次元連続者━パラレル・ターナー━   作:gazerxxx

9 / 13
今回は回想シーン長めで、しかも2種類やります。革命家の過去濃すぎ。

そしてとうとう異次元にも、まだ見ぬ異種族の存在が。


第七次元:冥獄

革命家・角谷命(かどや みこと)に同行すると宣言した新聞記者・多耳真理(たじ まり)は、次元戦艦の中を案内されていた。自動操縦を設定できるうえに、戦艦内には生活設備も整っているため、命一人で航行していても不便はないらしい。

 

真理「ちゃんとした拠点ではあるけど、中は殺風景ね」

 

(みこと)「いくつもの次元を転々としているから、私物を置く必要もない。素泊まりのようなものだ」

 

真理「それにしても、洗面台の周りにも何にもないんですけれど…いつも使ってますよね?」

 

疑いのまなざしで命の無精鬚と、伸び放題の髪を見る真理。

 

命「別にいいだろ。健康に別条はない」

 

真理「やっぱり!そんなだらしなくてどうするんですか。いい機会ですからさっぱりさせましょう」

 

命「しかし道具はないぞ」

 

真理「それなら私が外泊用に一式持ってきてます。それに、私散髪は自分でやるタイプですから、任せてください」

 

命「俺はこの方が気楽なんだ」

 

そっぽを向いて腰かける命の顎の下あたりに、冷たい金属の感触が。

 

真理「はい、あごの鬚から剃りますから、途中で立ち上がると危ないですよ」

 

命「これは不覚を取られたな。この俺が首に刃物を当てられるとは。仕方ないか」

 

真理の行動力に少し感心したのか、おとなしくなる命。真理は剃刀で無精ひげを丁寧に剃り落とし、髪も乱雑な毛先を整えて短く切っていく。そうしてやっとさっぱりした単発になったのだが…。

 

真理「あの、これってどうしたんですか…」

 

真理が言葉を失うほどの、多くの傷や痣、やけどの跡が露わになっていた。眉間には青痣、髪に隠れた頭頂部に触れると古い瘤、首筋から肩には大きな火傷が残っている。これを隠すために髪やひげを伸ばしていたらしい。

 

命「こうなるから、頼みたくなかったところだが…まあ気にするな。所詮古傷だ。痛みもない」

 

真理「気にしますよ。今までの戦いでついた傷なんですか?」

 

命「俺は今の所引き際をわきまえた戦いしかしてないな。次元連続者は多いんだ。奴らの中でも数の多い小物を倒し、現地の法でさばいてもらうのがせいぜいだ。だから、俺に傷をつけられる相手とはめったに戦わない」

 

真理「それなら一体誰にやられたんですか?」

 

命「その辺の小物よりもっと強い奴だ。今の俺では勝てないほどにな。次元連続者が平行世界の自身と入れ替われるのは知ってるだろう?もし中途半端に追い詰めて、より強い奴を相手する羽目になったら最悪だ。だから俺は次元連続者をここぞのタイミングでとらえて、救援を呼ぶまもなく牢に入れるようにしている。お前を先に連れ去ろうとした奴の時は、少々予定が狂ったがな。ま、お前も次に奴らと対面するときは気をつけろってことだ」

 

真理「はい、気を付けます…って、話を逸らさないでください。私はその強い相手にやられた時のことを聞きたいんです」

 

命「お前はまだ知らなくていい」

 

真理「私はもう戦う覚悟はしています。危険な相手を知っておくのは早い方がいいはずです」

 

この調子で小一時間ほど問い詰められ、とうとう命も重い口を開いた。

 

命「では話しておくが、俺がまだ次元連続者になるべく訓練を積んでいたころの話だがな。この傷や痣のほとんどは、その訓練でつけられたものだ」

 

真理「訓練でそんな傷を?そんな無茶な…」

 

命「ああ、俺を鍛えたのは、次元連続者の中でも軍事系の派閥。その副幹・千堂だったからな…」

 

~3年前~

 

諜報、護身術、政治など…次元連続者の必須技能を予定よりも早く修得した命は、副幹・千堂から直々に戦闘訓練を受けることとなった。一通りの修練はこなしてきた命でも、歴戦の将軍のスパルタには、全くついていける気配がない。

模擬試合をやっているが、千堂には手も足も出なかった。

 

命「うらあっ!」

 

鋭い蹴りや突きを繰り出す命だが、千堂は軽く避け、避けきれなければ払っていなしてしまう。武器を取回す相手よりも速いスピードの攻撃なのだが、追いつけない。これがすでに30分ほど続けられ、命の方は息が上がってきていたが、千堂は涼しい顔だ。

 

千堂「どうした、本気で来い。私は訓練だろうと手は抜けない気質でな。訓練で一撃も当てられん奴は、実戦でも戦えんぞ」

 

命「ならお望みどおり、喰らえ!」

 

普通の攻撃では当たらないと考え、素早く千堂に組み付き、羽交い絞め状態にする。そして、その状態で後頭部に向けて頭突きをぶつけようとする。次の瞬間、千堂は腕を大きく捻って羽交い絞めを抜け出し、振り向きざまに裏拳を繰り出した。その裏拳は頭突きをしようとした命の眉間に当たり、そのまま体ごと殴り飛ばす。この一連のモーションを、一瞬のうちにカウンターとして行ったのだ。

 

命「ぐうああっ!なんだ今の…捕まえたと思ったら反撃を…」

 

悶絶する命。眉間には青あざができており、妙なでっぱりに変形している。骨が折れて内出血を起こしたようだ。

 

千堂「反撃されたことはわかるか。貴様は実力は高いが、自分の前に立ちはだかる壁を知らない。壁の堅さも知らずに殴りつければ、それだけ反動も大きくなる。貴様はまだまだ私にはかなわん」

 

もう訓練は終わりでいいという意味なのか、背を向ける千堂。手当てを要する怪我なので当然である。

 

命「ふざけたことを…抜かすな!」

 

その怪我にかまわず破れかぶれで殴りかかる命。眉間をやられて視覚も怪しい中、とにかく千堂の後姿を攻撃する。千堂もかわそうとする。そして無我夢中の攻撃は、偶然にも千堂の頬をかすめて、一条の傷を作る。

 

命「ハアハア、どうだ、当ててやったぜ」

 

千堂「今のは読み切れなかったぞ。いい攻撃だ。ようやく同じ土俵と言ったところだな。戦うなら傷を恥じるな」

 

血の流れる真新しい傷を誇らしく命に向けながら、手を差し伸べる千堂。不敵に笑いながら、その手を取る命。それからの訓練では、互いにどれだけ有効な攻撃をしたか、生傷をつけ合った。しかし、千堂にはその時以上に深い傷をつけることはできず、生々しく実力差を味わった…。

 

真理「あなたもそういうノリだったの?軽く引くんですけど…」

 

命「あのころは俺も粋がっていた。今思えば、あの訓練に意地で喰らいついていったのも若気の至りだな」

 

真理「それじゃ、その火傷は?まさか訓練で火でも使ったの?」

 

命「いや、あの人はけがはさせても命の危険にまでは追い込まなかったな。こいつはさらに容赦のない…地獄で負ったものだ」

 

真理「戦い以上の地獄があるっていうの?」

 

命「お前も昔から知っているはずだ。亡者どもをただただ苦しめる地獄を。俺はそこに堕ちたことがある…」

 

~2年前~

 

訓練でも頭角を現してきていた命は、次元戦艦の操縦訓練もこなすようになっていた。だが、その訓練中に、彼の次元戦艦は次元の歪みに吸い込まれ、どこか見知らぬ次元に漂着してしまう。

 

命「どこだここは…」

 

空には弱弱しく明滅する太陽に、化学物質の混ざっていそうな濁った暗雲。そのかすかな光で、辛うじてその世界は視界を保っていた。とはいえ、景色を眺め続けていると、こちらの目もチカチカしてくるようだ。地平線は荒れ果て、建物の影すら見えない。何よりこの重苦しい感覚。どこの次元よりも重力が強いらしい。呼吸するのにも意識して肺に力を込めなくては、すぐに息苦しくなる。

 

地獄閻魔プルードゥー「ここは処刑場だ、亡者めが」

 

いつの間にか背後に5メートルはある巨大な人物が立っていた。しかし、真っ赤な肌に大きく裂けた口と針金のようなひげ、猫のようなギラギラした瞳に、体長に見合った剛健な体格を、烏帽子と唐風の道服で覆っている。人間とは思えず、まるで鬼だ。後ろに従えている2メートルほどの人物たちも、肌の色が違い、その頭にはらせん状の角が生えている。

 

命「地獄だというつもりか?俺は死んだ覚えはないがな」

 

プルードゥー「死んでいなくとも罪には覚えがあるだろう。だからここに来た」

 

命「その口ぶりだとお前らがここに連れて来たんだろう。死んでもいない俺を」

 

プルードゥー「その通り。業を背負ったなら死んでいなくとも、次元の歪みを通って地獄には落ちるのだ、亡者め。生き地獄に堕ちた罪人の話を知らんとは言わせんぞ」

 

命「俺は確かに次元連続者なんて恨みを買いそうなキャリアについてるが、まだ活動していない見習いだ。背負う業なんてあるのか?」

 

プルードゥー「次元連続者を恐れる者にとっては、新たな次元連続者となる者もまた、恐怖の対象だ。その怨念が届いたのだろう、多分な」

 

そう言いながら鏡をかざす。そこには次元戦艦の艦隊が、様々な世界で他の軍隊を撃滅する姿が映し出された。戦争を繰り返す他の次元に参戦し、好戦的な国家のみを滅ぼすことで覇権を握ってきたのが軍閥と聞いている。あくまで犠牲にしてきたのは、自国以外をすべて排除しようとする過激な国家であると教えられていたが…それでも圧倒的な武力に晒される様は悲惨だ。

それを見て、流石の命も唇をかみしめる。自分もこんなことをしていたかもしれないと。

 

罪人A「次元連続者か…」

 

罪人B「あいつらのせいで俺は落ちぶれてこんなことに…」

 

ここに落ちてきた罪人にも、次元連続者を恨む者はいるらしい。

 

命「確かにそうかもしれんが…それならなぜ他の次元連続者は捕まらない?あいつらは止めようとは思わないのか?今のようなことを知っていながら」

 

プルードゥー「次元の歪みに捕まらなくては仕方あるまい。まあ、かかった罪人だけでもここで苦しめてやるがな」

 

その凶悪な笑みに、命は相手の本質に気づく。

 

命「今分かった。お前は網にかかった罪人を地獄に落としちゃいるが、それで世の中をよくしようなんて思っちゃいない。お前のやりたいことは罰と称して、他の奴らをいたぶるだけ。こんな辛気臭い世界での憂さ晴らしにな!」

 

プルードゥー「フン、この地獄閻魔プルードゥー様に、出過ぎた口をきいてくれたな。これから地獄の責め苦を受けさせて、黙らせてやろう」

 

鬼に囲まれながら、移動させられる命。行き先には真っ赤な水で満たされた池。中心の渦から逃れるように、必死の形相で泳ぎ続ける罪人たちがいる。

 

プルードゥー「ここが血の池地獄。ここの血は全部本物だ。泳いでみればそれがわかる」

 

そう言って数名がかりで鬼が命を担ぎ上げ、頭から血の池に落とす。命は突然の水の中でも、何とか目を見開く。何か底の方へ水ごと引き寄せられる感覚。底の方を見ると、そこには巨大なスクリューが回転していた。誰かおぼれた罪人がスクリューの方に吸い込まれていく。そのスクリューに巻き込まれると、その罪人は体を擦り切られ、血を吹きだして苦しみもがく。あのスクリューはおろし金のようにギザギザの穴が開き、泳ぎ疲れたものの肉を切り裂き、血の池の水かさを増やしているのだ。吸い込まれないように水面まで泳ぐ命。だが、重力の強いこの世界で、スクリューに逆らって泳ぎ続けるのはかなり体力を要する。数分もたたないうちに、周りの人間は次々に水底に引きずり込まれていく。

 

プルードゥー「ハハハどうだ!4~5時間もすれば引き上げてやるぞ」

 

命「結構だ。自分で上がる」

 

岸辺まで泳ぐ命だが、それは岸辺で待ち構える鬼たちにとってはいい的だった。

 

赤鬼「プルードゥー様のお許しもなく、上がってくんな馬鹿が!」

 

青鬼「沈め沈め!」

 

金棒で何度も殴られ、血の池に自らの血をしたたらせる命。それでも岸辺から離れない。

 

プルードゥー「その辺にしておけ。亡者よ、ここでは溺れて意識を失える分だけ楽な死に方だぞ。わざわざ殴られることはあるまい」

 

命「どうだかな…俺はそんな死に方はできないらしいな…」

 

その時、血の池の渦が消えた。驚き安堵する罪人たち。

 

プルードゥー「スクリューが壊れたのか?まさか亡者ごときが…」

 

命「泳ぎながらも岸辺の土を足で削り続けておいた。この世界の重力なら泥でも水底まで沈みやすい。上手く詰まったようだな」

 

プルードゥー「最初だから楽な方を進めてやったものを…次は溺れるまで泳ぐだけでは済まんぞ」

 

機能しなくなった血の池から命たち罪人が引き上げられ、次の地獄に引っ立てられる。

 

プルードゥー「体にしみついた血を消毒してやろう。ここがおなじみの釜茹で地獄だ」

 

煮えたぎった巨大な釜に落とされる罪人たち。早速熱湯の熱さに耐えきれず、這い上がろうとする罪人たち。だが、今度は周りを囲う釜の内側も熱くなっている。迂闊に触れて火傷し、絶叫する。それに加えて、熱い蒸気を吸い込んで肺を焼かれ、むせ返る。

 

プルードゥー「どこもかしこも熱い、熱い。直接火で焼かれるのと違って、じっくり熱さを味わえるぞ。どうだ湯加減は?」

 

命も蒸気を吸い込まないために、口を開くことはできない。だが、ばしゃばしゃと熱湯を掻き立て、周囲に熱湯をまき散らしている。

 

罪人A「こいつ、こっちに熱湯を撒いてんじゃねえ」

 

罪人B「何しやがんだこの野郎!」

 

中にいる罪人同士で、熱湯をかけあう小競り合いが始まる。一見児戯にも見えるが、熱湯をかぶったものは当然やけどを負い、苦しみ、より一層暴れる。

 

プルードゥー「やけになったか。熱湯を減らそうとしても、その程度では釜の外には一滴もこぼれんわ」

 

だが、そのうちに狙いがはっきりしてくる。熱湯が釜の内側に撥ねて蒸発し、もうもうと立ち上る水蒸気。それが熱による上昇気流で空にまで届き、空の暗雲に働きかける。とうとう、空に満ちた水蒸気は雨となって地上に戻ってくる。恵みの雨によって釜の熱湯はぬるくなっていき、命の狙いに気づいた罪人たちは歓声を上げる。だが、さらに温度が下がったのは熱湯を煮詰めていた釜の方。急激に上がりきった温度を冷まされては頑丈な釜も耐えられず…ひび割れて水漏れを始めてしまった。もはや用をなさなくなった釜から脱出する罪人たち。

 

命「ここも俺の死に場所じゃない。俺に火傷を残したことだけは、認めてやる」

 

プルードゥー「チッ、では次の地獄だ。あそこなら身動きすらできんだろうよ、亡者めが」

 

今度は翼を持った黒い肌の何者かが現れる。こちらの見た目はまるで悪魔だ。その悪魔に捕まり、空を飛ぶ。そして連れてこられたのは、鋭い針で覆い尽くされた山の真上。

 

悪魔「針山地獄だ。無事に降りられるものなら降りてみな」

 

一斉に針山に投げ落とされる罪人たち。体を貫くほどの太い針が、真下に迫る!だが、命はその針を両足ではさみ、何とか針にしがみついて回避した。他にも、ギリギリで太く大きめの針にしがみつき、他の無数の針から逃れた者も何名かいる。そんな針に捕まれなかった者は…体中を串刺しにされている。

 

命「さてと、昔の落語じゃ、こういう針を加工して作った鉄下駄で歩いて降りたらしいが、どうもそれでは厳しいな」

 

針山は大小さまざまな針がその長さの差によって、不規則な段差を作っている。これを足場にしようとしても段差のせいでうまく体重移動できず、バランスを崩してしまうだろう。

罪人A「おい、何とかしてくれよ、頼む」

 

罪人B「もう地獄は嫌だ」

 

命「よし、それなら周りの小さな針でいい。折って俺の方に投げろ。キャッチするから遠慮なくやれ」

 

罪人たちは慎重に針を折り、命に投げ渡す。命はというと、それよりも長い針を折り始めていた。長い針となるとその分、折るのに力もいる。力をこめれば、手に針は食い込む。その痛みに耐えながら、命は針を集めていく。

 

プルードゥー「鍛冶屋でもないお前が鉄下駄の代わりに何を作るつもりだ?自分の手を傷つけてまで」

 

命は集めた針にさらに力を込めて曲げ始める。当然そんなことをすれば、手は血まみれになる。湾曲した針を絡みつかせ、球状に成型する。そうして出来上がった巨大な針の球を、頂上から勢いよく転がす。強い重力による加速を受けて、ピンボールのように球は針にぶつかり叩き折りながら、転がり落ちていく。高速回転によって周りの針も巻き込んで質量をまし、針山の針は地ならしのようにおられ、潰されていく。あっという間に針の球は針山を下り、後の針山にはその球が刻んだ道ができていた。そこを悠々と罪人たちは降りてくる。

 

命「俺はここにとどまっている気はない。俺は自分の世界に戻らなくてはならない」

 

プルードゥー「戻ったところでやることなど知れている。また恨みを増やすつもりか?」

 

命「俺がなぜ地獄を巡ったかわかるか?次元連続者のせいで落ちぶれたやつだけでも、助けたかったからだ。俺に地獄の責め苦など効かないとはっきりしたはずだ。ここからの脱出法を教えろ!」

 

冥府覇王ハデウス「それは我、冥府覇王ハデウスが応えよう。弟の非礼の償いとしてな」

 

プルードゥーに匹敵する巨体の人物が現れる。こちらは古代ギリシャ風の白布を巻いた、湾曲した角を持つ魔人と言った見た目である。赤い瞳に八重歯の伸びた口、凶悪そうな見た目だが、敵意のある声色ではない。

 

プルードゥー「兄者か。罪人を返す大義はないと、兄者も賛成していたはずだ」

 

ハデウス「そやつはもう罪人ではない。未来に侵すべき罪のために業を背負ってはいたが、そやつは自らの運命を変え始めた。自らを恨む者たちにも報いようとした。罪は購われたのだ」

 

プルードゥー「しかし、こいつを返すということは…」

 

命「おいプルードゥーとやら。確かに俺たちは恨まれても仕方のないことをしてきた。だからと言って、お前らに弄ばれるいわれはない。何か別の目的があるなら教えてもらおうか」

 

プルードゥー「いいだろう。地獄閻魔プルードゥー様がなぜ亡者どもの相手をしているのかを。見ろ、この空を!」

 

プルードゥーが取り出した笏を振り回して空を仰ぐと、強力な突風が起きて空の暗雲を散り散りに吹き飛ばした。そうして見えた空は、果てしない漆黒に塗りつぶされていた。渦を巻き、黒点に覆われ太陽が微かに明滅する光を放つだけの空。命は気づく。この世界の強い重力や、得体のしれない視覚異常の原因に。

 

命「あれはブラックホール…これだけ惑星に接近しているというのか!?」

 

プルードゥー「そうだ、ここはあの穴に光もエネルギーも吸い込まれ、死にかけの太陽で辛うじて生かされている世界だ。新たな命が生まれることもない死の世界だ」

 

命「死の世界…しかし、お前たちはここで生きてきたはずだろう」

 

プルードゥー「こんな世界に誰が好き好んで生まれてくるか!我々魔族もここに落とされたのだ」

 

命「お前たちもこの世界とは別の次元から来たというのか?一体なぜそんなことに…」

 

ハデウス「遠い昔の出来事だ。我々もまた、おぬしらと同じ世界に住んでいた。おぬしらからすれば先住民に当たることになる」

 

ハデウスやプルードゥーの治める鬼や悪魔と言った魔の種族。彼らは元々優れた力や頭脳、魔術などによって、支配種族として繁栄していた。また、プルードゥーが使っていた次元の歪みを開く術、その術によって異次元への行き来も可能とし、多数の次元さえも支配していた。

そこへ異教の神々と呼ぶべき存在が現れた。異教の神々は次々に魔族を同化して取り込み、更に世界を改変して自分たちの領域とし始めた。異教の神々の勢力拡大に魔族は対抗し、全面戦争を開始した。その中で、異教の神々とコンタクトを取り、目的を探ろうとする試みもあった。その結果、異教の神々の目的と正体が判明した。

異教の神々はエネルギーに満ち満ちた高次元世界を司る存在であること。高次元世界はエネルギーばかりで物質の概念が乏しい世界だった。しかし、その中でも純度の低いエネルギーは、高次元世界から下層である無の空間に流れていく。純度の低いエネルギーは無の空間によどみを作り、それが物質を形成した。物質とエネルギーが両方存在する平行次元世界の誕生だ。高次元世界からのエネルギーがなければ、この世界もなかったと言える。

これは水の入った水槽と同じ理屈であるそうだ。水槽の上層部は透明度の高い水が占めているが、水槽の底に濁りができるように、下に行くほどよどみ、不純物が形成されていく。

異教の神々は新たに誕生した平行次元世界に興味を持った。新天地にできるのではないかと。しかし、異教の神々は元の世界ではエネルギーを司る絶対の存在であり、平行次元世界でもその自意識を変えようとはしなかった。異教の神々にとっては、純粋にして絶対の存在に同化させることこそ、世界との共存だったのだ。

同化を求める異教の神々を受け入れたのは、その高次元への昇華を望んだごく一部のみ。多くの魔族は自分たちが築き上げた世界や誇り、自我を奪われることに反発した。死力を尽くして戦うも、無尽蔵のエネルギーを持つ異教の神々にはかなわなかった。最終的には異教の神々が次元にブラックホールを開いて、より下層の低次元世界を作りだし、魔族を全て吸い込ませてしまった。低次元世界はさらにエネルギーが不足し、物質の質量だけが増大している停滞の世界。水槽で例えるなら、還流すら起きない底の底である。

 

ハデウス「我々も亡者と同じく、地獄に封じられた存在ということになる。ここから次元の歪みを開こうとしても、魔力を持つ我々は通ることができないようにされている」

 

命「停滞の世界ってことは、地獄で人間が亡者のごとく死なないのは…」

 

プルードゥー「死ぬような目にあっても仮死状態に入った挙句、細胞が再生を繰り返して復活してしまう。亡者どもをどれだけ痛めつけても死にはしない。弱い人間でもそうだが、我々魔族ですらこんな腐った世界からおさらばできない状態だ」

 

ハデウス「科学的に言えば、ブラックホールの放射線や、太陽光線の異常が原因だろう。しかしブラックホールも消せず、太陽も中々寿命を迎えないのでは、対処しようがない」

 

命「魔術という割に、科学も知っているのか」

 

ハデウス「我も次元の歪みから迎え入れた人間から情報を得てきた。それに次元の歪みを通れる人間は、我々の脱出の足掛かりにもなり得る。向こうの世界にも次元の歪みを開く魔術を伝えれば…」

 

プルードゥー「人間には無理だと言っているだろう兄者。どれだけ魔術を教えてやっても、奴らは低級魔族1匹呼ぶのがせいぜいだ。魔力も持たない奴らに任せておいても、我々兄弟が脱出できる見込みはない」

 

命「ハデウスはいいとして、プルードゥー、お前は何のために人間をさらっている?まだ他に隠していることがあるはずだ」

 

プルードゥー「フン、亡者どもを使った実験だ。どれだけのダメージを与えればこの世界で死は訪れるか。何度痛めつけても死ぬ様子がないがな」

 

命「いや…それだけではない。さっきのお前の表情から俺は憂さ晴らしと言った。つまりこれは、復讐の代償行為だ。異教の神々に会うことすらできないお前たちは、業を背負った人間を苦しめて復讐した気になっている。違うか?」

 

プルードゥー「だとしたら何だ?我々魔族の誇りが、今も復讐を望んでいるのだ。この復讐心を忘れないために我々は…」

 

命「忘れないためではなく、他にどうしようもないからだろう。お前はこの世界から出られず、もう復讐は不可能だと思ってしまっている。さっきの実験でも、自分たちが死ぬ方法を探していたのだろう?」

 

プルードゥー「何が言いたい亡者めが…」

 

命「いつまでも仇を心の中で呪い続けるだけでは、死んでいるのと同じ。お前らは憂さ晴らしで現状をごまかしてるだけだ!俺ならばどんなに困難であろうと、必ずケリをつけて見せる」

 

自らの後ろ向きな本心を見抜かれてしまい、歯噛みするプルードゥー。

 

ハデウス「言われてしまったな、プルードゥー。もう潮時ではないのか。自分たちが苦しみから解放されようとして、他の者を苦しめるのはどうなのかと言ってきたはずだ」

 

プルードゥー「このプルードゥーは兄者と違って荒くれ者故、これしか思いつかなかったのだ。兄者ばかりに任せて、ただ待ってなどいられるものか」

 

それを聞いたハデウスは、気まずそうにうなずく。

 

ハデウス「数千年も成果が上がらなくては、プルードゥーがそう焦るのも無理はない。我は何もできない負い目があって、プルードゥーの横暴を許してしまった。だが冥府の王としても、兄としても間違っていたのだ。人間にも、プルードゥーや地獄の民にも詫びなくてはなるまい」

 

プルードゥーよりも先に膝をつき、その場の全員に頭を下げるハデウス。

 

ハデウス「我はもう一度地獄に希望を取り戻さなくてはならぬ。次元連続者とやら、元の世界に送り戻す代わりに、その次元戦艦をもらえぬか。そちらからも手掛かりが得られるかもしれない」

 

命「俺が発破をかけたからには、無下に断って逆戻りさせるわけにもいかないな。好きにしろ。だが、お前たちにも背負ってきた業がある。俺たちの世界に来ても、歓迎はされないだろうな」

 

プルードゥー「上等だ。平行次元世界など通過点に過ぎない。さらに高次元世界にたどり着き、復讐することが魔族の生きてきた…いや、死にきれなかった理由だ」

 

牽制し合う命とプルードゥー。せきを切ったかのように、プルードゥーが命に向けて笏で横一線に切りつける。空間ごと切り裂く威力に、命がいた空間には断層ができる。だが、命は既にその場にはいない。

 

命「おい、こっちだ」

 

上から命の声がする。素早くプルードゥーが見上げると、太陽を背にした命の影が目に入る。強力な紫外線を放射する逆光を見てしまったために、プルードゥーの目がくらむ。その隙に命はプルードゥーの頭にとび蹴りを食らわせる。目がくらんだのもあってか、その蹴りによろめき、たたらを踏むプルードゥー。

 

命「気は済んだか。自分の世界から目を背け続けてきたから、地理条件を利用して立ち回られる羽目になる。そんなお前には、俺の世界でも負けることはない」

 

プルードゥー「ペッ、この程度の不意打ちで死ぬなら、償いすらできん奴だったとあざ笑ってやるところだったが…。少しは認めてやるか。償いたいならそう生きて見せろ」

 

力をぶつけて鬱憤は晴れたのか、少し血反吐を吐き出し、命の言葉を認めるプルードゥー。

 

ハデウス「次元の歪みが開いたぞ。速く来い」

 

命「行くぞお前たち。これからの人生、どう生きるか俺から指図することはできないが…自由に生きてほしい」

 

罪人A「へっ、恨みに思ってた次元連続者に、必死で地獄から救われたんじゃ、もう俺たちも改心するしかないじゃねえか」

 

罪人B「無限に続く責め苦よりも、有限の人生を使った償いの方が、マシに思えてくるってもんだぜ」

 

罪人たちも、命に救われたことで、心を動かされたようだ。自分たちも命のように、やり直したい、自分たちの傷つけたものを救いたいという気持ちになったのだ。

 

ハデウスが開いた次元の歪みから、地獄に囚われた人間たちは帰っていく。人間が恐れ、言い伝える地獄は終わった。しかし、そ魔族たちにとってはまだ終わっていないのだ…。

 

命「こんなところだ。地獄や異教の神々が、信じられればの話だが」

 

真理「いいえ、信じるわ。あなたの表情、いつもより暗くなってたから。やっぱり、地獄にいる魔族のことを気にしているの?」

 

命「かもしれんな。俺は次元連続者が陥れた挙句、地獄に落ちた罪人を救った。だが、それは俺の自己満足だったかもしれん。全てでなくとも業を背負った悪人を捕える地獄は必要かもしれないし、プルードゥーたちには空望みを与えただけかもしれない。だだ、一つだけわかるのは、俺がああいう地獄を見過ごせない人間だということだ」

 

真理「その気持ちはわかるわ。私だって見えない真実を追い求めずにはいられない。先のことはわからなくても、現状をどうにかしたいと思うのが人間だもの」

 

命「こんな話を最後まで聞きたがるとは、大した女だ。地獄から抜け出した俺は、過去を振り返りつつも止まっているつもりは無い」

 

命の見せた真剣な表情。髪やひげに隠れていた時と違い、思いがけず精悍な素顔に見えた。

 

真理「そうね。私にもできることがあったら言って」

 

命「ああ、お前には暗号の解読を頼もうと考えていた。この次元戦艦でも、通信を傍受することはできる。そこで流れる暗号を解ければ、次元連続者の次の動きも呼べるはずだ」

 

真理「そういうことなら任せて。私は経験上、外国語だけでなく、裏を各通信法にも通じてるつもりだから」

 

2人は通信室で、傍受した暗号の解読作業を開始した。

 

その頃、別の次元にて。次元連続者の中でも“妃”の異名をとるマリーアは、他の次元連続者が待つ私室に招待されていた。もっとも、マリーアは稀代の悪女として次元連続者の派閥からも敬遠されている。そんな彼女を呼びつけたのは、同じく爪はじきにされている数少ない悪友である。彼女が踏み込んだのは、ある高級マンションの最上階の一室。

 

(ながれ)「ケヒヒ、久しぶりだな、マリーア。まあ、勝手に座れよ。酒とつまみは置いてある」

 

言葉通り、その男はキーボードを打つ手を止めて、パソコンの前から立ち上がる気はないらしい。

 

マリーア「相変わらずなんでも床に置いて、ひっどい部屋。ワインとチーズも銘柄がよくても、出しっぱなしじゃだめね。ワインは冷えてないし、チーズは乾いてるし」

 

入るなり部屋が様々な電子機器で散らかってることや、おもてなしのワインやチーズさえテーブルに放置されていることに突っ込みを入れるマリーア。猫をかぶっているいつもより、口調もぞんざいである。

 

流「気の向いた時に好きなものを手に取って、好きなものを食う。これが現代の贅沢って奴だろ?」

 

マリーア「…そんな自堕落な生活で太らないところだけは、羨んであげるわ」

 

マリーアが呆れた視線を向ける相手は、筋張った骨が手の甲に浮いているほどのやせた小男だった。手入れの入ってないボサボサな髪、辛うじて目を覆ってない前髪の間から、上目遣いの三白眼をのぞかせている。彼は下衆とあだ名される次元連続者“流”これは下の名前からとったハンドルネームらしいが、彼の本名は他の次元連続者も突き止められていない。彼は自分の個人情報さえも闇に葬ってしまうほどのハッカーなのである。その能力の高さと、他人の裏をかく狡猾さを危険視されて、数個の次元を支配しながらも派閥入りしていない。

 

流「オレは頭脳労働でカロリーを消費してんだよ。肉体労働なんて底辺の仕事は他人に投げときゃいいから、これ以上の体格も必要ねえ」

 

マリーア「それで?見た目と違って今日も絶好調みたいだけど、まさか寂しくなったわけじゃないわよね」

 

流「誰がそんなウザい理由で呼ぶかよ。ただ、オレの計画に一枚加われるワルは、マリーアくらいしかいないしな」

 

マリーア「また何か悪巧み?」

 

流「ケヒヒ、そうとも限らねえよ。だらしねえ派閥の奴らに代わって、オレらで異教の神々をつぶそうって話だ。感謝してほしいくらいだぜ」

 

次元連続者が世界を支配するのは、平行世界よりさらに高次元の存在である異教の神々に対抗するための力を結集しようとしているのが真の狙いである。これは次元を数個支配して実績を上げた者に初めて知らされる内幕であり、角家命のようにその前に離反した者は知らない。異教の神々が強大過ぎる故に、それを恐れた初心者が離脱することを警戒したのだ。本人の欲望や個性を引き出し、戦力として育てようとするのが上層部の方針だったが、これが我の強い離反者を生んでしまったのは、また別の問題。

 

流「オレ筋の情報じゃ、遂に異教の神々が降臨し始めたそうだぜ。学閥のスカしたインテリ女がロボットにされたって話だ。勝手にやられたのはざまあだが、派閥に入ってない俺らも対策しないとやばいんじゃね」

 

マリーア「ふーん、とうとう来たかって感じね。あなたのハッキングなら確かな情報でしょうけど、分かったところでどうするの?博士でも勝てない相手じゃ、やり過ごした方がよくない?次元移動して逃げるなんてどう?」

 

流は次元を超えて他の世界のサーバーにまでアクセスできる、汎用型のハッキングツールを開発している。海外サーバー以上に逆探知しにくく、全ての次元の情報はオレのために流れているとまで、彼は豪語している。

 

流「どうせその逃げ場もなくなるぜ。弱えくせに全面戦争やらかそうって派閥のせいでな。奴らが負けるだけで数百の次元は消える。」

 

マリーア「迷惑な話。そういうあなたは勝てる自信ある?」

 

流「そこでオレのとっておきのネタを御開帳ってわけだ。、異教の神々はかつて地上で繁栄していた支配種族を駆逐した。だが、全滅させたわけじゃねえ。そいつらは別次元におしこめられて、復讐の時を待ってる」

 

マリーア「それ本当?」

 

流「次元を超えて知る限りの世界を探して補完したオレ筋情報だ、間違いねえ。異教の神々は他の世界に敵対種族を追いやった後の時代、他の世界から怪物が現れたり、他の世界への入り口を開く魔術書が出回ったらしいからな」

 

マリーア「それを結び付けて、別次元に閉じ込められた先住民が干渉してるって言いたいの?」

 

流「そいつらは異教の神々が住まう高次元世界には行き着けないが、次元の歪みから少しの間だけこの世界にはでてくることがあるんだなあ。生贄に業の深い人間をさらい、復讐代わりに嬲り者にするそうだぜ」

 

マリーア「話だけ聞いてると、まるで私の国の悪魔信仰ね」

 

流「ケヒヒ、ご名答。ここまでは奴らが残した痕跡と、悪魔信仰を結び付けて推測した結果だ。仮に奴らを悪魔と呼ぶが、次元の歪みを利用すれば、悪魔召喚も可能かもな。そこで例によって実験してもらったわけよ」

 

高度な電脳技術と虚実織り交ぜた情報操作により、情報供給の裏から自分の世界を支配している流の本領発揮だ。

ネットで「本物の悪魔召喚の儀式が完成した!」と噂を流し、次元の歪みが発生しそうな地点を指定。それに乗った連中に細かい方法を指示して監視をつけ、実態を探った。

 

その結果、儀式をそそのかされた連中は、全員行方不明となった。離れて監視させていたカメラマンも発狂してしまい、手掛かりは残された映像のみ。データは取れたために、後からデマだったと情報を流し、祭りは終わらせた。儀式にかかわった当事者がもう出てこなくとも、最早誰も気にしないだろう。

 

流「この衝撃映像でいろいろ分かるぜ」

 

流が再生した映像には、凄惨な光景が写っていた。どこかのミステリースポットらしい暗い森の空き地。地面に書かれた五芒星に供物のようなものが置かれている。なりきったつもりなのか?安っぽい黒のパーカーを着た若者が、メモを見ながらラテン語の呪文を唱えている。

 

マリーア「彼、ラテン語が読めるの?」

 

流「心配すんな。あれは送っておいた呪文の録音を再生してるだけだ。あいつはメモに書いた手順も覚えられないバカ学生だ」

 

すると、五芒星の方を見て悲鳴を上げ、腰を抜かす若者。そしてそのまま足を引きずらせ、必死にもがきながらも、五芒星の中に入っていく。

 

マリーア「どうしたの一体?」

 

流「ケヒヒ、昔から言うだろ、悪魔は鏡に映らないってな。撮影した奴も無事で済まないのを見るに、タブーなのかもな。映像に映ってなくても、生贄を引きずり込もうとするやつが、あの五芒星の中から手を伸ばしてるんだよ」

 

五芒星の中心に引きずり込まれた若者は、その場から消えた。

 

その後も、見えない悪魔の犠牲になる人々が延々と続く。最後の映像では、様子が違った。軍人らしき人物が複数人集まり、五芒星の周囲にTNT火薬が置かれているようだ。

 

流「こいつらは軍の一部隊のくせに俺に探りを入れすぎたんでな。戦争の仕事も俺がまわしてやってるのにな。重要機密としてこの儀式の情報をプレゼントしてやった。面白いことになるぜ」

 

軍人が五芒星に向けて一斉射撃を始める。どうやら悪魔が出たらしい。しかし、数分ほど休みなく撃っているが、彼らの焦った様子から相手には効いてないらしい。さらに、軍人たちの頭が一人、また一人と溶け始める。悪魔が溶解液か何か飛ばしたようだ。リーダー格らしき軍人がポケットから取り出したスイッチを押す。五芒星の周囲のTNT火薬が起爆した。爆炎が立ち込め、安堵する軍人たち。しかし、その安堵が恐怖に塗り替わる。逃げようとする軍人たちが溶かされ、切り裂かれ、押し潰されていく。五芒星から距離をとっても関係ない。数十人と並んでいた軍人は死に絶え、その死体は引きずられ、消えていった。

 

流「ケヒヒ、どうよ?奴らには銃も爆弾も効かない。軍隊よりよほど使えるんじゃね?」

 

マリーア「爆発の後には、悪魔の行動範囲が広がったように見えたのだけれど?」

 

流「そりゃ枠であった五芒星を爆破したからだな。出入り口を壊すつもりでやったんだろうが、普通ドアが爆破されたらより大きな出入り口が開くだけだっつうの。さらに多くの悪魔が五芒星に封鎖されることなく流れ込んだのさ」

 

マリーア「それにしても、悪魔に襲われてばかりで、実験としては成功してるの?」

 

一通りの映像を見ても、恐怖するどころか、余裕でそんな質問をしてくるマリーア。

 

流「もちろん。今までの実験を合わせると、供物は悪魔が来やすくするための道しるべだな。奴らは供物に宿った業にも敏感だ。罪深い生贄がそろうほどいい。で、今までの成功例をスパコンにかけて、割り出した最適解の儀式をやろうってことよ。さ、行こうぜお楽しみの時間だ」

 

マリーア「もう夜中なのに、女を外に連れて悪魔召喚やろうなんて、バカねえ」

 

流「まあ見てろよ。そこらの陳腐なデートプランよりは刺激的だぜ」

 

流が車で案内したのは、さびれた廃坑。その開けた土地に、巨大な五芒星とその角に配置されたおどろおどろしい供物が用意されている。

 

トリカブトの根。かつて冥府の番犬が地上にたらした唾液でもたらされたとされる猛毒植物。その根には悪魔が宿るとされる。

 

煙草の葉。これも悪魔が人間との狡猾な取引によって世界に広めたとされ、人類に快楽と引き換えに寿命を要求する。

 

牛の血。ヒンドゥー教では牛は神の使いであるために食うのを禁じられている一方で、中国では戦国武将同士の盟約として飲み交わされた例もある供物。

 

ブタの胃袋。こちらはイスラム教では、悪魔の化身と言う理由で禁じられている。何でも食う不浄の動物であるから、その胃袋には穢れが溜まっているとされる。

 

ヤギの角。悪魔の想像図として、その鋭角的な角が特徴の一つに出される。家畜化して羊になる者も多い中、いまだに野性を保っているヤギを異端とみているのかもしれない。

 

傍にはなぜかクレーン車まで準備されている。

 

マリーア「このクレーン車はどうするの?」

 

流「引き込まれないための保険だ。死にたくなきゃロープにしっかりつないどけよ」

 

マリーア「私も囮役やるの?わざとここまで黙ってたわね」

 

流「俺たち次元連続者は触れ合っていれば、座標を固定されて、次元を移動できない。その理論を応用すれば、次元の歪みにも吸い込まれないですむと思うぜ」

 

マリーア「そんな危険な賭けにつき合わせる気かしら?」

 

流「じゃ、お前だけクレーン車のロープにつないどいて、お前が俺を掴んでおく方式で行くか。クレーンの力も加えれば、十分支えきれる。俺がダメそうだったら、手を放してクレーン車で逃げてくれて構わないぜ」

 

マリーア「いざという時は見捨てて逃げてもいい。ま、そんなものよね。私もあなたも泥船にしがみつく性格じゃないし」

 

流「お前の目から見ても失敗と思われたんじゃ、それまでってことだ。オレなら向こうに引きずり込まれようが、悪魔と取引してでも帰ってくるつもりだがな」

 

マリーアはクレーン車のロープを自身にしっかりと結びつけ、流の両腕をつかむ。魔法陣の中心で流はラテン語の呪文を唱え出す。何度も聞いてるうちに耳で覚えてしまったらしい。やがて呪文が終わり、魔法陣から生まれた次元の歪みより、影が立ち上る。

 

流「お出ましだ」

 

流が魔法陣に現れた影に捕まる。即座に流の遠隔操作で、クレーン車にプログラミングされていた自動操縦で、マリーアと流が釣りあげられる。計画通り、次元連続者の特性が功を奏し、次元の歪みに引きずられることもない。流を捕まえようとした影は、思いがけず釣り上げようとするクレーンの力から逃れ、魔法陣の中に身を転がす。しかし悪魔が魔法陣から出ることはできない。クレーンは素早くマリーアと流を廃坑の崖の上に運ぶ。

 

マリーア「どさくさに紛れてくっつきすぎじゃなかった?」

 

流「ケヒヒ、オレだけ命かけてんだぜ?役得だ、役得。見ろよ。大物が釣れたぜ」

 

魔法陣の中にいる影は、相応の風格を持つ魔人の姿を現していた。

 

マリーア「あれが悪魔?映像ほど暴れるように見えないけど」

 

流「ケヒヒ、あれは恐らく最適解の儀式でのみ召喚できる上位の悪魔だな。他よりは理性がある方か」

 

ハデウス「ここが平行次元世界か…礼を言うぞ人間よ。この冥府覇王ハデウスを呼び出すほどの次元の歪みを作るとはな」

流「ケヒヒ、当然。オレらは他のにわか知識とは違うわけよ。わかる、王様?」

 

ハデウス「その口ぶりだと、最近の召喚魔術を行使した者たちはお主の差し金か…。低級魔族しか呼べない上に、連れて行って協力させようとしても知識不足の有象無象だったが」

 

流「今では犠牲じゃなく次元を抜け出すための協力者を探してるってことか。なら、話が速い。オレは流、こっちの女はマリーア。オレらと組めよ。そうすりゃほかの連中も呼んでやる」

 

ハデウス「他の者たちもか?そこまでして我々を呼び出して、何をたくらんでいる」

 

流「お前らと考えてることは同じだ。異教の神々を潰す」

 

ハデウス「ほう…この世界の人間が知っているとはな。この世界に記録は残していたが、それを記した我々が生きていると気付く者はいまだいなかった。どうやら話せそうだな」

 

流「異教の神々は今の時代になって、再びこっちの世界に干渉し始めている。奴らと渡り合ったことのあるお前らの力を借りようと思ってな。オレなら、異教の神々がどの次元に現れようが、すぐに情報を察知できる。オレらにとっても、それだけの戦力を持っていると周りに知れ渡れば、旨味がある」

 

マリーア「そういうことね。ここで他の次元連続者が倒せない異教の神々を倒しちゃえば、彼らも今までとは態度を変えざるを得なくなるわね。面白くなりそう」

 

流「ああいう偽善者どもはオレらが敵に回ったら厄介だからって、次元連続者から除名せずに、こっちが丸くなるのを待ってる状態だ。奴らをパワーバランスでも上回れば、震え上がって何も言わなくても、向こうからオレらを祭り上げるだろうぜ」

 

ハデウス「お主らも地位向上が狙える取り引きであることはわかった。だが、弟のプルードゥーが賛成するかはわからんな。奴はいまだに人間を見下している」

 

流「ケヒヒ、今度はそいつを呼んでみるか。話なら任せとけよ、オレはそんな奴の気持ちがよ~くわかるぜえ」

 

ハデウスを魔法陣から出した後に、再び流が呪文を唱え、新たな鬼の影が出現する。

 

プルードゥー「ようやく出てこられたか…いつまでこのプルードゥー様を待たせている、この亡者のなり損ないどもがあ!」

 

いきなり笏を振りかざし、空間を切り裂こうとするプルードゥー。それは魔法陣に阻まれたが、衝撃波は拡散し、辺りに暴風が起こる。周囲の岩山が崩れそうになっていたが、ハデウスが手をかざすと、その衝撃波は収まった。

 

ハデウス「落ち着けプルードゥー。こやつらに当たるな。異教の神々を倒すために、こやつらは協力してくれるそうだ」

 

プルードゥー「必要ない。このプルードゥー様が出た以上、今すぐにでも高次元世界に渡り、異教の神々どもを…」

 

流「そのためには、まずオレの魔法陣が破れなくちゃなあ。できないだろう。お前の力だけじゃその程度だ」

 

プルードゥー「貴様あ!バラバラにして地獄に引きずり込んでやろうか!」

 

流「いいねえ、その憎しみだ。ハデウスはそれが足りなくてつまんなかったんだよ。目上にいる奴らを引きずりおろし、足蹴にして踏みつけ、奈落に貶めてやりたい気分。オレはそういう復讐劇を演出してやるって言ってるんだぜ?主役はオレらだ」

 

流は復讐鬼と化したプルードゥーの剣幕を、恐れても蔑んでもいない。その憎悪に同調し、楽しんでいる。

 

プルードゥー「貴様が、地獄閻魔プルードゥー様の復讐に並び立つつもりか、おこがましい!」

 

流「オレはオレで、保身のためにオレらを爪はじきにしてきた次元連続者の奴らを這いつくばらせるつもりだ。ハデウスが地位向上なんて言い直したが、オレらに必要なのは高みに上ることじゃねえ。ムカつく奴らの方を引きずり下ろすことだ。誰に後ろ指差されようが知ったことじゃねえ、だろう?」

 

流はプルードゥーの本質をついていた。復讐したくとも、劣悪な現状に甘んじていることを、プライドゆえに認められないプルードゥー。だが、復讐心を本物にするには、自らの傷を直視することこそ必要だ。プライドを捨ててしまえば、復讐のためだけにどんなことでもできるようになる。プルードゥーも、それに気づき、笑い出す。

 

プルードゥー「クックック、そうだ、地獄には何もない。戻って来た平行次元世界でさえ、変わってしまった。地獄閻魔プルードゥーに残っているのは、復讐の余生のみ。なれば、復讐をたくらむ下衆どもを同志と呼ぶことに何のためらいがあろうか!」

 

流「ケヒヒ、地獄の鬼からも下衆と呼んでもらえるとは光栄だぜ。最低の反撃を始めようぜ」

 

ハデウス「あの弟を説得してしまうとは…。人間とは稀に魔族以上の力を見せるものだな」

 

マリーア「純粋な力でなら、次元連続者よりも強そうだけどね。この筋肉とか」

 

マリーアがハデウスの胸元に手を差し込もうとするが、ハデウスは身を翻す。

 

ハデウス「我に媚びは売るな。要らぬ世話だ」

 

マリーア「あら、連れないお方」

 

流「早速だが、オレ筋では軍閥が支配する世界に、青い巨大彗星が現れたそうだぜ。記録に残ってる異教の神々かもな。オレらも割り込もうぜ」

 

ハデウス「青い彗星…奴か」

 

プルードゥー「今度こそ叩き潰してくれる」

 

下衆、妃、冥獄の鬼や悪魔たちが組んだ復讐のためだけの連合。彼らが見上げる限りの次元世界に宣戦布告するのは、少し先の話である。

 

 




今回登場した冥獄の鬼や悪魔、青い彗星ですが、次回の話とは関係ありません。彼らはまた、別の次元で衝突することとなります。
次回は、第6次元で予言された呪いをもたらす元凶が登場。新たな派閥、霊閥の本拠地で暗躍します。
というわけで、伏線ばらまいたけど次回も別の話が始まるってことでよろしく。読了ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。