新聞記者「この世界を、誰かが乗っ取ろうとしている」
そうつぶやくのは、一人の女性新聞記者。彼女は大手新聞社の政治部門を担当しているが、最近彼女が記事にしたニュースが目に余ってしょうがないのだ。
世界各国で、政府要職に就く人間の汚職が次々に発覚した。彼女のいる国の首脳はもちろん、支持の厚かった大国の大統領、合議制だった連邦国の理事たち、政情不安な小国の王、果ては独裁体制で国内のだれも文句を言えなかった某共和国の最高権力者まで、一斉に糾弾されたのだ。世界の国民はこの話題で持ちきり、どの国の権力者も世界中が自国を含めた汚職に注目しているこの状況では、ごまかしようがない。また、こういう場合には権力体制が崩れた小国や共和国には、他国から内政干渉が起きそうなものだが、どの国もそれどころではない。世界の主要な国家のほとんどが、体制の立て直しを叫ばれていた。
もちろん彼女の新聞社はこの事態を連日記事にして煽り、大盛況だった。これからの世界を誰がリードしていくのか、それもまた世界中の国民の興味の的だった。しかし、実際に取材してきた彼女は知っている。それらの汚職が、全て各国の政府や国連などへの匿名のリークから始まったことを。
実際に糾弾を始めた政府関係者や国連は、自分たちが気づいたことであるかのように各種の証拠や証言を提示しているが、無理もない。彼らとしては格好のネタであったものが、実は匿名のリークだったなどと言えば自分たちが非難を買う。また、匿名の人間が名乗り出てこなければ、自分たちの手柄にもできる。これらの事実は、彼女がオフレコの取材でやっと聞き出したものだ。彼女も最初は、こんな大それたことをする人間なら、匿名で守られてしかるべきだと思った。その人間に、ジャーナリストの端くれとして一抹の敬意さえ抱いた。
だが今となっては、その人間のやったことに疑念を抱いている。白日の下にさらされた真実が、想像以上の被害を引き起こしたからだ。国の上層部ともあろう人物のスキャンダルは、国全体に根を張っていた。議決では反対派含めて大多数の政治家が操られていたこと。大企業との癒着。芸能界への口利きと口出し。犯罪組織との密約。国を売り渡すような外交政策。保身と豪遊しか考えない政治活動etc.…国中に転移した病巣は、すべて国民の非難にさらされた。その結果、政治以外の各種の権力基盤も国民からそっぽを向かれ、煽りを食らってつぶれかかっている。その結果すべての産業は衰退し、大穴の空いた国の体制があらわになった。ここまで来ても、「全部偉い奴が悪い」と騒いでいるのは国民だけだ。
告発した人間は、こんな惨状を望んでいたのだろうか?国の上層部とともに国が共倒れするのが本当に正しいことか?彼女は今までの汚職報道と言うものが、いかに手心を加えていたものかを思い知った。ここまで多方面をスキャンダルでつぶしてしまえば、後には非難するだけの国民しか残らない。彼らだけで再び立て直せるのか。否、彼らは悪の権力者の後には、必ず正義の公僕が現れると期待しているだけだ。残った政府関係者や国連にそれだけの力はない。政治を見てきた彼女には分かる。彼らは目の上のたんこぶを落としたいだけの小物、国民たちと大差ない。となると、ここで新たな権力者として立ち上がるのは、これだけの事件を引き起こせるほどの匿名の人物━そう考えられるのは、思考の飛躍だろうか。
そう考えていると、その意識を破るかのような、気さくな中年男性の声。
編集長「よっ。どうした、ぼんやりして。疲れてるのか」
新聞記者「編集長…私、疲れてません」
編集長「無理すんなって。ここんとこ徹夜続きなんだ。お前先に仮眠とってもいいぞ」
新聞記者「それって私が女だからですか」
編集長「お前考えすぎだよ。そういうところがあるから人一倍疲れるんだ。今も何か考えてたのか?」
新聞記者「実は…そうなんです。でも、こんな話信じてもらえるかどうか」
編集長「いや、話してみろよ。お前の推理ってのは結構当たるんだ。女の勘って奴かな」
新聞記者「よりにもよって女の勘って…確かにこれは勘のような話ですけど」
新聞記者は編集長に先ほどの考えを話した。編集長は彼女の考えも鷹揚に聞いたうえで、記事にして一般に通じるかどうか判断してくれる、信頼できる上司だ。
編集長「この告発を起こした奴は、自分が新たな権力の座に就くことを狙ってたのか。なるほどなあ」
新聞記者「どう思いますか編集長。私は次に政治的活動を起こす人物が怪しいのではないかと」
編集長「その可能性は大いにある。けど、俺は怪しいとかそういう目で見たくないな」
新聞記者「どうしてですか?これはマッチポンプでしょう」
編集長「作為的ではあるさ。けど、誰が文句を言う?汚職は連中が自分で勝手にやったことなんだ。むしろそいつは膿を出し切った英雄として、国を任せてもいいと国民は思える」
新聞記者「でも、今までのスキャンダルと比べてあまりに同時多発的で…」
編集長「それは俺たちマスコミの限界さ。そいつと同じくらいのネタをつかんでいたら、同じことをしたと思うね。俺たちはそのネタで儲かるが、そいつはそのネタで国の一新を図ったんだ」
新聞記者「じゃあ、このまま弱り切った国を、その人物に任せるしかないと?」
編集長「お前の気持ちもわかる。ジャーナリストとして、ここまでいいように出し抜かれちゃあな。だが、だからこそ、同じ情報を世に出す者として、そのやり方を否定しちゃいけないと思うぞ」
確かに、自分たちジャーナリストとやり方は同じ、自分たちも今回その片棒を担いだ。そう言われると、新聞記者は黙るしかなかった。
新聞記者は考え直した。自分はこのことを記事にするつもりで編集長に相談したが、編集長の言い分ももっともだ。今までの自分たちの記事にケチをつけることになる。そんなことをすれば、今度はマスコミに怒りが集中するだろう。
となると今できることは、例の人物が表に出てくる前に探し当てることだ。今は息をひそめ、国の立て直しに人材が求められる時期を待っているはず。その前に会って真意を確かめなければならない。本当に国のために成り上がるつもりなのかと。
編集長は軽く考えていたが、新聞記者には不安に思えてならない。今までの権力者やその周りを根こそぎ切り落とすような徹底したやり方。それは冷酷非情の裏返しではないか。
その冷酷さが、信頼しきっている国民に向けられたらどんな結果をもたらすか…想像するだに恐ろしい。
彼女は匿名のリークを遡った。メールならどこのパソコンから送られたか。手紙ならどの郵便局から出され、どんなレターセットが使われたか。電話ならどこの基地局から掛けられ、どんな声だったか。匿名の人物が脅迫も辞さない犯罪者らしいとほのめかすと、どの関係者も進んで協力してくれた。しかし、いくら洗ってもどこからリークされたかは出てこない。メールは今流行の遠隔操作、手紙はわざと転送を繰り返したもの、電話は使い捨てのプリペイド携帯電話の上に、元の声を解析できないほどの音声加工が施されていた。
新聞記者「全部空振り…よくもまあここまで手の込んだリーク方法を知ってるものね」
秘密裏に一人で調べていた新聞記者はひとりごちた。匿名のリークを探る仕事は普段一人でもこなしていたが、こうまで手間をかける人間はいない。その方面のプロでもない限り、遠隔操作や転送、使い捨て携帯電話などを使うのには抵抗を覚えるのだ。素人は複雑な道具を用意して、不用意に証拠を残すことを恐れる。実際には多重にダミーをかけるのが効果的なのだが。また、プロでもここまで多岐にわたる手法は知らない。現代ではメールか電話の偽装で十分、古典的な手紙の偽装が使われるのは、今回ターゲットにされた小国位なものだ。
新聞記者「こんなもの、それこそ匿名リークに対策する私達みたいなのしか知らないわよ…」
そうつぶやいた言葉が、頭の中の何かと結びつく。そう、あの時感じた違和感とだ。しかし、そんなことがあり得るのだろうか。だが、もしそうなら、話は早い。彼女は編集長へと電話する。
編集長「どうしたんだ、こんな夜中に屋上に呼び出して。俺じゃなきゃ来ないぞ全く」
新聞記者「すみません、編集長。どうしても話したいことがあるんです」
新聞社の屋上。呆れ顔の編集長に対し、新聞記者の表情は鋭い。何か確信をつかんだようだ。
編集長「いくら徹夜は平気でも、夜風はつらくてな。お前みたいに若くはない。速く名推理とやらを聞かせてもらおうか」
新聞記者「ええ、誰があのスキャンダルをリークしたのかわかりました。それは…編集長、あなたですね」
新聞記者は鋭い表情のまま、編集者の目を見据える。
編集長「ぷっはははは、お前が冗談いうの初めて聞いたよ。名探偵みたいなドヤ顔じゃないか。それがやりたかったから、屋上に呼んだわけ?洒落てるな」
新聞記者「私は仕事のことで冗談を言ったことはありません。証拠もあります」
編集長「あるわけないだろ、そんなもん。探偵ごっこを続けたいなら出してみろよ」
新聞記者「証拠は何も出てきませんでした。それが証拠です」
編集長「要領を得ないなあ。その喋り方も探偵のまねか?」
新聞記者「リークの証拠は、メール、電話、手紙、全て隠匿されてました。それぞれ複雑に迂回させ、追跡を逃れたんです」
編集長「お前でも追えないとは、やるじゃないか。仕事柄お前は詳しいはずだろ?」
新聞記者「そう、記者の私でも追えないほど完全だったのが問題です。プロでも何か不得意な偽装はあるはずなのに、ありとあらゆる手を尽くして、追っ手をかわしています。そこまで広範な技術を知ってるのは、もう私の同業者しかいません」
編集長「お前、まさか…」
新聞記者「そしてその技術は私が過去に調べて、編集長、あなたにご報告した物ばかりなんです」
編集長「お前、そんなことで俺を疑うのかよ。それなら、その道のプロだって…」
新聞記者「プロは一つか二つの専門技術を仕上げれば終わりです。広範な技術を大きなことに使い、誇示しようとするのはアマの仕業です。編集長、あなたは今、完璧に隠匿技術を使いこなせるのは自分しかいない。そう確信してるからこそ、それを指摘されて焦ってるんじゃないんですか。いつもの冗談もとばしてませんし」
指摘のとおり、編集長の額には汗が。さっきまで寒いと言っていたのだが。
新聞記者「あなたの部屋を調べれば、いずれ時期が来たときに出す予定のリークの証拠も出てくるはずです」
編集長「調べるって、何だよそれ…お前刑事気取りかよ」
新聞記者「ジャーナリストです。新聞社全体に呼びかけて取材協力を申し入れたら、あなたの立場では拒否もしませんよね、編集長」
新聞社が手にしようとする大スクープを、一編集長が止められるわけもない。ぐうの音も出なくなる編集長。
新聞記者「それに、私が疑った理由はもう一つあります」
編集長「なんだ、なんだよもう一つって!あるわけねえだろが!」
新聞記者「私が匿名リークについて最初に話した時、編集長の説得が滑らか過ぎたんです。まるで最初から全部信じてたみたいに。あれも、自分が正しいって誇示したかったんですよね」
そこまで言われると、編集長は吹っ切れたように笑いだし、改めて新聞記者に向き直る。
編集長「ははは、そうだよ。俺は正しいんだ。だからお前にも納得してもらおうと思ったのによ」
新聞記者「ここまで嘘を重ねておいて、ですか」
編集長「なあに、俺が選挙に出馬した暁には、新聞に出すつもりだったさ。実はこの俺が救世主だったとね」
新聞記者「救世主?あなた一人が政治家になったところで世界を救えるはずが…」
編集長「他の政府要職や外国でも、俺の息のかかった人間がなる予定だ。お前が取材したちょうどいい連中がいるだろ」
新聞記者「でもあなたは、救うために一度世界を壊した!」
編集長「国乱れて忠臣現るって奴だよ。既存の連中ではどうしようもない窮地を救うから伝説になるんだ。国民も盛り上がっただろ?」
新聞記者「私はあなたのそういう考えを言ってるんです。あなたは自分が成り上がるためなら何でも利用するんでしょ!今支持を得ようとしてる国民でさえ!」
編集長「正義の公僕は自分のことをこれっぽっちも考えず、国だけを守る。そんな考えは世界には通用しねえと思うな」
新聞記者「あなたが世界の何を知ってるっていうんですか?」
編集長「お前、まだ俺がただの一編集長だと思ってんのか。俺はお前よりも、この世界の誰よりも広い世界を知ってるんだよ」
新聞記者「何を…言ってるんですか」
編集長「俺は平行世界を渡る者、
新聞記者「パラレル、ターナー…」
新聞記者にはその意味が呑み込めない。SFで聞いたような話だ。この期に及んで、そんな誇大妄想を言い訳にしようというのだろうか。
編集長「ドン引きじゃねえか。疑うなら、お前も俺と一緒に次元を渡ってみるか?ただ、お前は余計な好奇心を出し過ぎた。向こうの俺に始末を頼むとしよう」
編集長が新聞記者の腕をつかむ。
新聞記者「やっ、放してください。大声を出しますよ!」
編集長「やってみろよ。誰か来たころには、殺しと違って死体も犯人も残ってないけどな」
新聞記者に体験したことのない感覚が襲ってくる。編集長の方に体が引きずり込まれ、そのまま沈み込んでしまいそうな、そんな自分が揺らいで消えそうな感覚。
まさか、編集長の言うことは本当なのか。話だけではついていけなかったけど、こんな大それたことをするならあり得る話だ。でも編集長を自分はどこかで信じていたかったのかもしれない。そんな人ではないと。このまま、自分は見も知らぬ世界で始末されるのか。
その時、新聞記者の片腕をつかむ者があった。その腕を引っ張られた途端、新聞記者を襲っていた消失の感覚が消える。振り向くと、新聞記者の腕をつかむ、襤褸切れを纏った男の姿があった。
編集長「なんだお前は?どうやって俺の邪魔をした!」
革命家「俺はお前たち次元連続者の征服に仇なす者。お前たちの間では、革命家の二つ名で知られている。今はその女を次元移動から引き戻してやった」
新聞記者「助けてくれたのはわかったから、いい加減腕を放してもらえます?」
革命家「ダメだ。死ぬぞ」
編集長「革命家…俺たちの宿敵って噂の奴か。お前ならこの世界じゃ身元不明で終わるだろう。殺してやるよ!」
編集長は懐に手を入れるが、すかさず革命家が蹴りを入れる。編集長は倒れ、懐から拳銃がこぼれ落ちる。
新聞記者「拳銃まで持ってたなんて…それと戦う時に急に腕引っ張らないでもらえますか?もう十分でしょう!」
革命家「命の危機で助け方に注文を付けられるとはな。だがまだ終わっちゃいない。あいつは次元移動する能力を使った時、仲間と連絡を取った。お迎えが来るぞ」
その言葉通り、突然夜空に巨大な空母が出現する。こちらに向かって降下してくると、倒れたままの編集長に光を浴びせる。編集長はその光の中を浮遊し、UFOさながらに空母に回収された。そのまま空母は飛び去り、夜空へと消えていった。
新聞記者「今のは敵の兵器?でもあれなら私達にも攻撃できたはずなのに…」
革命家「それは俺がついていたからだ。俺はあいつらの兵器も何機か鹵獲している。あいつらも末端の任務のために、俺と全面戦争しようとは思わないだろう」
新聞記者「編集長が末端!?いったいどれだけの組織だっていうんですか…」
革命家「どうしても聞きたいか、お前。聞けば元の生活に戻れなくなるかもしれないぞ」
新聞記者「それでも知りたい。一度自分で追いかけた真実は、最後まで突き止めないと」
革命家「いい覚悟だ、気に入った。まずは俺が何者かから話そう。俺はあいつらの仲間だった」
革命家はかつて次元連続者の仲間として生まれた。次元連続者とは、平行世界の自分と入れ替わることで、平行世界を移動する能力を先天的に持った人間のことだ。彼らはテレパシーで平行世界の自分と連絡を取り、両者の合意のもとで入れ替わる。平行世界の自分と立場を入れ替えるという前提で、何度でも次元を行き来できるのだ。新聞記者をさらおうとした時のように、触れている者を巻き込んでの移動もできる。ただし入れ替えであるため、向こうの自分にも同等の質量を巻き込んでもらわないといけないらしいが。また、革命家はさっき次元移動に介入できたが、自力で次元移動はできない。入れ替わるべき次元連続者たちからは裏切者として切り捨てられているからだ。
平行世界の自分と入れ替わる現象は数あるが、意図的に行使できるのは、次元連続者たちしか確認されてないらしい。この能力により次元連続者たちは無数に広がる平行世界の存在を生まれながらに知っており、そして自分が存在する次元全ての統一をたくらんだ。革命家は疑問を抱いたが、もって生まれた力を活用すべきと考える者の数が圧倒的に多い。ましてや、新たな平行世界に次元連続者が生まれるたびに、世界を支配する資質を伸ばそうと、幼少から英才教育を施している現状だ。
新聞記者「編集長とあなたも同じ人物?それにしては似てないけど…」
革命家「同じ人間と言っても出自が違う。近い世界なら影武者を務められるくらい似てるが、遠くなれば年齢も姿形も性別も違ってくる。人間の性別ですら、出生前に50%の確率で決まるというからな。だから厄介なんだ」
新聞記者「本当にあなた以外に反対者はいなかったの?実質的に同一人物が全ての次元を支配しようなんてそんな無茶なこと…」
革命家「自分にしかない力があって、先輩からの手ほどきもある。そんなエリートコースだからな。俺みたいに完全な自由を取る方が珍しい。裏切者なら他にもいるが…そいつらは私利私欲のためだ」
新聞記者「じゃあ、あなたはそんなになってまで、本当に自由のために…」
革命家「女というのは、どうして人の格好にケチをつける。俺はあいつらが本格的に動き出してから邪魔するのが基本。この世界の服なんて用意してる暇はない」
新聞記者「その、ごめんなさい。でも女じゃなくてもその格好は心配すると思います」
革命家「女で括られるのは嫌か、じゃじゃ馬だな。俺も次元連続者なんて枠組みに、自分も世界も組みこまれるのが嫌いだっただけだが。こうしてあいつらに反抗してからも、あいつらお約束の二つ名で呼んでくる。次元連続者よりはましかと思うが」
新聞記者「ああ、革命家はそう呼ばれただけっていう…次元連続者よりは変な人じゃなかったんですね」
革命家「お前、仮にも命の恩人にズバズバ言ってくるな。次元連続者の考えてることは俺にもわからん。すべての世界を救うために支配しなきゃならないなんて言われてきたが、本当にあいつらだけで救えるのかもわからん。世界の危機なら、支配する人間よりも自由な人間が、自分の意思で立ち向かわなきゃならないはずだ。だから世界支配の任務なんて放って飛び出してやった」
新聞記者「世界を救うって編集長もそんなこと言ってたけど、世界の膿を出し切ってから支配するってこと?でもそんなすべてを利用するやり方なんて…」
革命家「そう、俺もお前も知ってしまえば許しておけない。俺たちにも支配者を見極める責任があるはずだ。もちろんこの世界の奴らもだ」
新聞記者「編集長は帰ってくると思う?」
革命家「あいつはしばらく雲隠れだろう。交代要員が手配されるだろうが、俺を警戒してのことだ、しばらく滅多な人材は派遣してこない」
新聞記者「そう、なら私はその間に、この世界の人たちに考えてもらいたい」
革命家「ほう、次元連続者に見放された今、この世界を立て直す気か」
新聞記者「前々から真実を突き止めた時に、それを公にする方法は考えてたの。みんなに冷静に考え直してもらうために」
革命家「俺はこの世界でしばらくにらみを利かせるつもりだったが、お前の仕事の雑用なら手伝ってやってもいい」
新聞記者は早速、新聞社に掛け合って編集長のデスクや、部屋を確認する。新聞社は編集長と懇意だった新聞記者の頼みを聞いてくれた。やはりそこには、匿名のリークに使われた証拠一切が残っていた。だがこれは新聞社で記事にはしない。新聞記者は自分が突き止めた事実を文章にまとめ、知り合いの出版社に持っていく。それはノンフィクションをにおわせるような、フィクションの体の小説として発表された。
次元連続者のことは書いていないが、それでも一人の人間が成り上がりをもくろんでスキャンダルを暴露したという内容は、全世界で反響を生んだ。これにより、なし崩しで決まりかけていた世界中の選挙も振出しに戻った。国民が自分で考えることを選んだからだ。糸を引いていた編集長がいなくなってなお、そのお零れに期待していた政府関係者からは恨みを買った。だが、そちらの仕業だと思われる圧力や武力の行使は全て革命家が食い止め、しかるべき場所に突き出していた。どうやら彼が務める雑用とはこういうことらしい。残った候補者の中から、後がないと自覚した憂国の傾向が強い者が、後釜に選ばれていくだろう。
革命家「驚いたな。この世界はお前の言葉で少しずつ立ち直りかけている。しかし、なぜお前の新聞社ではなく、小説にした?」
新聞記者「人間は、虚構を通して真実を見た方がいい時もあるのよ。編集長と同じようなリークでこれ以上傷を広げるよりは、こうして虚実を混ぜることで、読んだ人が信じたいものを信じられればいい。それが自分の意思で考えるってことじゃない?」
革命家「そうかもしれん。この世界は自由を得た。俺も次の世界に行かなくては」
新聞記者「それなら私も連れて行ってくれない?私もあなたのように、自由のために戦いたい」
革命家「いいだろう、お前は十分強い。一つ言っておくが、俺たちの敵は星の数ほどいる。一生かけても戦う気があるか?」
新聞記者「望むところよ。この機を逃したら、自由に生きてるっていえなくなるもの」
革命家「そこまで言えるとは期待以上だ。荷物をまとめてこい。船で出発する」
それからまもなく、彼らは鹵獲した次元移動用の戦艦で出発した。彼らは次元統一を食い止め、自由な意思を守り続ける。その道のりが果てしなくとも、自由に続いていると信じて。
一方、空母に回収された編集長は本部に帰還して手当てを受け、今回の任務について報告していた。
編集長「…というわけで、部下の女と革命家さえ始末できれば、あと一歩であの世界は俺の物だったんすよ。いや、俺が初めてでうまくできなかったとかじゃないですから」
それを聞いてるのは、彼を空母で回収するように手配した彼の先達。既に十数もの次元を支配し、次元渡航用の次元戦艦や次元空母などの主力艦隊を取りまとめる彼は、30代半ばでありながら、畏敬を込めて将軍と呼ばれている。
将軍「フン…貴様は仕事の手際は良かったようだが、相手を甘く見過ぎたな。まず女ひとり始末するために同僚の手を煩わせただろう」
編集長「それは、その、本気で始末とかじゃなくって、俺の偉大さを知ってくれれば、上司のよしみで助けてやったとか、そういうノリで?」
将軍「上司のよしみで助けてやりたければ、自分の責任でやれ。こちらはよしみなど持っていない」
編集長は冗談めかして答えるが、身もふたもなくはねつけられる。
将軍「加えて、革命家を拳銃で始末する気だったらしいが、それが通用する相手だと教えたか?奴は次元戦艦を何機か奪取しているほどの狂犬だ。しかも貴様のように、確実に止められる初心者の征服を主に妨害している。奴と遭遇したら引けと言わなかったか?」
編集長「何が違うっていうんすか?俺もあいつもアンタも同じ自分じゃないですか!アンタだって戦艦を奪われてる!何で俺が尻尾巻いて逃げなきゃならないんだ…」
将軍「初心者狩りにさらされた者は皆貴様と同じことを言う。だが、我々は立場上同格であっても、場数が違う。貴様も戦いたければ場数を積むまで生き残れ。下手をすれば捕虜になっていたぞ」
編集長「じゃあアンタは…アンタはあいつと戦えるっていうんすか!」
将軍「無論だ。たった今決定が下りた。次に革命家が現れた時、始末するのはこの私だ」
編集長「それも、アンタより上の決定すか」
将軍「ああ、中途半端な戦力を派遣するだけでは鹵獲されるか、撤退に追い込まれるだけだと、総統が判断なさった。貴様は別の世界でやり直せ」
編集長「な~んでアンタに譲ってやらなきゃなんないのかねえ。俺の計画を台無しにした元部下にも復讐してやりたかったのにな~」
将軍「私は譲られたつもりは無い。貴様等の無念を背負い、必ず奴を叩き潰すつもりだ。総統のためにもな」
将軍はさっきまでの編集長を咎める眉をひそめた表情から変わっている。編集長もまた、復讐の同志と認めているような真っ直ぐな目つきの真剣な顔だ。
編集長「なんだ、アンタもムカついてたんすね。それにアンタなら派手に爆撃してくれそうだ。あと、前々から気になってたんすけど、アンタの話ってオチがいつも“総統のために”っすよね。お堅いアンタなりの冗談すか?」
将軍「私は総統を冗談にするなど恐れ多いことをした覚えはない。口を慎め!」
編集長「うっわマジ切れっすか。総統に相当シンパ…いや、すいません、もう言いません、放してください」
激昂した将軍に胸ぐらをつかまれて、編集長もさすがに平謝りする。
将軍「貴様も総統の派閥に入れるかどうかの瀬戸際だと忘れるな」
編集長「もう言いませんって、どんな冗談でも笑わない人だってのはわかりましたから。俺今から新天地で頑張ってきま~す」
編集長はそそくさと立ち去る。
将軍「革命家め、私が鍛えた中では逸材になりそうな男だったが、その力でいつまでこんなことを続ける。終わりが見えないなら私が終わらせてやる。徹底抗戦しようとな」
次元連続者の矜持をかけて撃滅を誓う将軍。次に革命家が狼煙を上げるとき、そこが戦場となるだろう。
いかがだったでしょうか。
今作はSFで起きるパラレル・ワールドの自分と入れ替わってしまう現象を下敷きにしています。そこからヒントを得てできたのが、「任意でパラレル・ワールドの自分と入れ替われる能力者」が自分同士で連携し、自分が認知する限りの世界を手にしようとするもの。次元移動能力者として、一つの究極形を目指しています。
将軍と革命家の再戦を期待させる引きで終わりましたが、革命家が新たな征服活動を察知して妨害にかかり、将軍と戦うのはまだ先の話。次元連続者の征服活動を描写していきますが、今回のように失敗するか成功するかは場合によります。
ここまで読んでくださった方は、引き続きお楽しみいただければ幸いです。