ニーナがシャーニッドの後ろに乗り、レイフォンは1人でサイドカーに乗っていた。
走りだしてからすぐ、後方が白く染まった。だが、それだけで他の気配もなにも無く、フェリも沈黙していた。
戦いの疲れが押し寄せると同時に睡魔も押し寄せてくるが、レイフォンは一向に眠れる気にならなかった。その懸念の理由は、ウォルターをあの汚染獣の元に残してきてしまったことだ。
確かにウォルターは都市外用スーツはいらない存在であるし、天剣級の錬金鋼を持っているうえ、体調も万全だった。
そうなれば、心配の必要など一切ないことは分かっている。だが、どうしても一抹の不安が拭い去れずに居た。
サイドカーの中で1人膝を抱え、膝に顔をうずめるように静かに活剄を全開にする。
もしかすれば、強化された聴力であればウォルターがこちらへ向かう音が聞こえるかもしれない、という思いからだった。
「………………」
「…レイフォン…」
ニーナが心配そうに声をかけてきた。レイフォンはあえてニーナの方を見ずに顔を上げて前を見た。
「平気です、すみません」
「……いや……」
ここにいる全員が、レイフォンがウォルターを心配している事はわかりきっている。だが、それを口にだすことさえも不要なほど、レイフォンが弱り切っているのだ。
「…………大丈夫だ」
「……隊長?」
「ウォルターのことだ。絶対にけろりとして帰って来る。……そうだろう」
「………………はい」
レイフォンが小さく頷く。そして、背後から音もなく声が聞こえてきた。
それがレイフォンでないことはもちろん、シャーニッドでもない、第三者の男の声。
「そうそう。そうやってオレは突き放されて行くンだよな」
「ぅ、うわッ!!」
「よー。いい驚きっぷりだな、アルセイフ」
「……ウォル、ター……?」
活剄を全開にしていたレイフォンに、音はまだしも気配さえも気付かせずに帰ってきたのは、いままさに生存を懸念していたウォルターだった。
「ウォ、ルター……!!」
「なンだよ?」
「……もっと、早く帰ってきてください!」
「横暴だろ、その言い方!」
これでも急いだんだぞ、とウォルターが眉を寄せた。ニーナやシャーニッドは笑みをこぼし、ウォルターの帰還を喜んだ。
レイフォンも、零れそうな涙を堪えて多くの悪態をつきながら微笑んだ。
レイフォン自身、どうしてこんな気持ちになっているのか分からなかった。
いままでだって、何度も後詰と言うことはやったことがあった。誰かが戦っているのを、見ているだけということはあった。だが、こんな風に心配になったり、不安になって押しつぶされそうな気持ちになったことはなかった。
だからこそ、戸惑い、そのことに更に不安になった。そして、それとともに帰ってきてくれたウォルターに対して酷く安堵したのだ。
―――――もしかして、僕は………
失いたくないのかな……?
この、ウォルター・ルレイスフォーンという存在を。
そう、少なからず思った。だが、答えは出なかった。
いずれ分かるだろうと、レイフォンはとにかく帰ってきてくれたウォルターに思いつく限りの悪態を吐くことにした。
ウォルターの呆れ顔と苦笑いの入り混じった表情に微笑みながら。