理不尽に死ぬってレベルじゃねーぞ!意味通じなくて良かった・・・。

 

 

 コンコン!

 

 とか、なんとか。ミラとお嬢ちゃんが二人で何かを話してるのを他所に、とりとめもなく色んな事を考えていながら簡単な朝食を作っていたら。

 扉からノックする音が聞こえてきた。

 

 

「うーい」

 あの狼の魔人来るの早くないか?約束は昼だぞ?

 あー、でもアイツならノックなんかせずにドア壊すぐらいの勢いで開けるな。じゃあ誰だ?

 

 カランカラン。

 そんな考えを口には出さずに、妹が旅の途中で買ってきてくれたベルを取り付けた扉。それを静かに鳴らしながら少しだけ開けて覗き見てみる。

 

 

 

「おはようなのじゃー!」

 右、左と見渡してみるが。誰も見つからない、声は聞こえど姿が見えず。

 

「悪戯か?」

 あまり深く考えずに小声で文句を漏らしつつ、ドアを閉めようとドアノブを掴んだままの手を引くと閉まらなかった。

 下に視線を向けると、自分の腰くらいの位置にある眼と視線が交わった。なにやら見たことある様な無いような、紅い髪のちっこい少女が扉を閉められないように、足を扉のヘリに引っ掛けてそこにいた。

 

 いや、見た目だけで少女と決めつけるもの早計だし、場合によっては失礼な話になる。

 この目の前にいる、一見少女に見えるこの娘は。下半身には鈎爪を持ち、腕に当たる箇所には翼を持つ魔人。

 

 ハーピィ族。

 彼等は人に近い身体を持ちながらも、その体躯に不釣り合いな大きな翼で、空を自由に舞うことが出来る種族。

 

 その様な進化をしたからなのだろう。空を飛ぶために、その身体は人間で言うところの12~14くらいで成長が止まってしまう。

 確かに小さい事には小さいが、ハーピィ達は正直見た目ではよくわからない。合法ロリの可能性がある以上、あからさまなお子様扱いは不味いだろう。

 なるべく普通に、普段通りに接する。

 

 

「お腹ペコペコなのじゃ、朝食を用意せよ!」

「あー、今日はちょっと用事が出来ちゃって夜までおやすみなんだ。ごめんな」

「えー、やじゃー!」

 あ、見た目通り子供だわコイツ。イレギュラー要素は排除しなきゃな。大きな声で抗議する小さな身体を抱き上げて小脇に抱え込む。軽っ!

 

 扉の外へ、呆気に取られてマネキンの様に大人しくなったハーピィの子供を店先に設置。

 ドアを閉めて。鍵閉めて。戸締まり、よし!

 

 

「おい、2人共。朝飯にすんぞー」

「はーい」

「うん」

 そうして何気ない朝食の時間に

 

 

 

「お腹空いたのじゃー!ご飯ご飯ご飯ーーー!!!」

 

 なるわけがなかった。

 

 

 

 

 ◇

 

「空腹な我を鹿十するなど酷いのじゃ!」

 あまりにも激しくドアを叩かれるので仕方なくドアを開けると、同時に中に入って来たハーピィは。

 今は俺の膝の上で俺の朝飯を食べている。うちは小さい店なので子供用の椅子などないのである、だから身長が足りない彼女にとって、これはどうしようもない事なのだ。不可抗力である。

 

 俺が仮に幼児性的な特殊な趣味を持っていたとしたら、とても危険な構図だ。大人とは違った薄い臀部、もといお尻の肉・・・。

 

 ふぅ、危なかった・・・。

 

 

 

「大体我を誰だと思ふぎゃっ!?」

 そんなちみっこの頭に、俺は無言で拳骨を落とす。無論手加減はしている。

 

「父上にも殴られたことないのに!」

「あー、そうかい。初めての卒業おめでとう、だけど口の中に飯を入れたまま喋るな」

「だってぇ!」

「マスターの言うことは聞かなきゃダメ。」

 尚も言い返そうとしてくるちみっこの口元に添える様に指を当てて、お嬢ちゃんが止めてくれた。珍しいこともあるもんだ。

 

「はい、どーぞ。」

「んん。わかったのじゃ・・・。」

 そして、俺からの打撃の衝撃で落としたフォークを、ミラが洗って綺麗にして手渡してくれている。良くできたコンビネーションだ。

 相手に反論させる隙を与えずに、複数の存在で場を進行させて行けば、大概の物事は有耶無耶にできる。

 

 うん、俺も何度かやられている。

 効果は身を持って実証済みだ。

 

 

 そうして、静かになったちみっこ含む4人で朝食を取っている。町の方が朝だと言うのに少々騒がしい。自警団達の声が聞こえる。

 

 まあ、俺には関係ない事だろう。そう当たりを付けて食事を続けていると、妹の目が覚めたらしく。2階から足音が近付いてくる。

 

 

「おはよー、兄さん」

「ああ、おはよう。良く寝れたみたいだな」

「お陰様でね」

 着るものを用意してなかったのか俺の上着を羽織った姿の妹と軽く挨拶を済ませると。皆も続いて挨拶を返していく。

 

 

「おはよーなのじゃー!」

「あれ?町長のとこに泊まってた商人さんとこの娘さんじゃん、どしたの?」

「朝から父上達が難しい話してたから抜け出して、町の探検してたのじゃ!」

 そして最後に話し掛けたちみっこと妹は知り合いだったらしい。頭を撫でていたりと、実に親しげだ。

 それにしても、町長のとこにお呼ばれになる商人ね。

 

 ふーん。あれ?

 それって確か・・・。物々しい傭兵やらの護衛を引き連れながら、世界各地を自分自身で回ってるって言う相当に力のあって、なおかつ変り者だって言われてるあの豪商人、ですかね?

 

 

「なあ、ミラ」

「うん?なぁに店長?」

 勇者とちみっこが会話しているのを聞きながら

 

「うちの町長のとこにいる商人って、もしかしてあの人の事か?」

「うん、そーだよ。」

 あの親バカで有名な。と続けて確認を取ろうとしたところで俺の背後から、狼の魔人とタメを張るくらいの大きな音と共に扉が開かれた。

 らめぇ、わらしのおみしぇのドア壊れひゃうのほぉ。

 

 

「勇者様!勇者様はいますか!?」

「お手を煩わせて申し訳ありませんが、緊急の案件が」

「お嬢様が、お嬢様が行方知らずなのです!」

 俺は振り向かない、だって呼ばれているのは勇者様なのだから。そんな俺の僅かな抵抗は、やはり無駄になった。

 店の中に入り、各自勇者様、勇者様と、話し掛けながらこちらに近付いてくる複数の足音。膝の上に乗って笑顔のちみっこ。固まる自警団と商人の私兵達。

 

 走り回るのに邪魔になりにくい革を鞣して作られたレザーアーマー、木製の非常に軽い防具、各自バラバラの装備で見た目に纏まりは無いが。

 その動きは正確で一糸乱れぬ、良く訓練された動きだった。場が動き出したと思ったら、一瞬でちみっこを俺から引き剥がし、抜刀し俺を取り囲んだ。

 

 俺は両手を上げ、お手上げのポーズを取る。

 食事を終えたとは言え、うちのお店でこういう事は本当に辞めて頂きたい。

 

 さっき飯を食ってたときくらい気楽な日常を謳歌したいものだ。




くどい描写が好きです。
代わりに話が進まない。仕方ないね。

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