明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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夏の訪れ - 4

 

「……受け取りたく……ない、のか?」

 

 ウォルターは率直に、そうレイフォンに尋ねた。

 

 養殖湖からの帰り、レイフォンとリーリンがケンカした、という話をニーナとフェリから聞いた。

 都市中央方面に居住しているレイフォンたちと違い、外縁部近くのアパートを借りているウォルターと、そのアパートに居候しているハイア、ミュンファの三人はまったく別ルートで帰宅した。そのため、翌日の第十七小隊の訓練で集合した際、レイフォンが顔いっぱいに“不機嫌です”と顕にした状態だったことから、遠回しにニーナたちへ話を聞いたところ出てきた話がそれだった。

 リーリンがツェルニを訪れた理由は、ずっと不明だった。

 この夏の三か月の間、プライベートな話ということもあり、誰もわざわざ聞くようなことはしなかった。リーリンも理由を口にはしなかった。ウォルターも、グレンダンでリーリンと合流した際に、ツェルニへ向かう理由を聞くことはなかった。……それどころではなかった、といえばそれが事実ではあったが。

 

 いずれにせよ、その理由がようやく開示されたが、その理由とレイフォンの意志が反発した結果、二人は大ゲンカをし、そうしてピリピリとしたレイフォンの不機嫌が続いて……たっぷり一週間。

 深夜、いつも通りアルバイトで機関部清掃をしていたウォルターは突然呼び出されたかと思うと、その場を管理している人間から「レイフォンを探してこい」と言われてしまって渋っていると、なぜかシフトに入っていないニーナが現れて同じように「レイフォンを探してほしい」と言われてしまい、仕方なく探しに出た。

 そうして見つけたレイフォンはフェリと一緒にいて、レイフォンはフェリに頬を強めに叩かれたところだった。明らかに怒気を含んだ視線で、表情でレイフォンを睨み、なにかを言い捨てるようにしてウォルターが立つ方へと歩いて来た。こちらには気づいたフェリは顔を背け、ウォルターの横をすり抜けて足早に去っていった。

 次はお前か、と言いたげな視線からフェリの前に、シフトに入っていないのに機関部にいたニーナになにか言われたのだろう、と思っていると、レイフォンは静かに視線を地面へと落とした。

 自動販売機で適当なドリンクを購入し、黙り込んだレイフォンの隣に腰掛けた。

 いつもなら「どうして座るんですか」「なにか用事でも?」と嫌そうな顔で言いそうなものだが、今日ばかりはそうとはいかなかったらしい。そうしてプルタブを開けて缶に口をつけながら、ウォルターは息を吐く。

 

 ウォルターには、レイフォンとリーリンのような関係はわからない。

 幼い頃はルウと、あとは大人たちだけ。自分たちが創られた存在であるということは早い段階で教えられていて、物心ついたときからそういう環境だったから、幼い頃は疑問に思ったことはなかった。

 ウォルターとルウは、離れがたいひとつのなにかだった。

 長くひとりで旅をして、アイレインたちと旅をして、そうしてウォルターは自分という意志を手に入れた。それまでのウォルターとルウは、お互いに自他境界というものがなかった、と思う。

 同じ生育環境だったからか、同じ元から分岐して創られたからか、ウォルターとルウの考えはいつもほとんど一緒で、大きな差異が生まれたことはなかった。姿こそ多少違えど、考えも一緒で、行動も一緒。どこへ行くも一緒だったから、ウォルターとルウは言葉通りの「二人でひとつ」だった。

 だから、レイフォンとリーリンのように、幼い頃から知っていて、親しくて、それでも別の存在として正しく自立している彼らの存在は、特によく分からなかった。

 自他境界がしっかりしていて、幼馴染で、異性で、家族のように育った。レイフォンは武芸者、リーリンは一般人。

 デルク・サイハーデンが許しているという事実を伝え。許しの証明であり、武芸者としていなければならない彼が一番必要としているであろう刀を使えと伝え。リーリンたち家族も許していると伝え。

 それをレイフォンが頑なに拒む理由は、どこにあるというのだろうか。

 ウォルターは分からなかった。

 だから、率直に聞くしかなかった。

 

「……それは、ウォルターも僕に『刀を持て』と言っているんですか」

 

 吐き捨てるように言うレイフォンに、ウォルターは俯いた鳶色の頭を見つめる。

 気落ちや怒りのような感情ではなく、レイフォンが現状示した感情は……どちらかと言うと、失望のような、寂しさのようなもの、にウォルターは感じた。

 その理由は分からなかったが、いつもなら敵意をいっぱいにしてこちらを見る双眸がこちらを見ないことを気にしながら、頭を振る。

 

「……オレは別に、お前が刀を持たなくたっていいンだがな。お前はそのままでもツェルニじゃ強いからな」

「……じゃあ……別に、持たなくてもいいと?」

「お前が持ちたくなきゃ好きにすりゃいいが」

「……なんでいまのタイミングで話しかけてきたんですか……」

「お前が機関部清掃のシフトから勝手に飛び出して行ったからだろうが」

「う」

 

 呆れ返った声でため息を吐いたレイフォンが俯いたまま肩を落とし、ウォルターの指摘にギュウッと両手を握った。

 

「……それは……すみません……」

「はいよ。……まあ、本当にオレはどっちでもいいぜ、お前が刀を持とうが持つまいが。その場にはいなかったし、詳しい話も聞いてないから……それに、オレはそういう話よくわかンねぇしな」

「……わかんない、んですか?」

「弟はいるが、お前らみたいな関係性の人間がいない。だからわかンねぇよ。……だが、まあ……、マーフェスの肩を持つわけじゃないが、お前だって長く戦ってきてるンだから、刀の方が生存率は高いだろう」

「……それは……、……でも、……刀を使っても剣を使っても、死ぬときは死にますよ」

 

 レイフォンは先程、フェリにも同じことを言った。……そうして頬を叩かれた。痛かった。避けられたけれど、それ以上に彼女の表情が気になって、レイフォンは避けられなかった。

 言葉で追い詰められて、ささやかな抵抗だった。それを言ってどう反応をされるか、どう思われるか……そんなことをなにも考えず、レイフォンはフェリに言葉を返した。その結果がこれだった。

 自分になにもできないことを気付かされてみじめに思うこと。

 フェリやニーナが感じるそれと、同質のものかどうかはわからない。

 けれど、少なくとも、レイフォンはウォルターと一緒にいてそれをひしひしと感じていた。

 ツェルニが汚染獣の群れに飛び込み、ニーナが消え、ウォルターも消えたあの時。

 レイフォンは力ずくで汚染獣を押しのけ、半ば暴力を振るうようにことを荒立てた。ウォルターに叱られ、子どものように癇癪を起こして。

 自分になにができたというのか。

 レイフォンが失念していたせいで、フェリが過労で倒れ、自身も病院へ強制入院させられた、そうして最後の最後には結局、ウォルターが来てくれた。

 ツェルニに来たばかりの頃の幼生体との戦い。

 その後に現れた老生体との戦い。

 ハイアたち傭兵団との戦い。

 雄生体の討伐の教導戦線。

 

「……僕には……」

 

 絞り出すように、レイフォンは言葉を零す。両手をさらに強く握りしめる。

 

「……なにも……、……なにも、できなかった……」

 

 役に立とうとして立てなくて、なんとかできると思ってできなかった。

 グレンダンのときも、今回のことも。

 いつもなにもできなくて、なにもできない自分の無力さに打ちのめされている。

 だがレイフォンは、この“できるかできないか”の差が、レイフォンが“刀を使うか剣を使うか”という問題で解決するとは到底思えなかった。

 それは幼い頃から戦場で戦い抜き、天剣授受者として強敵を相手にしてきたレイフォンの経験からの言える事実だった。

 だからほんの少しだけ、ささやかな抵抗でありながら、これはレイフォンからはっきりと言える戦場における事実だった。

 そして同じように戦場に身を置いているウォルターは、いまこのツェルニにいる武芸者たちの中で最もレイフォンの言葉の意味をきちんと理解していた。

 

「アルセイフ」

 

 だからレイフォンの言葉にウォルターは頷く。そうして努めて冷静に言葉を繋いだ。

 

「マーフェスみたいな……お前の近くにずっといた人間とか。アントークとか、ロスとかも……お前が、怪我とか、無理とか……しない方が……、……してほしくないって、思ってる……から、言うンじゃないか」

 

 ウォルターの言葉に、レイフォンは驚いて思わず顔を上げて彼の顔を見た。

 瞠目して硬直してしまったからか、その顔を見たウォルターも瞠目し、片眉を上げる。

 

「どうした」

「い、いや……、……あなたからそんな言葉が出るなんて思わなくて……」

「……たしょう オレも せいちょう してる……から おまえ こえるのも まぢか」

「なんでカタコトなんですか……、……いいふうに言ってますけどどう考えてもそんなことないですよねそれ?」

「ハハ、伸びしろいっぱいあっから」

「ここからですか……」

「ああそうだぜ。……お前のけじめなんだろうってことは、まあ、アントークとか、ロスとかから話を聞いてるし、オレも分かってるよ。でもな、オレがいなくなったときに、お前はその一番得意を使わずに周りの人間を守りきれなかったら……アルセイフ、自分の全部を責めるだろ」

 

 そう言われて、レイフォンは言葉を詰まらせる。

 ウォルターがまたいなくなったら。自分の一番得意を使わず守りきれなかったら。

 言葉の意図は理解できる。

 ウォルターがいなくなったとき、また大暴れして、力ずくでなんとかしようとして周りを巻き込むのか。

 刀術を使えば、剣を使うときにわずかにある不自由や微細な調整に気を割く必要がないのに、それをせずに誰かを失うことになったときに、自分を必要以上に責めるだろうと。

 それでも、……それでも。

 

「あなたも言ったように……これは僕のけじめです。僕はこれ以上……僕のせいでサイハーデンの刀術を汚したくない。だから、刀は持ちたくない。受け取りたくない。……刀を持ったら、僕は……サイハーデン刀争術を使わない自信がない」

「だろうな。普段は制御できても、命がかかった咄嗟の場面では制御しきれない。……オレは別に本当にどっちでもいいぜ、お前が刀を使おうと、剣を使おうと。その決意はたぶん、お前にとっていままでの選択のなかで、一番の覚悟なンだろう」

 

 ウォルターの問いが含まれた言葉には、沈黙した。沈黙は肯定だった。

 それを無粋に聞くことはせず、ウォルターは缶に口をつける。

 

「だから、オレはお前の覚悟を曲げるなとも言わないし、周りの気持ちを組んで曲げろとも言わない。お前が決めることだからな。……ただ……そうだな、……意固地になり過ぎて後悔しないように、くらいがオレから言えることかな」

 

 それはつい先日までのウォルター自身のことだ。

 目的を果たす。その覚悟は変わっていないし、変えるつもりもない。

 ただそのために“こうしなければ”と思って、思いすぎて、意固地になっていた……と思う。

 後悔するほどには、ウォルターはたどり着かなかった。

 それは、ルウや、レイフォンたちがいたからだ、と、このところはなんとなく分かってきた。自分ではちっとも分からなかったけれど、会話をして、自分の考えを確かめて。

 そうしてもう一度、目的を果たすために覚悟を決め直した。

 

「……別に……」

 

 ウォルターが考えている、先日までのことの詳細まではレイフォンにはわからない。

 わからないのは、ウォルターが語っていないから、知らないから、その理由に尽きるが、それでも現状、自身のことで手一杯になっているレイフォンには、いつも以上に言葉をそのまま受け取る程度のことしかできなかった。

 けれど、意固地になっていると言われればそのような気もするし、でもこれは自分の覚悟だからなってもおかしくないと思えばそのような気もする。

 頭の中で色々な言葉が回って、先ほどの言葉につなげようとした言葉を途絶えさせて、レイフォンはギュッと自身の手を組んだ。

 

「……刀を持つことを……許してもらえている。……僕はそれが、嬉しくないわけじゃ、ないんです」

 

 それは本心だった。

 戦うときの考え方や思想、戦闘スタイルが違うとしても、刀を用いて武芸を行うウォルターを羨ましいと思ったことがないわけではない。何度でもある。ずっと羨ましかった。

 剣を扱うことは十歳のときから続けてきた。それでも戦闘時に度々あるわずかな不自由、違和感、想定のズレ。それらを煩わしく思わなかったことはない。これが刀なら、サイハーデン刀争術なら、正しく技術を修めた自分は、もっと。そう思わなかったことはない。

 やはり自分は刀術使いなのだと、ひしひしと感じていた。

 決定打になったのはハイアとの戦闘だった。

 ハイアは堂々と刀を使い、サイハーデン刀争術を用いる。

 とても羨ましく思った。ずるいとすら思った。

 そしてなによりも。なによりも、それらを持って、それらを用いて、堂々と彼に……ウォルターに並ぼうとする姿に羨望した。

 この三か月間、ツェルニは夏季休暇ではあったが、小隊の訓練は定期的にあった。

 そのたびにウォルターの住むアパートに居候しているハイアとミュンファは、第十七小隊の訓練に混ざっていた。短期留学扱いで要監視対象ではあったが、一応は小隊に所属していることになっている以上参加してもらう、とニーナが決めたことだったからだ。その度、訓練でなら多少の錬金鋼の使用を許可されたハイアが、サイハーデン刀争術を振るい、ウォルターと訓練を行う姿も見ていた。

 自身が握る剣の錬金鋼で振るう技には、わずかなりとも刀で扱う技とは差が出る。レイフォンはそれを経験と訓練、自身が持つ剄量と技量で押しつぶしてきた。汚染獣やそこらの武芸者相手ならそれでよかった。充分過ぎるほどだった。

 けれどウォルターとは。ウォルターが相手ではまったく話が違った。小手先の微調整など見切られる。それをすくい取られる。敵同士ならそこを突かれて死ぬ。分かっている。

 

「……僕が……、僕が、本当に……」

 

 情けなく声が震える。

 

「本当に……、刀を持っていいのか……わからない、んです。……刀争術を扱うかどうか、刀を使うかどうか、それをすべて置いておいたら、僕は……あの許しを、受け取りたい。嬉しくないわけなんてない」

 

 ていねいに紡がれ出した言葉は、レイフォンの本心で、ウォルターがいま一番聞きたいことだった。

 

「でも、でもこれは僕のけじめで、覚悟で……僕が決めたことで……、……あの、あの箱が……、……ほん、とう、に……、」

 

 俯いて言葉を途切れさせたレイフォンのつむじを見つめながら、ウォルターはそこまで聞いてようやく内心で納得した。

 武芸者を続けてもいいのか。刀を持ってもいいのか。もう一度、自分はサイハーデン刀争術を継承した人間だと言ってもいいのか。

 あの箱の中には、本当に許しの錬金鋼は入っているのか?

 そう言っておいて、本当は絶縁状でも入っているのではないか?

 けじめも、覚悟も、レイフォンが決めたことも事実だろう。だから頑なに受け取ろうとしなかった。すべて事実だ。

 しかしおそらく根底には、グレンダンの民だけでなく、養父やリーリンたち『家族』を疑うほどの不安や、恐れがあったのだろう。

 理解できなくもない。分からなくもない。レイフォンがここにいる始まりが、その失敗で起きたことだった。話を聞き、なにがあったかも知っている。

 だからおそらく、失敗が怖いのではないということは理解している。それを発端にして、突き放されること、嫌悪されること、後ろ指を指されること。それをずっと怖がっていることも分かっている。

 けれどそのことが、レイフォンにとってどれだけの恐怖に値したのか、ウォルターには推し量れない。

 ただ、この子どもがそれに恐怖した事実だけを知っている。

 隣で震えた瞳は、昔にも似たものを見たことがあった。

 震えながらも立ち上がり、挫けて、立ち上がろうとして再び膝を抱え込んで、それでもまだ前を向こうとしている。

 歪ながらも眩く輝く意志が、ウォルターの横にいる。

 どうしてこうも、自分の身の回りの人間はこうして霞もうとしてしまうのか。

 ああ、惜しい。本当に惜しい。

 レイフォンはきっと、自身の成したいことを成せるようになるべきだ。

 挫けても、苦しくても、立ち上がることを恐れても。

 悲しくとも悔しくとも、すべて身のうちに飲み込んで、自分の血肉にして。

 レイフォンに言うときっと怒るだろうが、負けず嫌いで眼の前のことに一生懸命で、武芸のことには真摯に打ち込んでいて……本当に似ているなと内心苦笑する。

 『箱』で呆れ顔で頷いたルウにも苦笑を返しながら、ウォルターはレイフォンに視線を向け直した。

 

「そう身構えずともいいと思うが」

「……どうして、そう言えるんですか……」

「お前のしたことを正当だという人間じゃないだろうし、お前も自分のしたことが間違っていたと言うこともないだろ。……でも少なくとも、オレの知っているデルク・サイハーデンはそういう騙し討ちをする人間じゃあない」

「……それは、……そう……です」

「だろ?」

 

 レイフォンの言葉に得意気に笑って見せたウォルター。

 ほんの少し視線を上げたレイフォンは、口角を上げたウォルターの表情に思わず力を抜いて薄く笑ってしまう。

 

「どうしてあなたが得意気なんですか……」

「なンとなくだ」

「……ああそうですか……」

 

 身体の強張りが抜け、レイフォンは気が抜けた笑いをこぼした。ギュウッと強く握りしめるように組んでいた自身の手をほどいて、自分の握力でじんじんと痺れる両手を見つめる。

 

「……まあ……、アルセイフ、とりあえず受け取っちまえよ」

「きゅ、急に簡単に言いますね……」

「お前も言ってただろ、“刀を使うとか刀争術を使うとかは置いておいて、許しは受け取りたい”って。だから受け取っちまえ。それから考えりゃいいだろ」

「……そんな簡単に……」

「許しを受け入れることと、覚悟を曲げることは違うはずだ。刀や刀争術を使わないことがお前の覚悟なら、許しを受け入れて、『許してくれてありがとう、でもこれはけじめだから使いません』でいいだろ」

「……でも……」

「大丈夫だ、絶対に。……オレが保証してやる」

 

 レイフォンが視線を上げると、やはり得意気に笑むウォルターがいた。

 いままでよりもずっと柔らかい視線で、レイフォンを見ている。

 

「……あなたがなにを保証できるって言うんですか……」

 

 言葉には怒りも呆れも滲まなかった。

 ただただ、ウォルターらしいな、と感嘆にも似た安心だけが滲んで、レイフォンは深く息を吸い込み、吐き出す。

 そうしなければ、涙がこぼれてしまいそうだった。

 

「……、……もし……、もし、大丈夫だったら。……孤児院で作っていたお菓子くらい……作ってあげても、いい、ですよ」

「ああ、いまのうちに材料買っておけよ」

「……また好き勝手言う……。……明日作りますよ……」

「期待しとくぜ」

 

 レイフォンは自身の声が震えていることをじゅうぶん自覚していた。けれどウォルターはそれになにも言わない。

 代わりとばかりに、軽い調子でウインクをしたウォルターに、レイフォンは最後の抵抗とばかりに薄く笑いをこぼした。

 

「……真面目なウォルターは、……すごく気持ち悪い……ですね」

「ひっでぇ~」

 

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